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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
31/666

幕間の一 事のあらまし

 ――――


「彼」が初めて人を()()()のは十四の時だった。

 相手は友人。理由は単純、ムカついたから。

 くだらない口喧嘩の末。

「彼」は友人を()()()()いた。


 心臓の鼓動が早くなるのを感じた。

 呼吸も荒れた。

 後悔とか不安とかも人並みに感じていた。

 ……と思う。


 ただ何よりも、その胸を締め付ける背徳感が、

 罪悪感が……たまらなく気持ちよかった。


 友人はすっかり溶けて消えてしまったので、

 何一つ、証拠は残らなかった。

 なので「彼」は捕まることも

 叱られることも無かった。

 この経験で知ったのは高揚感、ただそれだけ。


 人を殺したはずの「彼」は

 その快楽の虜になっていた。


 ――もっと殺したい! 多くの人を!

 もっと殺したい! より凄惨な方法で!


 そんな野望に似た欲求を内に秘め、

「彼」は一つの殺人計画を思いつく。

「範囲内の人間を呪い殺す兵器」を

 都市の内部で発動させる、という計画だ。

 彼はその兵器開発のため研究者となった。


 しかし「人殺しの兵器を作りたい」という願いに

 誰も投資しないことを「彼」は理解していた。

 だから「彼」はその目的の隠れ蓑として、

「都市を発展させる装置」の開発に人生を捧げた。


 空気清浄、水質改善、災害からの防衛機構。


 多くの人間が「彼」の発明品を

 求め、投資し、購入した。

 その装置が起こす()()に気付くこと無く、

 笑顔で……


「彼」は稀代の天才と崇められていた。


 装置の多くが普及した頃。

「彼」は一つの都市を標的にした。

 最も装置の恩恵を受けていたその都市に、

 ()()()()の役割を果たす商品を売りつけた。


 表向きの売り文句は、

 (きた)る戦争に向けた防御装置。

「彼」を信頼しきっていた領主は、

 物の見事にあっさりと購入した。


 戦争勃発。領主は装置のスイッチを押した。

 瞬間、町中に張り巡らされた()()()たちが

 一斉に共鳴、一つの魔方陣を形成した。

 領主は初め、これが新しい防衛技術かと

 歓喜したが、すぐに間違いだったと気が付く。


「あ? あぁ!!??

 あああぁああぁああ――――!!」


 ――全身から血が噴き出した。

 領主だけでは無い、街全体から血が噴き出した。


 市民、兵士、貴族。

 果ては味方の術と勘違いして

 攻め込んだ敵までもが、肉塊へと変貌を遂げた。


 その時「彼」は、嗤っていた。

 何も知らない研究所の部下たちの前で、

 無邪気に。


 すぐさま研究所は閉鎖。

「彼」は世紀の大戦犯として名を残した。



 ――――


「……うん? 夢か?」


「――! 良かった()()()()!」


 砂漠の上を一台の三輪貨物バイクが走行する。

 貨物車の上には独り、ベーゼが横たわる。

 その体に両足と右手は無かった。

 状態を確認するとベーゼは戦いを思い出す。


「あぁそうか……負けたんだったな。」


「えぇ……施設は封魔局に抑えられました。

 私だけが何とか逃げられました。」


 運転しながらアベルトが答える。

 ベーゼは残った左手で

 貨物の上の資料や機材を引き寄せた。


「持ち出せたのは、こんだけか?」


「はい、武器と食料が少しと例の兵器の設計図。

 そして脱出時持っていた朝霧の検査結果です。」


 資料を掴み中身を見る。そして笑った。

 急な笑い声にアベルトは動揺する。


「ベーゼ様? 今、朝霧(あのおんな)への

 リベンジを考えていますか?」


「……いや。むしろこれを見て興味は失せた。

 それよりも!」


 ベーゼは寝転がり星を仰ぐ。


「ちと昔の事を思い出した。しばらくは潜伏だ。

 久々に……派手なの造るか!!」


 砂漠の上を唯々走っていった。



 ――――


 そんな彼らを岩陰から双眼鏡で覗く者がいた。

 黒い服に骸骨頭。特異点≪黒幕≫だ。


『砂漠寒っ!

 お前は寒くないのか? シックス?』


 シックス。そう呼ばれた女が、

 自身のバイクに腰を掛け黒幕を睨む。


「労う気持ちがあるならそのまま

 帰してくれると嬉しいのだけれど?

 封鎖線爆破後から砂漠でずっと待機とか

 あり得なくない?」


『あー帰るのは待って。

 今、次の一手を考えてるから。』


 そう言いつつ落ち延びるベーゼらに

 黒幕は再び双眼鏡を向ける。

 だがそんな上司の姿にシックスは

 明確な苛立ちの態度を見せて抗議した。


「ベーゼ襲う気無いならもう良いでしょ!

 大体何だったの今回の取引?

 ぐだぐだじゃない!」


『ぐだぐだ……ふっ、その通りだな。

 今回はいくつかの要素が絡み過ぎていた。』


 岩から降りると黒幕は

 シックスの方へ体を向ける。


『少し事のあらましを整理しよう。』



 ――――


『まず始まりはウチとベーゼとの兵器取引。

 即ち流星襲落の弓(サジタリウス)の購入だ。』


「隕石落とすっていうアレを

 ウチがベーゼから買う。

 それが今回の取引だった訳でしょ?」


『その通り。

 ついでに研修も兼ねてマランザードに

 新人君と()()()の二名を送って取引を待ってた。

 ……だがベーゼの目的は違った。』


 黒幕は携帯を構いながら話を続ける。


『奴はここマランザードで、黒幕(おれ)と戦う気だった。

 俺との通話でこの街には初めて来ましたー、

 みたいな雰囲気まで出してたしな。

 最初からある程度俺を嵌める腹づもりだったんだろう。

 ……動機は()()()の排除かな?』


 黒幕の話を遮るようにシックスは喋り出す。


「都市内部に戦力がいた訳だしね。

 まんまと騙されたってわけ? ダッサ。」


『っかしいな? 俺リーダーなんだが……』


 首を傾げながらも口調を戻す。


『……けど、ベーゼの方にも()()があった。

 封魔局が取引を察知してしまった事だ。

 彼らと、俺を狩るため意気揚々と

 町中に散開させていた配下とが衝突。

 結果、負けてしまった訳だ。』


「なるほど?

 つまり、取引したい亡霊達(うち)

 それを狩ろうとするベーゼ、

 そして取引を潰したい封魔局。

 この三勢力の思惑が交ざってたわけね?」


 黒幕は無言のまま携帯を眺めていた。


「――で、結局ベーゼはどうするの?

 こっちから狩る?

 それとも未遂ってことで勘弁する?」


 黒幕の携帯に通知が届く。

 ふっ、と声が漏れたのをシックスは聞き取った。


「メール、()()から? 何調べさせてたの?」


『……ベーゼは無視だ。

 俺を殺したがっている奴なんか元々多い。

 奴は当分はおとなしいだろうしな。

 それより今の敵は「コイツら」だ。』


 画面を覗き込みシックスは嫌そうな顔を向ける。

 しかし黒幕は彼女の反応を無視し、

 既に別の事に思考を巡らせていた。


(さて……流星襲落の弓(サジタリウス)は何処だ?)


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