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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第四章 あらゆる秘密は暴かれる

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外典の拾

 ――――


 封魔局、魔導戦闘部隊、第六番隊所属。

 エレノア・メルニック。祝福『磁界支配(マグネティックドグマ)』。


 彼女の生まれは至って平凡。

 両親が封魔局員や連合関係者という訳でも無く、

 ただ己の才能のみで主席にまで上り詰める。


 否、才能のみ、というのは些か語弊があった。


 平凡な家から出た彼女には何の後ろ盾も無い。

 才能を見いだしてくれる知人は無く、

 特別な鍛錬を付けてくれるような師もいない。


 勿論、学生時代には多少の機会や縁もあったが、

 所詮は学徒全員に与えられる共通の権利に過ぎない。

 彼女は決して恵まれた環境には居なかった。


 それでも主席になるだけの才には自信があった。

 故に彼女はある戦略を取る。

 ――『めちゃくちゃ顔色を伺う』作戦だ。


 関わる人間全員の損得を常に考え、

 自分が利益を生む人間であるとアピールし続けた。


 優秀な教師に気に入られるように、

 名家のボンボンから目を付けられないように、

 偶に合う現役封魔局員の記憶に残るように。


 また彼女は『主席のエレノア』という

 キャラクター作りにも注意を向けていた。

 要はナンバーワンに相応しい人柄を作ったのだ。


 尊敬を集める程度には気高く振る舞い、

 嫌われない程度には愛想を振りまく。

 時間が許す限り髪型や私服にもこだわった。

 それらのセルフプロデュースが功を奏し、

 彼女は自他共に認める主席卒業生となる。


 だが、それは同時に『見えない孤立』を生んでいた。



 ――――


 轟音が大地を揺らす。亀裂と瓦礫が牙を向く。

 まるで巨大な怪獣でも暴れているかのように、

 大地は叫び、鋭い衝撃が木々を根ごと吹き飛ばす。


 そんな化け物から逃れるように、

 エレノアは樹に磁力を付与して空中を飛ぶ。

 彼女の腕には重傷のシアナが取り付けられていた。


「っ……! シアナ! 起きて!」


 反応は無い。

 呼吸はしているが意識は完全に失せていた。

 また負傷が多く出血も酷い。

 無理矢理毒で塞いだ傷跡が惨たらしい。


 シアナも決して弱くは無い。

 それどころか鬼を撃退出来るくらいには戦闘も可能だ。

 だがそんな彼女が、今は全く動けない。


(そんなレベルの奴がまだいるの……!? 亡霊達(スペクターズ)!)


 嫌な想像に背筋を凍らせながら、

 エレノアは林の外に向かって飛び出した。

 がその時、月光を背に受けその影は現れる。


「――お。ようやく見つけた。」


「ッッッ!?」


 エレノアの頬に走る鋭い痛み。

 棒状の何かで殴り飛ばさられたと悟る。

 たちまち林の中へと送り返されるエレノア。

 そんな彼女の前にその吸血鬼は舞い降りた。


「そこなラミアは拙者の獲物。危うく逃がす所だった。」


 和装の吸血鬼。亡霊達(スペクターズ)の厭世だ。

 厭世はエレノアを殴った鞘から太刀を抜く。


(チッ! こいつがシアナを……!)


 刀を遊ばせ吸血鬼がゆっくりと迫る。

 するとそこへ、エレノアたちを襲っていた道和が

 追いつき厭世に向かって大声で怒鳴り始めた。


「おいおい! ちょぅと待てや!

 ()()()()は俺の獲物だぜ、厭世ッ!!」


「何を言うか。こんな物は早い者勝ちであろう?」


「ここは俺の狩り場だ! 俺が殺る!」


 長棒で「ダァン!」と強く地面を突き、

 狂犬のような目で仲間を睨んだ。

 決して譲らぬという意志を感じ取ると、

 吸血鬼は呆れたように溜め息を吐いた。


「分かった、分かった。拙者は観戦する。」


(は……?)


「おう! ニッポン被れはそこでウタでも詠んでな!」


「貴様の無粋な舞では詩興も湧かぬわ。」


(何……こいつら……?)


 困惑し、エレノアは二人の顔を伺った。

 近場の木を切り裂き即興の椅子を作る厭世。

 そして首を鳴らしながら彼女に近付く道和。

 命のやり取りをしているはずなのに、

 彼らからはその緊張感がまるで感じられ無かった。


「っ……! ナメるなッ!」


 蒼電を纏い、周囲の石礫(いしつぶて)を巻き上げる。

 磁力によってエネルギーを得た自然の弾丸。

 数発のレールガンを道和に向けて乱射した。

 がしかし、その攻撃は一発たりとも敵には届かない。


「な……!? バ……バリア?」


 道和の前に展開されたのは、

 オレンジ色に輝く半透明の巨大な結界。

 電磁力の散弾に一切傷付くことは無く、

 不敵に笑う道和を護っていた。


「勿論ナメてるぜ? 俺の祝福(バリア)も破れねぇ奴はな!」


 手をかざし、男は何かを放つように力を込めた。

 ――刹那、エレノアの体を迫る結界が突き飛ばした。


「がはっ……!?」


 無頼の鉄砲玉、亡霊達(スペクターズ)の道和。

 彼の鉄壁の祝福『武陵源』は誰にも破れない。



 ――霧の森・外部――


 鈴虫の音でも聞こえそうな夜空の下、

 柔らかい草のベッドの上に彼女は寝ていた。

 ピクリと動く指。目元が一瞬揺れる。


「ぅ……っ、ぅぅん。」


 自分が何をしていたか良く思い出せない。

 それほどまでに疲れが全身を襲う。

 何の気も無く手を伸ばしてみると、

 彼女は再び青い袋に触れた。


「――! そうだ、幽霊船は!?」


 顔を起こし周囲を見渡す。

 急に動かしたため脳が揺れるような感覚に襲われた。

 グッと眉間を抑え、もう一度、冷静に周りを見た。


(誰もいない。霧の森の…………外だ。)


 冷たい星空の下、朝霧は目を覚ました。

 やがて彼女の視界に例の袋が飛び込む。

 朝霧は座ったままその袋を引き寄せる。


(遺体安置所から逃した物品……そしてあの光……)


 確信があった。

 もうそれ以外あり得ないという確信があった。

 だがこの目で見るまでは信じられない。

 朝霧は遺体袋の封印を解き、その中身を確認した。


「っ――!」


 丁度その時、フィオナとアリスが朝霧を発見する。

 地面に尻を付けへたり込み、僅かに震える朝霧を。

 彼女を視た瞬間、アリスは口元を抑え立ち止まる。

 だが特別な眼を持たぬフィオナは気付かず語り掛けた。


「良かった! 無事だったか、桃香!」


「……」


「マクベスはどうした? 撃破したのか?」


「……」


「……桃香?」


 返事の無い親友にようやく違和感を覚えた。

 フィオナがその背に軽く触れると――


「あ、アハ……! アハハハハハハハ!!」


 ――途端に、朝霧は笑い出した。

 あまりの異常さに流石のフィオナもたじろぐ。

 そんな彼女に朝霧は声を発した。


「フィオナ! ハハハ……! 私、分かったよ!」


「?」


「森泉さんは黒幕なんかじゃないよ!

 だってあの人は()()()()、絶対にしないもん!」


 フィオナの方へと首を回した。

 口元には貼り付けたような笑みを浮かべていたが、

 その瞳からは制御出来ていない涙が滴り落ちる。


 フィオナの視界には、

 痛々しい親友の表情と冷たい少女の骸が飛び込んだ。

 それはワープの祝福を持つナディアの遺体。

 何の因果か、少女の骸は聖遺物へと変化していたのだ。


 宝珠主義者(アルセイデス)は研究に研究を重ね、

 聖遺物の発現確率を向上させる技術を得た。

 が、それはあくまで数ある手法の一つに過ぎない。


 彼らが研究を始めるよりもずっと以前から、

 聖遺物の存在は世界各地で確認されていた。

 結局の所、物に祝福が宿ればそれが『聖遺物』なのだ。


 そして、その奇跡がナディアにも起きた。


 視界内の任意の位置にワープ出来る祝福。

 便利過ぎるこの能力が道具として利用可能となった。

 その利益を求め、無垢なる少女の遺体は狙われたのだ。


「そんなの森泉さんじゃないよ!

 彼は私を何度も助けてくれた……優しい人だもん!」


「……」


「だから! ……ハハ、だからさ!

 森泉さんは、もう……っ! もう、死んでるの……!」


「桃香……」


 掛ける言葉が見つからない。

 痛々し過ぎて見ていられない。

 フィオナもアリスも、何も言えなかった。


 その時、彼女たち三人の前に一人の人影が迫る。

 銀色の髪に浅黒い肌をした小柄な女性だ。

 アリスは咄嗟に警戒し銃を構えるが、

 服装から封魔局員である事を悟りすぐに下ろした。


「ここにいましたか! フィオナ隊長!」


「イザベラ?」


 フィオナの部下である七番隊員のイザベラだった。

 ボロボロの服に手を押し当て朝霧たちの元に迫る。


「他の者はどうした?」


「敵の奇襲を受けました……私だけ、何とか脱出を。」


「! 場所だけ教えてくれ。そしてすぐに治療を!」


「私は大丈夫です……! それよりも……!」


 重たそうに体を動かしながら、

 イザベラは朝霧の元へと歩み寄った。

 そして遺体の顔を確認し、口元を動かす。


「敵の目的を奪ってしまいましょう。

 私がこれを持って、輸送機で脱出します……!」


 朝霧に向かい小さな手が差し伸べられる。

 精神的にもかなり参っていた朝霧は、

 何の疑いも無く彼女の手に袋を渡した。


「――待て、イザベラ。」


「……」


「二人とは初対面だろ? 自己紹介はしておきなさい。」


 フィオナの指示にイザベラは従う。

 綺麗な敬礼を朝霧とアリスに向けた。


「……あぁ! 失礼しました!

 七番隊所属、イザベラ・ベルンハルトです。」


「え? いや……あれ?」


「どうしました? 朝霧さん?」


 イザベラは敬礼をしたまま朝霧の方へと向いた。

 場面とは合わない満面の笑みを近づけて。

 そんな彼女に朝霧はポツリと呟く。


「イザベラって……私とは初対面じゃ無いよね?」


 ――刹那、止まった時を動かすように魔力が弾けた。


 恐らく、()()()()察していたのだろう。

 反射神経だけでは回避も出来ない速度と角度で、

 フィオナが怪しい部下に向けて攻撃を放ち、

 対するイザベラはそれを最小限の動きで避けきった。


 空中へと逃れるイザベラ。

 人型の輪郭を歪ませるその粘体の端には、

 いつの間にかナディアの遺体袋が取り付けられていた。


(変身能力持ちのゼノ……!

 なるほど、この乱戦は彼を活かすための戦術か!)


「ナイトホークッ! 援護は任せた!」


 四、五発の魔弾が地面を抉る。

 細く鋭く吹き上がる土塊の柱。

 足を止めた封魔局員からゼノは逃走した。


「チッ! 桃香! すぐに追、う――」


 フィオナは思わず口を閉ざした。

 朝霧の周囲に取り巻く禍々しい魔力に戦慄したのだ。

 憎悪と殺意。そして激しい怒りに燃える焔に。


「うん、追う。絶対に――逃ガサナイッ……!」


 立ち昇る赤、赤、赤。

 漏れた魔力が落雷のように大地を穿ち、

 周囲にいる仲間の肌をピリピリと撫でる。


 やがて、狂鬼が草のベッドを蹴飛ばした。


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