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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
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第四十一話 格が違う

 ――星見展望台――


 領主邸から遠く離れた絶景スポット。

 そこに一人、男がタバコを吹かしていた。


「フェーズ・ワン、完了っと。」


 重量のあるアルミ缶を片手で遊ばせながら、

 男は視力強化によって仲間を見守る。

 その足下には、合わせ鏡のある箱があった。


「こっからはアンタの見せ場だぜ、頭領さんよ?」



 ――マランザード領主邸――


「な……なんだ、これは……!?」


 庭園の正門から爆煙が上がる。

 綺麗に整っていた庭の地面は抉れ、

 私兵や封魔局員が転がっていた。


 その煙の中から十数人の盗賊が進み出た。

 盗賊団『ヘッジホッグ』であり、

 先頭に立つその男は、ガイエスであった。


「う、動くな! そこで止まれ、ガイエス!」


 一人の封魔局員が銃を構える。

 彼の震える手を見て、盗賊たちは嘲り笑う。


「銃……銃ね? ほらどうした? 早く撃てよ。」


「ふー! ふー! うああああ!」


 局員は引き金を引いた。

 その空気中に舞う()が輝く。


 ――瞬間、銃は暴発し局員は吹き飛んだ。


 魔法世界原産、希少鉱石『誘爆石』。

 普段は地中深くで眠るこの石は、

 事もあろうか魔力に反応すると、自爆する。


 現在領主邸を覆うように漂うこの粉は、

 その誘爆石を砕いた粉末である。

 粉末といえど効果、威力は変わらない。

 即ち……


(この領主邸の周辺全部が……!

 魔法厳禁の地雷原になったのか!?)


 局員たちは自身の置かれた状況を理解した。

 そんな状況の中、屋上から劉雷が降り立つ。


「お前ら、魔法と銃……あと無線も使うな。

 少しでも魔力を利用するものは爆発するぞ。」


 魔法の世界である以上、銃にも無線にも、

 その他のアイテムにも少なからず

 魔法による要素が含まれる。


 この場にいる者は皆、祝福や武器はもちろん、

 身体強化すら封じられた状態で

 戦わなければならない、ということだ。


 私兵の一人が声を荒げる。


「怯むな! 全員が同条件なら、

 数の多いこちらが有利だ!」


「同条件? 俺は()()()だ!

 ただの人間とはそもそもの()が違う!

 小動物が、猛獣を倒せるわけがねぇだろ!」


 ガイエスは駆けだした。

 素手で次々と兵士を殴り倒す。


 局員や私兵の中には刀などの

 武器を持つ者も混じっていた。

 しかし、誰も彼の進撃を阻めない。


「――行かせん。」


 劉雷は落ちていた剣を拾い、

 ガイエスへと投げつける。

 しかし――


「ギース!」


「はいよぉ!」


 ヘッジホッグ構成員の一人、ギースが弾く。

 そして、ギースを含めた構成員九人が

 劉雷の周りを取り囲んだ。


「頭領! 劉雷は俺らが相手します!

 どうぞお先に!」


「おう、任せた――」


 残った盗賊たちが一斉に突撃する。


 初手の爆破とガイエスにより、

 完全に崩壊した庭園の防衛線では、

 その攻撃にただ押し流されるだけだった。


「クソ! 屋内まで後退だ!

 粉末の無い室内で応戦しろ!」


 人の流れが一気に玄関へと向かう。

 正面玄関の扉が容易く開かれた。


「それを待ってたぜ!」


 扉が開くと同時に、

 ガイエスは一気に距離を詰める。

 扉を破壊し、瞬く間に邸中へと侵入した。



 ――――


「頭領は行ったな?

 じゃあ、こっちも始めますか。」


 ギースらは劉雷を囲む。

 劉雷の他に封魔局員も私兵も無く、

 純粋な一対九の状況であった。

 加えて――


「そらよ! 誘爆石のおかわりだ!」


 構成員の一人が筒の栓を抜く。

 プシュウと音を立て、薄い煙が立ちこめた。


「これも誘爆石を加工した煙ですぜ。

 承知とは思うが、お互い魔法はナシで。」


 そんな事は構わず、周りを観察する劉雷に

 ギースはさらに続けた。


「まさか、九人相手に勝つ気ですかい?

 さっき、そちらの兵士が言ってたでしょ?

 同条件なら、数の多い方が有利だって。」


 それは同条件と呼ぶにはあまりにも差があった。


 劉雷は素手であり、周りの九人の中には

 武器を持っている者もいる。

 ……のは()()()()


「……よ。」


「は? なんだ?」


「退けよ……ザコども……ッ!」


 同条件という言葉にガイエスは言った。

 ――格が違う、と。


 それは同条件と呼ぶにはあまりにも差があった。



 ――邸内――


 屋内であれば魔法が使用できる。

 そんな期待を嘲笑うように、

 盗賊らは煙幕を張った。


「気をつけろ! 爆発するぞ!」


 邸内の至る所で、誘爆石の煙が充満する。


「ガイエスだ! 止めろぉぉおッ!!」


 煙の中で、一人、また一人と倒される。


「誰か旦那様に伝えてくれ!

 本館、正面玄関が、()()()()()!」


 地下金庫を守るための防衛の要が、

 いとも容易く崩壊した。

 あらゆる防衛策が煙により無力化され、

 兵士たちは無惨になぎ払われた。


「お前ら、この階段の先が地下金庫だ。」


 ガイエスらは

 事前に入手していた経路図を頼りに、

 一瞬で地下に続く階段を見つけ駆け下りた。


 その先には

 超重量の巨大な金庫の前を守るように、

 十四名の精鋭私兵が待ち構える。


「そんな! もうここまで!?」


「狼狽えるな! ここが最期の砦だ!

 ――死んでも守り切れ!」


 精鋭私兵たちは盗賊たちと抗戦を開始した。


 誘爆する煙の無い空間。

 互いの魔法が宙を舞う。


(……強いな、コイツら。

 ここの守りを任されるだけはある。)


 ガイエスは攻撃をいなしながら、

 一人一人の実力を測った。


 精鋭たちの実力は確かに高く、

 特異点勢力を相手に拮抗どころか、

 むしろ優勢ですらあった。


「いける! 守りきれる!」


 士気の上がった精鋭の三人が

 ガイエスへと飛び掛かった。


「これでも食らえ! 特異点!!」


「……いい祝福だ。俺が貰おう。」


 ――権能・悪霊の金貨(マモンズチップ)

 精鋭たちは、ゴミのように蹂躙された。



 ――庭園――


 煙が晴れる。その場に立っているのは一人だけ。


「グッ……がはッ!」


 地に伏したギースは、

 折れた両足の痛みに苦しみもだえていた。

 そんな彼を無視し、劉雷は邸内へと向かう。


(誰も……起き上がれないのかッ!?)


 その場の盗賊九人は、殺されてはいない。

 足を折られ、生きたまま無力化されていた。


(九対一を……魔法は使っていなかった!

 あれは純粋な戦闘技術の高さッ!

 なんて強さだ! 一番隊隊長、劉雷!)


 ギースは遠のく背中に畏怖の念を覚える。

 だがまだ、その心は折れていなかった。


「まだ……だ! 煙はもう晴れた。

 俺の祝福をッ! 解禁する!」



 ――地下金庫――


 精鋭たちは全滅した。


「余裕でしたね、頭領。」


「気を抜くな。

 油断は勝利への最大の敵だ。」


 超重量の扉に手を触れる。

 その時――


「――思い通りにはさせんぞ……悪党ども。」


 盗賊たちの後ろに、二人の男が現れた。


 傍らに控えた老執事が剣を渡す。

 もう一人は鞘から剣を抜き、

 大胆にも一歩ずつ近づいた。


「……マッケンフロー。

 周りの雑兵は任せたぞ。

 ガイエスは私が食い止める。」


「承知しました。ご武運をッ!」


 ガイエスはニヤリと笑い、

 その男と対峙する。


「やはり来たか! ≪砂漠の獅子≫アシュラフ!」


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