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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
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第四十八話 軟弱者

 黒幕とドクター・ベーゼの取引がある。


 ヘッジホッグは偶発的にこの情報を得た。

 計画情報から読み取れる悪意、

 そしてベーゼの人柄からガイエスは、

 ベーゼの黒幕に対する『敵意』を確信した。


 盗賊たちはこれを利用する。

 取引が行われるマランザードの秘宝を求め、

 この情報を足の付かない形で()()()()()()()()


 封魔局、特異点、大戦犯。

 三つ巴の戦いは領主にも多大なダメージを

 与えてくれるだろうと期待したのだ。


 事実マランザードのインフラは大きく傷ついた。


 ガイエスの予想通り、

 封魔局と領主の戦力は大きく疲弊。

 領主の娘(マナ)の避難のため、

 戦力が分散する状況まで予想していた。


 しかし、想定外の事態も起きていた。


 再度言うがガイエスは盗みに対する美学は無い。

 必要なら不恰好な力任せの強盗も辞さない。

 そんな彼が……()()()()()()()()()()()()


 計画は大きく狂った。

 あるはずの無い防衛(せんりょく)が領主邸を囲っていた。

 知られるはずの無い目標(たから)が避難していた。

 いるはずの無い暗殺者たち(せんきゃく)が船上にいた。


 そして……現在。


「ぐぉぉおおおお――――ッ!?」


 ガイエスの肉体を毒が蝕む。

 悪意の塊が強靭な肉体に侵食する。

 シュウウと溶解音と煙を立てる。


「頭領!? 頭領――――ッ!!」


 レベッカは必死に駆け寄る。

 朝霧を始めその場の封魔局員たちは

 状況を把握することに専念していた。

 ガイエスの無線から声がする。


『おや? 思ったよりも効いているね?』


 船から現在に至るまで、

 ガイエスは大した休息も無く戦っていた。

 落雷にも当たった。そこから蘇生もした。

 ベーゼの毒液でも完全には溶けていない。

 しかし本来なら、そもそも効かないのだ。


(……ッ! 効いているだと……ッ!?

 見ているな! 何処から見てやがる!?)


「頭領……動いちゃダメ! すぐに手当てを……」


 レベッカの持つ『合わせ鏡』がキラリと光る。

 重要物品だ。当然、肌身離さず抱えている。


「――! レベッカ! それを離せ!!」


 ガイエスは彼女を突飛ばし鏡を取り上げた。

 再び無線から声がする。


『とぉーりょー! 気付いてくれると思ったよ?』


 今度は鏡から、追撃の如く毒液が吹き出した。

 頭から液体を浴び、ガイエスの体は更に溶ける。


「うがぁぁあッ!? ぐぎぎがぁあ――ッ!!」


『俺に鏡の片方を持たせてくれてありがとさん!

 マジで便利すぎるぜ、こりゃ!』


 鏡から嗤い声が鳴り響く。

 苦しむガイエスと慌てるレベッカ。

 朝霧もいよいよ状況を理解した。


(裏切り……)


「どうして!?

 どうしてなんですか、ライアンさん?!」


『ん―、レベッカちゃんにはちょっと難しいかな?

 ロマンがあるじゃなねぇか、大物の首。』


 ライアンは悪びれる事も無く、

 むしろ武勇伝を語るかのように話始める。


『俺も別に頭領の事は嫌いじゃねぇ。

 事実、彼は特異点の中で最強だろう。

 ……だが、ヘッジホッグは違う。』


 その言葉に周りの構成員も耳を立てる。


『頭領のワンマンチーム、それがヘッジホッグ。

 黒幕直下『亡霊達(スペクターズ)』のネメシスやシックス。

 九人……いや八人の魔王執政補佐官たち。

 余所(よそ)は勢力として、ちゃんと強い。』


 その場の構成員に呼びかけるように、

 ライアンは大きく怒鳴るように叫ぶ。


『分かるか、お前ら!? 

 ヘッジホッグにゃあ、未来が無ぇんだ!

 闇社会に君臨するだけの力が無い!』


「君臨って、私は頭領と過ごせれば――」


『――それがダメだ! 軟弱で矮小な組織!

 本来吸えるはずの甘い蜜を逃し、

 真に闇社会の王となれるのにしない!

 だから俺は……()()()()()()()。』


 その声を号令に、

 周囲を囲むように謎の集団が出現した。


「な!? こいつら何処から!?」


「気をつけろ、本堂隊員! こいつら……!」


 朝霧ら封魔局員。ガイエスらヘッジホッグ。

 その両者を囲む組織の正体は――


「――()()()だ!

 こいつら、特異点≪暴食の魔王≫の軍勢だ!!」


 軍勢。そう呼ぶに足る兵力があった。

 両軍勢が疲弊した瞬間を狙って現れた。

 ガイエスは激痛に耐えながら思考する。


(暴食の……ッ! 

 俺たち、封魔局、亡霊達(スペクターズ)……四つ巴だったか!)


 ライアンはさらに叫ぶ。


『だがヘッジホッグの同胞よ、俺も鬼じゃない!

 俺が魔王に取り入った条件は頭領(ガイエス)の首のみ!

 俺が口を利いといてやる……()()()()()()()?』


 すると、盗賊たちは口々に寝返りを申し出た。

 ライアンに、魔王軍に、無様に命を乞う。


『レベッカちゃん、君も来なさい。

 君は唯一、この弱小盗賊団の中で有能だ。』


 周りの人間が彼女に注目する。

 当然、レベッカの思いは決まっていた。


「地獄で言ってろ……裏切り者!」


 ライアンから指示が飛ぶ。

 軍勢が一斉にガイエスを目がけて襲いかかった。

 レベッカと彼女の狼は奮闘する。

 迫り来る敵にナイフと爪牙で立ち向かう。

 その中には、先ほどまでの同志もいた。


「お前ら! 恥ずかしくないのか!」


「うるせぇ! 金目当てで集まった仲だ!

 てめぇの命まで掛けられるか!!」


 それはガイエスも言っていた言葉だった。

 多勢に無勢。数でも武装でも負けている。

 これでは地に伏すガイエスを守りきれない。


(家族だと……思っていた……()()()……ッ!)


 彼女の瞳から涙が零れる。

 心が、悲しむ。


「――があぁ!? なんだこの女!?」


 群衆をなぎ倒し、朝霧桃香が飛び出した。

 彼女だけでは無い。アランとアリスもだ。

 レベッカに襲いかかる敵を押し返す。


「……なん、で?」


 レベッカたちを守るように割って入った朝霧に

 彼女は震える声で疑問を投げかけた。


「どうせ後で逮捕する。それに……

 目の前の命を全力で助けるのが封魔局(わたしたち)だ。」


「おう、朝霧の言う通りだ。

 どのみち魔王軍とは戦わなきゃならねぇ。」


「勢いで飛び出ちゃったけど、右に同じ!

 勢いで飛び出ちゃったけどぉ!!」


 朝霧たちは敵に向かい、背中で語った。

 そのさらに後方から、他の局員も続く。


「魔王軍とはいえ幹部はいねぇ!

 若い衆に良いとこ取られるなッ!」


 封魔局と魔王軍が衝突した。

 周囲を囲む多勢の軍と、

 それに囲まれた無勢の兵士たち。


 戦力差が容易に埋まる訳ではないが、

 確実に現場の士気は封魔局に傾いていた。



 ――マランザード領主邸――


 ミストリナは領主邸で救助の指揮と

 マランザード全体の戦術指揮を執っていた。

 人を動かし物を動かし、盤上で勝負をしている。


 そんな彼女のもとに

 手負いのアシュラフが歩み寄る。


「ミストリナ……やはり私も出る……」


「まだそんなことを……安静になさって!」


「いいや! 待てない! あの鏡は私の宝だ!」


 アシュラフは怒鳴った。絶叫に似た声だった。

 あまりにも固執しすぎている、病的なまでに。


(おじ様……一体何をそこまで……?)


「伝令――! ミストリナ隊長に伝令です!」


 局員が駆け込んだ。

 知らせを聞き、彼女はニヤリと笑う。


「なんだ、ミストリナ?」


「ご安心ください、おじ様。

 我々封魔局は決して負けません。」



 ――――


 朝霧たちは気迫で敵を押していた。

 だが……


(……数が多いッ!

 それに裏切り者の発言も理解できる。

 こいつら一人一人が、強い!)


 気迫では押している。

 しかし、その程度で浮き足立つほど

 魔王軍は烏合の衆では無かった。

 確実に、地の利と数の利を生かす。


(あと一つ……あと一息が足りない!)


「朝霧さん、危ない!!」


 朝霧が丁度大剣を振り終えた隙に、

 三人の魔王軍兵士が飛び掛かった。

 当然、彼女に回避は出来ない。


「しまっ――」


「――どうやら、間に合ったようだ。」


 聞き馴染みのある声がした、

 と同時に敵三人の体が空中で停止する。

 目をこらせばそこには、絡まる()が見えた。


「――!? フィオナ!!」


 視界の先には封魔局三番隊員フィオナがいた。

 グローブから露出した指から硬い糸を張る。

 その存在は味方に歓喜を、敵に動揺を与えた。


「遅れて悪かった、()()。大丈夫だったか?」


「平気! でもフィオナが来てくれて良かった!」


 フィオナはすぐに朝霧のもとに駆け寄った。

 フィオナの表情は優しく安堵するようで、

 そして朝霧の表情は心底嬉しそうだった。

 そんあ彼女たちをアリスが眺める。


(朝霧さんを名前呼び……ッ!? いいなぁ。)


「どうした、アリス?」


「……なんでも無いです、はい。」


 そうこうする内に敵が盛り返す。

 朝霧とフィオナは背中を合わせ対峙した。


「フィオナ、他の人は?」


「まだ完全に召集出来ていないんだ。

 私たち数人のみが援軍に来た。」


 フィオナの力は魔王軍相手に引けを取らず、

 むしろ彼女一人で一気に形勢を動かしていた。


(こりゃあ流石にマズいか?

 死体すら手に入らない可能性が出てきた。)


 状況を察知し、ライアンは手を打つ。

 ミサイル攻撃による絨毯爆撃である。

 即座にミサイルを形成、射出した。


「ミサイルだ――ッ! 迎撃しろ!」


 大量のミサイルが飛来する。

 だが、多くの局員は手が離せない。


(まずい! もう一度村雲をッ!)


 朝霧は練度の低い飛ぶ打撃の構えを取る。

 しかし、彼女の肩にフィオナが手を当てた。


「大丈夫だよ、桃香。

 数人の援軍には()()()もいる。」


 その発言と同時に、

 空中を業火の柱が横断した。

 内部の毒液や粉末ごと燃やし尽くす。


「――ドレイク隊長!」


 建物の屋根に三番隊隊長ドレイクがいた。

 彼は戦場を俯瞰し、号令を掛ける。


「お前らよく持ちこたえた!

 そして魔王のしたっぱ共……覚悟しな?」


 彼の後方から、本部の援軍たちが現れた。

 ドレイクは迫る敵を燃やし、

 フィオナが地上の敵も多く排除する。


 数の差も埋まり、既に地の利も得た。

 形勢は完全に逆転していた。


『あーあ、こりゃダメだ。時間切れだ。』


 無線からライアンの声がする。

 その声は諦観、というには少し違った。


『仕方無いよな? あぁ、仕方無い。

 ――「流星襲落の弓(サジタリウス)」、起動。』


 男は手元の装置を動かした。


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