第十五話 縺薙l繧医j蜈医?遘伜???鬆伜沺
文字化けは演出です。
一見小洒落た普通のバー『アムリタ』。
その奥の部屋に入ってしまった朝霧に、
受付らしき場所から受付が声をかける。
「お客様?」
「あ、えと、はい?」
「一見さんですよね? ご会員様からの紹介状を……」
朝霧がここに迷い込んだのは完全に事故だ。
会員とやらの紹介状など当然無い。
あたふたしている彼女に受付は冷めた目を向ける。
そして、カランカランと鈴を鳴らした。
「どうやら……迷い込んでしまったようですね?」
鈴の音が鳴り終わると、
奥の暗い道から屈強な男たちが現れた。
スーツとサングラスをした護衛のような男たちだ。
明らかに朝霧に向けて敵意を向けている。
(くっ……! こんなマヌケな事で……
でも、逆に都合が良かったかもね。)
向けられた敵意に応えるように、
朝霧はその場で臨戦態勢に入った。
(こんな悪巧みをする奴らを……発見出来たんだから!)
朝霧は男たちに向かって駆け出した。
受付はシャッターを下ろし、男たちは迎え撃つ。
男の数は三人。
朝霧は先頭の男の攻撃を躱すと、
一瞬でその懐に入り込み床に叩きつけた。
続く二人の男の攻撃もしっかり防ぐ。
返す手で一人を押し飛ばすと、残り一人に迫った。
しかし、一人目の男が起き上がり、
背後から朝霧の体に組み付き、動きを抑えた。
「っ!? この程度……!」
朝霧は逆に体を拘束する男に押し付ける。
押されることで緩んだ腕からスルリと抜け、
今度は二人の男の方へと投げ飛ばす。
「ぐっおッ!?」
「観念しなさい! これで終わりだぁー!」
朝霧は拳を握り締めて振り抜いた。
しかしその腕を無数の糸が引き止めた。
「そこまで!」
「――っ!? フィオナ?!」
朝霧を止めたのはフィオナだった。
そして、彼女の後ろにはマスターが立っていた。
「聞いて、フィオナ! このバー、真っ黒だよ!」
朝霧は必死に糸を剥がそうと腕を動かす。
対して、屈強な男たちはフィオナの顔を見て頭を下げる。
「フィオナさん! お疲れ様です!」
「…………あれ?」
はぁ、とため息を漏らしながら、
フィオナは朝霧に張った糸を解除する。
「ここは……魔法連合管轄の店だ。」
――とある建物の屋上――
「何だ……集まったのはこれだけかよ?」
ツンツンと尖った赤髪を夜風に晒し、
青年は先に集合していた仲間に呼びかける。
彼らはバイクのような機械の整備を行っていた。
そんな彼らの中の一人が反応を返す。
「おう……なんか皆用事があるとかなんとか……」
「バッカおめぇ! こんな時間に用なんかねぇだろ!?
しょうもねぇ嘘つきになんかになりやがってッ!」
男は周りに轟くほど騒ぐと床をガツガツと蹴る。
頭を掻きながら来ている仲間に苛立ちの顔を見せた。
「さてはあれか!? アイツら……!
封魔局が来てるっていう噂にビビってんじゃねぇの!?」
「実際俺たちも不安だぜ、総長?
どうするよ? しばらくは俺たちも控えて……」
瞬間、総長と呼ばれた赤髪の男が
発言した仲間の顔を殴り飛ばした。
倒れた仲間の腹に蹴りを入れようとしたのを
周囲の他の仲間たちが抑え込む。
「封魔局が何だって!?
俺たちの暴走はその程度の事で止まらねぇよ!!」
そう言うと総長は屋上の端に足を掛け、
夜風に吹かれながら自由の街を見下ろした。
遊び人たちの日常が夜景として輝いている。
「フッ……並べ!」
仲間が彼の後ろに整列する。
さながら軍隊のようにキリッと列を成す。
建物の屋上で変わったバイクを押しながら。
「よしお前ら――飛ぶぞ!」
号令と共に、若者たちは飛び降りた。
――バー・アムリタ――
「すみませんでしたぁーッ!」
朝霧は屈強な男たちに何度も頭を下げる。
男たちも申し訳無さそうに自分たちの頭に手を当てた。
そんな彼女たちを見ながらマスターは
フィオナに耳打ちで話かける。
(中に引き入れた私のミスです。
こちらの女性……いかがいたしましょう?)
(いかがも何も……もう話すしか無いだろう?)
呆れたようにマスターを横目で睨むと
フィオナは朝霧のもとに歩み寄る。
「さて……何から話せばいいか。」
右手で耳元を弄りながらフィオナは悩む。
その様子に助け舟を出すように朝霧は問う。
「えーと、じゃあまず……この店は本当は何なの?」
「ふむ……やはりまずはそこからだな。
……うん、実際に見てもらった方が早いだろう。」
そう言うとフィオナは朝霧をさらに奥の通路へと誘う。
明かりの無い薄暗い道を歩いて行くと、
そこには厚いガラスで区切られた部屋にたどり着く。
廊下とはうって変わり青いライトで明るく照らされ
並ぶ観葉植物とハーブの香りが気分を落ち着かせる。
そして、ガラスの向こうには機械が並んでいた。
「何……あの機械? カプセル?」
人間丸々一人分の大きさの装置が並んでいる。
それはカプセル。中にふかふかの椅子が着いた、
マッサージチェアのような機械だった。
「ここって……」
「医療系リラクゼーション施設『アムリタ』だ。」
医療系リラクゼーション施設。
つまるところ……メディカル・スパである。
医学に基づき美容、療養を目的とした施設だ。
「けど、なんでカモフラージュを?
ただの医療施設ならバーに見せかける必要は……」
「その理由は……あちらです。」
朝霧の問に答えたのはマスターだった。
彼はスッと指先を閉じたカプセルに向ける。
すると、ちょうど白い煙を上げて開いた。
中には人間が入っていた。
朝霧はその人物に見覚えがあった。
彼女より前にこの施設に入った大男だ。
しかし、朝霧はその男の変化に気づく。
入店時には汚れた印象を与えた肌にはツヤがある。
猫背だった背筋はピンと伸び、
どこか顔つきにも自身が漲っているようだった。
「この店の目玉サービスはズバリ、老化の遅延です。
それはつまり……疑似的な不死の獲得を意味します。」
「――不死!?」
マスターの言葉に驚愕し、
朝霧は思わずフィオナの顔を覗き込んだ。
フィオナは朝霧に顔を向ける事無く話し出した。
「人間の悲願。その一つである不老不死の実現。
流石に魔法の力を持ってしてもそれは困難だ。
だが、この機械はその一部を再現した。
いや……してしまった、というべきか?」
フィオナは言葉を選びながら話を続けた。
彼女の話をまとめるとこうだった。
戦時中、偶発的に開発されたこの老化防止装置は
その処遇について激しい物議を醸した。
この『不死』という神秘に肉薄する夢の装置は
公にすれば間違いなく争いの火種となるだろう。
しかし、だからと言って廃棄する選択など無い。
そこで当時の関係者たちは魔法連合の上層部と
信頼の置ける一部の者にだけその存在を明かしたのだ。
装置の恩恵は利用しつつ、無用な混乱は生まない。
それを願っての対応である。
「なるほど……こんな凄い技術があったら、
それを狙ってくる輩が現れるかもしれない。
それを防ぐためのカモフラージュと会員制……
アンブロシウスに置いているのは、娯楽の街で
政府高官がお忍びで通っても言い訳出来るから?」
「まぁ、そんな所だ。
そして、桃香はその秘密を知ってしまった。」
「あ……」
フィオナとマスターが笑顔を朝霧に近付けた。
顔は笑っているが、その目は全く笑っていなかった。
「知ったものはこの際仕方無い。だから絶対……
絶ッ! 対ッ! バラさないようにッ!」
「は、はいぃー!」
朝霧は汗だくになりながら敬礼を返す。
フィオナは口元が緩むも、速やかに朝霧を連れ出した。
「ではマスター。普通のバーに戻るとしよう。」
「よろしいのですか? その方は信頼しても?」
「不敬だぞ。彼女は私の良き友だ。」
マスターは頭を下げると二人の後に続く。
朝霧たちは医療施設を後にした。
――――
「ごめんなさい、フィオナ! 私の不注意で!」
「もういいから。それよりまずは休もう。」
疲れたように椅子にもたれ掛かる。
珍しく脱力し、天井を見上げて休もうとした。
その時――
「キャアアアアア!!」
店外から悲鳴が鳴り響いた。
その声に共鳴するように耳障りな爆音が轟く。
フィオナは一通り音を聞く流すと
深い、それはもう深いため息を吐く。
「はぁぁぁぁぁぁあ…………」
「あはは……休暇にならないね?」
マスターが気遣いで運んできた水を
奪うように掴み取り一気に飲み干す。
バンとテーブルに叩き付け立ち上がった。
「出動だ! 行くぞ、桃香!」
「うん! 了解!」
二人は階段を駆け上がる。