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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第七章 鉄風の百鬼戦線

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第三話 怪獣達の居る処

 ――魔王軍領・とある森林――


 炎天の日差しが地上を灼いた。

 青々とした草木の生い茂る森の表面を

 焦がしてしまうほどの光と熱気で炙り続けている。


 きっと触れるだけで気力を削られてしまうのだろう。

 だが森林はその灼熱の陽光から庇うように、

 長い行軍で疲弊した鬼の一行を木陰の下で匿っていた。


「サンキチから連絡だ。封魔局が動いた。」


「――ようやくか! よし、ホシグマも呼び戻せ!」


「若……もう少しだけ休まれては?」


「不要だイブキ。さっさと()()に帰るぞ。」


 鬼の若大将は妖刀を包むんだ刀袋を担ぐと

 掌底で額の汗を雑に拭い払った。

 そして遙か遠くの味方を見据えて声を零す。


「ちゃんと覚悟は決めて来たんだろうな?

 ――朝霧桃香。」



 ――空中戦艦五番艦・艦内――


 最初の手掛かりは己の中に流れる鬼の血だった。

 それを抑圧する魔術が埋め込まれていた事から

 朝霧は自身の父親が魔法世界の住人だと推察する。


 次の手掛かりはアンブロシウスで遭遇した敵。

 魔王執政補佐官第四席、硝成の発言だった。

 魔王様が親を知っている、という内容の遺言。

 この一件から朝霧は暴食の魔王に対して

 少なからず興味を持つようになっていた。


 そして決定的となった手掛かりが、鬼の一族。

 彼らのお陰で朝霧は自身が鬼の半血だと理解し、

 同時に父親の名が『拏業(なぎょう)』だと知る事が出来た。


 鬼の一族は朝霧の親を知っている。

 何より彼らは魔王軍と明らかに敵対していた。

 全ての手掛かりは暴食の魔王。

 そうと理解した時点で朝霧は行動に出ていた。


『再三に渡る局長への()()()()()()()()()

 良かったな朝霧。結果的にお前の願いが実現した。』


 二番艦で移動中のドレイクが

 モニター越しに朝霧に向けて小さく鼻を鳴らした。


 戦艦五隻の割当は部隊別。

 基本的には一隻につき一部隊が搭乗しているが、

 比較的数の少ない六番隊と七番隊は

 一隻を共有する形でこの五番艦に乗り込んでいた。


「また一緒に動く事になったな、アリス。」


「ですね! 今回も宜しくお願いします!

 ところで……フィオナさんはどこまで知ってます?」


「ん? 何がだ?」


「朝霧さんのお父さんについて、です。

 その話題が出る度に朝霧さんに()が視えるんですよ。」


 アリスの視る『厄』はあらゆる負の要素の具現。

 どんな思考をしているのかまでは判別出来ないが

 対象の気分の変化にはいち早く察知出来る。

 そんな彼女が朝霧の顔に確かに厄を視認していた。

 父親に対して生まれる、何らかの黒い感情の発露を。


「以前桃香は『復讐したい』と言っていたな。

 ただ、それ以上の事は私も詳しく知らない。」


「そう……ですか。

 でも何で朝霧さんは生き別れた父親に復讐を?」


「――お母さんを捨てたからだよ。」


 二人の会話を聞きつけて

 朝霧がいつにもなく冷めた眼差しで答えた。

 そして慌てる友人たちをそのままに

 彼女は溜まった物を吐き出すように声にする。


「お母さんはいつも辛そうで苦しそうだった……

 まるで常に脅迫されているかのように……

 自分の顔を両手で抑えて震えてる時もあった……」


 だからこそ、朝霧は父親を許せない。


「あんな状態のお母さんを残して、父は消えた。

 もし今ものうのうと生きているのなら私は……

 絶対に()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」


「朝霧さん……?」


 初めてしっかり言葉として出力された感情は、

 普段の朝霧からは想像も出来ないほど歪んでいた。

 そしてアリスはその厄すらも余すことなく視認する。

 彼女の眼では既に朝霧の表情を読み取れず、

 殺意に満ちた瞳のみが濃い靄の中に浮かぶのみだった。


「あ。ごめんね二人とも。関係無い話しちゃったね?」


 かなり様になりつつあった作り笑いも

 今のアリスには見えていない。

 その事にショックを受け彼女は硬直してしまう。

 やがて見かねたドレイクが会話を繋げた。


『全く関係無いって訳じゃ無いだろ、朝霧?

 お前の生い立ちは()()()()()を獲得する鍵になる。』


 封魔局が期待する現地協力者とは

 当然ウラたち鬼の一族の事だ。

 彼らは革命を完遂させ姿を消す直前、

 朝霧に対してある条件を提示していた。


 その内容は――

 朝霧の親について教える代わりに、

 共に魔王軍と戦って欲しい、という物だった。


『土地勘のある戦力が味方になるのは好ましい。

 それに鬼とは人斬り騒動で一悶着あったからな。

 心象の良い仲介役がいるのはありがたい。』


「お役に立てるのなら幸いです。」


 口調だけは非常に穏やかに

 朝霧は喜びの言葉を並べていった。

 その時――


『――!? 全艦、臨戦態勢ッ!』


 レーダーの変化と警報が同時に発生する。

 隊員たちはそれぞれの思考を即座に切り替え、

 訓練通りに各々の配置に付いた。


「敵性反応、多数確認……!」


「方角は?」


「っ……!? ()()です!」


 人々は地上に注意を向けた。

 其処は深い緑の生い茂る山と森の混合地。

 しかしその地表はボコッと歪み出し、

 大地の底から巨大な黒い突起に掘り起こされた。


「敵性確認! 超大型魔獣、出現!」


 地中から飛び出してきたのは

 まるでカマキリとカタツムリを融合したような、

 全身を黒い装甲で覆う巨大甲虫であった。


 まさに怪獣と形容するべき化け物。

 純粋なサイズだけなら邪竜すらも上回る魔獣が

 禍々しい死神のような鎌を振り上げ咆吼していた。


「中小サイズの魔獣も数百体……周囲に出現しました!」


『見たこと無い魔獣だな。データベースにある?』


「いえ……該当ナシ! 完全な新種、もしくは――」


『――魔王軍に改造された人工魔獣、ですね。』


 通信に割り込む形でエヴァンスが口を開く。

 彼の解析眼は既に魔獣の肉体に

 改造の痕跡をいくつか見つけていた。


「改造種……まさか、魔王軍にもう捕捉された?」


『いえ。確証はありませんが恐らく大丈夫かと。

 通信の類いは視えませんし、多分野生化しています。

 ただし――』


 エヴァンスが台詞を繋げようとしたその時、

 巨大甲虫の背中がパカッと開く。

 とても自然の生物とは思えない動きと共に、

 魔獣の体内からは肉のミサイルが射出された。


『――敵意はマシマシですね。』


 ミサイルは戦艦のシールドと衝突し炸裂する。

 結界によって艦体へのダメージは皆無だが、

 衝撃による振動は艦内を大きく揺らしていた。


 またそれと同時に地上の魔獣たちの中で

 飛行可能な複数体が上空を目指して飛び始める。

 戦艦に向けて上昇するその姿は正に

 戦場を目指す航空戦力のようであった。


『さすが魔界。化け物の質が違いますね。』


「関心している場合ですか!

 甲板を開けてください、私が迎撃します……!」


『いえ朝霧隊長。その必要はありません。』


 エヴァンスがニヤつきながら制止したその時、

 戦艦に装備された主砲を除く全ての砲門が下を向く。

 やがてそれらはドレイクの号令と共に火を吹いた。


 否、放たれたのは炎では無い。

 そして実弾でも無ければただの光線でも無かった。

 艦砲が放ったのは『赫い稲妻』。

 五隻の巨大戦艦から地上に向けてソレは降り注ぐ。


「これは……『赫焉』!?」


『正確には火力を下げて範囲を広げたレプリカです。

 共和国との取引で大量の赫岩が入手出来ましたからね。

 既に戦艦の武装は全て――赫岩兵器になっています!』


 魔王軍と()り合うつもりならば、

 前座の魔獣共を相手に苦戦など許されない。

 封魔局はそれを物語るかのような砲撃により、

 接近してきた中小サイズの魔獣を一瞬で蹂躙した。


「す、凄い……」


『驚くのはまだ早い。今のは主砲以外の説明です。』


「ま、まさか……!」


 驚く朝霧の真横で主砲が音を立てて動き出した。

 その照準は下方の巨大甲虫へと合わせられ、

 真っ赤なエネルギーをあっという間に集約させる。


『――放て。』


 淡白な合図と共に撃ち出されたのは

 朝霧の赫焉よりも更に倍はある魔力の塊。

 完全上位互換と呼べる圧倒的火力が、

 地上の巨大甲虫をいとも簡単に貫き穿った。


 やがて怪獣は奇声と共に横へ倒れ、

 天まで届くかのような煙を上げて爆発した。

 圧倒的な文明の力に朝霧は唯々舌を巻く。


(本気だ……本気で私たちは勝ちに来たんだ……!)


 携えた兵器の力は絶大。隊員の数も過去最高。

 そして存命の隊長格は全員揃っている。

 朝霧だけでなく艦内の誰もが勝機を見出していた。

 その時――


「――!? 高エネルギー反応接近!」


 オペレーターの声に隊長たちが反応した。

 いや、一部は報告前に自ら察知していた。

 方角は上。いつの間にか存在していた金色(こんじき)の雲の中。

 誰かが手を打つよりも早くソレは姿を現した。


「「え……?」」


 出現したのは紋章が刻まれた黒い太陽。

 一見無機物のような見た目であったが、

 何故だか「見られている」という直感があった。


 そして隊長たちが何より驚いたのは、そのサイズだ。

 先程倒した甲虫の区分は超大型魔獣であったが、

 黒陽はそれすら小粒に見えるほどの巨躯を有していた。


「■■――――!!!!」


 雷鳴のような耳障りな音が刹那に轟く。

 ――直後、黒い太陽は空を漂う艦隊へと突進した。

 回避の声が響く中、朝霧の視界は黒く染まっていった。


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