表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第四章 あらゆる秘密は暴かれる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

280/666

第七十三話 轟く命のバトン

前回の更新直後(更新後約十分)で、展開に関わる改稿を行いました。内容等詳しくは活動報告をご覧ください。

 ――――


 時は少し遡り、頂きの玉座。

 シルバの貫通する衝撃波の魔術により、

 ウォーヴァの胸元は甲高い音を立てて割れた。

 太い枝を圧し折った時のように、

 彼の胴体は引き裂かれ鋭い木片へと変貌する。


 やがてその体から魔力が抜け出していくのを

 シルバは静かに感じ取り、見届けた。


 終わった、とばかりに溢す溜め息一つ。

 散らばった泥たちを一所に集め、警戒を解いた。

 がしかし、突如背中を強烈な悪寒が走り抜ける。


「――ッ!?」


 咄嗟に飛び退き背後を警戒する。

 ウォーヴァだった木偶人形を凝視し、

 それが起こすであろう次の行動を観察した。


 だが動くのは床に転がる木片などでは無かった。


 気配は瞬く間に部屋全体へと広がりだす。

 まるで空間そのものが躍動を開始したかように、

 生命の息吹という強大な魔力が渦を巻く。


「ウォーヴァ……! まさか貴様ッ!?」


 それは神秘の籠もった樹にのみ宿る神秘の存在。

 樹と共に栄え、樹がある限り生き続ける精霊。

 森の奇跡を体現したかのような超常の生命体。


「ドライアドか!?」


『――お前たちは、眠れる怪物を起こしてしまった。』


 世界が滅びるかのような衝撃と共に、

 シルバのいる空間は爆音を立てて歪み出した。



 ――螺旋階段・最下層――


 躍動に振動に変わり、聖域全体を共振させる。

 この揺れは新たな生命が鳴らす心臓の鼓動。

 魂が宿り、世界樹は一匹の怪物として跳ねる。


「……ッ! おい、此処にいたらマズいぞ!」


 最下層の隊員たちは近場の物に掴まり身を守る。

 だがそれも長くは続かない。早く逃げねば死んでしまう。

 その共通認識が危険を承知で彼らの足を動かした。


「総員っ、すぐに脱出を開始して!」


「朝霧。お前はどうする気だ?」


「皆を脱出させてから行きます!

 森泉さんもどうか先に行ってください!」


 ほんの少し不安そうな顔を見せながら森泉は頷く。

 右手を負傷中の自分では足手纏いと判断したのだ。

 脱出の先頭を切り開くのはアランとハウンド。

 彼らに続き連合軍は世界樹からの脱出を開始する。


「グレン、エレノア! 二人は皆の脱出を援護して!」


「「了解!!」」


「アリスは私と一緒に逃げ遅れた人が居ないか探して!」


「りょ、了解です……!」


 衝撃は更に威力を増す。

 本格的に崩落し始めた螺旋階段が非常に危険だ。

 そんな中でも朝霧は隊員たちの脱出を助ける。

 落下する瓦礫を躱し、弾き、壊しながら、

 もう誰も失わないようにと奥歯を噛みしめた。


「エレノア! こっちの負傷者はこれで最後だ!」


「了解。この扉はもう封鎖を…………ん?」


 最初に気付いたのはエレノアだった。

 周囲を磁力の影響下に置いていたからこそ、

 その異変にいち早く気付く事が出来た。


(何……? 壁が……埋もれていく?)


 世界樹内部を改造し作られた秘密基地。

 その金属の壁が樹に吸い込まれるように埋もれ始めた。

 否、それは埋もれているというよりもむしろ――


「――融合している?」


 直後、異変は目に見える形で起こり始めた。

 大自然を感じさせる世界樹の緑色が、

 無機質な怖さを持つ金属の銀色に侵食され始めた。

 細胞全てを塗り替えていくように、

 銀色のさざ波が空間全体を我が物顔で走り抜ける。


「これってまさか……『機械生命(イクシード)融合式(アーティファクト)』!?」


「いや、多分少し違う!

 やってる事自体には大差無いだろうがな……!」


「っ! もういい二人とも! すぐに脱しゅっ――」


 ――直後、更なる異変が残留組を襲う。

 空間がその輪郭を失い流動し始めたのだ。

 天井だった物が床に、床だった物が壁に変わる。


 まるで巨大な万華鏡の中に入れられたかのように、

 目の前の光景は曲がり、歪み、絶えず変化し続ける。


「乗れ、エレノア!!」


「くっ……! っっ!! 隊長たちは!?」


「っぅ! はぐれたか……脱出を優先する!」


「――!? グレン、出口が!」


 ねじ曲がる通路の先。

 遙か遠くの光が閉じ始めていた。

 そのか細い光に向かいグレンはバイクを走らせた。


「クッソ!! 間に合ええぇえええええ!!!!」



 ――白亜の祭壇――


 空間の歪曲と鋼の侵食は神聖な祭壇にも及んでいた。

 直立することすらままならない空間。

 そんな戦場でも尚、ウラとオルフェウスは斬り結ぶ。


「ッ……若! これ以上は危険です……!!」


「脱出せねば皆死ぬぞ! ウラ!!」


 イブキたちの声すらも無視し続け、

 ウラは崩れる瓦礫を飛び移り宿敵へと斬り掛かる。

 重みと鋭さを兼ね備えた剣撃の群れ。

 だがそれでもオルフェウスの首は刎ね飛ばせなかった。


(クソッ……! クソッ……! クソォッ!!)


 焦りが閃きの精細さを鈍らせる。

 そんな剣では魔王軍お抱えの人斬りは倒せない。

 妖刀を奪い返すことなど、叶わない。


 戦場が歪み出した以上()()()()だ。

 一刻も早く撤退せねば一族諸共全滅してしまう。


「イブキ……俺が時間を稼ぐ。ウラを連れて行け!」


「なっ!? 待ってタガマル……!」


「残るなら隻腕の俺だ! お前たちは未来に繋げ!」


 言葉と共に、タガマルは飛び出した。

 今にも折れ果てそうな刀を逆手に持ち、

 オルフェウスの肩を狙って刃を突き立てる。


 咄嗟にオルフェウスは刃の回避に専念する。

 しかしそちらに意識が集中したことにより、

 彼は自身の手元に迫る蹴りに気付かなかった。


 タガマルは勢いのまま全身を回転させ、

 見事オルフェウスの手から妖刀を弾き飛ばした。

 そしてウラに向けて鬼の秘宝を投げ付ける。


「今だイブキッ! ウラを連れて行けぇえ!!」


 叫びに従いイブキはウラの腕を掴んで駆け出した。

 同時にタガマルの背中にも、オルフェウスの刀が迫る。

 喚く鬼の若大将の顔を見つめ隻腕の鬼は目を瞑った。


(じゃあなウラ。此処で死ぬのが、俺の役目――)


「――その役目、俺が引き継ぐよ。」


 刹那、タガマルの体が何者かに蹴飛ばされた。

 ウラたちの元へと送り届けるように、強く。

 振り返るとそこには胸元から大量の血を流す鬼がいた。


「「ドドメキ!?」」


「おうよ! すみませんねぇー、若。

 ちと血を流しすぎてね? 次に行くのは無理そうだ!」


 大地が割れる。瓦礫がフワリと宙を舞う。

 足場だった物はその機能を失い崩壊した。

 そんな場所でドドメキはオルフェウスと対峙する。


「――『大鬼(だいき)百目怒雷(ひゃくもくどらい)曼陀羅華(まんだらげ)』ッ!!」


 それは文字通り命を賭した最期の閃光。

 これから死にゆく鬼が魅せる、刹那の輝き。

 死神が如し人斬りと共に瓦礫の中へと進んで逝く。


 光が消え去る瞬間、

 タガマルは満足そうな笑みを浮かべる仲間を見た。


(俺たちの大将を……任せたぜ?)


 激しい崩壊と流動の嵐の中、

 鬼の一族たちは壁を斬り裂き脱出する。



 ――――


「――――……ん、…………さん!」


 遠くで声が聞こえた。

 きっと倒れて床に伏しているのだろう。

 振動が直接脳に伝わり気分が悪い。


 つまりまだ死んではいないようだ。

 鋭く刺すような全身の痛みを目覚まし代わりに、

 朝霧は重く閉ざされていた瞼を開き目に光を入れる。


「朝霧さん! 良かったぁ……!」


「アリス……? ここは?」


「残念ながらまだ聖域の内部です。」


 脈を打つ鋼の壁。

 鋼鉄と融合した世界樹は一つの生命として生きる。

 先程までと比べて振動は収まった方だが、

 それでもまだ危険と分かるほどの揺れは残っていた。


「っ……! 私たちもすぐに脱出を!」


「了解です。」


 アリスからの治療を受け朝霧は立ち上がった。

 彼女を抱え大剣を握りしめ壁を睨む。

 周囲を見渡すが出口らしき穴はもう既に一つも無い。

 道が無いのであれば、作るしかない。


「『草薙』ッ!」


 魔力の塊で壁をぶち抜く。

 鉄壁を殴りつける迫撃砲は豪快な音を立て風穴を開けた。

 が直後、怪物のような唸り声と共に空間が揺れだした。


(っ……! もうこの場所は怪物の腹の中なんだ!)


 朝霧たちを排除しようと大量のツタが飛び出した。

 魔力を込めた回避、大剣での切断。

 今更ツタ如きで遅れを取るような朝霧では無かったが、

 自衛に専念していると先程開けた穴が修復し出した。


「朝霧さん! 出口が!?」


「ッ……! 『草薙』ィッ!!」


 半分閉じた穴に再び魔力を叩き込む。

 だが脱出しようにもツタが邪魔で間に合わない。

 ただ悪戯に体力と魔力を消耗するだけだった。


(なら『赫焉』を……! 行けるの? 今の魔力残量で?)


 迷いが判断を鈍らせ時間を浪費させる。

 時間を浪費すればするほど体力も魔力も失う。

 かと言って『赫焉』を放っても朝霧が力尽きるだろう。


(でもこのままなら共倒れ。ならもう仕方ないよね?)


 やがて朝霧は自身の生還を諦める決断を下す。

 アリス一人の命を繋げればそれで良しと、

 大剣に眠る真っ赤な力に自身の魂を接続した。

 その時――


「ギュィィィィイイイイイ!!!!」


 ――聞き覚えのある咆哮が背後から轟いた。

 衝撃波のような空気の振動と共に、

 地響きのような足音が朝霧たちに迫る。


 それは黒き異形の生命。

 枝葉のような触手と縦に伸びた肉体はまるで、

 意志を持ち動く一本の巨大な樹のようであった。


「『骸』!? こんな時にッ……!」


 朝霧は敵意を『骸』へと向ける。

 だが、異形の怪物が朝霧たちを襲う事は無かった。

 怪物は壁に突撃し、ツタと歯で穴を広げだしたのだ。


「「え?」」


 それは異形へと変わり果てた者の最期の抵抗。

 自業自得の虚しさと生きたかったという執着。

 そして自分を怪物へと変えた者への怒りという本能。


 知性無き行動の中にそれらの想いを感じ取り、

 朝霧はポツリと彼女の名前を呟いた。


「…………ボネ?」


「ギュィィィィイイイイイ!!!!」


「ッ……! 朝霧さん! 今がチャンスです!」


 アリスの呼び掛けで我に帰る。

 赫岩の牙への接続を遮断し朝霧は駆け出した。

 暴れ続ける『骸』、否()()の力を借りながら

 再生する鋼鉄の壁を貫き進む。

 やがて、壁から漏れ出る太陽の光を発見した。


「はぁぁあッ!! 『村雲』ッ!!」


 壁を穿ち朝霧とアリスは外へと脱出した。

 フワッと感じる浮遊感。どうやら此処は空中だ。

 空の上で姿勢を制御する最中、

 朝霧は無数のツタに肉を貫かれたボネを目撃する。


「っ……! ありがとうッ! 仇は必ず取るからッ!」


 やがて人だった生き物は息絶える。

 縦に伸びる異形の口が何処か笑っているように見えた。

 その骸を覆い隠すように、穴は閉ざされ消え失せる。


「いた! 朝霧隊長ーッ!」


「エレノアの声です! …………って、えぇえ!?」


 ドスの効いた声でアリスは驚愕した。

 何事かと朝霧も視線を向けようとしたその時、

 何かが空中にいる彼女たちの体を掬い上げる。

 感触は毛皮のソレ。何らかの生き物の上にいた。


 朝霧はすぐに顔を上げ生物の正体を伺う。

 其処にいたのは八本の足を持つ巨大な獅子。

 通常より三倍は大きなその背には一組の白い翼。

 勇壮という言葉がよく似合う気高き獅子がそこにいた。


「これって確か……『シャルベーシャ』!?」


「はい。同族の無念を晴らしに来たみたいです!」


 大空を駆けるは有翼の獅子の群れ。

 その一匹の上に跨りエレノアは喜々として叫んだ。

 下を望めば地上からはやや遠い空の上を飛ぶ。


「あれ? 私たち、世界樹から()()()んじゃ?」


「それは…………アレを見てください。」


 エレノアに言われるがまま、

 朝霧は彼女の指差す先を見上げ、目を見開く。

 其処にあるのは鋼に染まった一本の大樹。

 広大な大空の青に堂々と君臨する超巨大な樹。


 だが異様なのはその巨大さではない。

 何故なら世界樹は今、その広大な大空を――


「――飛んでいる?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ