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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第二章 アンブロシウスの守護者

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第十四話 アムリタ

 ――二日目・夜――


 アンブロシウスに二日目の夜が来た。

 昼間でも冷たかった空気が一層冷え込む。


 しかし、流石は天空の娯楽都市アンブロシウス。

 街はネオンの光と酔った民衆で昼間よりも活気付き、

 その様子を黒い空から大きな月が覗いていた。


 そんな長い夜の中、月光に照らされたベンチに座り、

 白い息で(かじか)む指を温める女が一人……朝霧だ。


「おまたせ、桃香。ココア買ってきたよ。」


「ありがとう、フィオナ!」


 フィオナは桃香に飲み物を渡すと、

 彼女の隣に座り自分用の飲み物に口を付けた。

 内側から暖かくなる感覚を味わいながら、

 綺麗な月を見上げたまま朝霧に首尾を問う。


「どうだった? 何か見つかったか?」


「まだ何も……そっちは?」


 フィオナは両手を広げ肩をすくめた。

 収穫無し、のジェスチャーだ。


「そっか……動くとしたら夜間かと思ったけど……」


 朝霧たちは二番隊隊長アーサーより

 アンブロシウスの守護者についての捜査を任された。

 彼からは接触の必要は無いと言われていたが、

 朝霧の強い希望で本人を探すことにしたのだ。


(……ニックの殺害が深夜だった事。

 一般的に夜間は犯罪が増える事などを踏まえて

 この時間をメインに探りを入れてみたのだが……)


 捜査開始してまだ数時間。

 流石にこの短期間での接触は出来なかった。

 それどころか、有益な情報も未だ無い。


(アンブロシウスの守護者はもちろんのこと……

 ニックの事も……魔王軍の手がかりも、

 まるで進展が無かったな……)


 そんなフィオナに朝霧は素朴な疑問を投げた。


「そういえば……魔王軍って結局何なの?」


「ん?」


「ほら、よく魔王軍の話が出て来るけど……

 私この世界にはあまり詳しく無くて、

 何となくの雰囲気で聞いてたから。」


「あぁ、なるほど。

 結論から言うと、現政権への反乱軍だ。

 ……事の発端は約十年前までに遡る。」



 ――――


 約十年前。当時の魔法連合はある契約を世界に下した。

 それは――大規模な『魔法行使の制限および禁止』だ。


 魔法世界が創り出されるまで、

 魔法使いは横の繋がりが希薄な存在だった。

 しかし、群れを成し、組織を成し、社会を作り上げた。


 その上で邪魔となのが、なにを隠そう『魔法』である。


 人を騙せる魔法がある。人を燃やせる魔法がある。

 人を陥れる魔法がある。人を洗脳する魔法がある。


 最初の二百年は何とかなった。

 魔術の研究が、祝福の研鑽が良しとされた。

 しかし、次第に社会問題として浮上する。

 過去、ドクター・ベーゼが友人を溶かしたように、

 祝福の自由行使は自由な犯罪を生んだ。


 そこで出された対策が先の契約である。


 もちろん、百年以上前から禁忌とされる魔術はあった。

 しかし、この契約はその比では無い数が対象となる。

 少しでも犯罪に利用可能な魔術は全て禁忌とされ、

 祝福は常時発動する物以外()()使()()()()となったのだ。


 この悪法は闇社会の拡大を招いた。

 契約といえど魔術的な制約はほとんど無く、

 朝霧が元いた世界の法律となんら変わらないのだ。


 なので魔法連合は武力で解決しようと試みた。

 当時、魔法連合の一組織でしか無かった封魔局に

 多大な武力と権力を与えて弾圧に向かわせたのだ。


 当然、闇社会はこれに断固対抗した。



 ――――


「そ……そんな事をしたら戦争に……! まさか!?」


「あぁ、これが五年前まで続いた大戦のきっかけだ。」


「封魔局と闇社会の戦争……?」


「――いや、少し違う。」


 フィオナは話を再開する。



 ――――


 闇社会から立ち上がったのは一人の人物だった。

 本名、年齢、性別不明の謎の人物。

 その人物は言葉とカリスマ性で

 民衆に訴えかけ、多くの賛同と支持者を得た。


 その人物は現政権への離脱を宣言。

 それに続き、一部の貴族と多くの民衆が離脱した。

 新都市ホロレジオンを首都とする新国家を樹立。

 名を――新魔法帝国『アビスフィア』とし、

 そして自らを≪天帝≫と称したのだった。


 魔法連合としては当然これを看過など出来ない。

 魔法連合とアビスフィア帝国の戦争が勃発する。



 ――――


「……アビスフィア。今なお魔法連合が健在って事は……」


「あぁ、戦争は魔法連合の勝利で終わった。

 だが、アビスフィア帝国は完全に滅んだ訳じゃない。」


 朝霧はフィオナの顔をジッと見つめる。

 逆にフィオナは月を見つめながら話した。


「アビスフィアの残党、最高幹部だった男の一人が

 事もあろうに()()()()()()()()()()したんだ。」


「……暴食! てことは、暴食の魔王軍って……!?」


「あぁ、奴らは魔法連合に破れた帝国の残党。

 今なお現政権に牙を向く反乱軍だ……!」



 ――――


 フィオナは話終わると目線を朝霧に戻した。

 彼女の手は寒さで震え、温かいココアのカップに

 指をギュッと押し付けているようだった。


「……桃香、今夜は一度戻ろう。

 流石に外で長々と話過ぎてしまった。」


「私は気にしないで、休んでいいよ!

 フィオナこそお昼から大変だったでしょ?」


 朝霧はニコッと笑顔を向けた。

 その頬は寒さで赤く染まっていた。


「それはお互い様だ。調査はまた明日に――」


「――ダメ。」


 朝霧はフィオナの言葉を遮る。

 ココアを持つ指に力が入っていた。

 その手は震えているが、寒さからでは無い。


「また明日じゃ……ダメなの……!

 明日って思ってたら……ニックさんが死んじゃった……!

 裏で動いている人たちは……私たちを待ちはしない!」


「…………桃香。」


 フィオナはまた言葉に詰まる。

 朝霧の気持ちは理解出来る。

 しかし休みが必要な事もまた事実だ。


「分かった……調査を続けよう。」


「……! もちろん、フィオナは休んでくれて――」


「――だが! 今回の調査は情報収集だ。

 ちょうど立ち寄りたかった場所がある。」


 そういうとフィオナは歩きだした。

 朝霧は彼女の後を追いかけた。


「ここだ。」


 到着したのは地下に続く階段。

 その横には一部光が切れた看板があった。


「バー……アムリタ?」


「あぁ、得てしてバーテンダーは顔が広いものだ。

 ここで情報収集兼……暖を取ろう。」


 そうしてフォオナはウィンクをした。

 朝霧は自身への気遣いに心が暖まる。



 ――バー・アムリタ――


 朝霧たちは店内へと入る。

 中はやや狭く落ち着いた雰囲気だ。

 カウンター席は三つ。テーブル席は一つ。

 他に客は無く、カウンターにマスターが一人。

 二人はテーブル席に座った。


「いい雰囲気の場所だね。私こういう所初めて。」


「緊張しなくていいさ……ん? ちょっと済まない。」


 フィオナの携帯が鳴った。

 フィオナはそのまま店外へと出ていく。

 それと入れ違いで髭を蓄えた大男が入店した。

 大男は座ることも無くマスターに話かける。


「マスター……おすすめは?」


「……食後ですか?」


「食前だ。」


「そうですね……今夜は冷えますので、

 アムリタなんてどうでしょう?」


「ならアムリタを……紅茶で割ってくれ……」


(うわぁ通の人っぽいなぁ。

 どのお酒がいいとか分かんないや。)


 会話に聞き耳を立てながら、朝霧はメニューと睨み合う。

 そこに載っている酒の多くは知らないものだった。


「いらっしゃいませ。

 先にご注文があればお聞きしますよ?」


 朝霧のもとにマスターが注文を取りに来る。

 慌てた朝霧は思わずおすすめを聞いてしまう。


「……食後ですか?」


「いや、食前です。」


「そうですね……今夜は冷えますので、

 アムリタなんてどうでしょう?」


(あれ? さっきの人も注文してたやつだっけ?

 聞いたこと無いお酒だけど……さっきの人は……)


 朝霧は先ほどの常連客のような男性の注文を思い出す。

 彼は紅茶で割っていた。紅茶は……朝霧も好きだ。


「ならアムリタを……紅茶で割ってください。」


「――お待ちしておりました。奥の部屋へどうぞ。」


「………………へ?」


 朝霧は連れられるまま奥の部屋へと導かれる。

 扉の向こうへ着くと、更に広い空間があった。

 何かに例えるならまるで、病院の受付だ。


(あー、これ。さては……あれだな?)


「あのーお客様? 会員の紹介状はお持ちでしょうか?」


(――ヤバい店だなッ!!)


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