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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第五章 The Melancholic Patchwork

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第二十二話 地下の主

 ――地下闘技場・牢獄――


 周囲に立ち込めるカビ臭さ。

 遠くの松明しか温もりの無い寒すぎる石の牢獄。

 そんな閉鎖空間の端の端でアリスは構える。

 警戒すべきは暗がりに潜む複数の呼吸。

 闇に慣れてきた目が捉えたのは人型だった。


(装備は……指輪だけ! 銃は無い……!)


 アリスはすぐに指輪の中の残存エネルギーを確認する。

 だが既に邪神の眷属との戦闘で使い切り、

 まだ攻撃に足るだけの量は装填されていなかった。

 しかし呼吸の主たちは待ってはくれない。

 暗がりの中から屈強な男たちが飛びかかる。


「――ッ!」


 襲われると直感しアリスは腕を丸めた。

 だが、男たちの手は彼女の目前で地面に落ちる。


「なぁアンタ! 話を聞かせてくれよ!」


「……え?」


「外から来たんだろ!? そこの嬢ちゃんと同じで!」


 髭も肌も小汚い男たちは目を輝かせて指を差す。

 彼らが示した先には小石で芸を披露するキアラがいた。


「はーい! じゃあ小石はどっちにあるでしょう?」


「嬢ちゃん、あまりオジサンを舐めちゃいけねぇ。

 目の前で混ぜてんだから分かるって! 右だろ?」


「フフン! 残念、正解は左ポケットの中でしたー!」


「「どぉぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!?」」


 野太い声が共鳴し岩の廊下を反響した。

 それはアリスの寝起きの脳にとって、

 とても不快な音響であった。


(うるさ……)


「あ! アリスさん、でしたよね?」


「あぁ……はい。ガイドのキアラさん……他二人は?」


「ホンドーさんとシスターさんですね?

 私が気付いた時にはもう二人ともいませんでした。」


 彼女の情報からアリスは状況を整理する。

 まだ記憶が曖昧で上手く思考は纏まらなかったが、

 とにかくアランと逸れた事だけは理解出来た。

 二人は先に起きて連れされたのかと推察していると、

 彼女の考えを壁付近に座る屈強な男が否定する。


「この牢に入れられたのはお前ら二人だけだ。」


「あなたは……?」


「アキレス。此処で長いこと奴隷剣闘士をやっている。」


「奴隷剣闘……!? 此処は一体!?」


 そんな事も知らなかったのか、と言わんばかりに

 アキレスは目を見開くとすぐに溜め息を漏らす。

 そして遠くの誰かを恨むような目でポツリと呟いた。


「ある女のための玩具箱――地下闘技場『テネブラエ』。」



 ――デガルタンス・中心部――


 真っ赤な空に真っ赤な屋根が照らされる。

 夕刻の町並みもまた鮮やかであり、

 遠くに見える港では波が光を反射し

 宝石のように美しく輝いていた。


 だがそんな絶景に目もくれず

 複数の人影が屋根から屋根へと飛び移る。

 人目を憚り、ただ一ヶ所を目指し駆け抜けた。


「――止まれ!」


 先頭の男の掛け声で一団は急ブレーキを踏む。

 見張り用に二名だけを屋根に残すと、

 他全員は一斉に路地裏へと飛び込み姿を隠す。


 直後、彼らは速やかに数種類の機材を取り出し始める。

 通信機や探知機。人払いの結界発生装置などだ。

 路地裏での陣形展開が完了すると、

 停止を指示した男は口元に無線機を寄せた。


「B班。配置につきました。スキャンを開始します。」


『了解。くれぐれも悟られないように。』


 無線の向こうから聞こえた朝霧の声。

 男は仲間に指示を飛ばし機材を起動させた。

 地面に突き刺されたのは棒状のアンテナ。

 微弱な魔力の波による索敵で

 音波よりも詳細に地面の中を丸裸に出来る。


「……データ取れました!」


「速やかに送信。完了次第見張り数名を残して離脱する。」



 ――フォントロメア大聖堂・仮拠点――


「各班からデータ受信完了! マップを作成します!」


 崩壊した聖堂の内部に六番隊員たちは拠点を置いた。

 仮設の通信室では索敵班が機材と睨み合う。

 六番隊員たちの他にはMCA会員と修道士たち。

 腹の包帯を掻きながら喫煙するアイリスの姿もあった。


「触ると傷の治りが遅くなるぞ。」


「ん? あぁノイズさん……大丈夫っす、頑丈なんで。」


 一本いるかとシスターは煙草を取り出すが、

 ユノは「禁煙中だ」と苦笑しながら断る。

 そして隣に並ぶと共に封魔局員たちを眺め始めた。


「君、さっきはえらく闘志の宿った目をしていたな?」


「……そっすか?」


「参戦する気かい? この後の戦いに?」


「まぁ……聖堂めちゃくちゃにされましたし?

 何よりウチのドジっ娘も誘拐されちゃってるんで。」


 空に煙を吐きながら、褐色の修道女は振り返る。

 壁も花畑もボロボロとなった無惨な大聖堂。

 愛玩動物たちをカゴに戻すシスターの姿も見えた。

 彼女たちからしてみれば縄張りを荒らされたのと同義だ。


「まぁ、足手纏いが迷惑じゃ無ければっすが……」


「ふっ、歓迎するさ。君みたいな有能な者なら。」


「……そっすか。」


 視線は合わせずに、アイリスは呟いた。

 丁度その時ユノが朝霧に呼ばれる。

 軽く挨拶を済ませると彼女は足早に立ち去った。


 朝霧に呼ばれ集ったのは各勢力の幹部クラス。

 六番隊からはハウンドを初めとした数名の隊員。

 MCAからはユノの他にはローウィンとマスティフ。

 そして教会からはナギトナリア大司教が参加する。


「マップが出来たのかい? 朝霧隊長。」


「はい……ただ……」


 朝霧は索敵班が制作した地図を見せた。

 そこには地下何層にも広がる迷路のような空間。

 無数の通路や部屋が複雑に入り組み合っていた。

 そしてその中には――


「生体反応……? しかも何だこの数は!?」


「人だけで無く魔獣も数十体確認されました。

 そしてこの構造や人の配置から推察するに……」


「……地下闘技場、ですかな?」


 嘆かわしいとばかりに目を細めながら

 ナギトナリア大司教が呟いた。

 そして今度はユノが苦悶の表情を浮かべる。


「さてこれは……どこまで()()()()()()()と思う?」


 彼女の言葉に多くの者は疑問符を浮かべた。

 対して理解している者たちの表情は強ばる。

 その中でも朝霧はすぐに自身の考察を返した。


「恐らくデガルタンスの領主は黒でしょうね。

 支部局員も……何人か賄賂を貰っているのかも……」


「な!? どういうことですか隊長!?」


「簡単な話だ。……この規模は流石に隠せねえって。」


 隊員の一部から上がった動揺の声に

 ハウンドが肩へ手を回し説明をした。


「地下格闘自体は違法だが別に珍しく無ぇ。

 大体は地下駐車場とか廃ビルの中とかでやるもんだ。」


 専用のサイト等を活用し客を集め、

 使い捨て前提の資材と会場で細々と行う。

 それが他の都市における地下闘技場の型である。


 だがデガルタンスの地下闘技場は違う。

 莫大な資金が動き専用の施設が揃えられている。

 これほどの規模となれば流石に行政が感知出来る。


「だが健在ってことは、その行政は買収済み(くろ)だ。」


「な、なるほど……支部局員も同じ理由ですね……」


 同じ封魔局員としてショックを受けながらも、

 六番隊員たちはようやく理解した。

 結果的にユノの少数で動くという作戦が

 功を奏していたことにハウンドはやるせない思いとなる。

 彼が口を閉じたのを見ると再び朝霧が口を開いた。


「……やっぱり資金は領主が出してるんですかね?」


「いや。この規模は維持費だけでもかなりの負担だ。

 都市の繁栄ぶりを見るに金はそっちに使っている。」


「後ろ盾は領主じゃないと? ならまさか魔法連合が?」


「それも違うな。何せ連合は政権が交代したばかりだ。

 ローデンヴァイツの負の遺産は尽く破棄されている。」


 表社会の組織が裏にいるとは考え難い。

 となれば考えられるのは闇社会の組織。

 規模を考えれば、浮かび上がるのは当然『特異点』だ。

 朝霧の目は途端に凍てつき鋭く尖った。


「黒幕……ですか?」


「十分にあり得る。だが亡霊の王が、

 悪魔の娘を従えているとは聞いたことが無いな。」


 黒幕の可能性は十分にあるというのに、

 ユノは含み笑いと共に否定した。

 あまりに自信のあるその態度に朝霧は疑問を持つ。


「……もしかして、心当たりがあるんですか?」


「鋭いな。アンテナを張っているとよく情報が来るんだ。」


 自嘲気味に鼻を鳴らしユノは目配せをした。

 そして再び表情を固くすると、

 この場にいる全員に聞こえるようにはっきりと、

 裏にいると思しき敵の名前を挙げた。


「特異点≪女帝≫。私は彼女が裏にいると考えている。」


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