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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
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第三十七話 悪霊の金貨

 ――マランザード領主邸――


 砂漠の街。

 月は既に空高く、空気は静かに凍えて冷える。

 人々は寝静まり、夜風がはっきりと聞き取れる。


 そんな街の中で唯一、

 ここ領主邸のみが騒然としていた。


「どういうことだ!? 何故、何故!?」


 かつて砂漠の獅子と恐れられた男、

 領主アシュラフが大きく動揺している。

 衛兵たちが慌てふためき駆け回る。


「何故、強欲がマナの所(むこう)に行った!?

 あの()()()()()()()()()と何故バレた!?」


 アシュラフは机を叩く。

 その衝撃で、机上にあった『手紙』が落ちた。

 それは予告状。盗賊からの宣戦布告。

 この護衛任務の発端である。


「旦那様! 劉雷殿がお越しです!」


「おお! すぐに通せ!」


 封魔局一番隊隊長、劉雷が部屋に入る。

 彼の後ろには部下の女が一人続く。

 アシュラフは縋るように彼に近づいた。

 だが、あくまで冷静を装い問う。


「劉雷殿。強欲が船の方に現れました。

 これは一体何が起きているのですか?」


「まぁ、情報が抜かれているのでしょうね?

 マランザードの秘宝がマナお嬢様の護衛、

 という任務を隠れ蓑として()()()()()()、と。」


 その場の衛兵や使用人たちに動揺が走る。

 劉雷の部下の女はそれを冷ややかに見つめた。

 ゴクリと喉を鳴らし、アシュラフはさらに問う。 


「一体どこから……?

 この情報は僅かな、信頼できる者にしか……」


「信頼できる者、の中に

 マナさんの()()()()は入っていますか?」


「いや、彼らには伝えて……まさか!」


「彼らはずっとマナさんの近くにいるのでしょう?

 途中で気づいた可能性はありますね。」



 ――船上――


「きゃあ!」


 マナが叫ぶ。

 彼女の取り巻き、私兵の男が突き飛ばしたのだ。

 倒れるマナの体をアリスは咄嗟に抱きかかえた。


「あなた一体何を!?」


「うるせぇ! 退けぇ!」


 男はマナのバックを抱えてまっすぐ走る。

 盗賊ガイエスへ目掛けてひたすらに。

 ガイエスの元にたどり着くと、

 彼は声を上げる。


()()()()()! 

 マランザードの秘宝を奪いました!」


「「な!?」」


 私兵の男はガイエスにバックを手渡した。

 ガイエスは少し驚いた後、気だるそうに答える。


「あ? あぁ、君が内通者ね?

 今回の盗みで協力する代わりに、

 俺らの盗賊団(ヘッジホッグ)に入りたいっていう。」


「な、内通……」


 マナの顔が曇る。

 身近な男の裏切りを理解する。

 声を震わし、手を伸ばした。


「ずっと、騙して……」


 対して、男は眉間にシワを寄せ、

 マナへと振り返る。


「あぁそうだよ、()()()()

 でなきゃお前みたいなやつの面倒なんか

 誰が見るっていうんだ、バァーカ!」


「――ッ! 

 よく分からないけど、コイツも敵ですね。」


 アリスが割って入り構える。

 元取り巻きの男はそれを鼻で笑った。


「でしゃばるなよ!? 知ってるぜ!

 お前は護衛の封魔局員で一番雑魚だってなぁ!」


 アリスたちに向け男は走り出す。

 彼女たちを援護しようとするジャックを

 ガイエスが電撃で妨害した。


 男が迫る。

 彼は腰から警棒を取り出した。

 瞬間、その武器に炎が纏う。


「死んでくれ! クソ主人様よぉ!」


「――飛翔剣!」


 警棒が弾き飛ばされた。

 武器に伝う衝撃が男の指をへし折る。

 アリスは上を見上げ、彼女らの到着に歓喜する。

 月を背に、二つの影が降り立った。


「朝霧さん! アラン君!」


「お待たせ、後は任せて!」



 ――――


 船に出来た亀裂の中からハウンドは見上げる。


(よし、朝霧たちは向かったな。

 俺以外は皆向こうにいる。

 戦力としては十分だろう。)


 パラパラと瓦礫が落ちる。

 あらかたの救助は済み、

 今はただ、ソレと睨み合っている。


「さて、と。

 俺の仕事はお前を向こうへ行かせないことだな。

 お前も中々の狂人だもんな?」


 瓦礫の影からその人物は起き上がる。

 ハウンドはその間も話続けた。


「知ってるぜ?

 お前、闇決闘場の生ける伝説だったろ?

 お前が出ると賭けが成立しないってやつ。」


「…………合いだ……」


「まぁ、そりゃそうだろうな。

 なんせ奇襲の無いリングの上じゃ、

 誰もお前を捕らえられない。

 そうだろ、拳闘士?」


「殺死合いだぁ――――ッ!!」


 ガバルバンが咆哮する。

 その姿はもはや獣のようであった。

 対するハウンドも笑顔で銃を出す。


「お前を向こうへ送ったら、

 戦況が混乱しちまう。

 ――ここで倒されとけ!」


 ――――


 朝霧たちが裏切り者を睨む。

 朝霧の強さを知る男は思わず恐怖の声を上げた。


「声は聞こえてました!

 あなたは裏切り者、つまり敵ですね!!」


「ひぃい! お助けを、ガイエス様!!」


 裏切り者がガイエスの方へと駆け寄った。

 ガイエスの肩を掴み呼吸を整える。


「ははっ……そうだ!

 今はこの人が付いてる! この人こそ最強!

 なんせあの予言に出てくる七つの破滅の一つ。

 強欲のサギト! お前らごとき瞬殺だ!」


「サギト? ……は知らないけど、

 二度も敗けてやるほど甘くは無いのよ!」


 朝霧は大剣に力を込めた。

 アランたちも構える。

 その時――


 ザクッ


 裏切り者の胸が貫かれる。


「……え?」


 男が自身の胸を見ると、

 血塗れのガイエスの手が映った。

 朝霧たちを含め、その場の誰もが停止する。


「おっと、

 嫌いなタイプだったから思わず貫いちまった。」


「ど……どうして?

 俺は……あんたの仲間に……」


「ハナから仲間に入れる気なんか無ぇよ!

 俺はな、一度裏切ったことのあるやつは

 信用しねぇようにしてんだよ。」


 孤独となった男の目から、血の涙がこぼれる。

 あ、あぁ、と震える口から声を漏らす。


「まぁどうしても俺に尽くしたいってんなら、

 てめぇの()()()()()()()()()。」


 そう言うとガイエスは男の頭に手をのせる。


「権能――『悪霊の金貨(マモンズチップ)』。」


 男の体から魔力が奪われる。

 手を伝い、ガイエスへと吸収された。

 その姿を見てジャックは叫んだ。


「あれだ! あの力で俺の祝福は奪われた!」


「な!? 祝福を奪う能力……!」


 魔力を吸い終わると、

 ガイエスは男の胸から腕を引き抜く。

 血肉の音が流れ出て、辺り一面を赤く染めた。

 その光景に戦慄した朝霧たちを気にも留めず、

 ガイエスは新たに得た祝福を検分している。


「あ? もしかしてさっきの警棒に着けた炎か?

 あぁそうだ、『物に炎を纏わす祝福』だ、これ。

 ……んなモン魔術でいくらでも再現可能だろ。」


 ハズレであったとため息を吐くと、

 床においていたバックを拾い上げる。


「――逃げる気だ!」


 ジャックは叫ぶ。

 その声に反応し、朝霧とアランは立ち向かった。

 ガイエスは広角を少し上げると、

 『縮地』で距離を詰め、魔力の塊を二人に放つ。


 突然の反撃に二人は吹き飛ばされた。

 しかし、朝霧はすぐさま起き上がり、

 再びガイエスに向かう。


「何度も向かってくんじゃねぇよ。

 俺はもう目的を達成してんだよ!」


「――ッ! 飛んだか!」


 ガイエスの体が浮遊する。

 封魔局を嘲りながら逃亡する。


 ジャックは拳銃を放つが、

 ガイエスはそれを容易く防御した。

 アランは未だに起き上がれずにいた。

 アリスはそもそも対空攻撃の手段が無かった。


(思いっきりジャンプ! ……じゃ届かないか、

 届いたとしてもその後動けない。

 私には、何が出来る!?)


 ガイエスの体が浮遊する。

 封魔局を嘲りながら逃亡する。


(せめてアランの飛翔剣があれば……やるか?)


 朝霧は大剣を構えた。

 刃に魔力を貯めてみる。


(原理は以前習った。行けるか? 私が?)


 朝霧は訓練を思い出し、刃を振るう。

 しかし――


「あぁ? 何してんだ?」


 少しの魔力が、僅かに飛翔しすぐさま霧散した。

 それはとても技と呼べる代物ではなかった。


(ダメだ! 一朝一夕で出来る物じゃない!)


 ガイエスは十分な距離を取ると、

 姿勢を制御し、目的地の方へと体を向けた。


「マランザードは……向こうだな。」


 朝霧たちの上空で、今まさに敵が逃げる。

 ジャックは悔しさから唇を噛み血を流す。


「クソ! 俺が飛べれば。

 いや、そもそも! 俺が奪われなければ!!」


『――男泣きは帰ってからにしてくれないか?』


 無線が鳴った。

 声の主は朝霧たちにとって、

 とても頼れる上司の声だった。


 ――瞬間。

 ガイエスから声が上がった。

 朝霧たちが見上げると、

 彼の持つバックが異様な動きを見せていた。


「なんだ!? このバックどうなってやがる!?

 いや違う! このバックに()()()()()()!?」


 バックの中から、彼女は現れた。


「私の部下が世話になったな。

 返して貰おうか? 色々と!」


「「ミストリナ隊長ッ!?」」 


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