表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
29/666

第十一話 現代の魔術

 ――――


「凄いぞ! ベーゼ!! やはり君は天才だ!!」


「ありがとうございますベーゼさん!

 これでこの街は救われます!!」


「ドクター・ベーゼ。彼こそ生きる偉人。

 彼の人生はより輝かしい物となるだろう!」


(……反吐が出る。)


 稀代の天才ドクター・ベーゼ。後の世紀の大戦犯。

 だが別に、彼は戦争責任を()()()()()()()訳では無い。

 彼は最初から――


(栄光? なんだそれ? 感謝? そりゃ旨ぇのか?

 足りねぇな……それじゃあ全く満たされねぇ!

 あぁ早く!! ()()()()()()!)


 ――最初から狂っていた。



 ――――


「アッハッハッハ!

 そぉら嬢ちゃん! 頑張れ、頑張れ!」


 老人がはしゃぐ。

 朝霧のいる大きな実験場の上。

 朝霧側からは壁にしか見えないガラス越しに

 実験の経過を観察していた。


 部屋には大きな制御装置。

 そしてベーゼの背後には彼の部下が五人いる。

 そのうちの一人アベルトは、

 はしゃぐベーゼに呆れながら部下を呼んだ。


「おい、俺は朝霧から採取した血液の検査に行く。

 何かあったらすぐ伝えろ。」


「ちょっとアベルトさん!

 この実験の経過は見なくて良いんですか!」


「実験とは名ばかり。ベーゼ様の()()の時間だ。」


「いや、分かってますけどっ! 

 あの状態のベーゼ様を放置しないでください!」


 そんな部下の言葉を無視しアベルトは退出した。

 依然老人はガラスに食いつき実験を眺めている。

 激しい熱気が機体より放出されている。

 パスティーシュの熱光線が朝霧を襲っていた。


 反撃は無い。大剣を没収され、

 僅かとはいえ麻酔の効いている今の朝霧には

 これを避けるので精一杯だった。


(ただでさえ上手く体が動かないのに……

 熱気でっ……体力がゴリゴリ削られる!)


 回避を続けていては直に体力が底をつく。

 だが接近しようにも放たれる熱でそれは叶わない。

 打開案の浮かばない朝霧は完全に攻めあぐねていた。


『底力ってやつは出そうにねぇな。

 ……終わらせろパスティーシュ。』


 響き渡るベーゼの声に反応し、

 黒い巨人は更に大きく前進し始める。

 ドスンドスンと地響きと共に灼熱が迫る。


 立ち上る陽炎で眩んだ朝霧の眼には、

 それが実物以上の巨大さと

 絶望感を有しているように錯覚させた。

 そして彼女の顔に浮かんだ感情を読み取り、

 ベーゼは笑みを抑えられないでいた。


「ぷっ、くふふ! それだ。その顔だ!

 ()()()()()()()()()()()()だ!」


 ベーゼが手元の機材を構い機体に命令を飛ばす。

 機体はを止まり、さらに激しい熱気を放出した。

 朝霧は自身の体が大きくふらつく感覚に襲われる。


「蒸し殺しってやつだ。じゃあな嬢ちゃん!」


「――ふむ? それが制御装置か。」


 朝霧とは別の女の声が聞こえた直後、

 ベーゼの背後から飛来した濃い魔力の塊が

 彼の手元にあった制御装置を貫いた。

 やがて煙を噴く機材から光が消えたのと同時に、

 パスティーシュから熱の放出が止まる。


 ベーゼが慌てて振り向くと、

 一人の封魔局員が机の上に立っていた。


「ミストリナか!?」


 怒気を孕んだベーゼの叫び声が

 アナウンス越しに朝霧にも聞こえた。

 そして途端に緊張が途切れた彼女は、

 敵地にも関わらずその場に倒れ込んだ。


「ッ!? 朝霧生きてるよな!?

 安心しろ、既に増援も呼んである!」


 ミストリナはマイクに届くような大声で

 朝霧へと呼び掛けた。

 だがそれと同時に素早いベーゼの部下たちが

 机の上の彼女を囲む。


「すみませんベーゼ様!

 いつの間にか、気付いたらこの女が現れて!」


「……さては『収縮』の力で潜り込んだな?」


「あぁ。一気に制圧しようと思っていたのだが。

 まぁ可愛い部下の命には代えられまい。

 それに――」


 ミストリナは歪んだ笑みを浮かべる。


「君たちなど私の敵では無いからねぇ!」


「舐めるなよ! 小娘がぁ!!」


 部下たちが一斉に銃を向ける。

 だがミストリナは一切臆す事無く、

 腰に巻いたポーチに手を伸ばした。


 そして発砲と共に彼女は

 ポーチから何かの物品を取り出す。布だ。

 ふわりと小柄なミストリナを覆った布を

 数発の弾丸が貫通する。しかし――


「――!? 消えた!!」


 布が地面に落ちた時、

 ミストリナの姿は消失していた。

 動揺する部下たち。

 するとベーゼが彼らを叱る。


「馬鹿野郎、『収縮』だ!

 ()()()()()()()()()()よ!」


「――もう遅いさ。」


 突如、男たちの足下が星の如く煌めいた。

 そして彼女の元居た場所と取って代わるように

 光の中からタイヤや大型家電が飛び出す。


 それらは室内を跳ね回るように飛び散り、

 屈強な男たちの体を軽々と吹き飛ばした。


 やがて転がるタイヤも止まる頃、

 ミストリナは再び机の上に姿を現す。

 異質な気配を纏って佇むその姿に

 老獪な悪人は思わずゴクリと息を飲む。


「やるじゃねぇか……『収縮』した物を元に戻す。

 それを()()()()()……か。

 能力極めてんねぇ隊長さんよ?」


「よく言うよ。

 予め足下に()()()()()()()()おいて……

 食えない爺さんだ。」


 互いが互いの手札を見極める。

 片や触れたものを縮める祝福。

 片や浴びたものを溶かす祝福。

 そして互いに()()()がある。


 達人同士の緊張の中、ジリジリと、

 しかし大胆にミストリナが踏み込んだ。


「「ッ――!」」


 ミストリナがナイフを放つ。

 頬を掠めるナイフを避け、

 ベーゼは毒液を浴びせに掛かった。

 だがシュウウと溶解音を立て始めたのは

 ミストリナが()()()()()盾だった。


(どこから!? いや、あの()()()か!)


 老人はアイテムの出所を見極める。

 バリアで接近を拒み、杖に魔力を貯める。

 対してミストリナは盾を捨て一度距離を置いた。


(――! 来る!)


 ミストリナの左手がポーチに伸びる。

 ベーゼはその動きに反応した。

 道具を取り出す一瞬の隙を突こうと

 杖の矛先を彼女へ向ける。全ては一瞬。

 攻撃のためにバリアを解いた――


 ――次の瞬間、

 ミストリナの右手から放たれた魔力の弾が、

 ベーゼの右肩を貫いた。


「ぐおっ!?」


 ベーゼは思わず杖を落とす。

 魔法世界では一般的な、ただの攻撃魔術だった。

 しかし苦痛で蹌踉け、老人はガラスに凭れ掛かる。

 そんなベーゼの方へ手をポーチに入れたまま

 ミストリナはは詰め寄った。


「ゲームセットだ。隊長格を舐めるなよ。」


(油断は……無さそうだ。チッ。ここまでか……)


「――ベーゼ様!!」


 ベーゼが全てを諦めたその時、

 彼の部下の一人が復活し敵に襲い掛かる。

 ミストリナは咄嗟にそれを殴り倒し

 意識を落とさせるが、天才はこの隙を見逃さない。

 既にベーゼは自身の両手に溶解液を貯めていた。

 それに気付いたミストリナは再度盾を取り出した。


(防御は間に合う。今度こそ――)


「――残念、もう俺の狙いは其処じゃない。」


 溶けたのは盾でもミストリナでも無かった。

 彼が溶かしたのは自身が凭れ掛かったガラス。

 この場所と実験場とを隔てる唯一の壁だ。

 ベーゼはそのまま落下する。

 朝霧のいる実験場へ。


「しまった……!」


 ミストリナはすぐに身を乗り出す。

 彼女の視界にはベーゼが不格好に着地し、

 そのまま迷い無く走り出す姿が映り込む。

 そして依然、朝霧は倒れたまま動かない。


「――ッ! させるか!」


 ミストリナが跳躍し、

 ベーゼと朝霧の間に割って入った。

 だがその瞬間、老人はその進路を変えた。


(!? いや違う! 狙いは()()()()()()!)


 ベーゼは()()の元へと辿り着く。

 そして溶解液とバリアで牽制するベーゼに、

 接近は困難と判断したミストリナは、

 朝霧の安全を優先し、彼女の元へと駆け込んだ。


「朝霧! 起きろ! ここから離れるぞ!」


「っ……ミストリナ隊長?」


 朝霧が気付いた時には既に、

 ベーゼは沈黙する機体の上から二人を見下ろしていた。

 そして悪辣な老人は高らかに声を上げる。


「よぉーく見てな嬢ちゃんたち……!

 これが()()()()()だ!」


 機体に手を当て彼は詠唱を開始する。


「――――賢き愚者より愚かな賢者へ。

 我が『成果』を持って貴殿らを嘲笑おう。

 既に魔法は人の手に。既に科学は魔法の域に。

 なれば常世の愚者はその一切を此処に束ねる。」


 ベーゼとパスティーシュの周りを光が覆う。

 溢れる魔力が空気を揺らす。

 ミストリナたちは一切近付けずにいた。

 やがて機体から伸びる無数の配線が

 生き物のようにベーゼの体を飲み込んだ。

 だが彼はそんな事など全く気にも留めず、

 むしろ嬉々として詠唱を続行する。


『魔力同調、成功。肉体融合、適正。機械術式、臨界。

 ――従え、我が子。汝、「黒金の巨人」の写し身。

 鋼鉄の鎧と灼熱の刃を以て神をも殺す。

 最上位機械魔術――「機械生命(イクシード)融合式(アーティファクト)」!!』


 生き返ったように黒い巨人は起き上がる。

 その装甲には、(からだ)中には、

 いくつもの魔術の刻印が浮かび上がる。

 まるでこの機械そのものが、

 ()()()()()()のような殺気を放つ。


『ハッハー!! どうよ嬢ちゃん!

 この二百年で発展した新分野、()()()()

 さしずめベーゼ=パスティーシュってとこか!』


 ミストリナに抱えられ朝霧が立ち上がる。

 その目には再び正気が戻っていた。


『――実験は十分。

 此処からは純粋な殺し合いだぜ? 嬢ちゃんッ!!!!』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ