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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第二章 アンブロシウスの守護者
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幕間の一 蠢く怠惰

 ――怠惰。

 七つの大罪の一つにして、生活の快適さを求める

 技術者にとっては、ある意味美徳とされる感情。 


 怠惰であれば勤勉ではいられない。

 勤勉であれば怠惰でいる暇など存在しない。

 怠惰であろうと努力すればするほど、

 怠惰からは遠ざかってしまうものだ。


 魔法使いの一部は、その怠惰を目指した。


 それは魔法世界の技術者たる彼ら特有の

 生活を楽にしたいという願望もあったが、

 もう一つ全く別の思惑も存在していた。


 魔法使いが魔法を研究する理由の一つに、

 最強の魔法使いを目指す、というものがある。

 言葉の通り、他者を屈服させるだけの力を求めた。


 その近道こそ、サギトへの覚醒だ。

 彼らは『怠惰のサギト』に成りたかったのだ。


 ……はぁーぁ、アホらし。


 約二十数年前、一人の青年がサギトへと覚醒する。

 彼の事を一言で表すなら――天才。

 他人は勿論、彼自身それを自覚していた。 


 彼の祝福は……無い。変わりに莫大な魔力を持っていた。

 あえて祝福というの枠組みに当てはめるなら、

 それは『莫大な魔力を生み出す祝福』と言えるだろう。

 特殊能力の変わりに彼は強大な魔力を持つ。


 その魔力量と彼自身の知性は魔術の研鑽を行う上で

 圧倒的なアドバンテージがあった。

 困難とされる魔術を容易に習得し、

 逆にそれを自分なりの解釈で改良した。


 ……あーあ、俺ってば天才。


 彼には天才の自負があった。自覚があった。

 だからこそ、周りの思考も正しく把握出来た。


 彼らの目には嫉妬があった。疑念があった。

 悪意に汚れた興味があった。逆恨みがあった。


 次第に周囲の人間たちは彼の『活用』を考えた。

 最初は知恵を借りる程度の活用だったが、

 段々とその扱いは()のようになっていった。


 ……知ってるぜ? 興味があるのは俺の知識だろ?

 いいよ。何が聞きたい? 答えてやるぜ?


 彼は天才であるがゆえに、

 自分を守りながら周りに協力する術を理解していた。


 彼にとって交友関係などどうでもいい。

 彼が重きを置いていたのは()()()()()

 自分が魔術をさらに飛躍させる事が出来れば、

 それで満足だったのである。


 だが、ある日彼は思い知った。


「君、脳を提供してくれないか?」


 …………は?


「これはなにも悪い話じゃないんだ。

 専用の装置の中で君の必要な体のパーツを凍結、

 永久保存することで我々やその子孫が

 君の思考と莫大な魔力量を利活用出来るのだよ。」


 意味が分からなかった。正気を疑った。

 理解出来ないなど、ほぼ始めての経験だった。


「君の願いは我々魔法使いの発展だろ?

 喜び給え。君は生きた英霊として活躍出来るのだ。」


 淡々と、さも当然のことのようにソイツは述べた。

 お前の感情とかいらないから死んで知能だけ残せ、

 ソイツの発言をまとめるとそういう事だった。


 ……これは流石に予想外。ここまでアホだったとは。

 どうやら下手(したて)に出過ぎて増長させてしまったらしい。


 彼はその後もソイツの話を聞き流していた。

 自分本位の理論を臆面も無く垂れ流してくる。

 そしてどうやら、他の人間にも賛同者がいるらしい。


 彼らは皆こう考えていた。

 ――お前の望む社会発展に大きく貢献出来るぞ、と。


 ……社会、ね。社会って何だっけ? あぁ、コイツらか。

 こんな奴らの為に天才の俺が『貢献』……か。


「アホらし。」


「ん? 何か言ったか?」


「やーめた! 俺もういいや!」


 突っかかるソイツを押し飛ばす。

 ちょっと小突いただけだが、動かなくなった。

 しかし彼はボーと虚空を眺めて佇んでいた。


 ……もう研鑽はいいや。俺はもう『怠惰』でいたい。


『――願いを承諾。審査を開始します。』



 ――千年監獄領域・アバドン――


『うーん? 何がどうなっているんだ?

 懐かしきアンブロシウスの情勢は……?』


 怠惰なる者はその異質な仮面越しに頬を掻く。

 痒いのでは無い。ただのジェスチャーだ。


『けどこれだけ知れたのは良かった!

 彼女は未だに、アンブロシウスの守護者だ!

 俺がアイツから()()()()()()()()()のに、だ!』


 可笑しくなり、可怪しくなって笑った。

 監獄中に響くほど、その生き物は高笑いを上げていた。


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