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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
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第三十三話 獅子の娘

 朝霧は異様な容姿のネイルと、

 その脇に抱えられたマナを見つめる。


(敵……よね? とにかく助けなきゃ!)


「おい待て、()。俺はもう無視か?」


 体をネイルたちに向けた時、

 背を向けられる形となったマサヤは激高する。

 歯を鳴らし目に殺意を抱く。


「俺はもう敵じゃないと?

 取るに足らないザコだと?

 そう思ってるよな? 思ってんだろ!?

 バカにするな……ッ!」


 怒鳴り、喚き、叫ぶ。

 魔力を暴発させ、十体以上の影を生み出す。

 影はワラワラと、朝霧を大きく囲む。


「あぁもう、しつこい!

 今あんたに構ってられないの!」


 朝霧は迫る複数の影と剣戟を交わす。

 その様子をしばらく黙って聞いていたネイルは

 興奮しているマサヤに向け言葉を投げかける。


「あんたは封魔局の敵ってことだな。

 見ての通り俺はもうボロボロだ。

 ――手を組まないか?」


「うるせぇ、ジジイ! 俺に指図するな!」


「いつ指図なんかした? まぁいい……

 なら……『従え』!」


 瞬間、マサヤの意識は深層へと封印される。

 怒鳴り散らしていたさっきとは異なり、

 ストンと電源が落ちたかのように停止した。


「な、何が!?」


 驚愕する朝霧。

 人形と化したマサヤにネイルは語りかける。


「お前、祝福は?」


「……ファントムオブザデット。」


「……わかりやすく。」


「自立動作する影の眷属を出す。

 俺は出すだけで後は勝手に指示に従う。」


(この男……他人を操っている!?)


 朝霧は彼の能力が理解出来ずにいた。

 対するネイルは朝霧に意識を向ける。


「……マナさんを、離してください。」


「朝霧、と呼ばれていたな。聞いた事はある。

 おい、少年! 『影に攻撃させろ』。」


 マサヤはコクリと頷き、再び十数体の影が動く。


 戦況は一変した。

 手負いの暗殺者と、影の集団。人質のマナ。

 朝霧にとってこの上無く不利な状況だ。


 集団に襲われる朝霧に、たまらずマナは叫ぶ。


「やめて! 私を離しなさい!」


「せめて要求は一つにしろ。

 まぁ一つも聞く気は無いがな。」


 スゥと深く息を吸う。

 マナは祝福の予備動作だと直感する。


「朝霧さん! 耳を塞いで! この男の祝福は!」


「――! 何て言いました!?」


 戦闘に集中していた朝霧は、

 突然のマナの呼びかけに()()()()()


(フッ……俺が普段、祝福の前に会話を挟むのは

 相手を『聴く』という状態にするため。

 図らずも……手助けしてくれたな、お嬢様?)


 周囲の自立起動の影は状況を理解し停止する。

 声を聞かせることが最適解であると算出した。

 場が整えられ、命令は下される。

 力強く、確実に聞こえるように。


「『死ね』!」


 勅命が下った。夜の甲板に声が響く。

 しかし――


「……は、何ですか急に?」


 朝霧には全く効いていなかった。

 ネイルの祝福は魔力量の差で効き目が変化する。

 僅かに驚きながらも、ネイルは続ける。


「……ならば、『転べ』!」


「……転べ? 何を言っているの?」


「――!? 『手を上げろ』!」


「何、何、何? 怖い怖い。」


(な!? このッ! この程度のッ!

 ()()()()()()()()()()()()、だと!?)


 魔力量の差で効き目が変わる。

 ……であるならば、この二人の魔力量は正に、

 天地ほどの差があることになる。


 ネイルはこの事を頭では理解していたが、

 実体験を以て味わうのは初めてであった。

 動揺が大きく顔に出る。行動に出る。


「少年! 影に――」


「――飛翔剣!」


 斬撃が飛ぶ。

 ネイルの首を目がけて狂い無く飛ぶ。

 隻腕の、アンバランスな体を必死に

 動かしネイルは回避を試みる。

 が、それと同時にマナも暴れ出した。


 男は斬撃を回避した勢いのまま転倒。

 マナを手放し、転がった。

 僅かに残った数枚の呪符とライターが散らばる。


 手放されたマナの元へ朝霧が駆け寄る。


「無事ですか、マナさん!

 ありがとうアラン!」


「おう、だが俺も遅くなった!

 コイツはここで無力化するぞ!」


 朝霧とアランは武器を構える。

 地に伏し、全身の激痛に耐えながらも

 ネイルはマサヤに命令を飛ばした。


「『影を出せ』! コイツらと戦わせろ!」


 命令に従い、黒い闇が広がる。

 二十、三十、四十。

 今までとは比較にならない大群だった。


「これは!? マナさん、下がって!」


 アランはマナを守り、朝霧は前に出た。

 しかし、二人とも溢れる大群に気圧されていた。


(ぐッ! ここは私が囮になって……)


「……この影まだいたんですか?

 厄の塊みたいな存在だから嫌いです。」


 朝霧の前に、金髪の小柄な女が割り込んだ。


「アリス!?」


「はい、アリスです!

 そしてこれが、『死を思え(メメント・モリ)』です!」


 アリスが立てた指から影が集約する。

 厄返し、『死を思え(メメント・モリ)』。

 呪いへのカウンター、呪詛返しとは異なり、

 この術はアリスが厄として認識出来る物全てを、

 一律の攻撃魔術として跳ね返す術である。


(その代わり、攻撃への変換効率が

 極端に悪いんですけどね?

 こんなに密集した厄なら十分です。)


 アリスに集まった厄が魔力の塊へと変換される。

 瞬間、放たれたカウンターがマサヤを襲った。


「づッ!? ぐぉおあああ――!!」


 激しい絶叫の後、覆うほどいた影は消え去った。

 マサヤは気絶し、ネイルの声はもう届かない。

 朝霧たちはネイルに詰め寄る。


 戦況は一変した。

 厄返しのアリス。ネイルを一度斬ったアラン。

 そして、命令が一切効かない朝霧。

 重症の暗殺者に勝機は無かった。


「諦めな。もうあんたの負けだ。」


「……」


「安心しろ、殺しはしねぇよ。

 まぁ口は何かで塞がせて貰うが。」


「……窮地の時は……いつもそうだ。」


「あん?」


 枯れつつある声を、痛々しく絞り出す。


「心から頼れる相棒も利用出来る駒も、

 いつでも、必ず助けてくれる訳じゃ無い。

 ――最後に頼れるのは自分だけだ。」


 ネイルは力を振り絞り、思いっきり叫ぶ。

 自らに呼びかけるように、励ますように。

 力強く、ハッキリと。


「『勝て』ッ!!」


 勅命が下された。対象はネイル自身。

 自らの鼓舞にて自らの肉体を動かす。

 狂気じみたその姿にその場の全員が戦慄した。


「――! 取り押さえろ。」


「遅い!」


 接近するアランの頭に強烈な蹴りが入る。

 強い衝撃に意識が落ちかける。


「アラン君!」


 アリスの声に反応するように

 ネイルは標的を彼女に移す。


(しまっ!)


「アリス! 屈んで!」


 朝霧の声にアリスは頭を引っ込める。

 大剣の一振りでネイルを捉える。

 が――


 その強烈な攻撃を、男は肘と膝で挟んで止めた。


「うそ……」


「思いの強さなら、この場で一番ある!

 がんばれ、俺ッ! 『勝て』ぇッ!!」


 朝霧の横腹に強靱な蹴りが入る。


「カハッ!」


「これで倒れないか……なら!」


 ネイルは体をひねり、床に落ちた呪符を拾う。

 その姿を見たマナは咄嗟にライターを拾い

 妨害を計ったが


「――イグニッション。」


 男は純粋な発火魔術で呪符を燃やした。

 ネイルの唯一の腕を燃やす勢いでそれは燃える。

 瞬間、暴風が朝霧とアリスを吹き飛ばした。


「きゃあ!!」


 甲板に叩き付けられる二人。

 ネイルは残ったマナへ接近する。


「い、いや……来ないで。」


「フン、貴族の娘。

 誰かに頼ってばかりの人種、か……」


 マナへ向け、手を伸ばす。


(やめて……やめて……

 誰か……誰か……)


 普段自分に賛同している私兵はもういない。

 朝霧は大剣を手放し倒れ、アランも動けない。

 ネイルがマナの腕を掴む。


(誰か……助けて――)


「そのヒトからッ! 離れろー!!」


 ネイルの体に、アリスが飛び掛かった。

 小柄な彼女が暗殺者の体を僅かに揺らす。


「――! あんた。」


「マナさん! 私はまだ貴女に謝れていません!

 勝手なのは分かっていますが、ごめんなさい!!

 ……けどッ! 護らせてください!!」


「そんなの……私の方だって……」


 しがみついて離れないアリスに蹴りが入る。

 体勢が悪く、強烈な一撃では無いが

 十分なダメージを与えている。

 しかし、アリスは離れない。


「貴様ッ! いい加減に――」


「するのはお前だ、暗殺者!」


 アランは自身の刀をネイルへと投げつけた。

 咄嗟に突き出した手の平に突き刺さる。


「ぐぉッ! 勝つんだろ!? なぁ『勝て』!」


「アリス! 離れて!」


 続けざまに朝霧の拳が追撃する。

 初撃の鉄拳が惜しくも回避されたことを見るや、

 朝霧は続けて肘を打ち込んだ。


 ネイルの頬に肘が入る。

 しかし、ほぼ同時にカウンターの拳が

 朝霧の腹へと打ち込まれる。


「グハッ! まだ……足りないッ!」


 ネイルは意識をギリギリ保つ。

 朝霧は痛みで倒れ込む。

 アランは震える体が上がらない。

 アリスは再び組み付こうと試みる。


(足りない。あと一撃がッ!)


 アリスが殴られ、弾き飛ばされる。

 マナの表情が一層曇る。


(やだ……私なんか守らないで。

 私は……私は…………何?)


 ネイルがマナへと接近する。

 その時、マナの目の前を何かが舞う。

 先ほどの暴風で舞っていたのか、

 偶然ソレは彼女の手元に舞い落ちる。


(そうだ……私は、獅子の娘!

 ――頼ってばかりは、もう止めよう。)


 彼女は舞い散るソレをつかみ取る。

 奪ったライターに火を付ける。

 半ば虚ろな暗殺者に向け、照準を合わせた。


「燃焼呪符――『魔攻凌駕(ラーベスト)』!!」


 衝撃波がネイルの体を吹き飛ばす。

 最後の一撃は、正しく決まった。


「マナさん! 大丈夫ですか!

 申し訳ありません。私たちがいて……」


「アリス……さん。謝らないで。

 それと……今までごめんなさい。」


 慣れない謝罪をアリスに向ける。

 その顔から、憑きものが落ちたのを

 アリスは視覚する。


「――マナさん。結構いい顔ですね。」


「はぁ? 私は常にいい顔ですぅー!

 何今初めて見ましたみたいな事いってるのよ!

 ……まったく。」


「えへへ……改めて、

 この護衛任務はきっちり果たします。お嬢様!」


 照れくさそうに、マナは頷いた。


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