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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
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第三十二話 思いの強さ

 ――船尾――


 ポタポタと海水が滴る。

 その生き物は落下防止の柵の上にしゃがんで、

 荒れた呼吸を整えていた。


 生き物の見た目は人と全く変わらない。

 人間と同じ体の構造で、

 人間と同じ服を着ている。


 だが、この生き物は正に今、

 海の上を、大型船に追いつくスピードで

 駆け抜けてきたばかりである。


 ふと顔を上げると、

 生き物は血の匂いを嗅ぎ取った。


「……手回しの良いこった。いつもこうなんだ。

 周りの愚図共が俺の足を引っ張りやがる。」


 男は船に降り立つ。すると――


(――祝福。『(けん)』!)


 船全体を、祝福の力を以て索敵した。

 まるで高性能レーダーのサーチのように、

 人の動き、機材の配置、現在の戦況、

 その一切を一瞬で理解する。


(甲板に何人か……いるな。

 上甲板は……男女二人。

 男の周りに変な、影? がいる。

 女は……なんだこれ? 大剣か?)


 朝霧とマサヤの位置を理解する。


(船橋甲板にも男二人がいる。そして……

 そこから逃げるように移動する男女。

 ……()()()()。)


 アランとネイルの位置を理解する。

 そして、マナたちの位置を捕捉する。


(――祝福。『縮地』!)



 ――――


 マナの目の前にソレは現れる。

 茶髪に黒の手袋とロングコート。

 月夜に照らされるその姿はまるで、

 神出鬼没の怪盗のようであった。


「ご機嫌よう。マランザード領主の関係者だな?」


 ただ者では無いオーラを放つ彼に、

 私兵の男が立ち塞がる。


「あんたは何だ!?」


「……何って、俺の肩書きは多いからな。

 まぁ、≪強欲魔盗賊(グリード・ドロップ)≫って言えば分かるか?」


 その名を聞き、

 私兵はすぐさまマナの方へと走り出す。

 マナの手を強く握り引っ張ろうとしたその時、

 盗賊は銃弾を取り出し彼らに手を向けた。


「――祝福。『テラボルト』。」


 青い電気が手に貯まる。弾丸に挟む指に貯まる。

 電磁加速砲(レールガン)である。


「死ね――」


「させねぇよ!!」


 空中より謎の物体が飛来した。

 電気を纏った手を狙いソレは襲撃した。

 盗賊はすぐさま身を翻し攻撃を躱す。


 二人は同時に着地し、対峙する。


「ジャックさん!!」


 飛来したのは刀身の曲がった双剣を構えた、

 封魔局員のジャックであった。

 マナたちを守るように盗賊との間に入る。


「ご無事ですか、マナさん!

 この男は俺が抑えます。」


「待って!

 その男はただの暗殺者じゃない。

 その男は『特異点』の一角にして、

 ()()()()()()()()使()()

 強欲の罪を背負う男。

強欲魔盗賊(グリード・ドロップ)≫ガイエス!!」


「飛行能力……いいねぇソレ?」



 ――船橋甲板――


 アランは刀を振り、血を払いのける。

 膝をつくネイルは滝のような汗を流していた。


(向こうで何が起きている?

 とにかく急いでマナさんと合流を……)


 不審な水音の後に現れた、

 異質で異常な魔力の存在。

 アランの直感が危険を知らせていた。


「おいあんた。大人しく捕まっていろよ。」


「……特異点。特異点。」


 ネイルはボソボソと呟く。

 耳に栓をしているアランはその声に気付かず、

 止血と拘束を行おうと接近した。


(……メルメイル。

 お前は俺を、特異点にしたがっていたな。)


 今は無き子分の顔が思い浮かんだ。

 左手は斬り飛ばされ、胸元からも血が流れる。


(こんなザマを見たら、ガッカリするか?

 こんな俺を見たら、嫌っちまうか?

 それは……()()()。)


 アランが残っている右手に拘束を施そうとした。

 瞬間。ネイルはアランに襲いかかった。


「なっ! もう勝負は着いたぞ!」


 瞬時に飛び退いたアランは再び刀を構える。


 対峙するネイルの左手からは、

 ドポドポと血の塊が落ちていた。


(見ていてくれ。俺の覚悟をッ!)


 男は右手のライターの火力を魔力で増す。

 そのまま、火を傷口へ押し当てた。


「おぉおおおお――――ッ!!!!」


「コイツ!? 焼いて止血してやがる!?」


 そのまま右手を胸元まで引き抜く。

 服が焼け、呪符をばらまきながら体は燃えた。

 一部の呪符が反応し、男の体を強化する。


 数秒後火は消え、

 半身半裸の暗殺者が立っていた。

 左手は消失し、胸元に真っ黒な火傷の跡。

 過去に受けた傷跡と鍛え上げられた筋肉に

 大量の汗が流れ落ちる。


 目には深い(くま)

 しかし、その意識は未だ健在であった。


(なんつー胆力!

 そのまま失神してもおかしくねぇだろ!?)


「一つ……お前に謝罪しよう。」


 耳栓はまだ付けている。

 しかし、アランが聞いていない事も意に介さず、

 まるで自分に言い聞かせるかのように続ける。


「情熱は確かに力になる。

 思いの強さで戦況は変わる。

 認めよう……俺は自分の心に嘘をついた。」


 彼の手元に呪符は無い。

 彼に残っている武器は祝福と

 その肉体に掛かった強化魔術、

 そして――


「俺は敵が討ちたい!!

 メルメイルの無念を晴らしたい!!

 俺は……特異点に成ってやる!!」


 思いの強さ。

 アランはその気迫に押される。


 二人の男が衝突しかけるその時、

 アランは視界の端に少女を見つける。


「な!? マナさん?! 何故戻って!」


 マナと私兵の男が舞い戻ったのだ。


(――暗殺対象!)


 ネイルの攻撃が止まり、マナを捉える。

 アランはすぐさま割って入り、進路を塞ぐ。

 片耳の耳栓を外し、私兵に怒鳴る。


「何をしてッ! 早く逃がせ!」


「特異点が来たんだ! ≪強欲魔盗賊(グリード・ドロップ)≫だ!

 ジャックが足止めしているがすぐに来るぞ!

 後方に特異点、前方にその暗殺者。

 囲まれたんだよぉ!!」


 アランは当然の状況の変化に混乱していた。

 そして、ネイルの方もその話を聞き停止する。


(特異点ッ! しかも盗賊のガイエスが!

 ……マランザードの領主の娘の命を狙う?

 何故?)


 ネイルは思い返す。


(いや、違う。そもそも、そもそもだッ!

 俺らを賞金で釣った≪黒幕≫からしてそうだ。

 現在、()()()()()()()闇社会の帝王『特異点』。

 その二人が狙う、この女。何かあるのか?)


 一歩。マナへと近づく。

 その接近に気付き、アランは構える。

 片手で急ぎマナの耳栓を造る。


「コイツの声を聞かないでください。

 言葉だけで殺されます!」


「いや……気が変わった。」


 ネイルはボソッと呟く。

 と思った瞬間、走り出し、アランに迫る。


「クッ!!」


「この女は誘拐するッ!

 コイツは特異点が狙う女。

 その秘密を暴けば、

 俺も! 特異点に!!」


 アランを蹴飛ばし、マナの体を掴む。

 思わずマナはバックを手放した。

 マナを取り戻そうとするアランを避け、

 器用に数枚の呪符を拾い上げると、

 壁を蹴り、船首の方へと駆け抜けた。


「マズい! おいあんた、早く追うぞ!」


 アランが声を掛けた私兵は、

 落ちたバックを抱きかかえ止まっていた。


(クソ! もう俺一人で追うしかねぇ!)



 ――上甲板――


 ネイルは唯一の腕でマナを抱え、

 その状態で壁や機材を伝い進んでいった。

 甲板に着地すると、目の前に数人の()()を見た。


 それらの姿はまるで狩人。

 黒い靄の彼らが一人の女を囲んでいる。

 しかしどういう訳か、女の方が優勢であった。


「え? 今度は何!? 

 まさかアイツがさっき言ってた監督官?」


「――! いや、違う! 

 なんで助けに来てくれない!?

 監督官! 黒幕様ぁ!!」


 二人の男女が叫んでいる。

 マナは顔を上げ、女の方へと呼びかけた。


「朝霧さん!! 助けて!」


「マナさん!? 何がどうなっているの!?」 


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