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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第七章 鉄風の百鬼戦線

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第二十四話 亡霊の初手

 ――――


 本作戦に動員された封魔局員、

 総勢――二千三百八名。

 しかし既に魔王軍との小競り合いにて

 その内の八十一名が死亡または失踪し、

 ドレイクを始めとした約三百名が捕虜となる。


 即ち、現在動かせる戦力は既に二千名未満だ。


 因みにラストベルトにて

 女帝率いる魔法連邦に挑んだのは

 総勢約五千名の革命軍であった。


 対して、魔王軍の戦力は――約三十万。

 ただしこれは『正式な魔王軍』の数であり、

 魔界全土に棲まう機械化魔獣や人工怪異(スケアクロウ)

 そして緊急時に徴兵される一般人も含めれば

 その総数は文字通り桁違いとなるだろう。


 因みに連邦軍の兵力は十五万。

 竜人たちも森人たちも人狼たちも、

 全てひっくるめてようやくその数である。


 五千対十五万の女帝戦。

 そして二千未満対三十万以上の魔王戦。

 どちらが厳しいかなど一目瞭然であった。


「そんな魔王軍は今、中心部付近に集中しています。」


 妖狐タダクは地図を広げ

 鬼や亡霊たちが集めた情報を纏める。

 封魔局の強襲作戦は不発に終わり、

 警戒心を強めた魔王ヴァル・ガーナベックは

 魔界の主要都市に兵力を集中させていた。


 主要都市とは即ち魔王がいる中心部(エリア0)

 その周囲に隣接する以下五つの巨大都市である。


 エリア1――軍事産業地帯。

 二十四時間止まる事無く武器を作っている、

 中心部の北に位置した兵器開発の要所だ。


 エリア2――魔界行政地帯。

 主に執政補佐官が利用する公的機関が集中した、

 中心部の東に位置する執政のお膝元である。


 エリア3――資源採掘地帯。

 圧倒的な採掘速度で魔王軍の軍事力を支え続けた、

 中心部の南東に位置する影の立役者である。


 エリア5――閉鎖幽閉地帯。

 ドレイクを始め多くの反逆者が収容されている、

 中心部の北西に位置した巨大な監獄都市だ。


 エリア7――情報掌握地帯。

 魔界全都市の通信を管理および監視する、

 中心部の南に位置した魔王軍の目であり耳だ。


「主にこの五大都市に敵戦力三十万は配置されました。」


 こうなるといよいよ奇襲は困難だろう。

 少なくとも無策で戦艦を飛ばしても

 圧倒的な物量を前に粉々に押しつぶされてしまう。

 最早彼らに状況を好転させる策は無――


「――いや、打つ手はある。」


 自信満々に言い放つ黒幕の発言に

 その誰もが自然と傾聴した。

 だが対する黒幕はジッと朝霧を見つめていた。


「え?」



 ――数分後・エリア7――


 夕空は残り僅か。

 全体的に青黒く染まっていた魔界の空では

 絶えず無数の戦艦が大手を振って闊歩していた。


 そんな敵地の一区画。

 魔王軍を支える情報掌握地帯の都市部では

 物陰を素早く移動する人影があった。


「うはぁ……敵になると恐ろしいな、魔王軍……」


 空を見上げ元敵幹部のルシュディーが口を開く。

 彼は傷と薬物とでボロボロになった身体に鞭を打ち

 率先して都市部の道先案内人を務めていた。


「正に敵地ど真ん中。皆さん気を付けましょう!」


「うん……ま、うぅん……」


「どうしました、朝霧さん?」


「いや……」


 煮え切らない返事の朝霧は

 眉をひそめたまま後ろを振り返った。

 すると其処にはこの危険地帯に同行する

 仲間たちの姿があった。

 その数、朝霧らを含め、総勢――四名。


「流石に少なすぎませんか!?」


「文句なら其処の立案者にどうぞ。」


 ルシュディーが指差す先には

 一人ボロ布で顔を隠した黒幕の姿があった。

 彼は二人の会話に気付くと、

 わざとらしい溜め息を漏らしながら反応する。


雁首(がんくび)揃えても感知されるだけだろ?

 こういう時は少数精鋭に限る。」


「いや、そうかもですが……」


「むしろ俺としてはこれでも多いくらいだ。

 なんでお前まで着いて来たんだ、イブキ?」


 黒幕の更に後方。

 一団の最後尾にいたのはイブキだった。

 彼女もまた皮肉混じりに返答する。


「若の命令です。桃香様と貴方は相性が悪いようなので。」


「監視役か。まぁいいだろう……」


 それぞれ所属の違う四人の精鋭は、

 互いに互いを警戒しながら

 エリア0に近い都市部を進んでいく。


 彼女たちの目的は「黒幕の護衛」。

 この絶望的な現状を覆す策があるという彼を

 エリア7のとある地点に送り届けるのが任務だ。


「で、我々の目的地はどこです?」


「そうだな……」


 黒幕は物陰から顔を出し

 戦艦で埋め尽くされた空をぐるりと見回した。


「じゃあそこの電波塔にしよう。」


「『じゃあ』って……まさか今決めたのか!?」


 驚くイブキは激しい剣幕で黒幕を詰める。

 しかしそんな彼を庇うように

 朝霧は自らの身を挺して声を上げた。


「も、勿論何か理由があるんですよね?」


「当然だろ。」


「ほ、ほらぁ! ちゃんと彼は考えてるから!」


(え、何で桃香様この男を庇ってるの?)


 何故か二対一の構図となってしまった事に

 困惑しているイブキを放置し、

 朝霧は電波塔を選択した理由を問うた。


「それは――」


 ――その時、敵兵の一人が声を上げる。

 物陰で動く朝霧たちを発見したのだ。


 だが銃口を向け「動くな」と叫ぶその兵士は

 次の瞬間、宙を回転しながら吹き飛ばされる。

 彼に直撃したのは朝霧の拳とイブキの斬撃。

 そしてルシュディーの術と黒幕の弾丸であった。


「ごっはぁ!? ぼぐぁああああ!?」


「……過剰でしたか?」


「さぁ? とにかく話は後が良さそうだ。」


 けたたましいサイレンが鳴り響き、

 上空の戦艦が四人の元へライトを差し向ける。

 エリア7を警戒していた五万近くの敵兵が

 一斉に彼女たちへと敵意の牙を剥く。


「走るぞ! 着いて来い!」


 戦場名、情報掌握地帯エリア7。

 其処で四対五万の追撃戦が開始された。


『エリア7に不審者発見。その数四名!

 封魔局の朝霧に……支天衆(カゲロウ)のイブキを確認!』


 地上からは怪物の群れが、

 上空からは無数の機械が迫り来る。

 そして彼らは逃走者にも聞こえる音量を響かせ

 その包囲網をジリジリと縮めていった。


『第八席……!? いや、ルシュディーか!

 敵集団の中にはルシュディーの姿もあります!』


「あーあ、俺の事までバレちゃった!」


「顔を隠していないからだ。

 というか黒幕。貴様だけ布を用意しててズルいぞ?」


「俺が顔を隠すのは当然だ。なにせ――」


『――敵はもう一人います……!

 が、こっちは顔が隠れていて見えません!』


黒幕(おれ)がこっち側にいるという情報は

 魔王軍がまだ知り得ない唯一のアドバンテージだ。」


 ここに勝機があると黒幕は踏んでいた。

 そしてそのアドバンテージを最大限に活かすため、

 彼は今このエリア7の電波塔を目指している。


 それを守るのは三人の精鋭。

 土地勘のある案内人ルシュディー、

 そして強力な二人の女戦士であった。


「飛ぶ迫撃――『草薙』ィ!」


 大砲の如き朝霧の攻撃が

 前方を塞ぐ車両群の結界を吹き飛ばす。

 今この都市に彼女の突破力を

 妨げられる戦力は存在していなかった。


「……楽。」


「黒幕お前……っ! 少しは戦え!」


「情報のアドを此処で捨てる訳にはいかない。」


「さっき銃撃ってたろ!?

 お前が非戦闘員じゃない事はもう知ってるんだ!」


「イブキ! その人との事はもう無視でいいよ!」


「おい。」


 黒幕は不服そうな声を漏らす。

 だがそんな彼らと会話を交える朝霧の背は

 どこか弾むような雰囲気を纏っていた。


「楽しそうですね、朝霧さん?」


「ルシュディーさん! ……そう見えました?」


「えぇ、とても。」


 ニコリと笑みを浮かべたルシュディーに

 朝霧は少しだけ恥ずかしそうな顔を見せた。

 そして後方の黒幕たちをチラリと見つめ、

 思い出すかのように言葉を綴る。


「ユグドレイヤでは、この三人で戦ってたなって……」


「あぁ、確か皆で捕虜になってましたね?

 まぁ俺はその時エグゼマ状態でしたけど。」


「それを踏まえても、やっぱり少し楽しいです。」


 また一緒に戦える事が嬉しかった。

 もう共闘など叶わないと思っていた分、

 どれほど厳しい戦場でも高揚感の方が勝っていた。


「ごめんなさい。こんな時に。」


「構いませんよ。それにそう思っているのは

 もしかしたら貴女だけじゃ無いかもしれない。」


 そう言うとルシュディーも

 数秒間ほど黒幕の方へ顔を向けた。

 そして再び視線を朝霧に戻す。


「貴女と黒幕は、案外似た者同士かもしれませんね。」


「……え、侮辱?」


「そこは普通に不服なんですか……」


 ――などと砕けた会話をしていると、

 四人は遂に目標の電波塔まで辿り着く。

 そして「屋上だ」という黒幕の指示に従い、

 全員が上を見上げた、その時――


『撃てぇーッ!』


 無数の砲撃が朝霧らの立つ大地を砕く。


「っ……! 全員無事ですか!?」


「俺の方は何とか……!

 ただこの状態で電波塔を登るのは危険かと!」


「ルシュディーに同意だ!

 安易に入れば建物ごと撃たれて全滅だぞ!」


 そうこうする内に

 高速で置き去りにしてきた敵集団が

 朝霧らを取り囲むように集結し始めた。


 不意打ち、人数、装備の質。

 これらの要素を揃えれば例え弱者であっても

 圧倒的な格上を狩る事が可能となる。


 当然それは魔法世界においても変わらない。

 その格上がどれほどの強い個体であっても

 潤沢な装備で囲んで叩けば殺されてしまう。


「どう……しますか?」


 冷や汗を流しながら

 朝霧は黒幕の方へと視線を送る。

 すると彼は口元の汚れを拭いながら

 ふぅ、と一息溢して策を授けた。


「朝霧、俺を転移で運べ。二人で屋上を目指すぞ。」


 彼の言葉に朝霧以上にイブキたちが反応する。

 まだ信用に足るとは呼べない黒幕に

 朝霧を一人任せるのが不安だったのだ。


「他二人は出来るだけ高い建物の屋上に逃げろ。」


「ちょっと待て、どういう事か説明を――」


「――了解です。掴まってください。」


「な!? 桃香様……!?」


 制止する二人の声も耳には届かず、

 いや、届いてはいるが気にも止めず、

 朝霧は自らの十字架に魔力を込めた。

 そしてイブキたちの目の前から

 激しい淡緑の閃光と共に消失してしまう。


「っ~~! 行くぞルシュディー!」


 敵の視線が朝霧らに集まったのを好機と見做し

 イブキはルシュディーと共に離脱した。



 ――――


 淡緑の閃光は電波塔の側面に沿って

 暗がりの空中を高速で駆け上がる。

 その道中、黒幕は朝霧に声を掛けた。


「よく俺を信用したな……」


「……そりゃ、信じなきゃ始まらないんで。」


「物凄い賭けに出たな。俺なら怖くて出来ない。」


「それが分かっているのなら、安心させてください。」


 やがて転移の連続はピタリと止まり、

 二人の身体はエリア7で最も高所に位置する

 電波塔の屋上に辿り着いていた。


「十秒でいい! 俺に誰も近づけるな!」


「了解!」


 朝霧はすぐさま周囲の警戒を始める。


「あ、因みに聞きそびれてましたけど、

 結局何でこの電波塔を選んだんですか?」


「高いから。」


「なるほど……え?」


 朝霧の脳裏にある言葉が浮かぶ。

 ――『馬鹿と煙は高いところが好き』。


「おい。何を考えている?」


「いえ! 何でもありません!」


 上官に叱られた新兵の如く

 朝霧は背筋を正し周囲の戦艦に警戒心を向けた。

 そんな彼女の背中を見つめ、探偵は少し笑った。


(さて、俺の仕事を果たそうか。)


 杖を取り出し、フードを外し、

 黒幕は彼方まで伸びる地平線に目を向ける。

 やはり電波塔はこの近辺では一番高く、

 エリア7全土は勿論、隣接している

 エリア2およびエリア3にも目が届いていた。


(エリア0は……流石に()()()か……)


 ――行動で示してください。


(分かっているさ。だから全力でやらせてもらう。)


 周囲の戦艦が黒幕に気付き一斉の砲撃を開始する。

 同時に朝霧も持ちうる手札を使い迎撃を始めた。

 互いの攻撃が合間の空間で花火のように弾け飛ぶ中、

 黒幕は一人静かに魔力を溜めた杖を振るう。


「悪いが『初手』でいただく――」


 瞬間、彼の周囲に水滴が浮かんだ。


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