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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第七章 鉄風の百鬼戦線

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第三十八話 とても愚かな賢者の意思

 ――――


 最強の『特異点』とは誰か?

 魔法世界では度々この手の話題が上がる。


 強欲魔盗賊(グリード・ドロップ)、厄災、女帝、暴食の魔王、そして黒幕。

 どれも一筋縄ではいかない特異の存在。

 実際に戦えば誰が勝つのかつい妄想してしまうのは

 魔法世界であっても変わらなかった。


 ――が、議論が決着する事はほとんど無い。


 多くの人々にとって特異点は雲の上の存在であり、

 全員の実力を正しく認識している者など居ないからだ。

 厄災のようにずっと正体を隠してきた者もいれば、

 女帝のように圧倒的な逸話を残す者もいた。

 明確な比較対象も無しに誰が「最強」かは語れない。


 しかし「最悪」の特異点に関しては皆が口を揃えた。


 闇社会の重鎮や連合の役人、

 果ては酒場の酔っ払いや小さな子供までも、

 これに関してはまるで共通認識のように

 誰もが同じ答えに辿り着く。


 封魔局の最重要処理対象――即ち黒幕だ。


 そもそも最初に特異点認定を受けたのは天帝だった。

 これから討ち取るつもりのテロリストを相手に、

 世界の統治者を意味する『天帝』などという表現を

 使いたくなかった当時の魔法連合が

 紙面用の代名詞として使い始めたのがきっかけだ。


 しかしいつしか、特異点の烙印は

 権謀術数渦巻く群雄割拠の闇社会を勝ち抜き、

 裏の世界にて絶大な()()()を持つ王の称号として

 認知されるようになる。


 ――闇社会への影響力。

 特異点の認定条件とは実はこの一点しかない。


 たった一人の意思決定で

 何千、何万という人の命を動かせてしまう存在。

 それが今の魔法世界における特異点の定義だ。


 そしてこの定義から考えた場合、

 最も強い影響力を有している最悪の特異点は

 亡霊たちの王、黒幕という事になる。


(それが、お兄様唯一の強み……)


 彼は闇社会に存在する全ての組織と

 大なり小なり何らかの形で繋がりを持ち、

 物資や武器、果ては人材を商品として

 僅か三年で莫大な富と権力を手中に収めてみせる。


 闇社会が新参の王を受け入れたのは

 ひとえに彼が――『信用』されていたからだ


 黒幕の卸す商品はどれも高性能かつ高品質。

 加えて他の組織や業者(ディーラー)から購入するよりも

 ずっと安価で安全な製品ばかりを取り揃えていた。


 黒幕製だから得をするような事があったとしても、

 黒幕製だから損をするようなケースは稀。

 闇に生きる犯罪者たちは『黒幕』というブランドに

 絶大な信頼を置いていたのだ。


(そのブランドに傷が付く行為は絶対やっちゃダメ。

 なんだけどなぁ……)


『フロル、出番だ――』


「……了~解。

 もうどうなってもウチは知らないよ〜?」


 とある鉄塔の上で鎮座していた機構少女は

 僅かに笑みを浮かべて移動を開始した。

 彼女はエンジンを噴かし彗星の如く夜空を横断すると

 エリア0中心部で停止し、胸の前で手を交差した。


 直後、少女に内蔵されたシステムが起動する。

 青白い光輪が手首や胴に展開され、

 それと同時に彼女の全身を白銀色に発光させた。


『報告! エリア0上空に謎のエネルギー反応検知!』


『識別不明! モニターに映します!』


『あれは……? ……まさか、あれがフロルか!』


 亡霊達(スペクターズ)技術(テクニカル)顧問(アドバイザー)――フロル。

 悪魔サマエルと並び黒幕を支える柱の一人。

 そして黒幕が彼女を人前に晒したのは

 今日この日この瞬間が初めての事だった。


「『賢者の石(クイックシルバー)』――起動!」


 嬉々として機構少女は光を解き放つ。

 その一瞬だけ人々は手を止め、

 まるで昼のように輝く空を見上げた。


 やがて世界が再び暗闇へと戻る頃、

 人々はその異変に気付く――


『……――融解……!? 不……――!』



 ――エリア0・都市南部――


 銀の閃光が終幕し、

 停止していた人々は再起動を始める。


 だがスムーズに戦闘を再開出来たのは

 封魔局陣営の者たちのみ。

 魔王軍の大半は()()()()()()()()()()()()()()


「これは……一体?」


 墜落した戦艦の上で交戦中だったアランは

 敵軍に発生した異常事態に眼を疑う。

 銃が暴発し顔面に大火傷を負った者もいれば、

 改造した身体がドロリと溶けて停止する者もいた。


 黒幕の隠し玉――『賢者の石(クイックシルバー)』。

 その正体は彼の扱う商品に仕込まれた特殊金属である。

 この金属はフロルの放つ特定の電磁波を受けると

 途端に発熱し周囲の金属を一瞬で侵食する。


 つまりは、武器を殺す毒という事だ。


 その脅威からは魔王軍であっても逃れられない。

 如何に自国領内で無数の工場を有していても、

 全てのパーツを自給自足している訳では無い。

 特に高い技術力の結晶である重要な部品ほど

 彼らも「黒幕製」に頼っていたのだ。


「ったく、こんなモンがあるなら最初から使えよ。」


 奇跡的に脅威から逃れた敵兵を斬り伏せながら、

 アランは黒幕に対して愚痴を溢した。

 しかしそんな彼の言葉にハウンドが反対する。


「いや。むしろよく使ったなと思うぜ俺は……」


「どういう意味です?」


「そのまんまの意味だよ。

 今この瞬間、奴はテメェの扱ってる商品に

 ()()()()()()()()()()()と公言したようなモンだぜ?」


「……!? じゃあまさか!?」


「ああ。たった今『黒幕』っつーブランドは死んだ。

 奴は特異点としての影響力を放棄しやがった。」


 其れはとても愚かな賢者の意思。

 特に親しくも無いアランには黒幕の覚悟が

 どれほどの物だったのかは想像出来ない。

 出来ないが、それでもやるべき事は理解した。


「――注目! 機動力のある奴は俺に着いて来い!」


「アラン?」


「敵が混乱している今この瞬間が唯一の好機だ!

 持てる戦力の全てで、魔王討伐に加勢する!」


 アランの飛ばした檄に呼応し、

 盾代わりにしていた戦艦の残骸から

 隊員たちが次々と飛び出した。

 そしてアランもまた地上に降り立つ。


「ハウンドさんも一緒に!」


「いやぁ、おっさんの足腰でこの距離は辛い。

 俺は負傷者を守ってるから、先に行け。」


 冗談混じりに銃を構え始めた彼の態度に

 何かを感じ取ったアランは指示に従う。

 やがて彼らが摩天楼へ向けて進軍した直後、

 ハウンドの残る戦艦前にはいつの間にか、

 第二席オリエントの姿があった。


「未来ある若者だけは、って奴かい?」


「そんなんじゃねぇよ、災禍の根源(ハザードマスター)

 誰もお前に興味がねぇってだけの話だ。」


「っ……! ……へぇ~言ってくれるねェッ!」


 腕に風の渦を巻き付け第二席が迫る。

 隊長格エヴァンスですら破ったその凶手が

 瞬く間にハウンドの眼前に迫った。

 が――


「もう俺は、()()()()を信用している。」


「っ!?」


 ――第二席の攻撃が渦巻く蝙蝠の群れに妨害された。

 やがて蝙蝠たちは霧のように溶け合い、

 そして一人の和装の男へと変容していった。


「操血術『黶椛(あざもみじ)』ッ!」


 直後噴き出した赤い斑点がオリエントを襲撃する。

 ガトリング砲のように撃ち続けられる血の弾丸が

 第二席の身体を押し退け後方に吹き飛ばし続ける。


「ヅゥ!? 亡霊達(スペクターズ)……厭世ッ……!

 この程度の攻撃で、魔神外装が傷付くと思ったか!?」


「否。我らでは貴殿を殺める事は叶わない。

 故に――今はリングアウトを狙っている所だ。」


「っ!?」


 その瞬間、オリエントの足元が大きく傾いた。

 彼のいる大地が突然坂のように変形したのだ。

 無論これも亡霊の一員となった者の能力。

 強欲の遺子、アヴァリスの『同化』であった。


「沿岸部まで、帰って。」


「このっ……!」


 オリエントは爪を立てて落とされまいと耐久する。

 しかしそんな彼にハウンドは銃口を向けていた。


「いや。墜ちろ。」


 鉄の筒が火を噴き、

 第二席が必死に掴む地面に着弾した。

 直後大地からは爆音と共に衝撃波が生まれ、

 オリエントの身体を更に遠くへと吹き飛ばす。


「貴様らアアアアアア!!」


 巨大な瓦礫片で更に突き飛ばされながら、

 第二席は荒れ狂う海の中へと着水した。



 ――同時刻――


「祝福ゥ――『武陵源』ッ!」


 オレンジ色のバリアが衝撃からエレノアを守る。

 負傷し座り込んでいた彼女を救ったのは、

 かつて腕を吹き飛ばした道和であった。


「よぉ嬢ちゃん! まだ生きてるか!」


「あんた……何で……?」


「何でってそりゃ、今は味方だからな!

 それに……俺のバリアを破った奴に、

 そう簡単にくたばられると困るんでなぁ!」


 豪胆な大男は過去の遺恨など一切気にせず、

 自身の腹を叩いて呵々大笑していた。

 やがてエレノアの背後からは

 滑り込むようにゼノが接近しバイクに変身する。


「行きな。リーヌスやラミアの嬢ちゃんは先行ってるぜ。」


「……! 言われなくても!」


 エレノアはバイクに跨がり先を急いだ。

 目的地は都市北部。敵幹部のロジェとアンだ。


 やがて彼女の背中も見えなくなった頃、

 粉塵を掻き分け敵対者が姿を見せる。

 道和と交戦していたのは第五席のジンだった。


「あの小娘に破られる程度のバリアで、

 この俺の攻撃を何度も防ぎきれると思うなよ?」


「あ? 何ヶ月前の話してんだ……?

 隻腕になってから、また一から鍛え直したわ!」


 呼吸を合わせ、両者の矛と盾が激突した。

 しかし魔神外装で強化されたジンの一撃を前にしても

 道和のバリアは一切揺らぐ事は無かった。


「依然俺は! 成長期だぜぇえ!」



 ――魔天の楼閣前――


 蒼炎が敵を吹き飛ばし、海流が死体を押し流す。

 数の不利を者ともしない黒幕の攻勢は、

 ゴーギャンとナドメに挟まれても尚衰えはしなかった。

 だがやはり消耗の色だけは隠せない。

 黒幕は口元を拭い、肩で呼吸する。


(黒幕は確実に疲弊している!)


(好機! ナドメとの挟撃ならば殺せる!)


「あーしんど……やっぱ俺少し休むわ……

 だから――そっちを頼む。」


「んーっ! 承知!」


「「――ッ!?」」


 突如として黒幕の体内から悪魔が出現した。

 そして近付き過ぎたナドメに対して、

 莫大な魔力の帯びた拳を嬉々として叩き込む。


「ナドメ!? チィ、サマエルか……!」


「悪魔ばかり見てんなよ。」


(っ……副長ネメシス……!)


 ゴーギャンは副長の刃から逃れるため飛翔する。

 そして休息のため瓦礫に座った黒幕に目掛け

 巨大な魔力の塊をぶつけようと試みた。


 ――が、上空の彼を更に上からの爆撃が襲う。


 爆撃はゴーギャンの溜めた魔力塊を誘爆させ

 見事一撃で執政補佐官第一席を地上に墜とした。

 その一部始終を眺め黒幕は無線に手を伸ばす。


「お前、朝霧の護衛はどうした?」


『うっさいわね。助けたのにお礼も無い訳?

 ちゃんと敵も抑えてるからご心配なくぅ!』


(狙撃手は……シックスだったか……)


 魔神外装の埃を払いゴーギャンは立ち上がる。

 そして敵に回した存在の厄介さに

 改めて気付き思わず溜め息を漏らした。


亡霊達(スペクターズ)……!」


(さ……俺たちはちゃんと仕事したぞ?

 次はお前らの番だよな……六番隊。)



 ――都市北部・第七席拠点――


 塔の如き神像の前に戦士たちが到達する。

 武器を失い混乱する集団を押し退けて、

 最初に現れたのは白亜に輝く騎士だった。


「リーヌス・クロイツァー現着!

 これより……第七席の攻略を開始します……!」


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