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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
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第四十三話 成長性

 ――数分前・上空――


 真っ黒な空に、真っ黒な軍事ヘリが飛ぶ。

 海上を抜け、ついに砂漠の街へと到着した。


「戦塵が立ち上っているな。

 既に戦闘は激化しているようだ。」


 ヘリから乗り出し、ミストリナは領主邸を望む。

 すると――


「な、なんだ!? 急に建物に亀裂が!?」


「わ、割れている!?」


(この攻撃は……劉か? 我々を、呼んでいる?)


 ミストリナは、

 突如巻き起こった轟音と粉塵の意味を理解した。


「やれやれ……だからといってやり過ぎだ。

 奴は人命だけ守ればいいと思っているな?」


「ミストリナ隊長?」


 状況がわからないアリスが恐る恐る問いかけた。

 ヘリは既に領主邸の上空まで到達している。

 ミストリナはニヤリと笑い、

 朝霧たち三人へと振り返った。


「うむ! 君たち()()に、お願いしよっか!」


「「「ゲッ!」」」


 三人が青ざめた時には既に、

 ミストリナは彼女たちの体へと触れていた。

 そして、ヘリの外へと()()()()()


「うわぁぁぁああああ!!!?」


 さながら紐無しバンジージャンプ。

 紛うこと無き自殺行為であった。

 ……魔法が無ければ。


「そぉーら! 収縮!!」


 三人の体が小さく縮まる。

 即ち、彼女たちの質量が低下した。


(そ、そうか!

 アリが一万メートルの高さから落下しても

 死なないように、私たちが軽くなれば――!)


 朝霧は自分の有する知識から、

 ミストリナの考えを読み取った。


(……けど着地出来るかは別じゃない!?

 あんな瓦礫まみれの場所の着地は危ないよ!?)


「お、おい! 体が元に戻っていくぞ!?」


 収縮の力が落下前に解除される。

 次第に加速し、地面が急速に迫った。

 これでは衝撃に耐えられない。


「ちょちょちょっと! ミストリナ隊長ーッ!!」


「――ミストリナめ。

 てめぇの部下にひでぇことしやがる。」


 突然、三人の体は減速した。

 正体不明の力によって持ち上げられる。

 その光景を、ミストリナは満足げに見下ろす。


「君が急かしたんだろ? 劉。

 着地はサポートするのが筋って奴だ――」



 ――現在・領主邸――


 アランは膝を付き額から滝のように汗を流した。

 アリスも腰を落として、必死に呼吸を整える。

 そんな彼らに劉雷は語りかける。


「さぁ立て新人。援軍が疲弊してどうする?」


「はぁはぁ……ちょっとっ! 待ってくだ……」


 すると、瓦礫の中からギースが起き上がる。

 その鋼の全身にはヒビが走り、荒く呼吸し、

 口や頭から血を流していた。


「フーッ! フーッ! まだ死んでないですぜ!」


「――ッ! さっきの敵か!」


 アランは剣を抜き、間髪入れずに斬りかかった。

 しかし、ボロボロとはいえ、

 武器と化したギースの体はそれを容易に弾く。

 そのままアランの剣をへし折ると、

 手の平の銃口を彼に向けた。


「しまっ!」


「死ね、封魔局――!」


 ――プスッ


「「え?」」


 その弾丸は不発だった。

 ギースは両手を震わし、動揺する。

 アランも状況が理解出来ずに困惑していた。


「俺の弾に不発は無い!

 ――()()()()、劉雷ッ!?」


 アランも後ろを振り向く。

 そこにはギースに向けて手を伸ばす劉雷がいた。


(劉雷さんが何かしたのか?

 さっきの着地も、この人の力なのか?)


「答えろ! 劉雷!!」


「答えることなんて何も無い。

 俺はもう、攻撃を終えている。」


 瞬間、ギースは突然苦しみ出した。

 声すら発することが出来ないほど、

 まるで首を絞められているかのように、

 苦しみ続けた。


 やがて、ギースは意識を失った。


「――()()()()、解除。制圧……完了。」


(一体、何の祝福なんだ?)



 ――星見展望台――


 領主邸の変化にライアンは冷や汗を掻いていた。

 巻き上がる煙と、封魔局のヘリコプター。


「時間かけすぎ……援護射撃が必要かな?」


 ライアンはそう呟くと、

 誘爆石の粉末を入れたアルミ缶を握りしめる。


「――弾頭形成。光輪付属。ミサイル、作成。」


 ライアン。『誘導弾作成』の祝福。

 自らの意思で操作可能なミサイルを作成できる。

 作成時に異物を搭載可能であり、

 缶に詰めれば粉末でも液体でも搭載できる。


「射角固定。発射まで三……二……」


 狙いをヘリに定める。

 ニヤリと笑い、魔力を注ぎこむ――


「……ゼロ! 発――」


 ――爆発が起きた。

 ライアンの作ったミサイルが暴発したのだ。

 爆風によってライアンは吹き飛ばされた。


「作成ミス……じゃねえ!

 誰かがミサイルに、()()()()()()()()()()()!」



 ――――


「……着弾。ひとまず脅威は去りました。」


 バギーが展望台へ向けて爆走していた。

 その上には数人の封魔局員が乗っていた。


「ビューティフォー!

 夜間に揺れるバギーから、しかも

 下から上に向けての遠距離射撃を一発で成功(クリア)

 あんたも大概化け物だぜ!」


 スナイパーライフルを構えた女が白い息を吐く。


「敵は一人、護衛すら無し。

 私たち一番隊員の()()()を、

 ここに割く必要は無かったです。」


「心配はいらねぇよ! レティシアちゃん!

 領主邸(むこう)には劉隊長がいる!」


「イヤ、別に心配していません。」


「だろうな! あの人が一番化け物だ!」


 バギーは展望台へと突き進む。



 ――領主邸・地下金庫――


 朝霧はガイエスに意識を向けながら、

 周囲の状況を理解した。


(アシュラフさんに……執事さんまで!

 金庫は空いていない。ギリギリ間に合った!)


「フン、少し驚いたが……

 お前程度は何も脅威では無い。」


 ガイエスは挑発を行った。

 しかし、朝霧は乗らない。

 船での戦闘ではガイエスの隙に釣られ、

 まんまとしてやられた。


(同じ轍は踏まない――!)


 朝霧はブレスレットのレバーを引く。


「狂気限定顕在・≪(ザ・ファースト)≫!」


 制限開放。しかし無闇な攻めはしない。

 ここはマランザード領主邸。

 封魔局本部ゴエティアと近く、

 いざとなれば戦力を投入出来る。


(私が勝つ必要は無い。

 ミストリナ隊長でも劉雷さんでも、

 誰かが倒してくれればそれでいい!)


 守備を固める。出方を伺う。

 これはあくまで防衛戦。

 朝霧の脳は、

 ()()()()()()からそう結論づけていた。

 しかし――


「それじゃあ遅い。」


(な!? 消え――)


 腹に激痛が走る。

 朝霧に油断は無かった。

 目も意識も、決して離していなかった。

 しかし、強烈な一撃が

 彼女の腹へと打ち込まれる。


「がはぁ!」


 朝霧は苦しみながらも

 衝撃を利用し後退する。

 ガイエスは追撃のために手を突き出した。


(――来る! 電撃? 竜のビーム?

 とにかく見えたら回避を――!)


「すぅ――。破ァア!!」


 撃ち出されたのは、目に見えない衝撃波だった。

 それは朝霧の体を貫通し、内蔵を大きく揺らす。


「ごぉお!? があぁ!!」


 さながら、体の内部から

 蹴り飛ばされたかのような激痛が走る。

 痛みは腹から全身に伝わり、

 頭痛や手足のしびれまで引き起こした。


「俺の勝ちだ。」


 ガイエスはコツコツと金庫へと向かう。

 その様をアシュラフは伏しながら眺めていた。


(彼女は知らない攻撃によって完敗した。

 ……ヤツの脅威はこの『成長性』だ!

 祝福を奪うことでヤツは無限に強くなる!)


 世界に魔法使いがいる限り、

 強欲のサギトは強化の可能性を秘めている。

 故に特異点最強。故に破滅の力。


(だが、この金庫の突破は別だ。

 破壊が困難なのはもちろんの事、

 専用の特殊な器具を用いた難解な魔術的暗号の

 解読を必要とする代物!)


 時間を掛ければ掛けるほど、

 盗賊団の逃走は困難となる。


「……おい、まだか?」


 ガイエスは金庫に向かって話しかける。


 ――瞬間。

 金庫の重たい扉がガチャンと解錠された。


「な、何が起きて!?」


 アシュラフは目を見張る。

 その視界には異様な光景が写った。


「ごめんなさい頭領! やっと解読終わったよ!」


 銀髪の少女が、ヌルッと()()()浮かびあがった。


 盗賊団ヘッジホッグ。

 構成員、レベッカ。祝福『同化』。


 彼女の体は生物、非生物問わず、

 物体の中へと侵入できる。

 その際、侵入した物体の可動域であれば

 自由に動かす事が可能である。


 だが、もちろん。

 それだけで開くほどこの金庫は緩くは無い。


「……まさか、地下金庫に来た()()()()

 戦闘中もずっと、解読を行っていたのか!?」


 彼女の手には合わせ鏡があった。

 ガイエスは少女を抱きかかえる。


「よし! 盗るモン盗ったし、帰るか!」


「待て――!」


 神域硬化(アイギス)。加速。そして浮遊。

 ボロボロの天井をさらに破壊しながら、

 ガイエスたちは飛び去った。


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