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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
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第十三話 ゴクツブシ

 ――封魔局マランザード支部――


 ドクター・ベーゼとの戦闘から一週間。

 マランザードでは戦闘の後処理が行われていた。


 毒の雨と街中の戦闘は

 都市に多くの被害をもたらし、

 封魔局員たちは今もなお

 慌ただしく駆け回っている。


 処理の大半は封魔局・魔導戦闘部隊、

 その一番隊と六番隊が受け持っていた。


「私たち戦闘部隊が二つも

 留まっていて良いんですか?

 封魔局は人材不足なんですよね?」


 仮設の休憩テント内。

 パイプ椅子をギーコギーコと揺らしながら

 アリスは尋ねた。


 同じくテントの日陰でぐったりと

 休息を取っているのはジャックとハウンドだ。


「まぁ良くは無い。だが先の戦闘。

 六番隊員の被害は軽微だったが代わりに

 マランザード在駐局員の被害が甚大だった。

 復興を手伝う義務が六番隊にはある。

 一番隊も残っているのは……

 威信を地に落としたく無い

 局長殿の『気遣い』……だな。」


 言葉の中から棘を感じ取れる。

 ジャックは局長の対応に不満があるようだ。

 そんな彼に、砂漠の暑さで

 参っているハウンドが口を開く。


「……まぁそう言ってやるな。

 ミストリナ隊長は復帰しているが、

 あれはどう見ても本調子じゃない。

 ……一番隊の援助無しだと正直キツいぜ?」


 ミストリナの火傷は完治しなかった。

 灼魔剣レーヴァテイン。

 ベーゼの放ったその一撃には

 ()()()()()が込められていた。


 もちろん、最高級の魔術を以てすれば

 解呪は可能だ。しかし解呪、

 そして治療には数ヶ月に及ぶ入院が必要であり、

 ミストリナ本人がそれを強く拒んだ。


 結果、顔の半分に傷跡を残し

 彼女は現場に戻っている。


「それもこれも、俺たち隊員が

 不甲斐なかったからだ。

 ミストリナ隊長ばかりに負担は掛けられない。

 俺たちはもっと、強くならなければ……」


 ジャックが決意を決める。

 賛同するよう二人は頷いた。


「……ところで、あの人たちはさっきから何を?」


 アリスがテントの外の二人の封魔局員を指した。

 そこには――


「オラ! 朝霧! もっと腰を入れろ!!」


「は、はいぃー!」


 朝霧とアランがいた。

 大剣を振るう朝霧をアランが棒でつつく。


「違う! なんだそのデタラメな構えは!?

 大剣にも正しい構えってモンがあるんだ!

 今までどんだけセンスとパワー任せで

 振り回してた!?」


「いや……聞きたかったのは

 大剣の扱い方じゃなくて、飛ぶ斬撃の……」


「甘えんな! アレは道場(うち)の奥義だ!

 剣も魔力も感覚任せのお前に扱えるか!!」


 そんな彼らの状況をハウンドは語る。


「……なんでも、

 朝霧が技を教えて欲しいって言ったら、

 アランがマジの指導しているらしい。」


「………………」


 二人の言い争いに似た特訓は続く。

 ハウンドはため息混じりに呟く。


「まぁ、朝霧はベーゼ戦で

 捕まっちまったし焦る気持ちは分かるがな。

 ……そういや、ベーゼの死体。

 見つかって無いらしいな。」


「部下の一人も消えたらしい。

 ベーゼの体の一部は見つかっているから、

 倒せたと思いたいが……」


「……すみませーん。」


 ――幼い声がする。

 ジャックが応対しようと立ち上がると

 そこには数人の少年少女がいた。


 何事かと朝霧たちも意識を向ける。

 少年たちは仲間内でコソコソと話していた。

 ジャックが声を掛ける。


「どうしたのかな? ボウヤたち?」


「せーのっ――」


「「「封魔局のゴクツブシ――!!!!」」」


「……は?」


「走れ――!」


 子供たちは無邪気に走りだす。満面の笑顔で。

 まるで近所の老人にイタズラしたかのように。


 その場の誰もが追う気にはなれなかった。

 誰も言葉を発せられなかった。


 戦争終結から、わずか五年。

 封魔局は勝者である魔法連合の直下組織だが、

 次第にその信用は低迷し続けていた。


 戦後の五年経った今になっても

 真の平和とはほど遠く、

 強大な力を有する闇社会が暗部で(うごめ)く。


 ……そんな秩序に民衆が納得するわけが無い。


 しばらくの沈黙の後、朝霧は声を発する。


「……強くなろ。」


「朝霧……」


「子供たちはきっと、

 大人がそう言っているのを真似した。

 ならそれが民衆の本音。

 そんな社会を変えるなら、

 ――強くならなきゃ!」


 その言葉にアランが答える。


「そうだな! お前はまずは型の練習だ!」


「うっ……やりましょう!」


 後輩たちの元気に押されるように、

 ハウンドらも腰を上げる。


「よし! 俺は休憩終了!

 まだ暑いがもう一仕事してくるか!」


「――おや? 仕事熱心だね。」


 ミストリナの声がする。

 テント内に入って来たのだ。

 歩き方はややぎこちなく、

 その顔の左半分は以前のような、

 麗しい白い肌では無かった。


 隊員たちは敬礼を行う。

 ジャックは周りに先ほどの事は

 話さないよう念を押した。


「お疲れ様です! ミストリナ隊長!」


「うん、元気いっぱいだな、我が()()たちは!」


 その言葉にハウンドとジャックは息を飲む。

 頬を冷や汗が伝い、良くない事を

 予見したような顔をしていた。


 その反応に気づきつつも、意味までは

 理解は出来ていなかった朝霧たち。

 しかし、すぐにその疑問は払拭された。


「そーんな君ら()()たちにしか

 出来ない任務を与えよう!

 無論! 命令なので拒否権は無い。」


(あ、こういうことかー……)


「それで、任務というのは?」


「――うむ、()()()()だ。」



 ――マランザード・港――


 海が広がる海岸沿い。

 豪華客船がメンテナンスのため停泊している。

 その大型船を覗く男が一人。


「白刃立つ、(いくさ)思わす、高潮や……」


 黒い狐面に藁の笠。

 和を連想させる黒の羽織を身に纏う。

 肌が見えないほど着込んでいるその男は、

 海を眺めて詩を詠む。


「……ジャパニーズラップ、『俳句』。

 和は()い。無常こそ世の真理……」


 しかし、笠より見え隠れする髪の毛は、

 血よりも紅い鮮血の彩りを見せていた。


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