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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
序章 ようこそ愛しき共犯者
8/666

第七話 ECS

 ――――


 朝霧はフィオナと情報を共有する。

 そして二人は朝霧延命の秘密が

 朝霧の父にあるという意見で一致した。

 フィオナはメモを取りながら会話を続ける。


「父親が魔法使い、或いはその関係者と仮定し、

 向こうの世界で完全に失踪しているというのなら……

 魔法世界(こっち)に来ている可能性は十分あり得るな。」


「でも、二つの世界の移動は無理なんじゃ?」


「つい先日アトラスという実例が出たばかりだぞ?

 それに実は何度も前例自体はあった。」


「え?」


「さっき話した黒幕という男だ。」


 黒幕の『祝福を覚醒させる』という祝福。

 これは魔法世界においては無意味な異能である。

 なぜなら祝福とはそもそも魔力に()()()()()()()

 その内勝手に覚醒する代物であるからだ。


「となれば……魔力であふれるこの魔法世界なら

 十年もいれば勝手に覚醒してしまう。

 そこであの男は、君たちの世界に目を付けた。」


「こっちの世界……?」


「あぁ。何故か奴は世界移動の手段を持っていた。

 そして手頃な人間をコチラへ連れ込んでいるんだ。

 闇社会をさらに拡大させる()としてな。」


「な!?」


 異世界転移の斡旋――要するに『人攫い』だ。

 闇社会の人間と聞き禄な奴じゃないとは思っていたが、

 まさか元いた世界にも害をなす存在だと知り、

 朝霧は心の底から実感と共に驚愕していた。

 だが彼女はそれと同時に一つの希望を見出していた。


「じゃあもし、黒幕を捕まえられたら……」


「帰還の目処は立つかもしれないな。」


 曰く、黒幕はその兵隊に力を与え

 闇社会そのものを飛躍的に拡大させてしまったらしい。

 そして戦後の荒れた世界に僅か三年で台頭すると

 黒幕と呼ばれるほどの巨大な存在となった。


 封魔局としても、

 この魔法使いだけは最優先で倒したい。


 加えて、朝霧の父は魔法使いで

 この魔法世界にいるかもしれないときた。


 帰るにしても残るにしても、

 しばらくは魔法世界に留まる事となるだろう。

 先にどちらを優先するにしても朝霧の行動は決まる。

 膝の上で拳を握り、彼女は決意を胸に言葉を放つ。


「私……封魔局に入りたい!」



 ――――


「とは言っても実際どうする?

 局長の心境は穏やかじゃないだろう。」


「ぅ、確かに……」


 厚意をはっきり断り、スパイの疑いもかかり、

 その後に手のひら返して入りたい。

 恐らく無理だろう。怪しさが勝ってしまう。


 困っている朝霧に「私が説得しよう」と

 提案してくれるフィオナだったが、

 どうやらイマイチ自信が持てていなさそうだった。

 そんな中ドアを叩きドレイクが入室してくる。


「どーも朝霧。さっきは悪かったね?

 可能ならもう一回局長室に来てくれるかな?

 また話があるってさ。」


「隊長……聞いてましたね。」


「途中からだよ。

 封魔局に入りたいって言ってもらえてうれしいよ。

 きっと局長も同じさ。」


「ほ、ホントですか? 良かったです。」


 安堵する朝霧の背中を押しドレイクが外に出る。

 しかしその後ろでフィオナは、

 怪訝な表情で腕を組んでいた。


(あの局長が言葉だけで納得するか?)



 ――――


 フィオナの不安は的中していた。

 引きつった笑顔で局長が椅子から歓迎する。

 やはりと後ろでフィオナが頭を抱える。

 まだ信用されていないことを朝霧も理解できた。

 場の空気を感じ取ってドレイクが切り出す。


「局長聞いてくださいよ~!

 朝霧がやっぱ封魔局入りたいって言ってます。」


「お、おう! そ、それは良かった。

 うん! とても良かった!!」


(またフィオナさんが『無能が』って怒りそう……)


「あー……だがね、朝霧殿?

 正式入隊はちょっと待ってもらいたい。」


「……と、いうと?」


「うむ……実は一か月後、

 正規の新規入隊者が入隊してくる時期なんだが、

 君もそこに合わせようと思っていてね。

 なので当面は『仮入隊』という扱いになる。」


 局長のその言葉に一番反応を見せたのは、

 朝霧本人では無くフィオナの方だった。

 身体をグッと前に押し出し、

 彼女は文字通り会話に割って入る。


「仮入隊? では配属はどのような扱いに?」


「いや、配属もまだだ。

 朝霧殿はこの世界の全てに対して初心者だ。

 勉強期間として――『ECS』を適用する。」


「『ECS』?」


 知らない単語に首を傾げる朝霧だったが、

 そんな彼女の疑問に答えたのはドレイクだった。


「外部連携システム、通称『ECS』。

 さっきも言ってたけど封魔局(うち)は人手不足でね。

 事件によっては専門家の協力も必要になる。」


 実力のある専門家と権限を持つ封魔局員が

 協力体制をしいて任務に当たる。

 それがこのシステムである。


「まぁ名前は別に覚えなくて良いけど、

 担当者の専門知識も学べて結構便利な制度だね。」


「……本来これが適用される封魔局員は

 ある程度のキャリアがある者に限るが今回は特例だ。

 既に先方にも了承して貰っている。」


(なら――!)


 どんな形であれ封魔局には入れるようだ。

 朝霧としては、今度は断る理由が無い。


「ご指導ご鞭撻、宜しくお願いします!」


 朝霧は三者に向けて深々と頭を下げた。

 これから始まる生活にかなりの不安はあったが、

 長年の悲願だった父の手掛かりが掴めるかもと、

 彼女は期待に胸を膨らませていた。


「……そういえば、私につく専門家はどんな方ですか?」


「うむ? うぅん。……ぅん。探偵だ。」


「え?」


「魔法世界()()の名探偵殿だ。」



 ――同時刻・都市ミラトス――


 魔法世界中央都市ゴエティア。

 海上都市と形容される都市である。

 そんなゴエティアと海を挟む形で隣接する位置に

 ポツンと存在していたのが、此処ミラトスだ。


 ゴエティア繁栄のおこぼれを貰い発展したこの町は

 建物が乱雑に密集しており、

 少し路地に入れば暗い世界が広がっていた。


 ゴエティアを青と白銀の都市とするなら

 ミラトスは黒と灰色の都市だろう。


 町の中にはシャッター街。

 なにやら先日、大捕物があったらしいその商店街には

 立ち入り禁止の結界が張ってあった。

 そんな結界を睨む形で男二人が話し込む。


「チッ! アトラスの野郎ォ!

 息巻いてた結果がこれか。どうしますか? 第九席。」


 すると第九席と呼ばれた男は

 人差し指を振りながら悪態をつく部下をなだめる。


「ダメダメダーメ。ビジネスってのは生き物だ。

 ペットのイタズラに一喜一憂してたら心が持たないよ?

 アトラスのせいで封魔局に白星一つだけど……

 今度はこっちに白星をつければいい。」


 黒く焼けた肌に明るいピンク色のモヒカン。

 目は本来白目の部分が真っ黒に染まり

 金色の瞳が妖しく輝く。

 ヒョウ柄の上着から黒いTシャツを見せる。

 その奇抜な男は現場を後にしながらつぶやく。


「まぁ見てなって……

 今から()()()()、この町は崩壊する――」


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