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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
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第十二話 砂漠の夜

 黒い巨人から熱気が放たれる。

 激しい噴出音は生物の金切り声のようであった。

 広いはずの部屋に再び熱が籠もる。


 凄まじい衝撃に押されるように、

 朝霧とミストリナは一歩ずつ後退する。


「朝霧、一旦引くぞ! ここは()()()()!」


『逃がしはしねぇよな!』


 巨人が急接近を始める。

 その動きは融合前とは比較にならないほど軽やかで、

 正に一体の巨人が飛び込んで来るようだった。


 接近によって体感温度は更に跳ね上がる。

 振り下ろされる拳をそれぞれ避ける二人だが、

 朝霧の動きには既に切れが無い。


(っ――!? 朝霧は既に限界か!

 かく言う私も祝福を発動する暇が無いな!)


 彼女の『収縮』は触れ無ければ発動出来ない。

 高熱の鎧を纏う巨大ロボットとは相性最悪だった。

 それでもミストリナは、一瞬でも気を抜けば

 今にも途切れてしまいそうな意識を保ち、

 熱気で揺れる陽炎の中に突破口を探し続けた。


(……()()()だ。あの場所ならこの熱も或いは!)


 速やかに方針を決定し

 ミストリナが朝霧に向け駆け出した。


『あぁ? 何する気だ隊長さんよぉ!?』


 再び大振りの攻撃が繰り出されるが、

 喰らえば一溜まりも無いその灼熱の拳を

 ミストリナは自身を収縮する事で回避した。

 そして解除後、彼女は朝霧の元へと辿り着く。

 朝霧の意識はかなり朦朧としていた。


「っ……! この状況は私が何とかする。

 その後を任せてもいいか?」


 呼吸音一つ無いまま、

 朝霧は小さくコクリと頷いた。

 がその時、巨人の手が朝霧を押し潰す。


『隙だらけだぜぇ!!』


 轟々たる鳴動が朝霧らの居た場所を圧迫し、

 鋼鉄の大地を鋭利な瓦礫片へと変えた。

 そしてベーゼがその跡を確認すると、

 既に朝霧の姿は無く、

 部屋にはミストリナしか居なかった。


『ハハハ! 嬢ちゃんは潰れちまったか!

 後はあんただけだ!!』


 歓喜の念を全身で表すように

 機体からの熱気が更に激しさを増す。

 だがむしろミストリナは落ち着いた様子で

 ベーゼに対して戦意を向けていた。


「ゴホッ! やれやれ、喉が焼けるようだ……」


『フン、あんた、部下を殺されたら

 返って冷静になるタイプか?』


「まさか? か弱いレディだぞ?」


『フッ! まぁすぐにあの世で再会出来るさ!

 丸焦げのウェルダンになってなぁッ!!』


 耳障りな爆音を立てて熱波が襲う。

 だが安易な接近はして来ない。

 ベーゼは触られる事をしっかり警戒していた。

 対してそれを確認したミストリナは

 口に布を巻いて喉を守ると、

 呼吸を整え、呟くように声を吐く。


「私の嫌いな男の条件は三つ。

 古くさい男。上から見下す男。

 そして――暴力を楽しむ男!」


 袖を捲り、前髪を整え、

 歴戦の女隊長は魔力を纏う。


「……やれやれ、こんな男は劉以来だ。

 ドクター・ベーゼ、君は()()だ――!」


 直後、ミストリナは駆け出した。

 部屋の中心、ベーゼの元へ、

 なんの躊躇も無く一直線に飛び込んだ。


(!? こいつ、自棄(やけ)か!)


 触れられる事を嫌ったベーゼは

 エンジンを噴かし急速に後退して距離を離す。

 だが彼が退いた事で生まれたスペースで

 ミストリナは自身の身に急ブレーキを掛けた。


「立ち退きご苦労。悪いがこの研究所は廃棄だ。」


 彼女はポーチから取り出したソレを

 上空へと投げ飛ばす。

 瞬間その『収縮』が解除された――


 直後、巨大化ソレが

 固い天井を突き破っていく。

 瓦礫の雨を降らせながら、

 その巨大物体が元の大きさに復元された。


『ッ!!?? ()()()()()()()だと!?』


 部屋の天井が崩落する。

 ミストリナが投げたのは大型客船だった。


 ベーゼの機体よりも、

 この実験場よりもさらに大きなクルーズシップが

 まるで槍のように建物を上へ上へと貫いていく。


「では、さようならだベーゼ。」


『っ!?』


 無数の瓦礫が降り注ぐ中、

 ミストリナはベーゼに別れを告げる。

 その言葉に反応しミストリナの方を向き直すと、

 彼女は丁度降り注ぐ瓦礫を見上げて

 その隙間を見極めている所だった。


「さて、ここからが正念場だ!」


 決意を宿しミストリナが真上へ跳躍する。

 落下する瓦礫を足場に器用に登って行く。

 不要な瓦礫は身体能力で回避した。

 回避が困難な瓦礫は収縮で無力化した。

 ただひたすら、彼女は上へ上へと逃げて行く。


(乗り込んだ戦車の動きで、

 この研究所の位置は理解していた。

 ()()だ! ここはマランザード砂漠の地下だ!)


 月明かりが零れる砂に反射される。

 もうすぐ地上が見えてきた。が――


『逃がす訳ねぇだろうが!!』


 今までの比では無い高熱で、

 ベーゼが瓦礫ごと溶かして追撃してきたのだ。

 地獄から這い上がる化け物のように

 激しい動きでミストリナを追撃してきた。


「っ――!? しつこい男も嫌いだ!」


 ポーチの中からあらゆる物を降り注がせる。

 が、その全てが接触後すぐに焼け落ちた。


(チッ! あと少し……あと少しなんだ!)


 ミストリナが地上へ急ぐ。あと十数メートル。


 夜空が近付く。


 魔力を足に集中させる。あと数メートル。


 手が届きそうだ。

 最大限の力で跳躍する。

 そして遂に彼女は脱出を果たした――



『――灼魔剣。レーヴァテイン。』



 直後一筋のビームが地下から地上へ放たれる。

 雲を裂き、夜空を裂いたその光は

 正に灼熱の剣であった。


 そして目映い熱光線がミストリナを掠める。

 ただ掠めるだけだったがその閃光は

 伴う狂気の高熱でミストリナは発火させた。


「ぐっ!! があぁあああ――!!??

 あぁああぁああッッッ――!!!!」


 地上に落下しゴロゴロと転がり落ちる。

 砂漠の砂ですぐさま火は消えたが、

 彼女の顔の左半分は焼け爛れていた。


 やがてベーゼも地上に這い上がる。

 苦痛で藻掻き倒れ込むミストリナを見つけると、

 彼は自然と口角を吊り上げ嗤っていた。


『フハハハ!! よかったちゃんと当たった!』


「ぐっ! あぁ!! き、貴様ぁ!!」


 ミストリナは急ぎポーチから、

 治癒とラベリングされた容器を取り出す。

 しかしベーゼは上機嫌のまま

 それはさせまいと灼熱の拳を突き出した。


『ハッ! ポーション程度で治る怪我かよ!

 お前はここで死ねぇ!!』


「……いいや既に完治しているさ! ()()は!」


 ミストリナは瓶を自分には使わず叩き割る。

 瞬間、瓶の中にあった物体の『収縮』が解除され、

 その中からは朝霧桃香が飛び出した。


「隊長に手を出すな――!!」


『何ぃ!?』


 魔力を込めた渾身の拳を繰り出される。

 その拳の風圧で、直接触れること無く

 ベーゼの攻撃は跳ね返された。

 ミストリナは復活した部下に笑みを浮かべる。


「再会は……丸焦げ、とまではいかなかったな。」


「ミストリナ隊長、早く避難を! ここは私が!」


 朝霧はベーゼに立ち向かおうと構えを取る。

 だがその袖息巻くは後ろに引っ張られた。


「まぁ待て。君の()()()()()するのが先だ。」


「!? それは――」


 制限の解除。即ち暴走形態の開放である。

 ミストリナが万全なら彼女の祝福で

 比較的安全に後始末が出来るが、

 今の彼女はとても万全とはほど遠い。

 だが湧き上がる不安の表情を上司は叱る。


「その後は任せると言ったろう?

 それに私は隊長だ。安心して暴れてこい!」


「――っ! 了解!」


 小さな手で背中を叩かれ朝霧も覚悟を決める。

 そんな彼女を見つめミストリナは優しく微笑む。

 火傷の傷が痛むのか、ぎこちない笑顔であった。

 だがその表情には朝霧への確かな信頼が見える。


 部下の決意を認め、

 ミストリナは魔力の制限を解除した――


『――!? あれが噂の! させるか!!』


 数秒前と同じ攻撃を朝霧に向けるベーゼだった。

 が、今度は()()()吹き飛ばされていた。


 機体の片腕が弾け飛んでいる事に

 ベーゼはしばらくの間気が付かないでいた。

 そして状況を理解し慌てて朝霧へと振り返ると、

 彼女は既に眼前にまで接近していた。


「アァア――!! ベェェエゼッ!!」


 朝霧の拳が巨人を殴り飛ばす。

 砂漠の上を滑走し巨大ロボットは倒れ込んだ。


(ぐぅお!? こいつ熱を意に介してねぇのか!?

 ……いや違う!! これはまさか……!?)


 ベーゼの視界に月が映る。夜景が映る。

 今更ながら()()()()だと気が付いた。

 そんな彼の様子を眺め、ミストリナが勝ち誇る。


「砂漠の夜は()()()()

 今の君は丁度良い暖房くらいかな?」


(クソが……! しかもそれだけじゃない……!

 レーヴァテイン発射直後の冷却装置(クールダウン)が働いている!

 バカスカ撃ち過ぎた……今温度を上げれば自壊するぞ!)


 朝霧の攻撃を止める術は

 もはやベーゼに残されてはいなかった。

 雄叫びを上げ再び朝霧桃香が迫る。


『やるしかねぇ!! 灼魔剣! レ――』


 その時、一筋の線が機体を貫く。

 空いた風穴から熱気が漏れ出た。


『はぁ――!? 今度何だ!?』


「……()か。何だ近くまできたのか。」


 ミストリナは遠くで輝く車両の光に気が付く。

 対称的に理解が間に合わずにいたベーゼだったが、

 混乱している内に彼女の目の前には朝霧が居た。


「こっのぉおおおおおおお!」


「終ワリ……ダァッ――!!」


 連撃が機体を貫く。

 高温の装甲を叩き割る。

 巨人の図体が宙へと浮く。


 機体には次第に電気が迸り、

 ジリジリと崩壊の警告音を鳴らす。

 そこかしこから小さな爆発と煙が立ち上る。


(あぁ、傑作が砕ける……壊れる!

 人の身で兵器を上回る、か。

 ……やっぱ魔法の世界は面白ぇ!!)


「ウガシャァア――――!!!!!!」


 最後の一撃が核を穿つ。

 機体は爆発四散。ベーゼは敗北した。



 ――――


 朝霧の攻撃が終わると同時に、

 ミストリナが接近を試みる。


(今しかない!

 敵を仕留めた一瞬の隙に、朝霧を縮める!)


「ヤリ、マシタ、タイチョウ……」


「――!?」


 朝霧がミストリナを向き、言葉を紡いだ。

 刹那、意識は途切れ倒れ込む。


(これは……もしかすると、()()()()……なのか?

 あぁ……ダメだ……私も思考が纏まらない。

 …………まぁいいか……)


 遠くから接近する車両群に安堵する。


(……私も頑張っただろう……

 今くらい……休ませて……くれ……)


 星の綺麗な夜空の下、

 ミストリナは意識を手放した――


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