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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第六章 悠久寒苦のラストベルト

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第三十六話 妹との再会

 ――首都・正門前――


 遠くの方で僅かに爆発が見えた

 次いで冷え切った空の中を爆音が駆ける。

 本来の計画には無いその戦火に

 正門の兵を引きつけていたユノたちは戸惑う。


「っ……! イナさんとは合流出来たのか?」


 彼女たちの作戦を次に進めるためには

 城内に捕虜となったイナの保護が必要だった。

 彼女を人質に取られては何も出来ないからだ。


 しかし報告よりも先に城内で発生した爆発は

 ユノたちの顔に不安の色を浮かべさせた。

 するとその時、彼女の無線に通信が入る。

 敵軍一万を足止めしていたハウンドからだった。


「ハウンドさんか! そっちはどうなった?」


『お陰様で死の風の直撃は避けられた、が敵は逃した!

 大きく迂回するルートで首都(そっち)に向ったぞ!』


「了解。ならば君らもこっちに合流してくれ。

 迂回しない分敵より速く辿り着けるはずだ!」


『それは良いが、「()()」って奴がまだだろ?』


 ハウンドの指摘でユノは

 頬に汗を浮かべながら黙り込んだ。

 そして再び城へと目を向けた。

 するとその時、前衛の部下たちが騒ぎ出す。


「会長……! 下がって!」


「ッ!?」


 ユノは咄嗟に回避行動を取るが、

 接近してきたソレは彼女よりも速かった。

 鋭いツメをユノの肩へと突き刺し、

 彼女の頬に真っ赤な血を付けた。


「チッ、頭取れば勝ちだと思ったんだがな……」


「まさか単騎で陣形の奥までブチ抜いてくるとは!

 滅茶苦茶だな、人狼王・ルーク・ヴォルフ……!」


 真っ赤に染まった鋭利な爪牙をガチャンと鳴らし、

 整った顔の人狼は周囲の人類を威圧した。



 ――少し前・西回廊――


 時間は竜人公が死の風と相打ちになった直後、

 革命軍との戦いは城下町の向こうだけで起きていると

 思っていた王城の政府軍兵士は

 喉元に迫った危険を文字通り肌で感じていた。


「この熱気……ルークか!? 一体何が起きた!」


「敵は南から来ていたんじゃ無いのか!?」


「我々はどうする……? このまま警備か?」


 回廊に集う兵士たちは慌てながらも動かない。

 ただ女帝からの指示が下るのを待ち続けた。

 しかし普段なら迅速に動くはずの彼女は

 玉座の間から一切の動きを見せる事はなかった。


 やがて不安が兵士たちの心を支配し始めたその時、

 城の内部へと続く回廊の奥から

 ドタドタと激しい足音が聞こえてきた。


「? 誰だ……?」


 状況が状況なので一応の警戒だけはしながら、

 兵士たちは近づく喧騒に耳を澄ませる。

 だが聞こえてきたのは少女の叫び声だった。


「うわあぁあああ来ないでぇえええぇえぇええ!」


 雪の世界を思わすような銀色の髪を振り乱し、

 少女は号泣しながら回廊へと侵入した。

 兵士たちは場違いな存在に一瞬キョトンとするが、

 すぐに彼女の正体を察知し取り乱す。


「「アイツ捕虜じゃね?」」


「うぁああああ前からも敵だぁああああ」


 銀髪の少女、イナは回廊の兵士に気付くと

 一瞬だけその場に立ち止まる。

 が、チラリと来た道を確認すると

 決心したように身体を前に動かした。


「うぅ……! 兵士(こっち)の方がまだマシだ!」


 イナは銃を構えた兵士の方へと突っ込んだ。

 それだけ彼女は自身を追う存在に恐怖していた。

 だがそんなイナを見て(くだん)の追手は呆れかえった。


「全く、ヒトを外見で決めつけるな……」


 回廊の奥からその人物はぬるりと飛び出す。

 やがて一瞬で、前を駆けるイナの先へと回り、

 彼女を捕らえようとした兵士を八つ裂きにした。

 それを証拠とし男は自身の旗色を宣言する。


「そら良く見ろ! ワシは味方だ!」


 大量の返り血を浴びた姿で。


「ぎゃあああああ!!」



 ――城内・合流地点――


「――!? イナの声……この上だ!」


 妹の叫び声にリチャードが真っ先に反応した。

 それに釣られツヴァイも声の方へと顔を向ける。


「西回廊? 何んでそんな所に?」


「とにかくこっちの存在を知らせないと!」


 妹の事となると途端に

 リチャードは平静ではいられなくなる。

 目をギンギンに血走らせながら、

 端から見れば引くほどの声と手振りで妹を呼ぶ。


 すると、そんな呼び声に男の方が気付いた。

 スッと回廊の手すりから顔を覗かせ、

 リチャードらが連邦の兵士でないと察すると

 ニヤリと笑い問答無用でイナを捕まえる。

 そしてリチャードたちに大声で叫んだ。


「俺はオロバスって悪魔の味方だ!

 お前らがこの小娘を回収しに来た革命軍だな?」


「「――!?」」


 リチャードたちからは男の顔が逆光と重なり

 確認することが出来なかったが、

 内通者(ハヤウマ)の正体を知るという一点で

 彼が味方であるという確信を持てた。


 しかし丁度その時、

 騒ぎを聞きつけた連邦の兵士たちが

 回廊および合流地点の両方から現れる。


「チッ! 合流はこの先でやろうや!

 外殻塔を越えた先の城下町に繋がる広場だ!」


「あ、待て!」


 リチャードの返答を聞くより早く、

 男は放たれた弾丸の合間を抜け

 指定した位置を目指す。


 仕方無いのでリチャードたちも駆け出すが、

 追尾する敵の攻勢は想像以上に激しかった。


 だがそれもそのはず。

 何故なら彼らを追っているのは

 狩りの技術に長けた亜人種であったからだ。


「……! この人たち……エルフ!?」


 迎撃中にその正体に気付き

 思わずアリスは困惑してしまう。

 その隙を狙った森の歩哨の放った矢を

 ツヴァイが半透明の刃で打ち払った。


「止まらないで! 恐らくあの女が来る!」


「あの女……?」


「ルークの一角……森人姫・スベトラーナ!」


 ツヴァイが名を呼んだ正にその時、

 空中に妖しく輝く一本の矢が撃ち放たれた。

 やがてその矢は無数に拡散し、

 リチャードらの周囲を広範囲で破壊する。


「ッ……! アリス!?」


 リチャードが顔を上げた時、

 彼らとアリスのいる場所の間には

 巨大な瓦礫が積み上がっていた。


「どうやら恐ろしく強いのがいるみたいですね。

 ……どうぞお先に! ここは私が引き受けます!」


「何を……!?」


 青年の言いかけた言葉をツヴァイが止めた。

 今は先を急ぐべきだと目で語る。

 リチャードは彼女たちの意志を汲み取り

 たった一言「頼んだ」と告げ走り出した。


 彼の言葉を聞き、瓦礫の向こう側では

 額から血を流したアリスが微笑んだ。

 そんな彼女の周りを複数の狩人が囲む。


「どうした少女? 死期を悟って狂ったか?」


 やがて矢を番えた狩人たちの中から

 スラリとした体型の耳長の女が歩を進める。

 軍服姿の美しいそのエルフが、

 話題に上がっていた森人姫だとアリスは悟った。


「いいえ? むしろやる気が漲ってきた!

 私もこういう事やる立場になったんだなってね!」


 高揚を声に乗せ、

 アリスは指輪に貯まる禍々しい魔力を解き放った。


(絶対、イナちゃんと合流してくださいね!)



 ――城内・広場――


 どうやらスベトラーナが手を回したようで、

 此処にも既に多くの敵兵が集まっていた。

 ツヴァイが低空飛行で回転しながら

 並み居る敵を斬り裂き、王のための道を作る。


「リチャード! 早く!

 アリスの犠牲を無駄にしないためにも!」


「縁起でも無い事言うな、バカ!

 封魔局員の奴らは強い……簡単にやられるかよ!」


 脳裏に二番隊の騎士を思い浮かべながら、

 リチャードはとにかく広場へと急ぐ。

 やがて二人は指定された場所へと着き、

 協力者の男に護られたイナを発見した。


「イナァ!」


「! お兄ちゃん……!」


 銀髪の兄妹は互いの姿を認識すると

 息を合わせたように同時に駆けだした。

 そして遂に、身体を抱き合わせ再会を果たす。


「ごめんな……イナ、俺が不甲斐ないばかりに!」


「ううん! 大丈夫、私は平気!

 むしろこの人に追われている時が一番怖かった!」


 涙を流すリチャードとは対象的に

 イナは笑顔で護衛してくれた男を指差した。

 対する男は「何でだよ」と不満の声を漏らす。

 ――がその瞬間、彼の身体を弾丸が襲った。


「「なッ!?」」


 弾丸は着弾と共に炸裂し男を数メートル吹き飛ばす。

 襲撃に気付きツヴァイは刃を構え、

 リチャードは妹を抱きかかえた。

 するとそんな彼らの前に二人の人物を先頭とした

 連邦政府軍の武装兵たちが現れる。


(……!? あのガスマスクのチビ。

 まさか連邦の最強軍人、ナイト・キーラか!?)


 リチャードは黒い装備で顔を覆う銃士に戦慄した。

 そして慌ててツヴァイの方へと目を向けるが、

 彼女はキーラの隣にいた別の人物を凝視していた。


「……ァ? ア! アァッ……!」


 その人物もツヴァイに気付き声を上げる。

 病的なまでに曇った表情を浮かべながら、

 ぐにゃりと身体を曲げ彼女の方へと向いた。


「やっぱり、避けられないか……」


「ツヴァイ姉ェ……! 裏切り者ォ!」


 唇を噛むツヴァイの前で

 その赤黒いドレスに身を包んだ女は叫ぶ。

 憎悪と恐怖に塗れたその声はまるで、

 怒り狂った獣のソレであった。


「フィーア……!」


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