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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
64/666

第四十四話 弱者と強者

 ――――


 戦争をした。

 それは大切な()を守るため。

 力の限り、知力の限り。


 その男の勢力は勝利した。

 敵の指導者は消失し、残党の多くは撃破した。


 運良く、その男は功績を挙げた。

 皆は彼を讃えて、砂漠の獅子と呼んだ。


 ――違う……ッ! 違うんだ……ッ!


 砂漠の獅子は良き指導者だった。

 敗戦を引き分けに、引き分けを勝利に導いた。


 ――私じゃない……ッ! 真の功労者は……ッ!


 男は猛将だった。自ら最前線を張った。

 敵へと果敢に攻め込んだ。どんな戦いでも。

 ひたすら、ただひたすら、突撃した。


 ――すまない……すまない……すまない……ッ!

 私には……こんな作戦しか思いつけない……ッ!


 皆が男の号令に従い、喜んで死地へ赴く。

 この死が勝利に繋がるのだと、

 喜んで、疑いなく、自らの意志で。


「素晴らしかったよォ? アシュラフ殿。

 ……『これ』はアナタに送ろう――」


 ――鏡だ。美しい鏡だ……()()()()()……


 その姿は、勝者側の英雄と呼ぶには、

 あまりにも(すさ)んでいた。


「この鏡は君の功績の『証』だァ……

 大切に……してくれたまえ。」


 ――証。この美しい鏡こそ……私の……


 この鏡こそ、男の栄光の証左。

 潰れゆく精神を支える安定剤。

 鏡を見ると、気分が紛れる。

 鏡を拭くと、心が洗われる。


 砂漠の獅子。偉大なアシュラフ。

 男は鏡に映る人間に、そう呟いた。


 ――そうだ……私は先の戦争の()()()だ。


 そして現在、戦闘が起きた。

 それは大切な()を守るため。

 力の限り。知力の限り。



 ――領主邸――


「何をしている! 早く盗賊共を追え!」


 ガイエス逃亡から数分後、

 領主邸では負傷者の手当てが行われていた。


「動ける者を集めろ! 鏡……鏡をッ!」


 老執事に抱えられながら、

 アシュラフは周りの人間に喚いていた。


「旦那様! ひとまず傷の手当てを……ッ!」


「いらん! あの鏡の方が大事だ!

 早く、早く追うぞ! 付いてこい!」


 老執事を振り飛ばす勢いで、

 盗賊を追いかけようと歩を進める。

 そんな彼に、ミストリナが駆け寄った。


「おじ様! しばらくは安静になさって!

 我々封魔局が、必ず奪還しますから!」


「ミストリナ様の仰る通りです、旦那様!

 まずはご自身の身を案じてください……!」


 アシュラフは二人をギリッと睨む。

 しかし、彼女たちの驚く顔に気付くと

 すぐさま目を背けた。


「そう……だな。

 だが、追跡は今すぐにでも行ってくれ!」


「無論です。

 すぐにメンバーを選出し、向かわせます。」


 ミストリナは敬礼をすると、

 朝霧らの元へと駆けだした。


「ミストリナ隊長! これからどうすれば!」


「うむ。

 動ける者の中から、精鋭を選んで追跡する。」


 アランが聞き返す。


「人数を絞る……と?」


 ミストリナはその言葉に頷く。

 強欲の権能による、

 ガイエスのさらなる強化を防ぐためだ。


「当然、君たち三名も向かってもらう。」


 アリスは厄視による追跡と、妨害の防止。

 朝霧とアランはガイエスとの戦闘を

 期待しての采配であった。

 しかし……


「私では……力不足です。」


 朝霧が、か細い声を発した。

 ミストリナは驚いた顔で聞き返す。


「どうしたんだ、朝霧?

 君らしくも無い弱音を吐いて……」


「私は、既に二度、ガイエスに負けています……

 今まだ生きていること自体が偶然です。

 私では役に立てないかと……」


 朝霧は下を俯く。だが彼女の言い分も最もだ。

 朝霧はガイエスに対して、手も足も出なかった。

 その事実が、既に明らかになってしまったのだ。


 すると、ミストリナが声を発するより先に

 アランが怒りを(あら)わにした。


「おい……そりゃつまり……

 弱いやつは役に立たないってことか?」


「え、いや……そうじゃ――」


「――何も違くねぇだろ!?

 二回()負けた? たった二回()()だ!

 生きているのは偶然? んなもん皆そうだ!」


 口調を荒げる。しかし、決して

 感情を発散しているだけでは無い。

 朝霧に詰め寄り問いかける。


「お前の戦う動機は何だったよ!?

 大層な夢を語ってやがったよな!?」


 朝霧の夢。即ち、悲しむ人のいない世界。


「そんな夢を、負け無しで叶えられるかよ!

 お前はきっとこれからも困難に直面する!

 その度に負ける事だってあるだろう!

 ――少し負けたくらいで下向いてんじゃねぇ!」


「……アラン。」


「そーですよ! 朝霧さん!」


 アランに便乗するように、

 アリスも意見を主張し始める。


「私もアラン君も、朝霧さんより弱いです!

 でも弱いなりに頑張っています!

 弱いからこそ! 必死にあがきましょう!」


「あんま弱い弱いって言うな。

 あと、俺は決して朝霧より弱くねぇ。」


「いや……今いいですから。そういうの。」


 朝霧を置いて、今度はアランとアリスが

 言い争いを始めてしまった。

 その様子を微笑ましく眺めながら、

 ミストリナは朝霧の肩に手をかける。


「フフ、良い同期じゃないか、朝霧。」


「ミストリナ隊長……」


「実力不足を感じるのは私も同じさ。

 知っているか? 現在六人の封魔局隊長。

 私はその中で……()()()()。」


 え、と声を上げ、朝霧は彼女の横顔を覗き込む。

 その顔は誇らしげでもあり、悲しげでもあった。

 ミストリナは空を見上げながら話し出す。


「以前戦ったボガートというヤツがいただろう?

 もし私が彼と戦った場合……恐らく五分(ごぶ)だ。

 魔獣が複数体従っていれば、多分負ける。」


 否定をしようとする朝霧を遮るように、

 彼女は話し続けた。


「だが、他の五人は違う。

 特に上位三名なら、多くの魔獣を相手取っても、

 負けることは決して無いだろうな。」


「そんなに……強いんですか?」


「あぁ。住んでいる次元が違うとさえ感じるよ。

 だがな朝霧? 言いたいことはそこじゃない。」


 ミストリナは朝霧と目を合わせる。


「君は、私が隊長として

 劣っていると感じた事はあるか?」


「いえ! そんな事は全く!」


 それは気遣いでは無く、朝霧の本心だった。

 そのことを感じ取ったのか、

 ミストリナはニッと眩しい笑顔で心から喜んだ。


「そうだろう! そうだろう!

 私は結構上手くやっている方なんだ!

 ……実力不足でも、成果は出せるのさ。」


 ポンッと肩を叩くと、

 再びミストリナは三人に向け話す。


「では、休憩はここまでだ!」


 既に鏡を奪われ、敵は今まさに逃走中。

 恐らく夜が明けるまでには、

 追っ手を振り切りたいであろう。


 即ち敵は、この夜の間の逃げ切りを図る。


「タイムリミットは、夜明け前だ!

 夜が明けるまでに決着をつけるぞ!」


「「「了解!!」」」


 動き始めた局員たち。

 そんな中、アランに一つの疑問が芽生える。


「……そういえば劉雷さんは?」



 ――マランザード街内・上空――


 盗賊が飛行する。

 鏡を抱えた少女を抱え、高速で。


「頭領……ギースたちは?」


「置いて行く。元から金目当てで集まった仲だ。

 それよりも……今は()()から逃げるぞ!」


「え?」


 レベッカが後方を確認すると、

 彼らを高速で追跡する飛翔体が存在した。


「何……あれ?」


「よく覚えておけ……レベッカ。

 今の封魔局は基本ザコの集まりだ。

 が、()()()()()だけは危険!」


 ガイエスは振り切れないと悟ると、

 急停止し、追跡するソレと対峙した。


「一人は三番隊の≪火龍≫。

 一人は二番隊の≪騎士聖≫。

 そして残る一人が……ヤツだ。」


 飛翔体が、空中で停止する。

 そして、声を発した。


「どうした、強欲の? 自首かい?」


 レベッカはその人物に戦慄する。

 そんな彼女を抱え、ガイエスは叫ぶ。


「封魔局一番隊隊長、劉雷!

 ヤツこそ……()()()()()()()だ。」


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