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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
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第三十八話 護衛任務ー終了

 真っ黒な空の中、飛行するガイエスの

 バックからミストリナが飛び出した。

 彼女は魔力を込めた腕を突き出す。


 完全に虚を突かれたガイエスだったが、

 体勢を崩しながらもその手を弾く。

 しかし、ミストリナの体は既に、

 次の攻撃を放つ準備をしていた。


(――! 蹴りか!)


 気付いた時には既に、

 彼女の足がガイエスの顔を打ち抜く。

 その衝撃によって、

 彼は手にしていた荷物を手放した。


「――! 朝霧、ジャック!

 そのバックを取り返せ!」


「「ッ!」」


 二人の視線が宙を舞うそれに集まる。

 だが、祝福を奪われたジャックには

 何も出来なかった。

 対する朝霧はバックの重要性を理解し、

 両足に渾身の力を込め、跳んだ。


 それと同時に、

 ガイエスは浮遊の力で姿勢を戻す。

 そして――


「やってくれたな! 箱庭姫ッ!!」


 ミストリナに対して反撃を繰り出す。

 既にジャンプした朝霧は、

 方向転換をする事が出来なかった。

 ガイエスは加速し、

 ミストリナの体を吹き飛ばした。


「ミストリナ隊長―!!」


「私はいい! 秘宝を守れ!!」


 ミストリナはダメージを受けながらも

 朝霧に指示を飛ばした。

 朝霧はその覚悟を汲みバックを目指す。


「させねぇ……秘宝は俺のモンだ!」


 朝霧の行動を咎めるように、

 ガイエスは空中で急旋回した。

 それと同時に、

 縮地の祝福で朝霧の目の前へとワープする。


「貰った!」


 朝霧の手より早く、

 ガイエスの手がバックを掴んだ。

 その時――


「――≪(ザ・ファースト)≫!」


 朝霧は狂気限定顕在を発動した。

 そして、剛力を以て赫岩の牙を投げつける。

 ガイエスはギリギリで回避に成功するが、

 刃がバックを掠め、中身を漏らした。


「このっ!」


 バックからは二つの物が落下する。

 一つは、上品で頑丈な『箱』。

 もう一つは、ただのお土産用の『袋』であった。


(祝福、『見』! 秘宝は……こっちだ!)


 ガイエスはすかさず目標を決める。


「朝霧! 箱の方だ!!」


 声に反応し朝霧も必死に手を伸ばした。

 これを盗られれば朝霧たち封魔局に、

 取り返せるチャンスが来ないかもしれない。

 朝霧はがむしゃらに手を伸ばす。


 届く、朝霧の手が。

 旋回にかける時間の分、

 盗賊よりも早く箱を手に入れられる。

 届く――


「――袋が……っ!」


 朝霧の耳に声が聞こえた。

 それは、空を見上げたマナの声だった。

 朝霧たちが求める箱ではなく、

 袋の方を見つめていた。


 パシッ!


 秘宝の入った箱に手が届く。

 それは盗賊ガイエスの手であった。


 そして朝霧の手は、

 無意識のうちに袋の方を掴んでいた。


 ガイエスは床スレスレで折り返し、

 再び上空へと駆け上がった。

 対して朝霧は、

 叩きつけられるように落下する。


 下を見下げ、盗賊は笑った。

 

「フ、フハハハハ!

 やったぞ! 遂に手にいれたぞ!」


「やばっ! 私、何をして……」


 急ぎガイエスの方へと

 視線を向ける朝霧であったがもう遅い。


 その手には既に、極大の魔力が貯められていた。


 まるで今までは本気では無かったかのような、

 一目で格が違うと理解出来るほどの力であった。


「お宝は頂いた……じゃあ、サヨナラだ!」


 破壊の概念その物のような赤黒い魔力の塊が

 朝霧たちを、いや、大型船を目掛けて墜落する。


 朝霧を始めその場の誰もが、

 その桁違いの力を眺めることしか出来なかった。

 彼女を除き――


「――術式展開!

 ハードアスペクト・『スクエア』!!」


 船の上空に、

 鮮やかなエメラルド色のバリアが展開された。


 瞬間、二つの魔法が空中で衝突する。


 規則的な緑の四角形が、

 揺らめく赤い球体を押し止めた。

 暗い夜空は鮮明に光り、

 周囲を明るく照らしている。

 ぶつかり合う衝撃の度に海面には波が立つ。


「……! ミストリナ!」


 マナの目の前で、

 彼女を守るようにミストリナは立っていた。

 術式の展開に注力しながらも、

 マナへ向けて笑顔を見せた。


「すまないな、マナちゃん。

 嫌かもしれないが、私に護らせてくれないか?」


「――! ……違う、違うよ、ミストリナ!

 ホントはミストリナの事が大好きで……!

 だからずっと、謝りたくて……ッ!」


 マナの声が震える。

 その言葉を聞き、箱庭姫の笑顔は緩んだ。


「よかった……これからも友達だよ?」


 さて、と呟くと、

 ミストリナは渾身の魔力を注ぐ。


「はぁぁああ―――ッ!!!!」


 叫びと共に彼女の魔力が溢れだす。

 刹那、バリアはその強度を増し、

 邪悪な魔力を、完全に打ち消すことに成功した。



 ――――


 脅威が去ったことを確認すると、

 朝霧は周囲を見回す。


(ガイエスが……いない!?)


 ミストリナが護っている隙を突き、

 特異点ガイエスは既に姿を消していた。

 朝霧は悔しさで唇を噛みながら

 ミストリナの元へと駆け寄った。


「隊長……申し訳ありません。

 ガイエスを逃がしてしまいました。」


「ん? 君に落ち度は無いだろう?」


「いえ、大事な箱を、盗られてしまいました。」


 朝霧は下をうつむき、ボソボソと喋っていた。

 そんな彼女の元に、

 アラン、アリス、ジャックも集う。


「そういえば、袋の方を手にしたのだったな。」


 ミストリナは朝霧の持つ袋に目をやる。

 上等な袋だが、あくまでも市販の物であった。

 アランが口を開く。


「マナさんが途中売店で買ったお土産ですね。」


「おみやっ!?」


 朝霧は思わず声を上げた。

 さぞ大事そうだと思ったから体が動いたのに、

 ただのお土産であったことに落胆する。


「ごめんなさい、朝霧さん。

 でも……私にとっては大切だったんです。」


「あ、いや! 気にしないで!

 ところで、中身は何?」


 朝霧がそう言うと、マナはその袋を受け取り、

 中のお土産物を取り出した。

 そして……


「……ミストリナ、あの時はごめんなさい!

 こんなもので罪滅ぼしにはならないけど!

 受け取って!」


「これは……()()か?」


 マナの手には舞踏会での使用を目的とした

 顔の左半分のみの仮面があった。


「またその火傷跡を見られて、私みたいなバカが

 貴女を傷つけないようにと思って……

 白黒だからそこまで配色の邪魔にはならないし、

 装飾も少ないから動きやすいかなって……」


 震えながらも早口で話すマナの頭に、

 ミストリナはポンポンと手を当てる。


「ありがとう、マナちゃん。大切に使うね?」


「……! うん!」


 肩まで震わせながら泣くマナを、

 ミストリナは抱きながら撫でた。


 その光景を眺め、朝霧も自身の選択が

 全くの無駄では無かったのだと安堵する。

 皆が二人の姿をやさしく見守っていた。


「……おい、()()()()()()()

 ミストリナ隊長、この後はどうするんだ?」


「え―!? ジャックさん!?」


「そんなこと……俺、見損ないました。」


「私、尊敬止めます。」


「はぁ。昔から無頓着だと思っていたが……

 やれやれ、これは減給だな。」


 ムードを壊したジャックに非難が集まった。

 彼は味方のいない状況で一人だった。


「いや、大事だろ!? 特異点逃げたんだぞ!?」


「正論だな。全く、親友との仲直りだったのに。」


 ミストリナは切り替え、隊員たちを見回す。

 そこへ、船内警備員(クルーズガード)を連れた船長が現れる。


「もしや、ミストリナ殿ですか?!

 一体これはどういう状況で!?」


「やれやれ、まずは状況確認からか。

 アラン! ハウンドを探して来い。」


 ミストリナは現場の指揮に取りかかった。



 ――海上・上空――


 高速で飛行しながら、

 ガイエスは箱の中身を確認する。


 中にあったのは、やや大きな鏡。

 装飾と細工が見事な秘宝と呼ぶに相応しい鏡。

 しかし――


「おいおい、マジかよ。()()()()じゃねぇーか。」


 盗賊にとっては、十分な成果と呼べなかった。


「てことは……結局マランザードか。

 戻る羽目になるが、まぁしょうがねぇか!

 俺らしく、強欲に行こう。」


 盗賊は進路を砂漠の街へ向けて飛ぶ。



 ――マランザード――


 建物の屋上にその男は立っていた。

 男性物のチャイナ服を夜風になびかせ、

 星と海の狭間を見据える。


「劉雷隊長、避難誘導完了しました。」


 男の後ろから、部下の女が声をかけた。

 しかし男は無言で、ただ見据える。

 その漢服に装飾された封魔局の紋章が、

 月明かりを受け反射した。


「来いよ、強欲のサギト。」


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