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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第六章 悠久寒苦のラストベルト

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幕間の一 オープニングエンド

 ――レジスタンス拠点――


 天井に穿たれた穴から冬の寒さが入り込む。

 しかしそれと同時に点けっぱなしの暖房が外へと漏れた。


 いや、点けっぱなしなのは暖房だけでは無い。

 通信機、レーダー、内部機材の制御装置。

 その他諸々の生き残った機材が稼働し続けていた。


「死の風……我々の間ではあまりにも有名な話だ。」


 愛用の椅子に腰を深々と落とし、

 血塗れの男は吐息と共に台詞を溢す。


伽話(とぎばなし)の中でも、その名は出ていた……

 王国を支えた『生命の泉』を破壊したのもソレだ。」


 独り言のように男は続ける。

 しかし彼の話を聞いている者はいた。

 機材を操作する作業の片手間で、

 男の話に耳だけを傾け続ける。


「文明の破壊……それが『死の風』唯一の性質だ。

 アレは独自の基準で襲う標的を決めている……」


「――つまり、空中戦艦(マクシミリアン)よりも

 ()()()()()()()()()が索敵範囲内に出現したら?」


「あぁ、そっちに移動を開始する。」


 断定した男の発言に満足すると、

 作業をしていた方の男はニヤリと笑った。

 金髪に黒い肌をした、隊服を纏う男性。

 即ち、二番隊員のケイルであった。


「悪いなケイル殿……私が動ければ君も……」


「気にしないでくれ()()()()殿()。元々助かる道は無い。

 ならせめて、仲間のために命を使うだけです。」


 死の風は文明の熱とやらに反応する。

 故に彼らは拠点内の全ての機材を起動したのだ。

 空中戦艦から自分たちに標的を変えるために。

 女帝および政府軍に破壊こそされたが、

 それでも尚、風を呼び込めるだけの息吹があった。


「でもまさか、本当に戦艦よりも優先されるとはね……」


「……十年だ。十年間我々を養ってきた拠点だ。

 悪いがたった一、二年の兵器一つに負けはせんよ。」


「……その事で前から聞きたかったんだが?」


 自信満々に語る総司令に対し、

 ケイルは以前から引っかかっていた疑問を投げた。


「アンタらの()()()()()()()?」


「…………というと?」


「それこそ死の風対策か、機材の一つ一つは古い。

 だが揃いすぎている。他拠点も同等なら相当だぞ?」


 戦争で最も問題となるのは資源の確保だ。

 補給が無ければ戦争を続ける事は出来ない。

 普通のレジスタンスなら政府の統治する領域で

 十年も抗争をする体力などあるはずが無いのだ。


「つまり、支援者がいるんだろ?」


 あくまでもケイルは柔らかい口調で問う。

 それほど彼にとってこの質問が

 純粋な興味以上の物では無かったのだ。

 しかし総司令官はグッと口を(つぐ)む。


「悪いが……名は言えないな。

 何処で誰が聞いているかも分からん……」


(それもそうか。)


「だがまぁ……あえて言うのなら――

 こういう事に首を突っ込む活力を持った女性(ヒト)だ。」


 その時、点けっぱなしの機材が通信を拾う。

 届いたのはリチャードからの緊急通信であった。


『こちらリチャード! 其処に誰かいるのか!?』


「おうリチャード……無事脱出は出来たのか?」


『総司令!? いえ、艦は領域内に不時着しました。』


 青年の言葉に二人はギョッとする。

 そして慌てたケイルが会話に割り込んだ。


「おい皆は無事か!? 何人生き残った!?」


『ケイル!? アンタそっちにいるの!?』


「その声はメアリーだな? どうなった?」


『艦に乗ってた奴はとりあえず全員無事だ。

 移動は出来ないが、艦も何とか大破は免れた。』


「っ……! そうか……!」


 とりあえずの生存報告に二人は安堵した。

 だがその直後、通信が大きく乱れ始める。

 どうやら大寒波が二人を迎えに来たようだ。


『それよ……イル! アンタ……――の!?』


「何言ってるか分かんねぇよ!

 ……悪いが、そろそろ通信が切れそうだ。」


『……!? ――……!! ……!』


 ケイルはそっと通信機を手放した。

 同時に総司令も胸元で手を組み目を瞑る。

 爆発する音がした。機材がぶつかる音がした。

 壁一枚を隔てた少し先で、鉄板の剥がれる音がした。


 やがて白い旋風が管制室を呑み込む。

 死の風という通称も納得せざるを得ない崩壊の前で、

 精霊使いは遙か遠くの仲間に向け親指を立てた。


「――幸運を(グッドラック)、封魔局!」



 ――空中戦艦・不時着地点――


「……っ!」


 雪に覆われた背の高い林の中で、

 黒い煙を上げマクシミリアンは停止していた。

 任務は失敗し、脱出は叶わず、仲間を失って。


「メアリー隊員……」


 ハウンドはそっと彼女に手を伸ばす。

 ――だがその時、周囲の林で何かが動いた。


「っ……! 総員、臨戦態勢……!」


 動ける者は戦艦を護るために外に出る。

 疲弊しきった腕で重たい銃を林に向けた。


「追手か!? 馬鹿な早すぎる!?」


「……どうやら俺たちは敵を舐めてたようだ!」


 任務は失敗し、脱出は叶わず、仲間を失った。

 二人の隊長格と新兵器が負けるはずは無い。

 そんな油断と慢心が何処かにあったのだろう。


 だが敵は彼らが思うよりもずっと、強大であった。



 ――同時刻・城内――


「敵はゼント瑚周辺の林に不時着しました。

 既に周辺の駐屯兵を向わせてあります。」


 黒き靄のような転移魔術で城に戻った女帝に対し、

 配下の官僚がすぐさま出迎え報告を行う。

 だが騎士聖との戦闘で疲労の溜まっていた彼女には

 優秀な官僚の声すら耳障りに感じていた。


「チッ……」


(え? 舌打ちされた?)


「私は疲れています。すぐに食事の準備をしなさい。」


「ハッ! ……あ、いや、しかし……

 この後は例の客人を招いてのパーティがありますが?」


 指摘する官僚を女帝は鋭く睨み付ける。

 官僚は思わずギョッとするが、

 それを見て女帝はどうにか苛立ちを押さえた。


「そうでした。それに出席してもらうために、

 クレヴィアジックの仕事を手伝ったのでした……」


 それがこんな、と女帝は頭を抱えた。

 一言ずつ言い終えるたびに漏れる溜め息に、

 官僚は思わず身体を心配し提案をする。


「中止にしますか? 先方に断って――」


「――ふざけないでください。

 相手が誰だか、ちゃんと分かっているのですか?」


 女帝は押さえようとした怒気を解き放った。

 それほどまでに官僚の発言が逆鱗に触れたのだ。

 彼女の怒りは城を揺らし、外にまで漏れ出る。


「今夜のいらっしゃるのは――」



 ――城外――


「地震であろうか? 城が揺れたようだが?」


 本来肌が露出する部分を包帯で覆い、

 笠を被った和装の男が城を見上げる。


「さぁな! やべぇ化けモンでも居るんじゃねぇか!?」


 体躯に見合った豪快な呵々大笑をしながら、

 隻腕の大男が残った腕で腹を叩いた。


「んーっ! 戦慄! 恐らく女帝陛下かと?」


 ニヒルな笑みを顔に貼り付け、

 真っ黒なローブで顔を隠した人外が叫ぶ。


『お前ら、ふざけてないで行くぞ。』


 少し焦ったように時計を気にしながら、

 黒いコートを羽織る竜の骸骨頭が叱責した。



 ――――


「――あの≪黒幕≫なのですよ?」


 女帝はそう言い放つと破れた服を魔法で脱がし、

 慌てて官僚が目を逸らした一瞬で

 豪華で艶美な夜会のドレスへと衣を替えた。


「トラブルはありましたが、全て些事です。」


 連邦側の主戦力に損失は無い。

 それどころか、敵は全力を出してすらいない。


 しかし封魔局は疑いようも無く敗北した。

 無駄な一手など無かったはずなのに。

 その理由はあまりにも単純かつ明白――


 ――彼らが思うよりもずっと、敵が強大だったのだ。

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