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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
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第十五話 護衛任務ー開始

 ――マランザード・港――


 砂漠の街に停泊している大型豪華客船。

 その船の出航が行われる。

 朝霧はさざめく波を見ながら独り、

 甲板に立っていた。


(護衛、任務……)


 朝霧の思考はある「疑問」に囚われていた。


 遡ること五日前――。



 ――領主邸――


「……では、護衛にはどのルートを?」


(……え?)


 ミストリナの問いに対し、

 アシュラフは数枚のチケットを取り出し答える。


「あぁ、今丁度、ゴエティア行きの

 大型客船が停泊している。

 五日後の十七時出港だ。

 そしてこれがその船のチケットだ。」


「大型客船? つまり、海路での移動ですか?」


 朝霧は疑問を投げかけた。

 アシュラフはそのままの口調で淡々と答える。


「あぁ、そうなるな。何か気になることでも?」


「それは……いえ、何でも無いです。」


 ミストリナの顔を伺う。

 意図は読めないが、

 彼女は朝霧の顔をじっと見つめていた。


 未だに魔法世界の常識に疎い朝霧には、

 ミストリナが無視している

 この「疑問」を訴える自信が無かった。


 会議は進み、時は流れ、

 遂に護衛任務が開始された。



 ――――


 夕焼けに彩られた甲板の上。潮風が髪を揺らす。


(この護衛任務……流石に()だ。

 何で、何で――?)


「ちょっと! どういうことなの、貴女!」


 護衛対象(マナ)の声が響く。

 振り替えるとアリスに詰め寄るマナを、

 領主の私兵たちが押さえていた。


「マナさん、アリスが何かしましたか?」


「どうもこうも無いわ! コイツ、私に!

 ミストリナに謝れって言って来たのよ!」


「当然です!

 彼女が我が儘を言い続けるせいで、

 ミストリナ隊長は任務から()()()()()()()()!」


 ――そう、六番隊最大戦力であるミストリナは、

 あの後も彼女に嫌悪を示し続けたマナとの

 関係悪化を憂えて護衛任務から外されたのだ。


 よって現場指揮はハウンドの担当となり、

 護衛メンバーは朝霧、アラン、アリス、

 そしてジャックの計五名となった。


 騒ぎを聞きつけジャックが駆け寄る。


「まぁまぁ、お嬢様。

 アリスにはこちらから言い聞かせるので、

 どうかご容赦を……」


「フン! 精鋭が聞いて呆れるわね!」


「たはは……手厳しい。

 朝霧、お嬢様に付いておけ。

 ……アリス行くぞ。」


 不服そうな態度を露にしているアリスを引きずり

 ジャックはその場を後にする。


 残された朝霧は、

 あまりの現場の気まずさに思考が固まっていた。

 心の中で助けを乞う。


(ミストリナ隊長! こちら護衛チーム。

 現場の空気が最悪です!)


「……貴女もそう思ってるの?」


 マナの標的が朝霧に移る。

 突然の質問に彼女は

 尋常ではないどもり方をしてしまった。


「ねぇ? どうなの? やっぱりミストリナに……」


(……あれ? これはもしかして……)


 朝霧がマナの思考を読もうとすると、

 彼女の取り巻きの私兵たちがそれを遮る。


「何を仰いますか、マナ様!

 あの大火傷を隠さなかった

 ミストリナが悪いですよ!」


「そうです! そうです!

 ささっ、夕日を眺め忘れましょう!

 もうすぐディナーの準備も整うはずです。」


 彼らの発言で再びマナは尊大な態度を取る。

 朝霧はただ、その光景を眺めていた。

 そして、再び考え事に思考を移す。


(……そもそも、何から守ればいいんだろ?)



 ――――


 ジャックはアリスを引きずる。

 バタバタと抵抗する彼女の姿が

 マナから見えない所までくると、

 すぐさま手放した。


「わっ! わっ! わっ!

 いきなり放さないでください!」


「…………」


「……ジャックさん?」


 アリスが彼の顔を覗きこむ。

 その表情は激しい怒りに包まれていた。

 アリスは……すこし()()()なり話かける。


「やっぱ……ジャックさんもムカつきました?

 あの女。」


「……任務に集中しろ。

 お前の『祝福』はこの任務に必須だ。」


 クスクスと笑いつつもジャックの後に続く。

 二人は船内の通路へ進んだ。


「守る意味ありますか、()()

 どうせ感謝もしませんよ?」


「……」


「黙ってるのは『同意』と一緒ですよ?」


 ジャックは依然黙っている。

 最悪の空気の中、

 アリスは前からくる通行人に気づき口を閉じる。

 二人は通行人と何事も無くすれ違う。

 が、通り過ぎる男を見てアリスは――


「――ッ! ジャックさん!」


「アリス! いい加減に……」


 アリスは通行人をまっすぐ見つめている。

 視線に気づいたのか、相手もピタリと止まった。


「アリス、『視えた』のか?」


「……はい。」


 ――刹那、通行人が攻撃を繰り出した。

 完全に異物に変化した左手からビームが飛ぶ。

 アリスを伏せさせ、ジャックは避けた。


 距離を詰める。まっすぐ「その男」を目指す。

 男の左手から再び光が飛んだ。

 今度のビームは四又に()()した。


「――ッ!?」


 体を捻り攻撃を避ける。

 低空飛行でさらに距離を縮めようと試みる。

 しかし、現場は狭い通路。

 連射されるビームがそれを阻む。


「ジャックさん! 通路(ここ)は不利です!

 退くか外に出るかしましょう!」


(退く? 一般人もいるんだぞ? 

 外? 護衛対象に近づける訳にはいかねぇだろ?

 なら――)


 一旦距離を取ると、空中で姿勢を整える。

 撤退では無い。「助走距離」を稼いだのだ。


 呼吸を整え、最大速度で、一直線で突き抜ける。

 男はジャックの行動に気づき、

 今まで以上の火力を一点に絞り、放つ。


 ジャックとビームが、狭い通路で交差する。

 ビームはジャックの肩を掠め、血を流させる。

 しかし――


「――取った。」


 ジャックの回転蹴りが男の脳天を捉える。

 ガツンッと鈍い音を立て、男は意識を手放した。


「ジャックさん! 何でこんな危ない真似を!」


「あぁ? ここで仕留めなきゃ

 護衛対象に危険が及ぶだろ?」


 血が流れる肩を抑え、

 ジャックは荒い呼吸で答えた。


「あんなヤツのために……?

 ジャックさんはムカつかないんですか!?

 あの嫌な女に!」


「いつまでもガキみてぇな事言ってんじゃねぇ。」


 呼吸を整え、ジャックは気だるそうに答えた。


「嫌なヤツさ! ムカつくさ!

 ――それを呑み込んで仕事を

 完璧にこなすのが『大人』ってモンだ!」


 アリスはそれ以上何も言えなかった。


 ジャックは男を拘束し、ハウンドと、

 この場に居ないミストリナに連絡を入れる。


(――()()()に来たぜ? ミストリナ……)


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