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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第八章 冥府彷徨う狂

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第二十三話 ついでのデート

 ――三日目朝・フェリー船内――


 差し込める暖かな日の光。

 磯の香りを纏って肌を撫でる冷たいそよ風。

 白く波打つ水面に揺れる大型の公共船舶。

 その全てがこれ以上ないほどに心地良く、

 そしてその全てが旅人たちの心を躍らせる。


「ふぅぅぅ。気持ちぃぃ……!」


 風と共に背中から全身へと突き抜ける高揚感に身を任せ、

 朝霧は屋根のついたデッキの上で大きく背伸びをする。


 今日は大好きな人と二人きりで散策する日。

 その身なりにはいつにも増して気合いが入っていた。

 事前に「かなり動くことになる」と言われたので

 今回のテーマは動きやすさが重視されている。


 まず上は黒いTシャツに

 生地の柔らかい紺のロングジャケット。

 そして頭部には顔を隠すための黒いマスクに

 ポニーテールを邪魔しない黒のキャップハットと、

 全体的に同色で揃えたメンズライクの装いをしていた。


 彼女の持つ高身長という属性も合わさり

 見る方向によっては一瞬男にも見紛うようで、

 通り過ぎる人々、特に女性陣からの視線を集める。


 だがそれに反して下半身の方は

 上着の配色に揃えた紺のデニムパンツに黒ニーハイと、

 色気のある女性らしいファッションをしていた。


(……ショウ君、こういうの好きかな?)


 義手を隠した黒手袋越しに

 朝霧は自身の服装を引っ張り確認する。

 するとそんな彼女の元に知らない男二人が近付く。


「お姉さん格好いいね! 今日は一人?」


「俺らこれから行く島の出身でさ。案内出来るよ?」


(ナンパか。正体だけはバレないようにしなきゃ。)


 朝霧は警戒心を強めてマスクの位置を直す。

 だがその仕草に目線が釣られたことによって、

 ナンパ男たちは彼女の首に取り付けられた

 異質な銀のアクセサリーに気付く。


「へー結構イカついアクセしてんじゃん!」


「え? てかこれガチの首輪なんじゃ……?」


 首輪を指摘され朝霧はギョッとした。

 慌てて「誤魔化さねば」と思考を回すが、

 元来彼女はそういった咄嗟の嘘が下手である。

 発せられる尋常では無い焦りの態度が、

 ナンパ男たちを更に不審がらせた、その時――


「俺の連れに何か用か?」


 ――待ち人が朝霧と守るように割って入る。


「ショウ君!」


 女性の声色が明らかに弾み出す。

 男たちはそんな彼女の態度の変化から、

 割って入った男との関係を推測した。


「チクショウ! 彼氏持ちかよ〜!」


「か、か、彼氏!?」


「あれ違う? まだワンチャンある感じ?」


「いや。確かにこいつは俺の彼女だ。」


「かのっ……!!」


 朝霧は顔から火が出るほど紅潮してしまう。

 ショートした頭をふらふらと左右に揺らし、

 回るその目で虚空を見つめる事しか出来なかった。

 するとそんな初々しい彼女を微笑ましく思いつつも、

 ナンパ男二人は互いに頷き朝霧に耳打ちをする。


(いくら好きでも嫌な事はちゃんと嫌って言えよ?)


(そのくらいで壊れる関係ならどの道長くねぇしな!)


 突然のアドバイスに朝霧が困惑する。

 そして彼女が何故そんな事を言うのかと尋ねると

 彼らは互いに肩を組み声を揃えて言い切った。


((だって彼氏さん、めっちゃ女殴ってそうじゃん!))


(あー……)


 具体的にどこがと言われれば困るが、

 彼らの発言を朝霧は否定しきれなかった。

 そんな彼女の態度でナンパ男たちに拍車がかかる。


(この首輪も彼氏さんの趣味なんでしょ?)


(自分の女に首輪掛けるとかヤベー奴じゃん!)


((とにかく相手はよく考えろよ? それじゃ!))


 太陽のような笑顔と共に、

 楽しんでいけよ、といった内容の言葉を置いて

 ナンパ男たちはその場を後にした。


「何を言われてたんだ?」


「……首輪は悪趣味だ、と。」


「ふーん? 一応自然な造形の奴にしたんだがな。

 あのくらい近付かれると違和感を与えてしまうか……

 ハイネックで隠すとか考えなかったのか?」


「変に膨れて余計に目立っちゃうんですぅ!

 それならいっそ見せた方が怪しまれないかと!

 ……ていうか、そんなに言うなら外してください!」


「ダメだ。お前が自由に動けるのはソレのお陰だぞ?

 前にも言った通り数人のフロル監視のもと

 首元を洗う時以外に外す事は絶対に許さない。」


 そう言うと彼は黒い小さなケースを取り出す。


「お前に問題があれば俺はこのスイッチを押す。

 闇社会で信用を勝ち取るのは難しいからな。

 出来る事なら俺にこれを押させないでくれ。」


「むぅ……分かってますよ。」


 唇を尖らせ朝霧は海へと向き直す。

 やはり恋した男は根っからのテロリスト思考。

 あの溺れるような夜は何だったのかと、

 先の忠告を思い出しながら彼女は寂しさを感じていた。

 はずなのだが――


「そういえば、今日の服は色合いが良いな。」


「……!!」


 ――惚れた弱みとは厄介極まりない。

 服を褒められただけで朝霧の態度は軟化した。


「……似合ってますか?」


「ああ。とても格好いいよ桃香。」


「ありがと……ショウ君。」


 黒マスクですら覆えない赤染めの頬を隠すべく

 朝霧はショウから目線を逸らして呟いた。

 するとそんな彼女を囃し立てるように、

 丁度フェリーの汽笛が甲高い音を奏で始める。


「目的地に着いたようだな。」


 ショウに促され朝霧は前方の島に目を向ける。

 其処は魔法世界有数の観光地の一つ。

 美しい海と巨大な森林エリアが特徴的な孤島。

 その名も――



 ――ディフトラム島――


 港に並ぶは観光客向けの様々な施設。

 土産屋や海鮮市場、少し丘の方にはホテルも見える。

 また道路上には有人タクシーが列を成し、

 人々の往来を熟れた笑顔で迎えていた。


 観光名所『ディフトラム島』。

 対岸に大陸側の街も見えてはいるが、

 其処に繋がる陸路は一つも無い正に孤島だ。


「ぷはー! 飲み物が美味しい!」


「ここと周辺都市は水産資源が豊富だからな。

 美味い水はもちろん、海の幸も名物だ。」


「海鮮ですか! 生でも行けますかね?」


「店によってはな。」


 とりあえず近場のカフェに入り、

 朝霧たちは最初の休息を取っていた。

 曰く、目的地等は特に決めていないらしく、

 夜までたっぷり時間を使い観光するとの事らしい。


 故にショウは飲み物もほとんど手を付けず、

 早速テーブルの上に地図を広げて行き先を相談する。

 だがそんな彼の様子を朝霧は、

 ストローを噛みながらジッと眺めていた。


「どうした?」


「いや。ショウ君が今何を考えてるのかな、って。」


「……何って、勿論今日のデートの事だが?」


「うーん? そうなんですけど……」


 ストローからゆっくりと口を離し、

 朝霧は彼への印象をもう一度整理し直す。


 裏切り者、嘘吐き、闇社会のテロリスト。


 一度は肌を合わせた相手とはいえ、

 朝霧はどうにも彼の言動を

 額面通り受け取る気にはなれなかった。


「このデートにも、何か裏があるんじゃないですか?」


 黒幕は答えない。

 ただ無言で朝霧を見ていた。


「可能なら共有して欲しいです。」


 その表情に若干の寂しさを覚えながら、

 朝霧はそれでも彼の目を見て凛々しく告げる。

 すると彼女の態度に根負けしたかのように、

 ショウは鼻から僅かに吐息を漏らす。


「俺は今、ある麻薬の販売ルートを探している。」


「麻薬……ですか?」


「より正確に言えばその麻薬を製造している組織だ。

 詳細は知らん。奴らはずっと水面下に潜んでいた。」


「まさか、最近になってその組織が活性化を?」


「いや。奴らの勢いは戦前から全く変わっていない。

 ――俺以外の特異点が全滅した今でも、な?」


「え? それって()()なんですか?」


 朝霧の疑問は当然の物だった。

 特異点勢力とは言わば闇社会を統べる王。

 つまり闇社会で生きるという事は

 ほぼ必ず何処かの影響下に入るという事だ。


 しかし件の麻薬密売組織はその例から漏れる。

 黒幕と呼ばれたショウですら実態が掴めないほど、

 彼らは闇社会の更に深層にて暗躍し続けていた。


「『そんな奴ら』を俺は他に知らん。

 ただ俺たちは『そんな奴ら』に復讐を誓ったんだよな。」


「! それってまさか!?」


「あぁ。つまり奴らこそ――」


 確証と呼べる物は何も無い。

 だが『彼らの最終目標』と『麻薬密売組織』とでは、

 偶然と呼ぶにはあまりに出来過ぎているほど

 その幻のような在り方が似通っていた。


 故にショウは考察する。

 麻薬密売組織は闇社会側に潜む天帝の残党。

 そして彼らは魔法連合側の残党である、

 アリス殺害の犯人と繋がっているのではないか、と。

 即ち――


「――俺たちの探している『真の敵』なんじゃないか?」


 その言葉を聞き朝霧は立ち上がった。

 そしてすぐにその麻薬密売組織を探そうと

 店の外に出ようとする。


「待て、桃香。」


「今日の観光にここを選んだという事は、

 この島にその組織が潜んでいるんでしょ!?」


「この島や周辺都市に報告例が多いってだけだ。

 元々今日だけで見つかるなんて思っちゃいない。」


「っ……!」


 その言葉でようやく朝霧は

 ショウが「デート」という単語を使った意味を悟る。


 彼の時間はもう限りなく少ない。

 ならば一分一秒を有効に使うべきだ。

 例えば敵を探しつつ朝霧の機嫌を取るように。


「今日はもう敵を探すのに専念しましょう。

 ()()()のデートとか、もうどうでも良いですから……」


 朝霧は震える声しか出せない口を歪めた。

 手料理はあまり食べて貰えず、

 二人きりのデートは果たすべき本懐のおまけ感覚。


 自分だけ浮かれているようで悔しかった。


 しかしそれも仕方が無いのだろう。

 なにせ今優先すべきなのは間違いなく

 色恋などでは無く敵を見つけて倒すことだ。

 そう自分に言い聞かせ朝霧は背を向けた。


「待てって。」


 だがそんな彼女の腕をショウは掴む。

 彼は眉間にシワを寄せながら、

 うっすら涙を浮かべる朝霧に告げた。


「俺の気持ちは無視か?」


「……え?」


「お前が良くても俺は嫌だぞ。

 デートも本懐も()()()()()()()だから同時にやるんだ。

 六年の悲願と同じくらい、今は桃香を大事にしたい。」


「っぅ……!」


 朝霧はまたしても顔を赤らめ目元を隠す。

 そして照れ隠しの苛立ちを見せながら

 デート続行の意思を表示した。


 対するショウの態度はいつも通り。

 ただ一言「良かった」とだけ呟くと、

 平然と会計をしにレジの方へ歩いていった。


(もう……! 口ばっかり上手いんだから……!!)


 どうせ今の言葉もきっと嘘。

 また自分は彼の口車に乗せられてしまった。

 そう感じて不服そうに口を尖らせつつも、

 朝霧は赤面したまま彼の後ろ姿に目を向ける。


 すると彼女は――

 ショウの両耳がいつもよりも

 薄っすら()()()()()()()()事に気が付いた。


(あぁぁれぇえええええええ!!!?)



 ――同時刻――


「あ、もしもし? 封魔局ですか?」


 差し込める日の下には影が生まれる。

 強い光の裏には必ず深い闇が起こる。


「はい。間違いないと思います。」


 物は沈めばやがて浮かび、

 そして再び深海へと落ちていく。


「場所はディフトラム島。その北側の港で――」


 正に盛者必衰。驕れる者は久しからず。

 そして浮かれる者もまた危険。

 何故ならそれは深い奈落の入口だから。



「――特異点≪黒幕≫を目撃しました。」



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