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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第四章 あらゆる秘密は暴かれる

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外典の伍

 ――――


『報告……! 各地で謎の武装集団が出現!』


 真っ黒な背景に七色の魔力が光り輝く。

 木々を折り、人を飛ばし、命を刈り取る魔法の煌めき。

 実弾の無骨な閃光と混じり合い、

 光はどこまでも美しい華となって満開に咲いていた。


『数は十……二十! っ……まだ増えます!』


 揺らぐ柳の葉のように彼らは(くら)き夜を透き通る。

 黄泉の冷気を現世に遷し、新鮮な魂を喰らいて走る。

 しかし彼ら死神に非ず、悪魔に非ず。

 いつまでも生にしがみつく――黒き亡者の群れである。


『所属判明! コイツら、亡霊達(スペクターズ)です……!』


 鳴り響く無線に面を食らいながら、

 朝霧はフィオナと共に移動を開始していた。


 隊員たちからの情報を纏めると、

 ユグドレイヤに出現した敵は黒幕配下の勢力。

 直属の部下である『亡霊達(スペクターズ)』と傘下の魔法使いだ。

 聖域内各地に分散して出現した彼らの総数は不明。

 戦況は乱戦に近く、各地で散発的な戦闘が発生している。


「朝霧とフィオナだな? その命貰ったぁ!」


「「――ッ!」」


 木陰から突如として飛び出したチンピラ。

 だが二人はこれを一瞬で制圧する。

 四肢に糸を巻き付け拘束し大剣の峰で殴り飛ばした。


「――! 桃香、こいつ。」


「うん……日本人だ。」


 黒幕に連れてこられた異世界人。

 フィオナは犯罪者リストと照らし合わせる。

 だが返って来たのは『未登録』の文字列だった。


「例の暗号はこいつら()()へのメッセージか。

 魔法世界に移住しつつ今まで潜伏していた連中への。」


「この人みたいなのが沢山いるってこと?」


「こんな雑魚だけなら別に良い。

 本当に厄介なのは『亡霊達(スペクターズ)』に選ばれた連中だ。」


 フィオナの発言にタイミングを合わせたように、

 遠くで激しい爆音と高い火柱が上がった。


 黒幕直下の精鋭『亡霊達(スペクターズ)』。

 朝霧自身が彼らと直接戦闘する機会は無かったが、

 暗躍する彼らの厄介さは何度も耳にしていた。


 聖域内には既に何人もの亡霊が確認されている。

 シックス、厭世(えんせい)、ゼノ。そしてまだ見ぬ敵たち。

 その全てと同時に戦う必要があった。


「七番隊の大半は周辺都市の封鎖に出張っている。

 これだけ侵入されてはあまり意味など無かったがな。」


「じゃあ連れて来れたのは輸送機にいた人だけ?」


「そうだ。無論援軍は呼ぶが、すぐには来られまい。」


 つまり、とフィオナは言葉を繋げた。

 友の決意を確かめるように彼女の目を見つめながら。

 そして朝霧の中に、怒りに似た戦意を感じ取る。


「これは実質――六番隊と亡霊達(スペクターズ)との決戦だ。」


 再度、爆風が星空の下に生まれ森を突き抜けた。

 それはまるで開戦の合図。爆光が朝霧の横顔を照らす。

 直後、彼女の無線が鳴り響いた。

 通話の相手は――遺体安置所のアリスだ。



 ――遺体安置所――


亡霊達(スペクターズ)特別顧問、それがサマエルの正体です。」


 味方からの治療を受けつつ、

 アリスは壁に凭れながら無線に語り掛ける。

 周囲には外に向かい機関銃を連射するハウンド。

 そして地面で何かの作業をしているグレンがいた。


 遺体安置所での戦闘は他より激しく、

 無線越しの朝霧にもその過酷さが伝わるほどだった。


『アリス!? そっちはどうなってるの!?』


「朝霧さん、落ち着いて聞いてください……!

 奴らは狙っていた! 奴らの目的は……!」


 ――刹那、爆煙が壁を突き飛ばす。

 寄りかかっていた隊員たちを吹き飛ばし、

 黒煙が薄暗い遺体安置所の中に雪崩れ込む。


 直後響き渡るのはバイクのエンジン音。

 一切の恐れも無く、それは室内に飛び込んだ。

 甲高いブレーキの音と白いライトが暗闇を斬る。


 乗っていたのは一人の女性。

 赤と黒を印象づける服装。スカートに黒タイツ。

 そして体つきから女性と推測出来る。

 隊員たちの中で唯一、ハウンドがその正体に気付く。


「――シックスだ! お前ら伏せろッ!」


 急な光に目を眩ませた黒い人型の(まと)へ向け、

 横殴りに降る弾丸の雨を撃ち込んだ。

 赤い飛沫と黄色い跳弾の光。

 アリスたちは物陰に隠れてやり過ごす。

 が、すぐさま足元に黒い塊が投げ込まれた。


「ッ!? 手榴だ――」


 ――大気が揺れる。爆音が轟く。

 その衝撃を全身で浴びながら、

 女は一人、快楽に浸る。


(あぁ、肉が痛む。骨が軋む。

 良かった……私はまだ生きている。)


 直後、またもバイクの音が鳴り響いた。

 しかしそれはシックスのバイクでは無い。

 爆煙の中から飛び出したのはグレンのバイクであった。

 青い袋を抱えたハウンドを乗せて、

 遺体安置所の外へ向かって一気に加速した。


「チッ! 祝福『停止の――」


「――『死を想え(メメント・モリ)』!」


「ヅヅッ!?」


 急激な痛みに胸を押さえ、

 シックスはバイクから倒れ込んだ。

 そんな彼女の前にアリスは身を乗り出す。


 ボロボロの上着を脱ぎ捨てて、

 細く小さな少女の腕が黒く無骨な銃を握った。


「貴女を、先には行かせない。」



 ――封魔局拠点――


 ハウンドの祝福が分厚いを吹き飛ばし、

 グレンのバイクが戦場の真上を飛行した。

 敵も味方も入り乱れた大混戦。

 多くの者が飛行バイクに視線を向ける。


「あ? なんだありゃ?」


『――総員、あのバイクを撃ち落としなさ~い。』


「! 承知しました、マクベスさん!」


 無線から響いた男性の声に反応し、

 黒幕傘下の魔法使いたちは空に向け攻撃を放った。

 対する局員たちもグレンを護る魔術を行使する。

 飛び交う無数の魔法が連なり重なり爆ぜ合った。


 弾幕を掻い潜りグレンは必死に回避を続ける。

 何とか直撃こそ免れてはいるが、

 戦場の遠くへ脱出する事は叶わなかった。


『道和。貴方もお行きなさ~い。』


 無線の声が一人の亡霊の名を呼んだ。

 指令に反応し巨漢の男が顔を上げる。

 中華系の顔立ちをした、頬に傷のある男だった。


「んあ? なんだ、アレ落とすのか?」


『我々の目標を運んでいま~す。』


「そうかい! そりゃあ――大事だなッ!」


 愛用の長棒を振り回し道和は大地を蹴飛ばした。

 その跳躍はたった一回でバイクの高さに達し、

 なおも止まること無くグレンらの真上にまで至った。

 あまりに人間離れした急襲に、彼らは反応出来ない。


「まぁなんだ? 死んでくれやぁ!」


 ――その時、蒼電を纏った一本の鉄柱が飛来した。


「『トールハンマー』!」


 雷電が巨大な輪となり拡散する。

 グレンたちを護ったのはエレノアだった。

 そのまま敵を吹き飛ばそうと空中で蹴りを放つ。

 が――


「なかなか……活きの良いのがいるじゃないのぉ!」


「ッ!?」


 道和は迫る彼女の足を掴み、

 殴られた衝撃をそのまま速度に変えて回転した。

 そして自分諸共、少し遠くの林の中へと墜落させる。


「エレノア!?」


「――ッ! ()()()、グレン!!」


 亡霊からの追撃は激しく、止めどない。

 一瞬でも気を抜けば魂を持って行くと言わんばかりに、

 闇夜を貫く紫色の凶弾がグレンの肩を撃ち抜いた。


 ドライバーの負傷により制御を失う飛行バイク。

 やがてハウンドも袋も投げ出し墜落した。

 そんな彼らの前に一人の男が歩み寄る。

 未来的なバイザーで目元を隠した金髪の男性だ。


 男は傷つくグレンを見てニヤリとほくそ笑むと、

 少々大きめの青い袋に手を伸ばす。

 が、その手は何もない場所でピタリと止まる。

 そして――赤い噴水をぶちまけた。


「…………あんたか。」


 溢れ出る自分の血に興味も示さず、

 男は黙々と止血し木々の隙間に視線を向けた。

 そこには、赤い髪に橙色の瞳をした女がいた。


「『亡霊達(スペクターズ)』の……ドレッドノートだな?」


「≪紅魔の百合≫……フィオナ隊長ね?」


 巡るめく戦場はまさに乱戦。

 両陣営、集いし戦士は共に精鋭揃い。

 誰がいつ死んでもおかしくない戦場で、

 封魔局と亡霊達(スペクターズ)との全面戦争が始まった。


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