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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第七章 鉄風の百鬼戦線

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第五十一話 命という武器

 ――エリア0・沿岸部――


 未だ夜明けは遠く、水平線にも朝日は無し。

 急き立てるような波は絶えず海岸を打ち付け

 静寂で埋め尽くされている夜の沿岸部に

 小気味良い水音だけを響かせていた。


 だが平穏なのはその場所だけ。

 都市部では夜空を赤く染める戦火が揺らめき、

 そして海上では二匹の怪獣が荒波を立てて激突する。


 そんな激闘の狭間。

 唯一平穏な沿岸部から都市部へと

 一つの人影が駆け込むように走り抜けていた。


 第二席オリエントに伝令を任されていた準幹部だ。


 彼は後方で暴れる怪獣の咆哮に怯えながらも、

 必死に手足を動かし魔王の下へと急ぐ。

 だがそんな彼の進路を新手の人影が阻む。


「!? 貴様は……!」


 準幹部は一瞬の怯みの後に臨戦態勢へと突入した。

 即座に懐から暗器を取り出したかと思えば、

 その勢いのまま敵の首筋に刃を振るう。


 ――が、男の凶刃が肉を捉えるよりも速く、

 彼の頬に強い衝撃が打ち付けられた。


 鋭い打撃は顔の骨を容易く砕き、

 首を圧し折って準幹部の頭を一回転させた。

 やがて現場にはぐしゃりと肉塊の落ちる音が響き渡る。


「…………」


 準幹部クラスを一瞬で処理した人影は

 自分で作り上げた死体に目もくれず、

 暗雲の向こうで戦う怪獣たちを見上げていた。

 そして人影は地表に転がる私物を拾う。

 レンズにヒビの走った、愛用の伊達メガネを。



 ――魔天の楼閣・最上層――


 鬼神の血に掛けられた魔術的な制限。

 その封鎖に綻びが生じた事により

 朝霧は激しい痛みと共に記憶の混濁が発生していた。


 いや、混濁というよりも

 それは『修整』や『整理』と表現した方が適切だろう。


 なにせ彼女は拏業とミナの二人が

 魔法世界から元の世界に戻った、

 ――()()()()()()()を垣間見ていたのだから。


「桃香……! おい桃香!?」


 だがその記憶の説明をする暇など今は無い。

 ウラは酷く苦しむ姪の背中に手を当てながら、

 彼女を庇うように魔王に向けて刀を向けた。


(くっ……どうやら覚醒は出来て無さそうだ……

 なら戦況は依然最悪! どう切り抜けるか……!?)


 焦りの表情が隠せずにいる彼の瞳は、

 自然と魔王とは別の男へと向けられていく。

 彼の視線の先にいたのは魔王軍随一の剣客にして

 かつて何度も交戦した、オルフェウスであった。


(さっき桃香は、確かに奴の事を『お父さん』と……!

 どういう事だ……? 拏業は死んだはずじゃ!?)


「訳が分からんという顔だな、鬼の若造。

 だが娘の推察通り、()()()()()()()()()()()()()。」


 自分は全てを知っているぞと言わんばかりに

 魔王ヴァル・ガーナベックは答えを告げた。

 失踪したはずの朝霧の父親、拏業。

 その成れの果てが剣客オルフェウスであると。


 魔王はその言葉に対するそれぞれの反応を愉しむ。

 ウラやイブキの顔には混乱と驚愕が

 事情に詳しくないジャックの顔には疑問符が、

 そして混濁によりそれどころではない朝霧を抑えて、

 この場で一番の反応を見せる者がいた。


「よぉ。どうした黒幕? 信じられ無いって顔して?」


「……!」


 黒幕は魔王の指摘にビクッと身体を震わせる。

 血を噴く銃弾の貫通痕を抑えながら

 滝のような汗を流している今の状況では

 既にポーカーフェイスを繕う事すらままならない。

 そんな彼をニヤリと嗤い、魔王は更に指摘した。


「――『あの時、俺が殺したはずなのに』ってか?」


 黒幕は崩れゆく表情を隠しきれなかった。


「やはり、あれはお前だったか……」


 当人たちだけが何かを悟ったように顔を歪める。

 その態度が気に食わず、ウラは声を荒げて追求した。


「おい黒幕! お前は何をどこまで知っている!?」


「……。」


「チッ! どういう事だ魔王……!

 朝霧拏業は……天帝は死んだはずじゃ……!?」


「天帝は没したさ。朝霧拏業は影武者だ。」


「なに!?」


「大して似ても無ぇのに祝福が便利だから重宝され、

 そしてその祝福のお陰で本物が消えた今でも

 こうして臆面も無く生きながらえた、クズ人間だ。」


 軽蔑の眼差しを魔王は剣客に向けた。

 しかし当のオルフェウスは朝霧を見つめたまま、

 彼らの会話に割って入る様子は無かった。

 その姿はまるで意志を持たない人形。

 凜と佇むだけの男を前に今度は黒幕が口を開く。


「お前らが……その人を改造したのか?」


「いいや? 改造はほとんどしてねぇよ。

 こうなったのはこいつ自身の祝福の効果だ。

 朝霧拏業こと剣客オルフェウスの祝福。それは――」


 気分が乗っていたのか、

 魔王はオルフェウスの力の正体を全て明かした。


 その場にいた全ての者は彼の言葉に目を見開き、

 ある者はその厄介さに顔を大きく歪め、

 またある者はその代償の無情さに心を痛めた。


 唯一現場にいて聞き逃してしまったのは、

 ほぼ放心状態でへたり込んでいた朝霧だけだった。


 やがて魔王の解説が全て終了すると

 瓦礫に腰掛け話を聞き流していた魔王の娘エマが

 待ちくたびれたように気怠げな声を上げる。


「パパ―? その話いつまでやるの~?」


「おっと。確かに戦闘中に少し話し過ぎたな。

 続きはあの世でお前らだけでやっといてくれや!」


 魔神外装『リョウメンスクナ』により増えた腕を

 まるで羽根のように魔王は大きく広げた。

 それと共に吹き荒れる莫大な魔力は、

 生物としての格の違いを見せつける覇気となって

 最上層に集う負傷者たちの傷を刺激する。


 ウラもタダクも、ジャックもイブキも、

 そして朝霧や黒幕でさえも既に満身創痍。

 もう誰も魔王の相手をする事は出来なかった。

 鬼の若大将も「ここまでか……」と諦観に耽る。


 ――がその時、最上層へと続く扉を突き破り

 赤い閃光が戦場へと飛び出してきた。


 それらは封魔局員が持ち込んだ赫岩兵器の輝き。

 新兵器である銃火器を携えて乗り込んで来たのは、

 アリスとタガマルに率いられた突入部隊の残りであった。


「遅れて申し訳ございません! 朝霧さん!」


「……」


「ええ無視っ!? わ、わ、わ! ごめんなさい!」


 自分が何かしたかと不安になり

 訳も分からずアリスは涙目で謝罪する。

 だがそんな彼女の到来にチャンスを見出し、

 ジャックは飛び出し朝霧を抱えて飛翔した。


「アリス! 朝霧は今放心状態だ! 連れて行け!」


 アリスたち今の仲間に託すように

 ジャックは朝霧の身体のみを隊員たちに投げつける。

 大剣も妖刀も置き去りに、とにかく朝霧を逃そうと。


 それに反応した魔王軍が逃がすまいと動き出すが、

 未来視にて動きを読んでいた黒幕が

 蒼炎の壁によって彼らの追撃を数秒遅らせた。


「すまん……あとは……任せた……」


「黒幕!?」


 どうやら密かに傷口の治癒も行っていたらしく、

 彼の貫通痕は見事に塞がっていた。

 だがその治療と先程の蒼炎で魔力を使い果たし、

 黒幕はとうとう意識を手放してしまう。


 咄嗟に倒れ込む彼の身体を支えたイブキは、

 酷く動揺した瞳でウラを見つめた。

 この後に来る指示を仰いでいるのだ。


「っ……! 一度退く! 艦まで戻るぞ!」


 ウラの発言に増援組は一瞬驚くが、

 すっかりボロボロとなった主力たちを見て

 戦況の悪さを理解し、その判断に従う。


 だが彼らが主力たちを連れて逃れようとする頃には

 蒼炎を攻略した魔王が再び襲い掛かって来た。


「重装隊、前へ! 撤退の時間を稼ぐぞ……!」


「おい待てっ……! アンタら……!」


 飛び込む炎の矢と振り下ろされる戦斧の重撃が盾を壊す。

 魔王を押さえ込むのに彼らでは不足だった。


 しかし犠牲となった重装隊を見て、

 一部の隊員たちは同じ行動に出る。

 主力を逃すための肉壁となったのだ。


「隊長を逃がせ! 一秒でも稼げば勝ちだ……!」


「おうアリス! お前は来るなよ!?」


「これは俺たち熟練隊員だけの特権だ!」


 自己と他者、その命の価値に差を付けて、

 赫岩兵器によって少しだけ強くなった隊員たちは散る。

 稼げた時間は0.3秒、0.5秒、2秒、0.5秒。1.8秒。

 その後の全ても合わせて、十秒は稼げた。


 この十秒でジャック、アリス、朝霧らは離脱に成功する。

 だが言い換えれば逃げられたのはそこまで。

 黒幕やタダクを抱えた鬼の一族が未だ離脱出来ずにいた。


「……!? おい、足を止めるな、タガマル!」


 突如、タダクを抱えていた鬼の一人、

 タガマルが突撃する隊員たちを眺めて停止する。

 やがて彼は隻腕となった自分の身体と、

 辛そうなイブキに手を添えるウラの顔を見つめると

 僅かに口元を緩めて鼻を鳴らした。


「『命』という武器の強さを見せてやる。」


「なっ!? まさかお前……!」


「十秒は稼ごう――」


 タガマルはそう告げると

 抱えていたタダクの身体をウラに渡す。

 そして彼が妖狐の身を受け取る事で生まれた一瞬の合間に

 隻腕の鬼は怪物の如き魔王の元へと飛び出した。


「やめろ……タガマル……!」


「若! 先を急ぎましょう……!」


「イブキ……! ……っ、クソ!」


 必死な形相のイブキに諭され、

 ウラは撤退を選択する。


(良いぞイブキ。それで良い。)


 出口へと向かう彼らの姿を横目にタガマルは笑い、

 そして懐から一枚の紙切れを取り出した。

 隻腕の彼が生涯最期の戦いに持ち込んだのは、

 かつて同胞も使用した『燃焼呪符』だった。


 彼はあえて燃え盛る蒼炎の中に腕を通すと

 その炎によって自身の身体ごと呪符を灼く。

 身を焦すその業火の中で彼は

 自身に後を託した仲間の顔を思い描いていた。


(ドドメキ。俺も今からそっちに逝く。)


 そして隊員たちを殺し終えた魔王へ向かい、

 半ば自爆特攻のように飛び出した。


「喰らえ魔王……! 『ヒザマ大炎舞』!」


 が――


「やかましい!」


 魔王は宝剣の腹でタガマルを殴り、

 まるでホームランでも打つかのように宙へと飛ばす。

 稼げた時間――0.2秒。

 命を賭した爆炎は誰もいない夜空で爆散した。


「タガ……マル……?」


「若……! 急いで……!」


 放心しかけたウラを叩き起こし、

 今にも泣きそうな顔でイブキは進む。

 だがもう肉壁となれる隊員も二、三人のみ。

 魔王はケタケタと嗤いゆっくりと弓を引き絞る。


「……あ?」


 だがその時、魔王は手を止めた。

 引き絞った弓を緩め、武具を携えた手を下げて、

 最上層から都市部へと眼力を送る。


「今だ! 走れお前ら……!」


 好機と捉えた生存者は一気に駆けだし、

 どうにかそれ以上の犠牲を払わずに離脱に成功する。

 しかし魔王はそれでも追う事は無く地平線を凝視し、

 その頬に薄らと冷や汗を流していた。


「ちょっとパパ! 何で追うの止めちゃったの!?」


 ようやく蒼炎を対処したエマは

 怒り心頭で問いかける。


 だがすぐに初めて見る父の驚愕顔に異常性を感じた。

 そして彼と同じ方角に目を向ける。

 すると其処には――闇夜に混ざる巨大な影があった。


「何……あれ?」



 ――エリア0・都市南部――


「緊急事態だ! 負傷者を運べ!」


 喉が張り裂けんばかりの声で

 ハウンドが都市部の仲間たちに向けて叫ぶ。

 彼の近くに敵は居なかったが、

 それでも彼の表情には狼狽の色が窺えた。


 その時、彼の全身を大きな振動が揺さぶった。

 そして直後、彼らの背後にはソレが顔を見せる。

 ソレは高度魔界文明のビル群よりも遙かに高く、

 また尋常では無い冷気を帯びて現れた。


「何で……こいつが此処にいやがる……!?」


 それは或るシスターが願った破滅。

 無数の環境に適応し、無数の災禍を捕食し、

 世界の全てを均すまで止まらないノアの方舟――


「――邪神ユーク!!」


 災厄、再臨。


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