表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第四章 あらゆる秘密は暴かれる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

293/666

外典の捌

 魔法世界に現存する魔術。

 その多くはとある一つの魔術体系を起源とする。

 天魔のグリモワ-ル。神域降神術『魂源魔術』。


 中央都市ゴエティアの由来となった偉人、

 ゲーティア・テウルギアが完成させたこの魔術は

 時間を掛け、適切な鍛錬さえ積み重ねれば、

 ほぼ全ての魔法使いが習得出来る神秘であった。


 神域と称される他二つの魔術と比べても

 機能性、再現性、拡張性の三点に優れ、

 今でも多くの魔法使いに広く愛されている。


 魔法世界を支える魔術と言っても過言では無いのだ。


 そしてそれは、魔法使いの未来を誰よりも願い続けた

 偉大なるゲーティアの想いが強く反映されていた。

 彼が求めたのは魔術の発展。即ち魔法世界の繁栄だ。


 ただ――魂源魔術にも習得困難な『奥義』があった。


 魂源魔術には二つの『章』が存在する。

 炎剣の生成や記憶の操作など補助技よりの『天使の章』。

 そして、もっと直接的な攻撃手段を揃えた『悪魔の章』。

 このどちらにも奥義は存在していた。


終局の盗人(アンドロマリウス)千貌の賢者(ダンタリオン)駆ける美丈夫(セーレ)……)


 奥義が習得困難な理由はたった一つ。

 その発動に必要な最低条件が高難易度過ぎるのだ。


真実の業火(マルコシアス)風雷の牡鹿(フルフル)南陽星暴君(ガープ)……)


 発動の条件は、該当章の()()を統合すること。

 即ち――全ての魔術を習得する必要があるのだ。


 いくら魂源魔術自体の習得難易度が低いとはいえ、

 あくまでそれは神域と称される三種の魔術内での事。

 天使の章にしろ悪魔の章にしろ、その数は膨大。

 ほとんどの魔術師は便利な数個のみを習得し、

 全魔術をコンプリートしようとはしなかった。


魔空の王冠(パイモン)生命の狩人(バルバトス)狂戦の餓狼(アモン)……)


 だが、フィオナは違った。

 糸という練度が必須の祝福に生まれ、

 教師、上司、同僚から何度も渋い顔をされ続け、

 それでもなお、自己を高めることに精を出し続けた。


正義の悪霊(ヴァッサゴ)極大震魔災(アガレス)……――――始まりの偽神(バエル)!!)


 やがて彼女は魂源の奥義へと至った。

 神域降神術『魂源魔術』、悪魔の章全統合――


「――『レメゲトン・ディアボルス』。」


 放たれたのは真っ赤で、それでいて真っ黒い閃光。

 不浄なる悪霊どもを従え、纏め、束ねて放つ死の光線。

 まるで地獄に住まう魔王の咆吼。悪魔の一撃。


 ――断罪が小賢しい悪霊の体を吹き飛ばす。


 大地を抉り、生命の象徴たる樹々を薙ぎ払い、

 それでもなお魔力の大洪水は止まらない。

 ありとあらゆる命を刈り取り悪魔が破壊を愉しんだ。


 やがて、光の消滅と共に森には静寂が戻る。

 抉り取られた地面。焼き払われた森。

 放心していたシックスは我に返り仲間を探す。


「ドレッドノート……! どこ!?」


「悪いが、あの男は排除させてもらった。」


「っ……! あっそーですか!」


 フィオナに向かいシックスは乱射する。

 目的は殺害では無く足止め。

 自分が逃れる隙を作るための時間稼ぎだった。


 その事を悟りフィオナは糸を伸ばした。

 が、突如として意識が揺らぎ膝を突いてしまう。

 当人の予想以上に魔力を消費していたのだ。


(やはり、そう気軽に撃って良い技じゃないか……)


 胸元を抑えながら内心で反省会を開く。

 そんな彼女の状態を好機と捉え、

 シックスは倒れたバイクを持ち上げる。


「っ! 逃がしは……!」


 アリスが身を起こし銃を構える。

 が、そんな彼女の視界を遮るように、

 シックスの焚いた煙幕が瞬く間に広がった。


 煙を掻き分け後を追うが、

 暗闇の向こうに遠のくエンジン音が響くのみだった。


「逃げられた……! グレン! すぐに追跡を――」


 強い敵意をむき出しにアリスは仲間の名前を呼ぶ。

 が、しかしそこに対象の人物の姿は無かった。


「あれ? グレン?」



 ――――


 弾丸が執拗に女の脳や胴を狙い襲いかかる。

 それを弾く鋼鉄の音と光が闇夜に響く。


 アリスたちがいる森より更に奥深く。

 見えぬスナイパーからの狙撃と

 背後から迫る無数の肉塊から朝霧は逃れ続ける。


(敵の目的は(コレ)。援軍が来るまで守れればいいけど……)


 フィオナの見立てに反し森の中でも狙撃が続く。

 拠点は集中砲火を浴び半壊していたため脱出したが、

 当ての無い逃走ほど無益なものはない。


(せめてアランか、輸送機の七番隊員と合流したい……!)


 木陰に隠れ、朝霧は荒れた呼吸を整える。

 居場所は既にバレているようで、

 彼女の隠れる樹に紫色に輝く弾丸が撃ち込まれた。


(ていうか私……今どの辺りを走ってる?)


 朝霧の戦闘スタイルは体力の消耗が激しい。

 加えて暗い世界と高低差の激しい足場。

 逃走という目的自体には適しているが、

 少々疲労の方が強く主張を始めいた。


「隠れても無駄ですよ~? 朝霧さ~ん?」


(一対二だけど、狙撃手はこの場にはいない。

 それに射撃の精度も威力も段々落ちてきている……)


「諦めて、出てきては如何ですか~?」


(ならマクベス(あの男)を盾にすれば弾は撃てない。つまり――)


 すぅ、と息を吸い込み、

 朝霧は自らの姿を隠す大木を斬り付けた。

 轟音を立て倒れる大樹。無数の落ち葉が宙へと跳ねる。


 マクベスは倒木から咄嗟に身を守る。

 が、彼の視線がそちらへ向いた一瞬で、

 朝霧は木の葉に紛れながら急接近していた。


「――接近戦! これなら狙撃は来ない!」


 振りかざされた大剣を肉塊の盾が防ぐ。


「ふッ……! この私を倒せるとでも!?」


「余裕。だって……」


 残る力と魔力を込め朝霧は苦笑した。

 脳裏に過ぎるのは恋した男の顔。

 まだ無実だと信じたい探偵の横顔を。


「だって私は――戦闘だけが取り柄なんだから!」


 吹き出す魔力が巨大な肉塊を押した。

 直接触れている訳では無いはずなのに、

 マクベスは威圧に負け思わず半歩足を下げる。


(っ! いかん、心で負けては……!)


 肉塊を集め赫岩の牙に纏わせる。

 鋭く分厚い刃を包み込み朝霧から取り上げた。

 返す手で武器を失った彼女に細かい肉片を飛ばす。


 しかしこの程度で朝霧は動じない。

 迫る肉片を瞬時に見切り、身を翻して全てを避けた。


 針の穴に糸を通すような繊細な動き。

 敵でも思わず見惚れてしまいそうな美しさ。

 しかしそれは敵意に満ちた鬼の急襲。


 マクベスは我に返り、

 取り上げた大剣を奪い返されないように肉塊を動かす。


「返せ。『遠き理想への渇望(エイブラハム)』!」


「しまっ……!」


 冷や汗を掻くマクベス。その瞳に一匹の鬼が映る。

 青白い月光を背に闇夜に大剣を携えた狂える鬼が。


「狂鬼完全侵食・≪(ジ・エンド)≫!」


 やがて男の視界は真紅に染まった。

 朝霧桃香が放出する禍々しい魔力の赤。

 その色を認識した時には既に、

 激流の如き連撃がマクベスの四肢を斬り胴を蹴飛ばす。


「――ッッ!? ゴヴァハッ!」


 吹き飛び大地を転がるマクベス。

 一回目の接地で肉を補い、二回目の接地で受け身を取る。

 ほとんど反射のような動きで体勢を立て直した。


 ――が、朝霧の連撃は止まらない。


 殺意に反応しマクベスが飛び退くと、

 先程まで彼のいた場所が大量の粉塵を巻き上げ爆発した。

 かと思った矢先、足に感じる鋭い痛み。

 気付いた時には既に彼の足が切断されていた。


(……っ!? なるほどそうか、見誤った……!)


 肉塊を盾にする。血飛沫を目眩ましに使う。

 外部からの援護も出来ない超至近距離で、

 朝霧とマクベスは惨たらしい殺し合いを繰り広げた。


(逃走中の朝霧は、逃げていただけ!

 本人にとってアレは……()()()()()()()()()()!)


 彼我の戦力差は圧倒的。

 マクベスは恐怖にも似た感情で心が揺れ動く。


 だが心中穏やかでは無いのは朝霧も同じであった。

 体力も魔力も大量消費する朝霧は

 短期決戦による勝利を目論み魔力制限を解いた。


 しかし予想以上に敵は彼女の攻撃を凌ぐ。

 例え朝霧の攻撃で無限に欠損しようと、

 祝福である肉塊を使い無限に補填を繰り返してくる。

 持久戦なら今まで対峙した敵の中でもトップクラスだ。


(これ以上、コイツに時間は掛けられない!)


 朝霧は地面を叩きつけ、その反動で後方に飛ぶ。

 一瞬でマクベスから距離を離し間合いを取ったのだ。

 そして大剣を、まるで大砲のように構えた。


「真体開放――『赫焉』ッ!!」


 視界を染め上げるような赫が煌めいた。

 雷轟のような響き、大気が大きく揺れ動く。

 激しい爆音の跡には不気味な静寂のみが残った。


「っ……! ふぅ……」


 重さに任せ大剣を握る腕を地面に下ろす。

 首や額に流れる大粒の汗。荒れる呼吸。

 少し勝利を急ぎ過ぎたか、と朝霧は自嘲した。


(……あれ、そういえば、本当にここはどこ?)


 マクベスとの戦闘で朝霧はかなり移動していた。

 気付けば森全体の雰囲気も、

 どことなく肌寒さを感じさせるものとなっていた。


 帰り道はどっちだろうか。

 そんな事を考えながら朝霧は周囲を見回した。

 その時――


「がはっ……! ハァ……ハァ……!!」


「……は?」


 ――焼けた木材を押し退けて

 肌を焦がした重傷のマクベスが出現した。


(嘘……! 赫焉を喰らって……!?

 確かに魔力全部を乗せて撃っては無かったけど……)


「ぁぁ……! 始末、せねばッ! 朝霧ィッ!」


 舌打ち混じりに朝霧は大剣を構えた。

 しかし、やはり既に消費した魔力が多過ぎる。

 普段なら軽く扱えるはずの大剣がどうにも重い。


 逆にマクベスの肉体は補填され続け、

 次第に元の巨漢へと再生しつつあった。

 朝霧の脳裏に、嫌な未来が浮かんで来る。


(嫌だ。今、此処では死ねない……!)


 奥歯を噛み締め力を込める――



『…………――――、…………――――!』



 ――瞬間、二人の背中を冷気が撫でた。


 異常に気付き周囲に意識を向ける。

 何処からともなく歌のような声が届き、

 彼女たちの周りにはいつのまにか()が立ち込めていた。


『…………――共を、…………――尽くせ。』


 野太い男性の歌声が聞こえる。

 森の奥のはずなのに潮の匂いが鼻を刺す。

 真っ白な霧が少し先の景色をも包み隠す。


 正常なはずの五感が次々と異常な情報を流し込んだ。


 瞬間、マクベスの顔が青ざめる。

 まるで自分たちが犯した過ちに気付いたかのように、

 目を見開き、呼吸を早め激しく動揺していた。


「歌……潮の匂い……! そして霧……!!」


『俺たちゃ海神の――。だが此処に俺らの海は無し。』


「しまった此処は……この森は!!」


 叫ぶマクベスの背後に朝霧はソレを見た。

 ユグドレイヤを聖域足らしめる三種の森。

 その最後の一つ『霧の森』に住まう怪異。

 眼の前の光景を一言で形容するのなら――


「陸を彷徨う幽霊船……!」


 甲板に佇む無数の死者たち。

 ぼんやりと浮かぶその亡者と目が合った。


『故に俺らは――「彷徨える阿蘭陀人(フライングダッチマン)」!

 クソ生意気な生者共を、心すくまで呪い尽くせ!』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ