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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第四章 あらゆる秘密は暴かれる

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外典の陸

 まだ燃え尽きていない松明が乱暴に蹴飛ばされ、

 同じく地面に落ちていた布幕に引火し燃え広がる。

 だが炎を消す者は一人もいない。

 周囲三百六十度で敵と味方が入り乱れた戦場。

 誰も倒れた物に気を遣う余裕など無かった。


 そんな戦場の中で二人の強者が静かに対峙する。

 まるで周りの喧噪が遙か遠くの物のように、

 静かで、それでいて緊迫した時間が流れていた。


「なるほど……糸による切断か。」


 数十秒前までは確かにそこにあったはずの手を眺め、

 ドレッドノートは興味深そうに呟いた。

 痛みで苦しんでいるような素振りは無く、

 むしろこの空間の誰よりも落ち着いていた。


(祝福は……『痛覚無効』といったところか?)


 フィオナは敵の能力を推察しながら、

 自らの周囲に専用の五丁拳銃を展開した。

 雷神の太鼓のように糸で繋がれた筒が輪を描く。


 そんな彼女を前にしてなお、

 ドレッドノートからは緊張感が感じられない。

 欠けた腕を上げ、旗のようにプラプラと振った。


「マクベス~? これ直して~?」


「――!」


 声に反応しフィオナは咄嗟に光弾を放った。

 が、彼女の弾は全て、

 何処からともなく飛来した肉の塊によって迎撃される。


「直すのでは無く補填するのですよ~?

 全く……何度欠損すれば気が済むのですか、ドレノ?」


 現れたのは芸術的なカイゼル髭を蓄えた軍服の男。

 規則正しい歩調と共にフィオナの前に堂々と姿をさらす。

 黒幕直下『亡霊達(スペクターズ)』の一員、マクベスである。


「今回のは相手が上手(うわて)だっただけだって!」


「七番隊のフィオナ、ですか?

 ドレノの腕をこうも見事に切り飛ばしますか。」


 感服するようにそう呟きながら、

 マクベスはパチンッ、と一回指を鳴らす。

 直後、宙を舞う肉塊がドレッドノートの腕に集まり、

 新たな手と変形し欠損を補った。


「――っ!?」


「しかし、どうしましょうか?

 レディ・シックスは倉庫から中々出てこないですし~?

 道和の単細胞は磁力使いと共に林に消えてしまった……」


「まぁ問題は無いさ。二対一だ。」


 腰から二丁の大型拳銃を取り出し男はニヤける。

 それに呼応するようにマクベスも拳を鳴らした。

 厄介な精鋭二人がゆっくりとフィオナに迫る。

 その時――彼らの頭上で朝霧の声が響いた。


「いいや、二対二だ!」


「「ッッ!?」」


 咄嗟に二人の亡霊は後方へ飛び退く。

 直後、彼らのいた場所には大剣が叩き付けられ、

 石礫を浮かし、大地に深い亀裂を走らせた。


「朝霧……隊長……!」


「お待たせ。まだ寝ちゃダメだよ、グレン。」


 朝霧の声に励まされ、

 グレンとハウンドはゆっくりと立ち上がった。

 地面に転がるは飛行バイクと、大きな青い袋が一つ。



 ――遺体安置所――


 亡者と生者が弾丸を交わらせる。

 暗闇を進み、肉を通過し、窓ガラスを叩き割った。

 キャッチボールでもするかのように手榴弾が宙を舞い、

 物騒な炸裂音が花火大会のように幾度となく轟いた。


 危険過ぎる火遊びの主は二人の女。

 共に特異な眼を祝福として有した魔女である。


「チィッ! 『固定(ロック)』ッ!」


 片方の眼は任意発動型の祝福『停止の(まなこ)』。

 彼女が能力で視た物は何であれ即座に固定される。

 それは人体であっても例外では無く、

 小さなアリスから一瞬で体の自由を奪い取った。


(ヅッ……! 十パーセント『死を想え(メメント・モリ)』ッ!)


 が、固定された直後アリスはカウンターを放つ。

 自動発動型の祝福『厄視の眼』。

 それを生かした応用魔術でシックスを攻撃した。


 相当繊細な魔法だったのだろう。

 針を刺された程度の痛みで停止の呪いは解除された。


「あぁ〜!! もうウザったい……!」


「それはこっちの台詞です!」


 全弾撃ち尽くした隙を突き、急接近を試みるアリス。

 そんな彼女をシックスはナイフを投げて牽制した。

 直後飛び退き、速やかにリロードを済ませる。


 接近に失敗したと悟ると、

 アリスはすぐに柱の陰に飛び込み身を隠す。

 暗い倉庫を支える無数の鉄柱。

 二人は柱から柱へ駆け回り互いの影に弾丸を放つ。


「アンタのカウンター、何かを消費するタイプでしょ?

 残量はあとどのくらい? あと何回で死んでくれる?」


「多分ですけど……アナタが死ぬ方が早いと思いますよ!」


 空になった弾倉を囮として投げると、

 アリスはソレとは逆の方向へと駆け出した。

 そして地面に転がるハンドキャノンを蹴飛ばし掴んだ。


(シックス。何度も封魔局の前に現れた敵……!)


 一度目は砂漠の都市、マランザード。

 封鎖線にてハウンドらを爆破し暴れ回った。

 二度目は地下都市、ソピアー。

 またもハウンドらと交戦し無傷で撤退した。


 過去二度の接触で封魔局は彼女の祝福を解析する。


 彼女の祝福は隊長たちを同時に留められるほど凶悪。

 しかし撤退する直前までは能力の多用を渋っていた。

 だがアリスのような特例でも無い限り、

 停止させた者からカウンターが飛ぶ恐れは無い。


 となれば能力を渋ったのには別の理由があるはずだ。

 実際に固定された経験のあるエヴァンスは、

 当時ある一つの仮説を共有していた。


(固定出来るモノの『個数』か『質量』……!

 そのどちらか、或いは両方に、厳しい上限がある!)


 仮説を胸に、アリスはハンドキャノンをぶっ放す。

 何発も撃ち放たれた重く大きな弾丸たち。

 だがそれが穿ったのは無機質な鉄の柱であった。


「倉庫の柱? ――ッ!! まさか!?」


 シックスは天井を見上げた。

 大穴の空いた柱ではその重さを支えられず、

 今にも崩落しそうに鈍い音を奏でていた。


「……個数、質量。どちらにせよ、これで上限でしょ?」


 崩壊が始まった。無数の巨大な瓦礫が落下し始めた。

 シックスはそれら全てを一瞬で停止させる。

 が、それで完全に能力の上限値に達してしまう。


「意外ね……! 遺体は守らなくてもいいの?」


封魔局(ウチ)の遺体袋には多重の結界が張ってあるので。

 固定を解除しても壊れるのは私とアナタだけです!」


「ふっ……! このイタズラっ娘!」


 撃ち尽くしたハンドキャノンを投げ捨てて、

 アリスは今度こそシックスに接近した。

 対する亡霊も拳銃を握り間合いを詰める。


 ――始まるのは拳銃同士の接近戦。


 やろうと思えば頭突きも可能な超至近距離で、

 互いの拳銃がこれでもかと火花を散らす。

 狙うは相手の顔面、ただ一つ。

 自分に向いた銃口は空いた片手で弾いて逸らす。


 まるで黒帯同士の組手のように、

 銃の格闘戦は息つく暇も無く繰り広げられる。

 やがて、二人の銃口が互いの脳天を捉えた。


「「――ッ!」」


 二人の両手はがっしりと組まれ動かせない。

 今出来るのは精々、引き金を引く事だけだった。

 どちらが先かの早撃ち勝負。

 二人は一瞬で決意を済まし引き金を引いた。


 ――が、どちらの頭からも血飛沫は出ない。

 引き金はクイックイッと何度も空振りする。

 緊張の糸が緩んだようにアリスは溜め息を漏らした。


「弾切れ……ですね。どうします? 投降します?」


「冗談。」


 直後、シックスはアリスを掴んだまま重心を落とす。

 そして彼女の腹に足を向け後方へ投げ飛ばした。

 宙を一回転しアリスは地面に叩きつけられる。

 その隙にシックスはバイクに向けて走り出した。


「『固定』解除!」


 掛け声と共に天井は崩落を再開した。

 轟く瓦礫の落下音。鳴り響くエンジン。

 駆け出すバイクにアリスは全力で飛び乗った。



 ――――


「な、何だぁ!?」


「倉庫だ! 天井が陥没するぞ!」


 衝撃から周囲の人間たちは退避する。

 各自、己の身を守ろうと頭を抱えて地面に伏せた。

 そんな彼らの頭上を一台のバイクが通過する。


「アリス!? これは一体!?」


「朝霧さん! ……あの袋は!?」


 視界に入るのは交戦中の朝霧とフィオナ。

 そして傘下の雑兵を蹴散らすハウンドと、

 飛行バイクの横で青い袋を守るグレンの姿であった。


 それと同時に、

 フィオナがシックスの姿を視認する。


(停止の……! まずい、屋外(ここ)では不利だ!)


 防衛目標、戦況、個々の戦力を計算し

 フィオナは一瞬で判断を下した。


「桃香! 袋を担げ! ここから逃走するぞ!」


「――っ!? 了解! グレン、アリス!」


 号令と共に六番隊員たちが行動に移る。

 グレンはバイクを起こしエンジンを掛け、

 袋を拾い上げたアリスを乗せて走り出した。


 落下の衝撃で一部破損しているのか、

 高度も速度も最高には程遠い。

 彼らを守るために朝霧とフィオナも後を追う。


 そしてそれら全ての行動を援護するため、

 唯一残ったハウンドは亡霊に向け機関銃を乱射した。


「ッ……! 追いますよ、レディ!」


「分かってるわよ!」


「行かせる訳ねぇだろ、亡霊達(スペクターズ)ッ!」


「うっさい!」


 女はバイクから取りだしたライフルを放った。

 弾丸がハウンドの装甲魔術を貫くことは無かったが、

 彼の体は木々を圧し折り後方へと飛んだ。


 ハウンドの生死などに構わず、

 三人の亡霊は封魔局の追撃を開始した。


 追手に気付き朝霧とフィオナは迎撃を行う。

 魔力の光弾と飛ぶ打撃が星空の下に煌めき出す。

 平地の少ない聖域の中で逃走劇が幕を開けた。


 その時、マクベスが無線に向けて言葉を発する。


「――ナイトホーク。朝霧を撃て。」


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