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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第七章 鉄風の百鬼戦線

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第三十三話 怪物は恩人を喰らう

 ――魔天の楼閣・中層――


 最上層での激闘がどうなったのか。

 そんな事に気を配る余裕も無いほどに

 摩天楼中層でも激しい抗争が繰り広げられていた。


「立て、早く! ここで寝てたら殺されるぞ!」


 黒幕を始めとした動ける者は率先して動き、

 敵の攻撃から庇うべく負傷者を物陰へと放る。

 だが彼らであってもそれが限界。

 誰かを庇いながら反撃出来るほど

 絶えず迫り来る敵たちは弱く無かった。


「あぁもう……! 数が多い!

 朝霧さん! ここの突破はもう難しいです!」


「そうね。面倒なのが復活しちゃった……!」


 大剣を強く握り絞め、朝霧は眉をひそめる。

 眼前にいたのは彼女が倒したはずの敵準幹部。

 第一席直下の戦闘員『双紋』であった。


 またその背後では専属召使のナドメが

 人体をも凍らせる冷気を解き放ちながら、

 怪人の如き異形の戦士たちを差し向け

 ネメシスなどの味方主戦力を足止めしていた。


(上の氷壁は破壊可能だけど全員での脱出は不可能。

 ウラさんの後を追うには……迂回するか?)


 近付く敵兵を弾丸のように蹴り飛ばしながら、

 朝霧は意識を外や上層にも向けて熟考した。

 するとその時、彼女に一体の敵が襲い掛かる。


 その姿を見た瞬間、

 朝霧は思わず「え?」と声を上げた。


 鍔迫り合いの先にいたのは一体の異形の戦士。

 顔半分が焼け焦げた枯れ木のように変形している、

 和服から黒い翼を突出させた剣士であった。

 そんな怪人を払い退け、朝霧は戦慄した。


「っ……! イブキ! あれって!?」


「? 人工怪異(スケアクロウ)です。

 あれが何か? まさか、現状打破の起点に!?」


「違う……そうじゃない。あれって――」


 動揺する朝霧を不審に思い、

 改めてイブキは対象の怪人に目を向ける。

 立派な黒い翼にスラリとした和装の剣士。

 鬼の女剣士は「天狗っぽいな」と考察した。

 だが朝霧はより具体的な名を連想する。


「――仙孝さん、だよね……?」


 朝霧の直感は、

 目の前の怪人を天狗族の仙孝だと訴えていた。

 桜の洞、『死人櫻花』で見た記憶の中で、

 彼女の母ミナに縁談を持ちかけていた天狗だ。


 彼と朝霧の間にはそれ以上の関係は無い。

 だが見知った人物の変わり果てた姿に

 彼女は酷くショックを受ける。


「どうして彼が……?」


「……いや、あれは()()人工怪異(スケアクロウ)だ。」


 戦慄し目を見開く朝霧に対して

 どこかぶっきらぼうな口調でタガマルが答えた。

 だが彼の瞳には怒りと諦めの色が入っていた。


「まさか、魔王軍の人工怪異(スケアクロウ)って……!?」


「想像している通りだ……

 トロール、ハーピィ、魚人……そして天狗や鬼。

 どれも()()()()()()()()()()()()()()()()だ。」


「っ……!?」


「魔王軍は従属させた亜人たちを機械化して従わせる。

 当然そこに本人たちの同意なんかある訳が無く、

 改造された者は皆一様に意志無き道具になり下がる。」


「故に……案山子(スケアクロウ)……」


 悲痛そうな表情でイブキが締めた。

 彼女たちの発言を受け改めて異形の戦士を観察すれば、

 確かに彼らが元は何らかの亜人であった事が窺える。

 そして中にはウラたちと同じような

 鬼の特徴を持つ者も何体か紛れていた。


「そんな事って……!」


 ふつふつと湧き上がる感情と共に

 朝霧は全身の毛が逆立つ感覚を覚える。

 だがそんな羅刹の如き気迫にも怯まず、

 かつて仙孝だった機械の塊は攻勢を再開した。


 仙孝だけでは無い。

 会話を聞いていたナドメの指示か、

 元々鬼であった異形たちが一斉に

 朝霧、イブキ、タガマルの三者に迫り来る。


「桃香様……これらは既に敵の兵器!

 情けなどは一切不要です!」


「けどっ……イブキ!」


「私も既に()()()()()()()()()()()()()()()

 今この瞬間に至るまで……顔馴染みも含め、何人も!」


「っ……!」


「そうしてやっと……此処まで来たんです!」


 言い放つと同時にイブキは異形の戦士を両断した。

 有言実行と言わんばかりに、

 白い刃がオイルで汚れた怪異の肉を二つに分かつ。

 そしてその肉片が地面にぐしゃりと落下する音を聞き、

 彼女は血が出るほど唇を噛みしめた。


(あぁ、そうだったんだね……イブキ?)


 そんな彼女の姿を瞳に収め、

 朝霧はウラたちのこれまでを空想した。

 敗戦。従属。屈辱。脱走。復讐。


 心までも真の鬼とし、

 仲間を失いながらも進み続けた苦難の旅路。

 それを共感し、彼らの覚悟を汲み取った。


「狂気完全侵食・≪(ジ・エンド)≫――」


 改めて百の魔力を解き放ち、

 赤い閃光を空間内に刻み込んだ。

 その軌跡にいた怪人たちを瞬く間に両断し、

 仙孝を含む人工怪異十数体を沈黙させた。


「趣味が悪いよ……魔王軍。」


 尚も笑みを貼り付けていたメイドに向けて

 朝霧は大剣をかざしポツリと呟く。

 その目は邪悪に対しての嫌悪感で溢れ、

 その全身には刺すような魔力が流れていた。


「貴女はこれをどう思っているの?」


 朝霧の問いにメイドは微笑む。


「特段何も?」


「そう。じゃあ貴女も同罪だ!」


 大地を蹴り朝霧はナドメに迫る。

 だがその刃が届くよりも先に、

 空間内全体を突如紫色の光子が包み込んだ。


「!? これは……?」


「朝霧さん……! これ()()()と同じです!」


「アリス? まさかそれって……!?」


「そうです! ()()()()()()してきます!」


 アリスの宣言通り、亡者が現世に蘇る。

 その辺りに転がる死体とは別口で

 まるで大地から生えてくるように

 魔力の塊が次々と死者と同じ姿を形作る。

 そして再び傀儡として朝霧たちに襲い掛かった。


(こいつら……! 命をどこまでも……!)


 怒りに任せ朝霧は飛び込もうと身構える。

 だがそれより一足先に――


「待て、亡者の相手は亡霊が引き受ける。」


 ――黒幕が手を打った。


「やれッ、シックスッ!」


「了ー解!」


 その瞬間、空間内で複数の爆発が発生した。

 シックスの起爆した爆弾が部屋の隅で起爆され、

 足場となっていた鋼鉄の床は深穴を穿ち抜け落ちる。


 そしてそれと同時に

 部屋の中心から黒幕が風の魔法を行使した。

 風は床ごと落下する者たちの中から

 自分以外の味方を全て安全地帯へと運ぶ。


 即ち、黒幕は全ての敵を道連れに

 自ら下層へと落下する選択をしたのだ。


「なっ!? 森泉さん……!?」


「朝霧ィ! ここからは別行動だ!

 俺はずっと狙撃手に狙われてるみたいだしな!

 ……シックスを貸す。お前らは先に行け!」


 その言葉を最後に黒い穴の中から音は消えた。



 ――魔天の楼閣・最下層――


 落下した黒幕が着地したのは楼閣最下層。

 どうやら其処は丁度ゴミ集積場のようで、

 真っ暗な空間には臭気を帯びた山があった。


「……おいネメシス、何でお前まで来た?」


「リーダーを孤立させる副長がいるか?

 安心しろ。お前が大魔術を連発しようと俺は死なん。」


「あっそ。まぁお体には気を付けて――」


 呟きながら彼はゴミ山の上で杖を振るう。

 青い炎を松明とし戦場の様子を

 ジワジワぼんやりと浮かび上がらせた。


 其処にいたのは見渡す限りの敵、敵、敵。

 多種多様な異形の半機械生命体と

 冷たい笑顔を絶やさない不気味なメイド。

 そして蠢く亡者の群れがいた。


「――行くぞ。相棒。」


「背中は任せろ、ショウ。」


 亡霊達(スペクターズ)のツートップが

 暗きゴミの山にて亡者の軍勢と衝突する。



 ――――


 深穴を覗くように朝霧は項垂れていた。

 だがアリスが彼女の肩を叩こうとした丁度その時、

 朝霧は自ら起き上がり、やるべき事に専念する。


「シックスさん。黒幕から何か作戦は聞いてますか?」


「いえ。この後のは『進め』以外何も?」


「了解です。なら、その通りにしましょう。」


 彼女の背中を強く押していたのは

 隊長として、主力として、

 そして鬼神の血を引く者としての責任だった。


 やがてすぐに朝霧たちは

 ウラの先行した最上層を目指し移動を再開する。

 だがその直後、新たな異変が発生した。


『あーあー……――全魔王軍に告ぐ。』



 ――少し前・地下迷宮――


 壁が、床が、空間が、

 物理法則を歪めて自由に変動する。

 まるで巨大な生物の体内と錯覚するほどに

 その地下牢は第三席の意のままに動いていた。


「グフッ……! ぁぁ……!」


 そんな異界の中央で、

 巨大なレンガの塊に捕縛された

 ドレイクが口から血を吹き出す。


 どうやら彼に意識は無いようで、

 同じくレンガで足を拘束されたフィオナの声にも

 一切反応らしき動きを見せる事は無かった。


(チッ……まさか魔王軍がここまでとは……!

 計画がかなり狂った……! どうするべきだ?)


 会話すら出来ない眼前の怪物を睨みながら

 フィオナは心底困ったように冷や汗を流す。

 そして彼女が眼帯の近くに手を伸ばしたその時、

 ダバルナルマンの持つ無線機から音が鳴る。


『あーあー……――全魔王軍に告ぐ。』


(ヴァル・ガーナベック……!)


『これから新時代の幕開けを宣言する。

 全員可能な限り――エリア0に集結しろ!』


 その瞬間、それまで無言だった怪物が吼えた。


「オォォォオオオオオオオオオッッ!!!!」


「う、るさ……!」


 フィオナが爆音で顔を歪めていると

 彼女の周囲を含む空間が大きく揺れ動く。

 第三席ダバルナルマンが

 空間ごとエリア0への移動を開始したのだ。



 ――数秒後・エリア0都市部――


 突如都市部の地下から突出したレンガの杭は

 封魔局も魔王軍も関係無く吹き飛ばした。

 杭の先端には拘束されたドレイクと、

 その上で雄叫びを上げる怪物の姿があった。


「オォォォオオオオオオオオオッッ!!!!」


 距離的に有り得ない速度で、

 ダバルナルマンは主人の下まで馳せ参じる。


「エリア0!? 今の一瞬で移動したのか!?」


 大規模な移動に巻き込まれたフィオナは

 杭の狭間から脱出し都市部に降り立つ。

 だがそれと同時に沿岸部から第二席が、

 そしてエリア1から第一席も出現した。


 彼らだけでは無い。

 魔界全土から集結した魔王軍約二百万が、

 少なくともフィオナからも見える位置に集結する。


(これは……もう……!)


『――良く集まってくれた。同士たちよ。

 喜べ。お前らは歴史の転換点に立ち会えた!』


 瞬間、摩天楼の最上階がパカリと開き、

 白いライトに照らされた魔王が姿を現した。

 その巨体はエリア0内であれば

 どこからでも視認出来る。

 魔王はそんな特等席で演説を開始した。


『天帝閣下亡き後、我々は苦難を強いられたなぁ……

 残党内も一枚岩では無く、同調出来ない奴もいた。』


 眉を曲げ、声に感情を乗せる。


『だがそれでも俺たちは諦めず勢力を維持し続けた。

 何のため? 閣下の無念を晴らすためだよなぁ!』


 拳を突き上げ、兵士を煽る。

 魔王の雄叫びに呼応するように

 魔界の眷属たちは目一杯の声を飛ばす。


 雄叫びは都市の高い建物にぶつかり、

 熱気と共に空気を大きく揺らしていた。

 が――


『――ま、ってのはもう()()()()()()()!』


「……え?」


 フィオナは思わず声を上げる。

 それと同時に風向きが変わった。


『正直いつまでもダルいんだよなぁ……()()()()()

 おいおい、俺たちはまだそんなレベルなのかぁ?』


(何だ? 何を言っている?)


『確かに天帝は恩人だが、今の俺は暴食のサギトだ。

 いつまで敗戦側の残党でいなきゃいけねぇ?』


(まさか……!)


『お前らもそう思うよなァ! 魔王軍ッ!

 俺たちは今日、天帝への畏怖を捨て――』


 それは魔王から世界に向けた宣戦布告。


『――アビスフィア帝国を超えてやろうぜェ!』


 喝采が巻き起こった。

 熱狂が夜の大都市を包み込んだ。


(天帝よ。アンタは俺を拾って育ててくれた。

 感謝している。間違い無く恩人だ、が――)


 ――怪物は恩人を喰らう。

 過去の栄光も、権威も、武力も、

 その全てを腹に収めてもまだ足りない。


『獲りに行こうぜ、魔法世界ッ!』


 怪物の狙いは魔法世界。

 魔王は天帝が成し得なかった更に上を望む。

 アビスフィア帝国を超えるという言葉は、

 天下布武の思想を宣言する物だった。


 その手初めてとして、

 魔王は最初に「身辺整理」を目論む。


『お前ら見ろ! こいつは鬼の一族残党ウラ!

 俺に仇成す反乱分子の筆頭格だ!

 こいつの死を以て我が新たな覇道が開かれる!』


 その発言を聞き、

 まだ各地で生存している封魔局員たちは慌てた。


 しかし彼らは慌てるだけで何も出来ない。

 主力である隊長たちも敗北した今、

 摩天楼の最上階にいる魔王を妨害出来る戦力は

 誰一人として残っていなかった。


 そして抵抗手段が無いのはウラも同じ。

 惨敗した彼は脱力したまま魔王の口に運ばれる。


「あばよ鬼の一族。そこそこの因縁だったな。」


 魔王は裂けるように開いた己の口に

 真上からウラを放り込んだ。

 彼の身体が口内へと侵入しようとした、

 その時――


 ――ウラの体内から水の珠が出現した。


「ッ!?」


 突如口の中で走った痛みに魔王は慌てて身を翻す。

 そして零れ堕ちたウラに目を向けると、

 魔王の口を斬った水塊がウラの身体を支えていた。

 やがて水は人間大の鏡へと変化する。


「――御馳走様の合掌を、暴食の時は終焉なり。」


 水鏡は光を放ち時空を繋ぐ。

 そして水面のように美しい鏡面からは

 巫女服に身を包む優美な妖狐が舞い降りた。


「……下っ手くそな辞世の句か?」


「お戯れを魔王様。吾からの宣戦布告に御座います。」


 直後、天の暗雲が二つに割れた。

 しかしその先には星空も朝日の輝きも無く、

 ただ全てを無へと帰すような、

 禍々しくも畏き「黒の太陽」が顕現していた。


「黒曜権現テラサナキ、此処に――

 魔王ヴァル・ガーナベック。そのお命、頂戴致す。」


 背後には黒曜と美しき水の円環。

 そして両手に一組の扇子を携えて、

 この地に棲まう古の妖怪タダクが牙を剥く。

 やはり――怪物は恩人を喰らう。


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