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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
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第十九話 今後の方針

 ――船内・男性トイレ――


 真っ白に輝く清潔感のある男性トイレ。

 尋問を終えたジャックは、

 その手の返り血を洗い流していた。

 洗面所の上に置いた携帯に向かい言葉を発する。


「刺客から得られた情報を纏める。

 まず人数、及び個人の詳細は不明。

 コイツらはチームでは無く、

 各々が個々で活動している『殺し屋』だ。」


『……殺し屋? 思っていたのと違うな……』


 汚れを流し終えたジャックは洗面台に腰掛ける。


「あと、雇い主の情報も出た。

 これまた≪黒幕≫だとよ。」


『≪黒幕≫がマナさんを?

 何のメリットがあって……』


「タチが悪いことにあの頭骸骨。

 今回の護衛任務の情報をリークしたらしい。

 そんでもって多額の賞金と共に

 その情報をばらまいたそうだ。」


 電話越しにハウンドが頭を抱えたのが分かった。


『なるほど? つまり今回の敵は、

 その賞金とやらを欲した殺し屋どもか……』


「あぁ、それも一人や二人じゃ無い。

 場合によっては協力体制を敷くかもな。」


『了解した。ジャック、お前もすぐに戻れ。

 ――方針は決まった。』



 ――同船・三○三号室――


 通話を終えたハウンドは深いため息を吐く。

 扉のドアノブに手を掛けるが、

 億劫で回す気が起きないでいた。


(はてさて、この『方針』で行くとして

 ……重要なのはあの二人の()だ。

 チームワークが悪いと、

 かえって危険が増えるだけだしなぁ……)


 ドアノブを回す。恐る恐る中へと入る。

 部屋に残した新人()()

 朝霧とアリスの険悪なムードを想像しただけで、

 胃が痛くなるのが分かる。


「……おう、今戻ったぞ。」


 ドアをゆっくり開け、

 か細い声で部屋を確認する。

 そしたら――


「――そしたらさ!

 フィオナが案外可愛い反応してね!」


「えー! 意外です!

 フィオナさんってそんな乙女な所あるんですね!

 いかにもクールビューティーって感じなのに!」


 女子二人が歓談していた。

 ハウンドは一人呆気に取られていた。


「……は?」


「あ! ハウンドさん、お帰りなさい!

 ちょうどさっき治療が終わりました!」


「ありがとう、アリス!

 張り切って任務こなしていこう!」


「はい!」


 ドアを閉め、ハウンドは心の中で叫ぶ。


(女心。分かんねぇ!!)



 ――――


「コホン……気を取り直して、

 現状確認と今後の方針を言うぞ?」


 ハウンド、アリス、朝霧の三人は

 向かい合って座る。


「まず、現状だ。

 この船にはマナさんを狙う暗殺者が複数いる。

 俺たちがここまでのんびり出来ている所を見るに

 ……奴らは部屋の特定までは出来ていない。

 なので、護衛対象(マナさん)の移動は今のところナシだ。」


 アリスが問う。


「でも、正直この部屋は()()()()()では?

 只でさえスイートルームなのに、

 人払いや防御の魔術で要塞化して……

 これでは何かを守っているとバレバレじゃ……」


「確かに! それにその暗殺者たちが

 ()()()()()可能性もあるんじゃ……」


 朝霧も続けて問う。

 彼女らの疑問にハウンドは冷静に答えた。


「どちらも現状(いま)は大丈夫だ。

 ……というのも、この船にはV()I()P()()()()からな。」


「……?」


 ハウンドはアリスの方へ顔を向ける。


「まず要塞化が目立つって話だが、

 ちょっとその辺の廊下を適当に歩いてみろ。

 スイートルームのほとんどが

 ()()()()()()()のが分かるだろうよ。」


「え?」


「金持ちは自分の安全確保に余念が無い。

 自前の防衛術も使いたがる。

 船側もそれを知っているから、

 そういう()()に別料金を掛け儲けている。

 まぁつまり、『ここだけ目立つ』ことは無い。」


 アリスは金持ちの羽振りの良さに

 面を食らっていた。

 ハウンドは朝霧の方を向き話を続ける。


「次に暗殺者が船自体を襲う、

 要は『騒ぎを起こすかも』って事だな?

 これもひとまず無視でいい。理由は同じ。

 VIPがいるからだ……より正確には、

 VIPの『護衛』がいるからだ。」


「護衛?」


「あぁ、さっきも言ったが

 金持ちは身の安全に金を惜しまない。

 優秀なボディガードを雇うことも多く、

 そいつらとわざわざ敵対することは無い。

 ……さらに言えば、

 この世界の人間は全て『魔法使い』だ。」


 朝霧は言葉の意味がよく分からず困した。

 そんな彼女を見てハウンドは補足する。


「この船にいる全員が

 一人一つ『祝福』を持っているってことだ。

 誰がどんな祝福を持っているのか?

 どんな風にそれを扱うのか?

 それは誰も把握しきれてはいない。」


「そういえば……確かにそうですね。」


「中には不利な祝福を持つやつがいるかもしれん。

 それは……()()()()()()()()()だ。」


 ハウンドの言葉に朝霧はハッとする。

 当然のことであったが忘れていた。


 誰もが魔法を扱える以上、

 一般人といえど戦闘能力があるかもしれない。

 戦闘能力とまではいかなくても、

 相性の最悪な祝福があれば十分脅威だ。


 ましてVIPのボディガードとなれば……


「……覚えておけ。

 闇社会とは言っても、基本は同じ魔法使い。

 一般人に無差別攻撃をしようとする輩が

 いるとすればそれは……

 相当『自分の強さに自身のある奴』か

 或いは『ただのバカ』だ。」


「なるほど。

 それなら今後の方針は……籠城、ですか?」


 朝霧は聞く。ハウンドは少し首を横に振った。


「半分はそうだが半分は違う。

 さっき言ったのはあくまで『現状』の話だ。

 もしここが特定されれば

 敵がなだれこんで来るだろうし、

 時間が経って焦ってくれば

 その『ただのバカ』が出てくるかもしれん。」


「――それに敵の中には、

 厄介なやつがいるみたいだしな。」


 扉が開き、声がする。

 ジャックが帰ってきたのだ。


「お前たちが戦ったっていう『影』。

 そりゃ遠隔操作の幻影だろうな。

 それも結構強くて、多分何処にでも、

 そして複数体出せる。厄介すぎだ。」


「少なくとも、

 その術者は捕らえておかねば危険が増す。」


「……では、今後の方針は?」


 ハウンドが立ち上がり指示を飛ばす。


護衛対象(マナさん)はこのまま俺とアランで警護する。

 ジャック、朝霧、アリス、以上三名!

 お前らは()()()()()

 目標の『影の術者』と、

 可能な限りの暗殺者を無力化せよ!!」



 ――――


「はぁ、憧れだったはずの豪華客船のスタッフ……

 全然華やかじゃ無いわね!」


 船内で女性クルーの一人が愚痴をこぼす。

 食事を終えた、汚れた皿を運びながら

 カートを押す。


「はぁあー、私も客として

 ドラマチックな船旅がしたいわぁ―。

 ハハ、そのためにはまず出会いよね……」


「――失礼、レディ。少しお時間良いかな?」


 男が話しかける。

 高身長の若さとダンディさを両立させた男だ。


(で、出会い!! 出会いキタ――ッ!!)


「スタッフの方ですよね?

 少々聞きたいことが……」


(あ、そうよね……出会いとか……無いよね。)


 心で涙を流し、女は仕事に戻る。


「はい、いかがされましたか?」


「乗船客の名簿表を見せてください。」


「――? 申し訳ございませんが、

 お客様の個人情報となりますので……」


「――『見せろ』。」


 男の言葉に魔力が籠もる。


「……はい。」


 女はカートから名簿を取り出し、男に渡した。

 男はパラパラと素早く流し見る。


(流石に……本名で乗るほど間抜けじゃないか。)


「――え? あれ? 私今、何を!?」


 本を閉じると男は女に再び『命令』する。


「この船で封魔局の話は何か聞いたか?

 ――『教えろ』。」


「……いえ、何も。」


「そうか……では、俺との記憶は『忘れろ』。」


 女が次に気がつくと、そこには誰もいなかった。

 女は再び、声を上げる。


「はぁ、憧れだったはずの豪華客船のスタッフ……

 全然華やかじゃ無いわね!」


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