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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第七章 鉄風の百鬼戦線

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第二十二話 行動で示せ

 ――――


「吾に何の御用でしょうか?」


 時を同じくして黒曜大社境内。

 長すぎる参道を抜けた先にある鳥居に縋りながら

 不機嫌そうな声と顔で妖狐が問う。

 するとそれに対して一人の男が飄々と答えた。


「そう邪険にしないでくださいよ、タダク様。」


 男は第八席エグゼマの部下『九傷』の一人。

 そして彼の背後には魔王軍の飛行艇と

 数体の人工怪異(スケアクロウ)を始めとした兵士が並んでいた。


「我々は現在、逃亡した侵入者を捜索中です。

 つきましては……境内を検めさせて貰いますよ?」


 都市から消失した朝霧たちを探した末、

 というよりも「間違い無い」という確信を持って

 魔王軍の武装集団が黒曜大社に押し寄せて来たのだ。


 当然今の境内には彼らの求める朝霧らに加え、

 見られる訳にはいかない人物が数人いる。

 タダクは今後の勝機を潰すまいと

 自身の身体を使い無言で彼らの道を阻む。


 そんな妖狐の態度に苛立ちつつも

 準幹部級の男は鳥居の合間から見える

 本殿の様子に目を向けた。


「……境内が少し荒れているようですが?」


「結界の張り替え中に水漏れ事故が起きました故。

 ですがお気になさらず。自分で直せますとも。

 それに――」


 途端にスンッと空気が冷たくなった。


「――貴様のような末端では不釣り合いだ。

 吾に意見したいのなら()()()()()を連れて来い。」


「は……?」


 それまで物腰の柔らかかった男も、

 妖狐が放つ畜生を蔑むような視線に

 とても抑える事の出来ない怒りを覚えた。


「魔王様のお気に入りだからって調子に乗るなよ?

 貴様に叛意アリと報告すればこんな場所すぐに!」


「それは――『脅し』か?」


 刹那、遙か上空から差し込む光が黒く染まる。

 まるで海上に巨大な『何か』が現れたように、

 海底を仄暗い影が覆い尽していった。


 そして深海の如きその暗がりの中に

 妖狐の眼が竜胆色に妖しく浮かび上がる。

 其れは傲慢な態度を取る人間に

 生物としての次元の差をハッキリと理解させた。


「ぅっ……!」


「答えろ小僧。それは『脅し』かと聞いておるのだ。」


「くっ……と、とにかく馬鹿な事は考えるなよ!」


 人外に睨まれた男は

 大した捨て台詞も吐けないまま

 軍勢を引き連れて退散してしまう。


「行ったか……はぁ……」


 やがて境内に再び静寂が戻ると

 狐の宮司は本殿へ戻り客間の戸を開ける。

 其処には魔王に反旗を翻すべく集った戦士たちが

 机を挟みながら陣営毎に並んで座っていた。

 尋常では無い重苦しい空気と共に。


「あの……そろそろ話はまとまりましたか?」


「「いや全く!」」



 ――――


 黒曜大社に集ったのは大きく分けて三陣営。


 封魔局からは元々境内に招かれていた

 朝霧、フィオナ、アリスの三名に加えて

 立体映像で劉雷、エヴァンス、シルバらが

 追加で会議に参加している。


 また鬼の一族からはウラの他に

 帰還したイブキ、ホシグマが参加し、

 途中仲間に加わったルシュディーを含めて

 封魔局側に近い席で固まっていた。


 そんな彼らと対立するような位置には、

 特異点勢力『亡霊達(スペクターズ)』のメンバー、

 シックス、ネメシス、厭世、そして黒幕の姿があった。


「「…………」」


 しかし実を言うと、

 組織間の溝はそこまで深い物では無かった。

 封魔局と鬼の一族との間には既に共闘関係が成立し

 また鬼の一族と亡霊達(スペクターズ)の間に敵対関係は無い。


 そして残る封魔局と亡霊達(スペクターズ)の関係も、

 共通の敵を前にして尚も共同戦線を張れないほど

 特別に深い因縁のある物ではなかった。


(魔王軍は強大だ……共闘の申し出は願ってもない!)


(私たちが封魔局と組めば勝率も跳ね上がる!)


(無論リスクはありますが、その分リターンも大きい!)


 その場にいる隊長や亡霊の多くは

 この共同戦線をかなり前向きに考えていた。

 しかし―― 


「朝霧。その……お前はどう考えて?」


「話しかけないで貰っていいですか?」


((――『朝霧と黒幕(ココ)』の溝がめっちゃ深い!))


 室内をドンヨリと覆う気まずい空気は

 机を挟んで対面に座る男女から発せられていた。

 いやむしろその二人以外からは微塵も出ていなかった。


 そして朝霧の心の傷となった事件を知る分、

 歴戦であるはずの隊長たちは

 彼女をどう説得するかで頭を悩ませていた。


(劉! もう君が共闘宣言してしまってください!)


(ハァ!? ふざけんなエヴァンス!

 俺がキレられるじゃねぇか! お前がやれ!)


(誰かが泥を被るべきなんです……僕は嫌だ!)


 ホログラム越しに漏れた小声の会話は

 その前に座るアリスの耳にも届いていた。

 彼女は困ったように笑うことしか出来なかったが、

 その声を聞きそれまで仏頂面だった朝霧が

 ようやく観念したかのように口を動かした。


「……黒幕。貴方にいくつか質問しても良いですか?」


 刺すような流し目と共に朝霧は黒幕に問う。

 対する黒幕は動揺の色を一切隠せないまま、

 震えた声で「勿論」とだけ返答した。


「じゃあまず……貴方の目的は何なんです?」


「魔王の打倒だ。奴は俺にとっても障壁で――」


「――その後です。魔王を倒して、どうしたいんです?」


 言わば『亡霊達(スペクターズ)の目的』を問う質問だ。

 黒幕はそれを理解すると困ったように声を漏らした。


「……()()()()()。」


「は?」


「魔王が死ねば終わりかもしれないし……

 厄災の時みたいにまだ終われないかもしれない。

 もしかしたら、いよいよ完全に目的を見失――」


「――おい。」


 滑るように回る口を咎めるため、

 隣に鎮座する副長ネメシスが杖を鳴らした。

 その音に反応し黒幕は僅かに平静を取り戻す。


「とにかく、今は魔王殺害しか考えていない。」


(これ以上聞いても答えはしないか……)


 納得出来る解答は全く無かったが、

 朝霧はひとまず飲み込み次の質問を投げる。

 むしろ本命とも言うべき、この質問を。


「あの時の事は、どう思っているんです?」


「無論、お前を騙していたのは悪いと――」


「――違う。私の事はもう良いです。

 それよりも聞きたいのは()()()()()()です。」


(! 朝霧さん……!)


 思わずアリスが朝霧の方へと顔を向けた。

 朝霧は自分が傷付いた体験よりも

 黒幕が働いた悪事の方を咎めたのだ。

 未来に希望を持ち始めた幼い子供たちを

 毒によって皆殺しにしたあの事件を。


「当時は『ただの損得勘定(エゴ)』だと言ってましたね。

 その気持ちは今も変わっていませんか?」


 朝霧の鋭い目線に引っ張られるように

 その場の全員が黒幕へと意識を向ける。

 やがて周囲からの視線を一身に浴びながら

 黒幕は少し落ち着いた様子で口を開いた。


「変わらない……どころか今でも、

 俺はあの選択は正しかったと思っている。」


 ――その返答は朝霧の逆鱗に触れた。


「っ!? 待て桃香!」


 親友が発した制止の声も聞かず、

 朝霧は椅子を蹴飛ばし黒幕を真正面から押し倒した。


「子供を殺す選択が正しい訳ないでしょ……!」


 一本しかない前腕を男の鎖骨辺りに当てると

 飛び込んだ勢いのまま彼の真上を取った。

 当然それを見たネメシスらは臨戦態勢を取り、

 呼応するようにフィオナたちも武器を構える。


 正に一触即発。交渉は決裂したと誰もが確信した。

 が、黒幕は部下たちに警戒解除を命じる。

 そして彼は朝霧の顔を真っ直ぐ見つめ直した。


「自分の行動が『正義』だなんて思っちゃいないさ。

 どうしようも無い悪人だという自覚だってある……!」


 だから、と亡霊は強く言葉を繋げた。


「全てが終わったら俺は喜んで裁かれよう……!

 今まで散々騙してきたが、この覚悟は嘘じゃない!」


「っ……!」


 殺したいほど憎んでいた嘘吐きの

 あまりに真っ直ぐな瞳に朝霧は動揺した。

 感情の揺れから来る震えが止まらない。

 だがそれでも彼女は黒幕を抑える腕から力を抜いた。

 そして怒りを吐息と共に吐き捨てる。


「……言葉では何とでも言えますよね。」


 目線を合わせず朝霧は黒幕に手を伸ばす。

 そして彼を眼の前に立ち上がらせると、

 素早く体を捻り回し蹴りを放った。


「ヌ゛ゥッ!!!?」


 その蹴りは男性の急所に直撃する。

 男性陣が一様に顔を歪める前で倒れる黒幕。

 そんな彼に朝霧は言い放った。


「とりあえず今はソレで断罪って事にします。

 だから後は、言葉じゃなく()()()()()()ください。」


 朝霧桃香、協定に同意。

 今此処に前代未聞の同盟が成った。


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