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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
55/666

第三十六話 規格外

 ――操舵室――


 人々が頻繁に出入りしている。

 混乱に似た騒々しさが室内を覆う。

 計器が異常な数値を弾いている。

 船員たちの頬に、大粒の汗が伝う。


「状況を報告しろ!!」


 船長が怒鳴る。


「現在……ッ!

 甲板で常軌を逸した魔力衝突を確認!

 それにより……多くの機材に不調が!」


「常軌を逸する魔力衝突……だと?

 甲板で、一体何が起こっている。」



 ――甲板――


 魔力がぶつかり、色彩を放つ。

 甲板の広いスペースを存分に使い、

 彼ら三人は衝突を繰り返す。


「――黶椛(あざもみじ)。」


「――ドラゴンブレス!!」


「殺人拳ンンンッ!!!!」


 戦況は拮抗。人数差は二対一。

 二人側は吸血鬼の厭世(えんせい)と拳闘士ガバルバン。

 対する一人は特異点、ガイエス。


 もう一度言うが、戦況は()()である。


(拙者たち二人がかりでも決め手に欠く、か。)


 厭世らの攻撃は決して貧弱な物では無い。

 むしろ、闇社会で生きる者としては、

 十分な殺意と火力を有していた。

 しかし……


「おら、どうした! どうした!!」


「――ッ!?」


 ガイエスの()()は、それらを軽く凌駕した。


「死合ィィィイイイ!!」


「ハ! 俺には誰も勝てねぇよ!!」


 衝撃が空気を伝い、海上すら揺らす。


「しつこいぜ、お前ら?

 同じ闇社会に溜まったゴミだろ? 

 逃げ場の無い船内くらい、仲良くしようや?」


「笑止であるぞ、強欲の。

 敵の敵は別の敵。それが闇社会であろうが!」


 ガイエスは鼻で笑うと、

 祝福による電撃を辺りに解き放った。

 二人はすぐさま、この攻撃を回避する。


(ガバルバン殿の陽炎、拙者の霧化。

 これらにより拙者たちも致命傷は回避できる。

 即ち……)


 ジリ貧、であった。

 互いに決定打をたたき込めず、

 時間のみが浪費されていく。


 だが、この拮抗は突如崩れる。


「コッチだ!! 朝霧、無事か!?」


 ハウンドたちが乱入したのだ。


 ハウンドにアラン。

 そして、船内警備員(クルーズガード)が追従する。


(封魔局か……)


「これは……時間を掛け過ぎたな。」


 ガイエスはそう呟くと、突如空中へと飛翔する。


「――!? ジャックの祝福か!」


 アランは刀を掴む。

 刃に魔力を纏わせ、奥義の構えを取った。


「逃がさねぇ! ――『村雨』!!」


「――祝福。『神域硬化(アイギス)』。」


 大岩をも斬り裂くその斬撃が、

 ガイエスの肉体に触れた途端霧散した。

 驚くアランに対して、ガイエスは笑った。


「……良い高さだ。これこそ勝者の高み。

 全く、いい能力を拾ったもンだ!」


 遙か彼方の空中へと飛ぶと、

 そこでガイエスは停止した。


「『浮遊』による高さの確保。

 そして『神域硬化(アイギス)』による硬化。

 加えて……『重量変化』!!」


 ガイエスの体が、重くなる。

 そのまま、男はまっすぐ落下した。


「――!! 総員何かに捕まれ!!

 あの男、そのまま船にぶつかる気だ!」


「もう遅ぇ。食らって死にな!!

 必殺! 『強魔降臨(グリード・ドロップ)』!!!!」


 硬化により砲弾と化したガイエスが、

 まるで一筋の隕石のように落下した。


 その衝撃は凄まじく。

 甲板を叩き割り、そのまま船底に亀裂を入れた。

 さながら手刀を受けた瓦のように、

 大型客船は、()()()()()()()()()()()


 大きく開いた亀裂に、

 甲板にいた人間が引きずり込まれる。


「お前ら上に避難しろ!

 アラン! 朝霧を保護した、受け取れ!」


 ハウンドは腕に抱えた朝霧を託す。


「朝霧! おい起きろ!」


「すぐに叩き起こして働かせろ!

 俺は亀裂に落ちた人の救助に行く!」


 ハウンドは亀裂の中へと潜り込む。

 瓦礫が落ちるその穴の中で、

 浮遊するガイエスの姿を確認した。


「――ッ! 規格外が……

 これが……特異点かよ。」


 これほどの攻撃を放ってなお、

 ガイエスには一切の反動は無かった。

 勝利を確信しているのか、ガイエスは

 ハウンドに見向きもせず、ある者を探す。


「……いた。」


 男の目線の先には隻腕の暗殺者。

 勅命の祝福を持つ男、ネイルだ。

 ネイルに依然意識は無く、

 ただゆっくりと甲板をずり落ちる。


「浮遊だけでも十分黒字だ。

 が、命令を聞かせる、なんて破格の能力も

 当然欲しくなっちまうよなぁ?」


 ガイエスは獲物の元へと接近した。

 その時――


「――吸血術。『徒死場(あだしば)』。」


「な!? これは!!」


 ネイルの体が破裂した。

 血が吹き出し、収束し、流動する。

 血管でも通っているかのように、

 赤い液体は空中を流れ、

 吸血鬼が掲げる手の平へと吸収された。


「貴様――ッ!」


 そこには、少し汚れた黒狐面の男。

 いつの間にかマサヤの回収を済ませた

 厭世が立っていた。


「この時を以て、ネイル殿は死んだ。

 お主に祝福を奪われずに……な?

 マサヤ(こやつ)も回収したことだし、

 拙者は退散するとしよう。」


 そう吐き捨てると同時に、

 深い霧が厭世を包み隠した。

 ガイエスが霧を払う頃には

 既に吸血鬼は消えていた。


(逃げたか……

 船内にまだいるかもしれないが、

 俺が追う意味は……もう無いな。)


 ガイエスはネイルの祝福の奪取に失敗した。

 しかし、その行動はあくまでオマケ。

 本来狙った獲物は別にある。

 盗賊は追跡を諦め、本命に意識を戻す。


(祝福――『見』。

 戦いはまだ、終わっていねぇよ。)



 ――船尾甲板――


 船が割れ、大きく揺れる。

 その衝撃に耐えようとその男は手すりを掴む。

 片手には女性物のバック。男はそれを

 大層大事そうに抱えていた。


 しばらくして揺れが収まる。

 その直後、男が仕えるお嬢様が現れた。


「良かった! ここにいた!」


「――な!? マナお嬢様!?」


 マナが私兵の男と合流した。

 その後ろから、ジャックとアリスが続く。


「マナさん! あまり先に行かないで!

 さっきの物凄いのが

 また来るかもしれませんよ!?」


 アリスはマナに向かって叫ぶ。


「分かっています。

 その時は貴女が守ってくれるのでしょう?」


「そうですけど! そう言いましたけど!

 戦闘能力は一番低いんですよ! 私!!」


「あの……どうして?」


 私兵の男は困惑していた。

 その彼にアリスが答える。


「マナさんが私たちにお願いしたんです。

 どうしてもあなたと合流したいって。

 結構大事にされてますね、このこのー!」


 アリスの茶化しには反応せず、

 私兵の男がマナを見る。

 その様子が()()()()()に映る。


「……あの?」


「あ、はい! まさかお嬢様が

 俺なんかのために……アハハ。」


「いや、そうじゃ――」


「――みんな伏せろ!!」


 ジャックの声が響く。

 それと同時に()()()は襲来した。


「お、浮遊のお兄さんじゃん!

 アンタの祝福、とっても便利だぜ?」


「ッ!? ガイエス!!」


 特異点ガイエスが、マナの前へと現れた。

 非戦闘員のアリスと、祝福を奪われたジャック。

 彼らに守られた彼女の前へと残酷にも現れた。


「奪いにきたぜ、今回の大本命。

 ()()()()()()()()()をよ。」

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