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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第六章 悠久寒苦のラストベルト

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第十八話 四つ目の魔女

前回は急な休載でご心配をお掛けしました

今回から通常通り、平日週5投稿を再開します


今後とも応援よろしくお願いします

 ――レジスタンス拠点・トロッコ発着場付近――


 女の前に人が立ち塞がった。

 特段、話す事も無かったので葬った。

 何か恨み言を残したような気もするが、

 がなる焔の揺らめきに亡者の雑言は容易く消える。


「女帝だと……!? 何故こんな所に!?」


「いや……同胞の無念を晴らす時だ!」


「此処で全てを終わらせる!」


 拠点に残るレジスタンスは女帝に向う。

 湧き上がる恐怖を勇気で押し殺し、

 使い慣れた武器をたった一人の女に向けた。


(……理解出来ませんね。)


 阻む者たちを女帝は容易く指先で殺す。

 触れられてすらいないのに、血肉が爆ぜる。

 まるで作業。きっと機械でも代替可能だろう。

 ぼんやりとした表情で女帝は歩み続けた。


(死が早まるだけなのに、何故抗うのです?)


 退屈な作業を続けながら、

 女帝はやがて拠点の端へと辿り着く。

 其処は地下洞窟へと伸びるトロッコ発着場。

 どうやら裏切り者はこの先に逃げたようだ。


「貴女もそうですよ、ツヴァイ?

 そちら側に勝機などあるはず無いでしょう?」


 女帝は袖口から洋菓子の包みを取り出し食す。

 直後、ぱっくりと割れた腕の傷が修復された。


「それでも抗うというのなら、いいでしょう――」


 女帝はゆっくりと目を瞑る。

 すると彼女の身体は人の輪郭を失い、

 同質量の雪のような煙へと変化していった。


「――愚か者は、土へと還してあげましょう。」



 ――地下通路――


「――! この気配……!」


 背後からただならぬ悪寒を感じ

 トロッコを操作していたツヴァイは身震いした。

 だがすぐに気を保ち朝霧を抱え直す。

 そして繋ぎっぱなしの無線に向けて怒鳴りつけた。


「騎士聖! 女帝の気配がした……!」


『とにかく市街まで来い!』


「何か策はあるんだろうな!?」


空中戦艦(マクシミリアン)を手配した! 十五分後に来る!

 それに生存者を全員ぶち込んで脱出するぞ!』


 捕虜交換は完全に失敗となった。

 この期に及んでまだ撤退を選択出来ないほど

 アーサーは愚かでは無い。

 彼は既に市街の生存者をかき集め始めていた。


 だが、女帝相手に十五分の待ち時間は長過ぎる。

 女帝の実力を知るツヴァイは強くそう感じていた。


「撤退まで、耐えきれるの……?」


『耐えきるために俺が相手をするんだよ。

 それよりお前、女帝の祝福が何か知らないか?』


 少しでも成功率をあげようと

 アーサーはツヴァイに情報提供を求める。

 がしかし、彼女は無線の前で首を横に振った。


「知らない……いや本当に。

 女帝の祝福は官僚たちも知らないと思う……」


『仲間にも隠しているって事か。』


「でもこれだけは知ってる。女帝は――」


「――何やら楽しそうな話をしていますね?」


「ヅッ!?」


 いつの間にか真横に現れた白い煙の中から、

 ぼんやりと浮かぶ女帝の顔がツヴァイに話しかける。

 慌てて刃を振るうツヴァイであったが、

 雪はヒラリと優雅に交わし彼女の背中を攻撃した。


「がぁ!?」


 トロッコの中でツヴァイが倒れる。

 彼女の悲鳴を聞きアーサーが声を掛けるが、

 鳴り響くその無線を女帝の黒い棘が貫き壊す。

 そして彼女はトロッコの淵に腰掛け、

 庇うように朝霧の前に身を置くツヴァイを眺めた。


「随分とその者に懐きましたね?

 そんなに良い人だったのですか?」


「……はい。もう私はこの人を殺せない。」


「朝霧桃香、ですか。残念ですね。

 私もぜひ一度お話してみたかったです。」


 心にも無い事を呟くと、

 女帝は周囲に無数の黒い球を展開する。

 それが串刺しの前兆であると知るツヴァイは

 朝霧だけも護ろうと彼女に覆い被さった。


 ――とその時、彼女らの頭上で轟音が轟く。


 線路が通る地下空間に侵入してきたのは

 夕空の暖かい光と七色に輝く結晶の柱であった。


 女帝は瞬時に展開した球を迎撃に当てる。

 だがその隙にうねる飴の触手が

 ツヴァイたちを捕まえ地上へと上げた。


「こ、これは……!」


 飛びつつある意識の端でツヴァイは

 著しく変化する光景の中にアーサーの姿を確認した。

 そして彼は二人を柔らかい飴の中へと雑に放る。


 直後、彼女たちの下へと

 アリスがレジスタンスを連れ駆け寄った。


「二人とも気を失っています! 手を貸して!」


「ルスキニア隊員。避難の方は任せた。」


「――! 了解です。アーサーさん。」


 地面の穴から感じる厄を視認し、

 アリスは瞬時に今の状況を理解した。

 そしてレジスタンスを指揮し二人を運ぶ。


「どうかご無事で!」


 叫ぶように言い残すと彼女らは避難する。

 瓦礫の山に残ったのはアーサーと、

 殺気立ったレジスタンスの精鋭たちだった。


「……お前らも避難した方がいいぜ?」


「いや、総司令の仇を討つ。」


「お前もかよ? リチャード?」


「えぇまぁ。けど此処で死ぬ気は無い。

 俺が死ねば、イナがひとりぼっちになるからな。」


「そうか。確かにそれは死ねないなッ!」


 アーサーは甘い香りを漂わせ大量の念体を操る。

 穴を塞ぐため流し込むように渦巻かせた。

 が、その蓋をぶち破り、彼らの頭上に女帝が姿を現す。


「愚か者が、こんなに沢山……」


「戦艦到着まで残り十分! ――此処が正念場だッ!」



 ――――


 戦闘開始の狼煙は、沈み征くあの陽光。

 蝋燭の火が掻き消されたかのように、

 冷たい世界が一瞬で黒の中へと溶け込む。

 その直後――


「疑似再現! 『水星のメルクリウス』!」


 ――アーサーが切り札と共に火蓋を切った。

 流星の如き一閃が寒空の下から天を目指す。

 しかし銀河を纏ったかのような彼の一撃を、

 女帝は虚空から取り出した(げき)で容易く受け止める。


「騎士聖アーサー、ですね?

 この力……これが噂の極天魔術という奴ですか?」


(ッ! 簡単に倒せるとは思っていなかったが、

 まさかこの一太刀をこうも簡単に防いじまうか!)


「返事が無いのは悲しいですね。

 応答で発動する類いの術はありませんよ?」


 その時、女帝の眼が真っ赤に輝く。

 かと思えば殺意に満ちた赤いレーザーが放たれた。

 アーサーは反射神経に身を任せ全力で回避する。

 攻撃は頬を掠り、ギリギリ直撃せずに済む。


(!? この形態じゃなきゃ危なかった……!)


「ほう? 今のを避けるのですね?」


 瞬時に遠くまで離れたアーサーに向けて、

 女帝は子供と戯れるかのように微笑んだ。

 直後、彼女に向けて地上から誘導弾が飛ぶ。


 弾は女帝に直撃し爆煙を散らす。

 その衝撃を先陣に無数の弾丸が続く。

 黒い煙の中でオレンジ色の光が輝き続けた。


「しゃあ、どうだ魔女め!」


「浮かれるな! この程度では終わらん!」


 レジスタンスは瓦礫の上を飛び越え追撃を放つ。

 弾倉が空になるまで連射し続け、

 弾が尽きたのなら別の攻撃方法に切り替える。


 時間にして約一分間。

 種類問わず計四百発近くの弾が撃ち込まれた。

 だが、やはりというべきか、

 煙の中からは無傷の女帝がぬるりと現れた。


「資源の無駄ですよ、レジスタンス?」


「いや、良い陽動になった!」


 今度はアーサーが女帝の背後を取る。

 これにも女帝は瞬時に反応し戟を振るった。

 互いの武器が衝突し火花が飛び散る。

 アーサーの奇襲は失敗に終わった。

 だが彼が真に狙っていたのは別の物であった。


「貫け! 『七星の(セブンスターズ・)幻槍(ロンゴミニアド)』!」


(――っ! ()か!)


 大地を穿つのに使用した飴を束ね、

 アーサーは螺旋状の巨大な槍を作成していた。

 そして彼自身に意識を向けた寸秒の隙を狙い、

 万力の魔力を込め、女帝に向けて解き放った。


「す、凄い……!」


 その余波から身を守りつつ、

 リチャードは攻撃の規模に感嘆の声を漏らす。


 やがて七色の槍は狂い無く女帝に直撃した。

 が、しかし彼女はその手に黒い渦を宿すと、

 飴の槍を触れると同時に粉砕していった。


(!? この連撃でもダメなのか!?)


 流石のアーサーもこれには驚愕し、

 思わず女帝から大きく飛び退いてしまう。

 やがて七色の槍は完全に砕け散る。


(空中浮遊。目からビーム。戟の取り出し。

 それに渦のバリア……どれが祝福だ?)


 時間稼ぎと同時にアーサーは分析を進める。

 祝福と魔術を見極めるのに必要なのは、

 この世のあらゆる魔術に対する純粋な知識量だ。

 該当する魔術が無いのなら、それが祝福。

 そのようにして見極める以外に手段は無い。


 だからこそ、今この瞬間のアーサーは混乱した。

 彼女が見せた技はどれも初見かつ高性能。

 普段ならどれか一つでも見せられた瞬間、

 それが敵の祝福だと断定出来るレベルである。


 しかし彼女はそれらを併用する。

 聖遺物らしきアイテムも見当たらないのに、

 彼女の技は多彩さを極めていた。


(だがこのまま攻め続ければ耐久は可能だ!)


 アーサーはチラリと時刻を確認した。

 戦艦到着まで残り五分。

 レジスタンスと連携すれば十分耐えきれる。


 彼がそう確信すると同時に

 女帝は深い溜め息と共に苛立ちを吐露した。


「労力を無駄にした。魔力を無駄にした。」


「?」


「そして何より、時間を無駄にしました。」


 女帝は白く美しい手を天上に伸ばす。

 直後、その頭上に巨大な魔法陣が展開された。

 夜空に輝く星々を更なる輝きで消し去りながら、

 蒼白の魔法陣はカセントラ上空で回転する。


「あれは……『裁きの一矢』だ!?」


「知っているのか、リチャード!?」


「女帝が使う最強技。一撃必殺の破壊砲だ!」


(最強技ッ……なら祝福はそれか!?)


 アーサーは歯を食いしばり空と地上を交互に見回す。

 その中でも特にリチャードの顔を見つめると、

 覚悟を決め、魔法陣へ向けて一直線に飛翔した。

 それと同時に魔法陣からも魔力の砲撃が放たれる。


 夜空に掛かる二つの光の端を誰もが見上げる。

 それはアリスに運ばれるツヴァイも同様であったが、

 彼女は目を覚ますと同時に声を震わせる。


「マズい……ぞ、封魔局……!」


「ツヴァイ! まだ動いちゃだめだよ!」


「このままじゃ……騎士聖は死ぬ……!」


「心配は要りませんよ!

 極天魔術は生存特化の神域占星術なんですから!」


 アリスの言葉を肯定するかのように、

 アーサーは最大最高の防御魔術で迎撃する。

 光線を包み込むかのように結界を展開し、

 更には巨大な飴の塊で補強を加えた。


「『七星の(セブンスターズ・)王城(キャメロット)』ッッ!!!!」


 衝撃波が七色に染まり夜空を照らす。

 生存特化の極天魔術。その評判を裏切らず、

 アーサーは女帝の一撃を防ぎ切った。


「ふむ? 裁きの一矢……でしたか?

 初撃を防がれたのは私も始めてです。」


 眼下で沸き立つ群衆たちを見下ろし、

 女帝は感心と賞賛の声を上げる。

 ――と同時に、頬を押さえニヤリと笑った。



「ではあと()()()。凌ぎ切ってみてください。」



 刹那、魔法陣は更に一回り巨大化した。

 そして先程と同程度の魔力攻撃が

 アーサーに向い容赦無く降り注いだ。


 やがて彼の結界は無惨にも割れ始める。

 七色の結晶は粉々に砕け始める。

 その光景を望みながら女帝は鼻を鳴らす。


「しかし誰です?

 ()()()()()などと勝手に名付けたのは?

 今まで誰も初撃を防げなかっただけでしょうに。」


 女帝は少し自慢げに戟を振り回した。

 彼女の真下では力尽き光を失ったアーサーが堕ちる。

 人々は騎士聖が敗北する瞬間を目の当たりにした。


「何……なの!? あの強すぎる祝福は……!?」


 思わずアリスは立ち止まり女帝を見上げ戦慄した。

 しかし、当人にそんなつもりは全く無かったが、

 アリスの絶望を煽るようにツヴァイは言葉を繋げた。


「違う……あれも祝福じゃない……」


「な!? あれが祝福じゃなかったら一体何なの!?」


「あれは……神域魔術……!」


 アリスは激しく動揺し、

 怪我人のツヴァイにまくしたてるように問い詰める。

 神域と呼ばれる魔術はこの世界にたった三つ。

 一体そのどれなのだとアリスはさけぶように問うた。

 が、返ってきたのは予想だにしない解答だった。


()()()……」


「え?」


「あれは女帝が自ら編み出した全く新しい神域!

 名を『虚構魔術』。あれは既に、その領域にいる……!」


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