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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第六章 悠久寒苦のラストベルト

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第四十一話 連累の枷

 ――――


 それは僕が七歳の時だった。

 首都スネグーラチカで酒場の子として生を受けた僕は、

 その当時から積極的に店の手伝いをしていた。


 いわゆる看板娘としてだ。


 別に僕はその扱いに不満は無かった。

 大人たちに可愛がられるのは悪くなかったし、

 何より両親を助けているという事実が嬉しかった。


「キーラちゃんは本当に良い子だね~!」


「将来はやはり店を継ぐのかな?」


「それまで俺らは綺麗な肝臓残ってるかな~!?」


 常連客たちは人が良い。

 両親と共に笑い合い、互いに愚痴を吐き捨て、

 皆で怒って、泣いて、最後はいつも大合唱で幕を引く。

 幼い僕はいつも早い時間で寝かされたけど、

 彼らの野太い歌声が何より心地良い子守歌だった。


(――あぁ、こんな日がずっと続いて欲しいな。)


 やがて両親の店は繁盛した。

 常連客以外にもお客さんは増えていき、

 両親も毎日夜遅くまで忙しそうに働いていた。

 当然僕も両親の助けになりたくて頑張った。


「あれぇキーラちゃん、そのペンダントは?」


「えへへ、この前お父さんが買ってくれたの!」


「はぁ~なるほど! 俺たちの酒代は

 キーラちゃんのおめかし代になってる訳か!

 こりゃ良い! 投資と思えば酒も進む!」


 新規のお客さんが増えても、

 常連客たちは相変わらず僕を可愛がってくれた。


「しかし、この店も若い人が増えてきたね~!」


「マナーの悪い奴もチラホラいるがな……」


「良いじゃないか! 店は金を儲けりゃ正義だよ!」


 俺たちはずっと通うぜ、と

 常連客たちは親指を立て僕に笑顔を向けた。

 僕も何となく嬉しくて親指を立てる。


「あぁキーラちゃん、注文いいかい?」


「うん! いつもの、だよね?」


「流石看板娘。俺はこれだけが楽しみでね~」


 僕はその常連客のために酒瓶を取る。

 棚の奥の方に眠っていた他とラベルの違うお酒を。

 だがそんな僕の姿を父は静かに見つめていた。


 ――数日後、その酒はメニュー表から消えていた。


 何故かと父に問うてみると

 仕入れ値に対して売り上げが悪いからだという。

 そしてその酒を購入するのに使うお金で

 もっと若者受けする酒が大量に入手出来るらしい。


「でも……あの人は『これだけが楽しみ』だって……」


「分かっているさキーラ。けどな?

 店は金を儲けてこそ正義だ。常連さんも言ってたろ?」


 理解は出来る。けど納得は出来ない。

 案の定その常連客はその日を境に来なくなった。

 目当ての酒が無いと知った時の彼の顔は

 しばらくの間脳裏にこびり付いて離れなかった。


 だが父は気にせず売り上げの事を考え続けた。

 横と会話をしなくても良い個室を増やし、

 メニューもどんどん若者向けの商品に変えて行く。


 それに伴い、僕を名前で呼ぶ客も減っていった。


「店員さん、トイレってどこ?」


 そんな事も知らない客ばかり。


「あのおっさん煩いんだけど、追い出してよ!」


 今までの雰囲気を嫌う客ばかり。


「え、君何歳? 嫌だったらちゃんと言うんだよ?」


 うるせえよ。誰だお前?


 ――更に日は経ち、近くに別の店が出来た。

 客の大半はそちらに流れ、両親の酒場は閑古鳥。

 やがて母は病死し、父は借金に追われ、店は潰れた。


「……なんで、なんで……!」


 しんしんと雪の降る街道を汚れた服で僕は進む。

 この時僕は十三歳。勉学に励む金も無い。

 そんな僕に残ったのはたった三つだけ。

 消えた父の代理人として負った莫大な借金と

 埋め合わせのために受けた苦痛、そして怒りだ。


 ――許せなかった。


 客を奪った店もそこに流れたミーハーな客も、

 ずっと通うなどと嘘を吐いた常連客も、

 そんな彼らをないがしろにした愚かな父も。


「同罪だ、皆同罪だ……!」


「――やはり欲とは、毒ですね。」


 その時ボロ雑巾のような僕の前に現れたのは、

 黒いドレスに身を包んだ美しい魔女だった。

 彼女は全てを見透かしたような目で僕を見つめ、

 小さく「救ってあげましょう」と呟いた。


 数ヶ月後、僕は父を見つけ拳銃を向けた。

 この時装填されていた弾丸は一発だけ。

 僕はその一発に煮えたぎる怒りの全てを込めた。


「祝福『連累(れんるい)の枷』……!」


 弾丸で父の心臓を撃ち抜く。

 それと同時に各地で数十人の人間が死んだ。

 一秒の差も無く、皆が心臓を損傷していた。


(同罪だ、皆同罪だ……!)



 ――現在・城内東棟――


 キーラは自身の祝福を発動した。

 その直後華奢な彼女の体を中心として

 禍々しいエネルギーの球形結界が展開された。


 結界は瞬時にエレノアとシアナも内部に捉え、

 かなりの広範囲に展開された直後に消滅する。

 全ては一瞬。瞬きの合間に起きた出来事だった。


(な……にをされた!? 祝福!?)


 エレノアは自身の体に違和感が無いかを探る。

 だが状況を整理する間も無くキーラは動いた。

 動揺するエレノアへと一直線に駆け出し、

 磁力に負けぬようにナイフでの殺害を試みる。


「……しまっ!」


 反応の遅れたエレノアは大きな隙を晒した。

 しかしその直後、内外を隔てる壁を破壊し

 キーラを真横から何かが強襲を仕掛ける。

 鳴り響くのはけたたましいエンジン音であった。


「『オルタナドライブ』ッ!」


 両腕で防御するキーラを奥に蹴飛ばし、

 全身に機械装甲を纏ったグレンが降り立った。

 その後ろでは白亜の騎士に縋るリーヌスもいる。

 二人の到着でエレノアは僅かに微笑んだ。


「結局来たんだね、二人とも!」


「あぁ。やっぱあれこれ考えるのは性に合わねぇわ!」


「僕一人で逃げるのもダサすぎますからね。」


 シアナを含め、四対一。

 数の有利はやはり生物に安心感を与える物だ。

 まして今はキーラのガスマスクは破壊され、

 彼女の厄介な毒ガス散布攻撃も封印出来ている。


「この距離ならこっちの間合いだ、一斉に行くぞ!」


 グレンの掛け声で四人はキーラの元に向った。

 例え一人が対処されても残り三人が攻撃出来る。

 これなら勝てるという確信が四人にはあった。


 しかし、キーラは冷静に引き金を引く。


 撃たれたのはエレノア。

 鉄槌を担いでいた腕の肩を撃ち抜かれた。

 しかしこの程度なら致命傷では無い。

 エレノアは痛みを我慢し戦況に目を向けた。


(え?)


 そして彼女は驚愕した。

 何故なら彼女が撃たれたと同時に

 他三人も肩から血を吹き出していたからだ。

 恐らく誰もが「自分が撃たれた」と思っただろう。


「ッ……! この程度……!」


 異常に気付かずシアナは攻め続けた。

 まず尻尾を鞭のようにしならせ攻撃を放つが、

 その一撃に合わせてキーラはナイフを突き刺す。


 シアナは痛みに顔を歪ませるが

 すぐに身をよじりキーラの顔に裏拳を放った。

 亜人に強く頬を殴られたキーラは体勢を崩すが

 逆にその勢いを利用し見事な回転蹴りを打ち込む。


 ――直後再び異常な事が起きた。

 シアナのこめかみに直撃した蹴りの痛みが、

 同時に他の三人にも襲いかかったのだ。

 当然キーラに直接蹴られた訳では無い。


「まさかこれって……グレン! リーヌス!

 アンタたちもさっきの結界に当たった!?」


「ヤバい色してた奴か! 確かに触れちまった!」


「つまりこれって……僕たち全員……

 互いのダメージが共有される状態という事ですね?」


 ナイト・キーラの祝福『連累の枷』は

 エレノアたちが予想した通りの能力である。

 不可視の枷によって繋がれた者の命は一蓮托生。

 誰かが死ねばそれと同時に残る全員も死亡する。

 多くの者を憎んだ彼女に相応しい祝福だ。


(マズいこれじゃ……数の利が活かせない!)


「同罪だ、皆同罪だ……!」


 能力が割れた事を察知すると

 キーラは再び特殊な銃に持ち替え毒ガスを散布する。


「こいつマスクも無しに!? 自爆覚悟か!?」


「違う……! 僕たちの方が早く倒れるからだ……!

 四人分の毒ガスダメージで、四倍速く死ぬんだ!」


 状況を理解し四人は決意を固めた。

 しかしそれは此処から撤退する決意では無い。

 今の位置なら逃げるより接近する方が早いからだ。

 何より、今後今以上に近づける確証も無い。


「時間は無い……この一瞬で終わらせるぞ!」


 四人は同時に息を止め持てる力の全てをぶつける。

 白亜の騎士の斬撃が、機甲兵の重たい蹴りが、

 磁力を纏った殴打が、毒鉾の刃がキーラを襲った。


 戦いは東棟内を縦横無尽に駆け巡り、

 破壊と移動を繰り返しながら数十秒続いた。

 しかし移動の度にキーラは毒を撒き、

 僅かでもダメージを負う度に四人は苦しむ。


 やがて四人の顔色は明らかに悪くなり、

 まだまだ元気なキーラに追いつけなくなっていた。


(まずい、このままじゃ……僕らが先に落ちる!)


 戦闘を白亜の騎士に任せながら、

 自身の足で移動していたリーヌスは

 莫大な魔力消費と元々少ない体力の消費により

 見るからに限界に近づいていた。

 そしてその事にキーラも目を付ける。


(――穴はアイツだな?)


「ッ!? リーヌス……!」


 キーラは壁を蹴って進行方向を変えると、

 最後尾にいたリーヌスに狙いを定める。

 誰もが助けようと手を伸ばすが遅かった。


 ――弾丸はリーヌスの胸部に撃ち込まれた。


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