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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
最終章 さらば愛しき共犯者

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第五十四話 アウトサイダー

「――キアラ!」


 切断した敵の上半身を担ぎながら、

 ツヴァイは便利な祝福持ちに合図を送る。

 直後彼女の位置は一枚のトランプと置き換わり、

 気付けば朝霧の背後へと転移していた。


「ツヴァイ! 怪我は無い!?」


「大丈夫。問題無いよ朝霧!

 あと、しっかり生け捕りにしてきたから。

 こういう奴も正しく裁いて救うんでしょ?」


「……! うん。そうだね!」


 我儘とも言えてしまう自分の意思を尊重して、

 カシューを殺さず制圧してくれたツヴァイに

 朝霧は言い表しようも無い感謝の念を抱く。

 そしてツヴァイもそんな朝霧の表情に満足すると、

 斬り飛ばされたカシューの足を止血し

 彼女を担いで翼を広げた。


「じゃあ私は一旦こいつを安全圏に離脱させてくる。

 勿論すぐ戻るつもりだけど……」


「タイムリミットを考えると難しいかもね。

 大丈夫。私たちだけでやり遂げてみせるから!」


「無茶だけはしないでよね?」


「うん。本っ当にありがとうね、ツヴァイ!」


 最大限の感謝と笑顔を、朝霧は戦友に贈った。

 そしてツヴァイもまたその表情を燃料に、

 過去最大級の魔力出力を以て飛翔する。

 彼女の軌跡をなぞって弧を描くその飛行機雲は

 星空の下で一筋の彗星の如く輝いていた。


「良い友人を持ったな桃香。

 あいつの言う通り、無茶はしてくれるなよ。」


「分かってますよショウ君。

 もう()()()()()()()()()ですしね?」


「あぁ……――え?」


「多分……出来てます。」


 頬を染めながらそう告白する朝霧に

 森泉は目を見開いて硬直した。

 それと同時にアランやキアラたちが

 彼の言葉を代弁するような驚きの声を重ね、

 そして遠方の空ではツヴァイが黒煙を上げて墜落する。


「ちょっとちょっとねぇちょっとモッキー!?

 い、い、今の話って本当なの―!?」


「うん……多分、ほぼ間違い無く……」


「ショウさん! ねぇちょっとショウさん!?」


「っ……、悪い、俺今、どんな顔してる?」


 手の甲を口元に押し当てた彼の声は震えていた。

 赤子の時から家庭など無かった男にとって、

 人生の大半を殺人と陰謀に費やした彼にとって、

 それは体験した事の無い初めての感情だった。


 その目元には薄らと涙も浮かんでいたが、

 紅潮する顔の鎮静化に追われた森泉は気付かず、

 そしてそんな反応の彼を見つめて、

 朝霧は幸せそうに微笑んだ。


 が、そんな彼女たちの頭上では

 今もウラたち鬼の一族が真球から解き放たれる

 荒波の如き魔力と押し合いを続けていた。


「さっきから何を長々と駄弁ってんだお前ら!?」


「はっ……ウラさん!」


「時間が無いんだろ!? さっさとケリを付けるぞ!」


 鬼の怒声に尻を叩かれ、

 朝霧たちは再び真球への攻勢に打って出た。

 空中都市のど真ん中で制止する球体を囲むように、

 彼女たちは周囲へと散開していく。


 そしてその後ろ姿を、

 一歩出遅れた所でアランが見つめていた。


「……」


 彼もまた、雑念を押し込み剣を抜く。



 ――成層圏まで残り十五分・真球近辺――


 ツヴァイがカシューを切除した事で、

 真球を取り囲んでいた精霊たちも消滅した。

 結果、フィオナ捕縛に動く者たちは

 彼女の眠る真球の目と鼻の先まで

 接近する事が可能となっていた。


 が、確かに接近は叶ったがまだ接触が出来ていない。

 吹き荒れる膨大な魔力の風が強固な障壁を形成し、

 人々の到来を完全に阻んでいたからだ。


(っ……! 激しすぎて赫焉を撃つ暇もない!)


 障壁に穴を開けられるほどの火力を考えれば、

 やはり真っ先に思い浮かぶのは朝霧の赫焉だろう。

 しかしこれほどまでの近距離では嵐が邪魔で

 赫焉の射撃体勢にすら入る事が出来ない。

 何より、そもそもフィオナ奪還のためには

 朝霧は権能にこそ集中しなければならなかった。


 現状、適応を穿てるのは憤怒の権能のみ。

 故に魔力障壁の突破を行い隙を生み出す役柄は

 朝霧以外の誰かが請け負う必要がある。


「モッキー! 皆!

 一応私の祝福で支援するからギリギリまで粘れるけど、

 それでも残り一分までが限界だからね!」


「ッ……ドレイク隊長! やはりここは俺たちが!」


「止めとけアラン。お前もまだ全快じゃ無いんだろ?

 もう火力面で俺たちの出る幕は無ぇよ。」


「そんなっ……!」


「それに役割はちゃんと事前に決めてから来ただろ?

 大丈夫。鬼の力、魅せて貰うぜ?」


 刹那、妖狐の操る水流が空へと撃ち出され、

 吹き荒ぶ魔力障壁の末端と火花を散らす。

 それによって暴風に僅かな隙が生じたその時、

 赤く煌めく妖刀を携えて鬼の首領が駆け出した。


「任せな!」


 魔力障壁の突破係に選ばれたのはウラだった。

 より正確に言えば彼の持つ鬼族秘伝の一刀『絶壊』。

 かつて朝霧の母、美那が巻藁相手に極めて、

 彼女から技を盗んだ父、拏業も使用した逢魔時の断裂。

 周囲の空間ごと獲物を断つと言われた鬼の最終奥義だ。


 これであれば強固な魔力障壁にも穴を開けられる。

 少なくともその見込みだけなら十分にあった。

 故にキアラで退路を確保しつつウラを突破の尖兵とし、

 その更に後ろから防御力に優れた森泉を護衛に付けた

 本命の朝霧を通すと言う作戦が立案させる。

 アランたちはそんな彼らの援護係だ。


「しっかりサポートしてくれよ、封魔局ッ!」


「っ……了解!」


「さぁ行くぞ、イブキ! ホシグマ!」


 首領の叫び声を合図に鬼の精鋭たちも動き出す。

 まずイブキがその鮮やかな剣捌きにより

 都市から巨大な瓦礫片を切り出すと、

 怪力のホシグマがそれを担いで盾に使う。


 彼女の運ぶ巨大瓦礫片は衝撃で砕かれつつも

 真球から放たれる暴風の丁度良い風除けとなり、

 一気にウラたちを目的地の近くにまで移動させた。

 そして――


「行きますよ! ウラ様!」


 ――ホシグマは障壁に向けて瓦礫の盾を投げ飛ばす。

 それは見る見る内に体積を減らしていき、

 遂には石粒程度の大きさとなって消し飛んだが、

 いつの間にかその中に隠れ潜んでいたウラを

 見事障壁の眼前にまで辿り着かせた。


「朝霧! 森泉! 準備を!」


 納刀した刀に手を伸ばしながらウラは叫ぶ。

 それと同時に森泉は朝霧を抱きかかえ、

 バリアと煉瓦の足場を生成し動き出した。

 魔力障壁に穴を開けられる時間は恐らく僅か。

 ウラと森泉は互いにタイミングを合わせて好機を狙う。


「ッ――! 『絶壊』!」


 逢魔時の紋様が極彩色の魔力障壁にブチ当たる。

 それは悲鳴のような衝突音を響かせながら、

 確かな妖気を以て空間を歪める一撃を解き放つ。

 が――


「ヅっ……!?」


 ――障壁に空いた穴は、想定よりずっと小さかった。

 それはとても朝霧が侵入出来るような物では無く、

 作戦を中止にしなければならないほど

 矮小で頼り無いような亀裂であった。


 そしてその風穴から、

 更に膨大な魔力の突風が外へと流出する。

 それは穴の真ん前に居たウラに直撃し、

 大砲が着弾でもしたかのような感覚と共に

 彼を後方へと大きく吹き飛ばす。


「ガァッッッッ!!!?」


「っ……!? ウラさァーんッ!?」


(マズい……! 俺たちもすぐに離脱を――)


 即座に森泉は作戦失敗を連想し、

 早くも思考の転換を行おうとしていた。

 が、偶然にもそんな彼の目と、

 吹き飛ばされていく最中のウラの目が合った。


「「――!」」


 少数精鋭と言う名の超人材不足組織を動かし、

 貴重な部下の命を預かって来た者同士、

 既に「ここで退けば後が無い」と理解していた。

 朝霧桃香の望む結末に辿り着くためには、

 もう此処で決め切るしか無いと共鳴していた。


「そらよ!」


 故にウラは何の葛藤も無く妖刀を投げ飛ばし、

 そして森泉も何の躊躇も無く鬼族の宝を掴んだ。

 同時に、彼は強欲の権能にて獲得した

 とある仲間の祝福を行使する。


「……祝福名『同化』!」


 選んだのはアヴァリスの異能。

 彼は妖刀と、それを握る自分の腕を同化させた。

 直後彼の脳には妖刀に記録された技の数々が、

 膨大なデータとして直接流れ込む。


「ヅッ! ぐぁ!?」


「ショウ君!?」


「前を向け桃香! 今、障壁を穿つ!」


 森泉の脳はその膨大なデータの負荷に耐え、

 笑みと共に恋人に言葉を返すギリギリの余裕を見せる。

 そして彼は再び煉瓦壁の足場を形成すると、

 ウラが刻み込んだ亀裂に飛び出した。


「っ……任せたよショウ君!」


 朝霧は彼を信じて飛び退いた。

 対する森泉も汗だくの顔に笑みを作ると、

 突き立てた親指を仕舞って妖刀に手を添える。


(あの技なら、桃香も一度使っている……イケるな。)


 それは、これまで掻き集めて来た物の集大成。

 妖刀の同化にも耐え得るサギトの肉体。

 流れ込む記録の中から見つけ出した恋人の技。

 そして悪友(サマエル)が命に変えても守り抜いた出来の良い頭。


 それら全てを活用し、

 強欲にも――余所者(アウトサイダー)が逢魔時の紋様を刻む。



「『絶壊』ッ!!」



 解き放たれた赤雷が、

 今度こそ魔力障壁に穴を開けた。

 ウラが刻み込んだ亀裂を更に外へと広げるように、

 空間を歪めた斬撃が花形の通る道を拓く。

 その一刀は血族の者と何ら遜色の無い威力であった。


「今だ、桃香ァ!」


「うん! 『(ロキシア)』!」


 穿たれた穴から朝霧は転移によって素早く侵入した。

 そして文字通り目と鼻の先にある真球に触れ、

 彼女は再び親友だった者にその権能を振りかざす。


「『天魔の神門(サタンズゲート)』……開門ッ!」


 赤き方陣が回転し、刹那、

 真っ白な肉塊を確かにこの世から切り離す。


(出てきて、フィオナ!)



 ――――



『桃……香ッ……!』



 ――――



「ッ……!?」


 真球は、更なる肉の放出で異分子(アウトサイダー)を拒絶した。

 傷口から現れたその白き物体は、

 まるで巨大な人の手のような造型をしていた。

 そしてその張り手で土俵から押し出されるように、

 朝霧は真球の間近から突き飛ばされた。


(クッ――()()()()……!)


「朝霧! どうなった!?」


「下がってアラン……! 次が来る!」


 直感から吐出されたその予想を実証するかのように、

 真球は口など無いはずなのに悲鳴を上げて

 周囲に傲慢の権能である鎖を放出していった。

 無論今のフィオナにそれを扱えるだけの理性は無く、

 貫かれた所で即死の命令が発動される訳では無い。


 が、理性の無いが故に鎖の速度は正に異常で、

 真球形態への変容に伴い増大した鎖は

 下手な戦術兵器よりも凶悪な破壊力を有していた。


「退避! 退避だ!!」


「下がれお前ら! 押し潰されるぞ!」


 堪らず森泉やドレイクが撤退の指示を飛ばす。

 だが接近し過ぎていた朝霧と、

 彼女に声を掛けに近付いていたアランは、

 その鋼の濁流に呑み込まれそうになっていた。


「しまっ……!」


(まずいアランが! 助けなきゃ……!)


「!? 待て桃香ッ……!」


 一人なら転移の聖遺物による離脱も可能だったが、

 朝霧はアランを助けたい一心で

 森泉の静止も聞かずに飛び込んで行った。

 結果二人は迫り来る鎖の射線上に

 むざむざとその身を晒してしまう羽目となる。


(これっ、死――!)


 朝霧は死を直感した。

 が、そんな彼女たちの前に

 突如背の高い男が立ち塞がった。


「無様だなァ。朝霧ィ?」


 朝霧の前に立ち塞がったのは、

 ダミアーノ・ローデンヴァイツであった。

 そして彼女がその事実を理解した直後、

 ローデンヴァイツは全身から血を噴き出す。


(ヅぐぶッ……! 何層もの結界を張ったのだがなァ。

 まぁ良い。死に場所を得られたと思おう……)


「無事か桃香……!?」


「私たちは大丈夫……けど厄災が!」


「ローデンヴァイツ!? 何故お前が?」


「……この戦争はもう貴様らの勝ちだァ。

 そして恐らく、私は戦後再び牢獄行きになる。」


 全身を抉られた厄災は、

 片膝を突きながら吐き出すように喋り始めた。

 彼は戦後の自分が辿るであろう結末も

 既にある程度予想していたのだ。


 勿論、今回の活躍を加味して

 多少の減刑はあるのかもしれない。

 特異点時代の罪や本人の気性を差し引いて、

 刑期が短くなる事も十分に考えられるだろう。


 しかしどうあれ、一度は捕まる。

 どんな形に収まるとは言え一度必ず裁かれる。

 フィオナに対する朝霧の方針を聞いた時から既に、

 ローデンヴァイツはその未来を予見していた。


「我が人生の()()()はこの辺りで完結だァ。

 俺は……百朧(ジジイ)以外に裁かれるのは耐え難い。」


「そんなっ理由で……!」


「それより朝霧ィ……真球の動きが止まったぞォ?

 さっきのはどうやら一時的な反応のようだなァ?」


 厄災の言葉に釣られて朝霧は真球を見上げる。

 確かに先程の鎖の大放出は既に無く、

 肉の塊は再び綺麗な球形へと戻りつつあった。

 だが同時にそれは先程までのダメージが

 全て無かった事にされてしまったという事でもあった。


「時に朝霧ィ? お前の権能、効いてたかァ?」


「っ……! いえ、()()()()()()()()でした。

 今のフィオナには絶望的に出力が足りていません……」


 その言葉に対して、

 ローデンヴァイツは嘲りの笑みを浮かべる。

 死に絶える前に朝霧の願いが頓挫する瞬間が見られて

 心底心地良いといった表情であった。


 だがそんな彼とは対象的に、

 アランは絶望のような表情を浮かべていた。

 まるで自分の中の全てが崩れ去ったかのような、

 そんな口惜しそうな顔であった。


(朝霧でも……()()()()……?)


「っ……!? マズいぞ桃香!

 タイムリミットまで残り三分を切った……!」


「三ぷっ!? もう後が無――!」


 その時、更なる絶望が朝霧たちを襲う。

 鎖の大放出直後から停止していた真球が

 再び動き出して声を上げたかと思えば、

 次の瞬間、先程壊したはずの魔力障壁が

 寸分違わぬ硬度と共に再展開されたのだ。


「「なっ……!?」」


 これには流石の朝霧も膝を突く。

 もう一度障壁の突破に掛けている時間は無い。

 森泉は断腸の思いで撤退の合図を送ろうとした。


 そしてやはり――

 そんな主戦力たちの姿をアランは傍観する。


(朝霧でも、駄目なのかよ……!?)


 この戦場において今の彼は『戦力外』。

 ドレイクやローデンヴァイツですらそうなのだ。

 隊長の地位も、特異点の称号も無いアランなど、

 背景で人知れず散りゆく雑兵と変わらない。


「ッ……!」


 そんな現状が堪らなく嫌で、

 チームの戦力外(アウトサイダー)は一心不乱に駆け出した。

 背後から聞こえてくる驚愕と静止の声も耳に入れず、

 彼はそのまま荒れ狂う魔力の嵐に手を伸ばす。


「俺は――!」



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