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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
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第二十二話 死合結果

 ――三日前・マランザード支部――


「ブレスレット……ですか?」


 護衛任務を二日後に控えた朝霧に

 ミストリナが語りかけた。

 彼女の手にはブレスレット。

 あまり飾り気の無い装飾品に眉をひそめる。


「あぁ、これは私からのプレゼントだ。」


(ミストリナ隊長から、

 オシャレグッズのプレゼント?!

 つまりこれは……)


 ――なぁあんだ、朝霧?

 そのみすぼらしい格好は?

 私の部隊員ならもっと()が無くてはねぇ?


(これは……着飾れ、ってことか!?)


 脳内幻想のミストリナが朝霧を叱責していた。

 あわあわと震える彼女を、

 現実のミストリナが呼び戻す。


「なにやら変な妄想をしてないか?

 これは君の『リモコン』だ。」


「いや! 確かに今まで男性との付き合いはッ!

 …………なんです? リモコン?」


 不要な情報を口走った事すら気付かず

 朝霧の意識はブレスレットに向いていた。

 リモコン。とてもそのようには見えない

 腕輪をミストリナは手渡す。


「君が覚えているかは不明だが……

 ベーゼ戦で暴走中の君は、

 わずかに理性を持っていた。」


「――!! 暴走中にですか!?」


 朝霧にその記憶は存在していなかった。

 だが、ミストリナは確信を持って話を続ける。


「あぁ、元々暴走の原因は『魔力の過負荷』だ。

 何度かその負荷を受け続ければ、

 自ずと耐性もつくのも理解できる話だ。」


「過負荷への耐性……でも、私にその自覚は……」


「分かっている。

 それに簡単にその過負荷を行えないほど

 君の暴走は状況を選ぶ。

 何より、今までの制限の解除は

 ゼロかイチしか無かったのも不便だった。

 ――そこで、コレだ。」


 朝霧の手に握られたブレスレットに指を指す。

 釣られて視線を向けると、

 レバーのような装飾が見て取れた。


「そう!

 そのレバーで君の()()()()()()()()するのだよ!

 名付けて『狂気限定顕在』!

 そして君にはその()()()()()が与えられた。」


「限定開放権?

 ……えっ! つまり私自身が

 暴走する判断を下せるって事ですか!?」


 従来、朝霧の魔力量の制限解除には

 隊長たちの許可が必要だった。

 しかし、今の彼女にはこのブレスレットによる

 魔力量の限定開放が権限として

 可能となったということだ。


「今までの暴走を

 ()()()()()()の魔力量としよう。

 そして平時の朝霧(きみ)が扱える魔力量は

 ()()()()()()()()といった所だろう。

 しかしコレを使えば、

 ()()()()()()()の魔力量が開放出来るのだ!」


「五十パー……暴走時の半分ですか……」


 不安の声が漏れ出す。

 朝霧にとってはその数値ですら、()()のだ。


「あぁ、この開放量は探偵の森泉が

 対ボガート戦でのデータから算出した数値だ。

 このブレスレットも彼発案でな。

 以前よりドレイク主体で開発は行っていた。」


 思い返すようにミストリナは続ける。


「今までは局長の最終許可が

 下りなかったので渡せずにいた。

 だが、今までの評価と名声で

 ようやく使用許可が降りたんだ。」


「森泉さんの……分かりました。

 ちなみに何かデメリットはありますか?」


 少し不安が和らいだ朝霧だったが、

 欠点を聞かれたミストリナの顔は少々強ばる。


「あぁ、すまないが、

 世の中都合の良いことばかりでは無い……

 コレは君の中にある制御術式に

 直接干渉する仕組みなんだが……その際に……」


「その際に……?」


 煮え切らない彼女の反応に朝霧は唾を飲む。


「チクッとして痛い。

 例えるなら()()()()()だ。」


「………………あ、はい。

 特にデメリットは無いんですね。」


「何を言っている!? 注射の痛みだぞ!?

 私はキツいんだが!?」


 平和な封魔局支部は青空であった。



 ――死合会場――


 同じく青空のような天井が広がる死合会場(ここ)では、

 朝霧を中心に魔力が渦巻く。

 吹き出す覇気が空気を揺らし、

 巻き起こす突風がガバルバンの巨体を押す。


 高濃度かつ高出力の魔力が朝霧の全身を覆う。

 それは特別な眼が無くても、

 ハッキリと見えるほどの()()となり纏っていた。


「――――!!」


 ガバルバンの視界から朝霧が消える。

 その事を理解した時には既に、

 朝霧は背後から迫っていた。


「何だと!?」


 いつ拾ったのか、彼女の手には赫岩の牙。

 空気を切り裂く音が重く響き渡る。


 瞬時に陽炎化したガバルバンだったが、

 それと同時に、反射的に大きく飛び退いていた。


 激しい魔力負荷。

 従来の倍の負荷に耐えながら意識を保つ。


(――ッ!!!! 発動時の注射みたいな痛みッ!! 

 ……とかどうでも良いくらいの負荷ッ!!

 ……理性が飛びそう、だけど飛んで無い!

 行ける!!)


 ガバルバンの方へと目をやると、

 彼の太い二の腕から

 わずかに赤い液体が確認出来た。


(やっぱり攻撃、当たってた?

 今までとは違う手応えがあった!

 今までと違うのは……完全な()()だったこと!)


 朝霧は改めてこの死合会場を見回す。

 何も物のないどこまでも続く地平線。

 奇襲に使える物が一つも無い、

 奇襲されるのを拒んでいるかのような、

 殺風景な部屋。


「なるほど? その祝福は

 意識しないと発動出来ない、ってところかしら?

 いかにも正々堂々って感じの

 雰囲気を出しといて、自分だけが有利な戦場で

 戦ってたって訳ね?」


「ふっ、心外だな。

 俺は最初から言っていただろう?

 死合をするぞ、と。

 ルールの決まった試合じゃない、

 殺死合(ころしあ)いだ!」


「…………そう。同情の余地は、無さそうね。」


 ――二人は一歩、また一歩と歩み寄る。

 ジリジリと詰められた距離がゼロへと近づいた

 その時、衝撃が再び空気を揺らす。

 とても人間とは思えない速度で

 拳と大剣が飛び交った。


 しかし、朝霧の動きは

 今までのそれとは明らかに一線を画していた。


 ただ存在しているだけで

 周りを威圧するほどの魔力量を、

 今の彼女は理性を以て『扱っている』。


 その猛攻でガバルバンは次第に、

 陽炎化している時間の方が長くなっていた。


(陽炎化中は俺の実体が無い。

 つまり()()()()()()!!

 加えて魔力もしっかり消費している。

 だが……死合このまま続ければッ!

 朝霧(おまえ)の体力が先に尽きるだろうよ!!)


 そんな事を考えている最中、猛攻が止まる。

 突如目の前でピタリと静止した朝霧に、

 ガバルバンの本能が攻撃を指示した。


「――!! 違う! これは!?」


「魔力放出……出力五十パーセント!!」


 衝撃波がガバルバンを吹き飛ばした。

 攻撃を釣られ、そのカウンターとして

 決まったソレを彼は防ぐことが出来なかった。


「ごはぁっ!!」


 地面を転がり、顔を上げる。


(――!!!? ()()()!?)


 朝霧を見失った彼の()()から殺気が迫る。

 刹那、地面に大剣が突き刺さった。


「――ッ! おぉお!! 陽炎化ッ!!!!」


「……完全に実体を消した、か。

 やっと暗殺者っぽいことしたわね。」


 姿を消した巨漢に対して朝霧は煽る。

 当然、カウンターを狙っている。

 それはガバルバン自体も理解しているのだろう。

 一切の反応が無い。


(……コレはマズいか?

 この死合会場じゃ()()()()()が無い。

 全く……自分は奇襲を受けにくく、

 相手は奇襲を避けにくい。

 ホントにフェアとはほど遠い。)


 朝霧は周囲に微弱な魔力を放ち、

 ソナー索敵のように敵を探す。

 発見には至らないが

 奇襲に対しての即座の反応は期待できる。

 

()()()()()だ。カウンターで決める!)


 少しの間沈黙が続く。無言の緊張が立ちこめた。

 ――その膠着は突如崩れた。


「――!! そこだぁあ!!」


 朝霧は片手で大剣を振り抜く。再び響く重低音。

 索敵で捉えた巨漢を目がけて振り抜いた。

 ……しかしその攻撃は虚空を裂いただけだった。


「な!?」


 その目にガバルバンが映る。

 その肉体は依然見えず、()()()()()()していた。


「部分的に実体化したのか!?」


「顔を出せばお前は釣られると思ったぜ!!

 今度は俺がカウンターする番ってこったぁ!!」


 肉体が実体化する。拳が浮き出る。

 朝霧の顔を目がけて迫りくる。


「終わりだ!! 『殺人拳』ッ!!!!」


「――終わるのはお前だ。」


 朝霧の片手。

 大剣を()()()()()()()()()に魔力が纏う。


「何だと!?」


 二人の拳が交差した。

 しかし、朝霧の攻撃の方が圧倒的に速い。


 振り抜いた大剣の重さからくる重心移動が、

 朝霧の拳を加速させたのだ。


 拳が巨漢の顔面を打ち抜く。

 既に攻撃に移っていたため、

 陽炎化も間に合わない。


「吹っ飛べ――――ッ!!」


 弾丸のように巨漢は空中を回転した。

 力の抜けた手足がプロペラのように回る。

 地面に衝突する頃、既に意識は飛んでいた。


「『死合』とやらは……私の勝ちのようね。」


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