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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
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第十話 パスティーシュ

 ――封魔局マランザード支部――


 朝霧誘拐から約一時間後。

 アランら六番隊のメンバーは

 支部で手をこまねいていた。


 朝霧誘拐に加えミストリナが失踪。

 さらに封鎖線での戦闘で古参隊員のハウンドが

 負傷した事で部隊は完全に混乱していたのだ。

 立場上指揮権はジャックに移っている。

 がしかし――


「ジャックさん! 早く追いましょう!!

 戦車が道路を走っているなら、

 そのまま道なりに追えば良い!

 砂漠の上なら轍の跡を追えば良い!」


「分かっている! だが……!」


 すぐに部隊を動かせる判断を下せるほど、

 支部の人的余裕とジャックの精神的余裕は無い。

 苛立つアランと判断を出せないジャックを

 アリスは座りながらただ眺めていた。


(彼らも、朝霧さんも……なんていうか……)


「――ジャックさん!!

 ()()()が到着しました!!」


 支部に緊張と歓喜が同時に押し寄せた。

 空間転移陣のある部屋の扉が重たく開き、

 封魔局の精鋭中の精鋭一番隊が現れる。


 扉の開放と共に漏れ出るオーラに似た魔力が

 六番隊のメンバーに格の違いを直感させた。

 特にアランは一番隊の隊員たちに目を奪われる。


(ッ――!!

 これが封魔局の()()()()一番隊!!

 溢れている魔力だけでも十分理解出来る。

 今の俺じゃあ、あの隊員たちの誰にも……!)


「お待ちしていました。劉雷(リュウレイ)隊長。」


 誰よりも早くジャックが先頭の男に敬礼した。

 それに倣いアランらも次々と敬礼を行う。

 相手は封魔局を示す刺繍が施された

 特注の漢服を着用している黒髪の長身男。

 劉雷と呼ばれた男は六番隊員全員の顔を、

 舐めるように確認しながらぐるっと見回した。


 その目に覇気は無く、

 後ろに控えるキリッとした一番隊員たちとは真逆の、

 どんよりとした倦怠感を只ひたすらに垂れ流していた。

 しばらくして彼は溜め息交じりに声を発する。


「ジャック君、だっけか? ミストリナはどうした?

 あいつがベーゼに敗れるとは思ってねぇんだが?」


「は、はい……それが、

 ベーゼ逃亡と同時に行方不明となっていて……」


「はぁ? まーた単独行動かよ?

 やっぱあいつ、隊長には向いてねぇわ。」


 劉雷は肺の空気を全て吐き出すような

 特大の溜め息を吐きつつそうボヤく。

 かと思うと今度は顎に手を当て独り言を呟いた。


「タイミング的に……まぁ確定だな。

 部下との連携は? ……土壇場で何かを察知した?

 その場で……? だとしたら行方は……」


「あ、あの劉雷隊長?

 我々はこの後どうすれば?」


 劉雷は指示を待つジャックに目線を送ると

 三度(みたび)溜め息を吐き捨てる。


「別に何もしなくていいんじゃない?」


「……は?」


 劉雷は自身の部下に指のみで指示を飛ばすと

 ジャックら六番隊の方へ顔を向け直す。


「恐らくあいつは『収縮』で

 その戦車とやらに忍び込んだんだろうよ。

 部下との連携も取らなかったのは、

 相当咄嗟だったんだろう……」


「――! なら助けに行かないと!」


 思わずアランが声を荒げる。

 そんな新人隊員の姿に劉雷は

 一目で分かるほどの嫌悪感を見せた。


「うるせぇよ。いきなり大声出すな……」


「っ……!? す、すみません。」


「さっきも言ったが、

 ミストリナとベーゼならミストリナが勝つよ。

 彼女自身もそう考えているさ。」


 その言葉に今度はジャックが食い下がる。


「しかし、せめて居場所の特定だけでも……!」


「そのうち向こうから連絡が来るさ。

 そもそも、なんでミストリナは

 ()()()()()()()で制圧しなかったと思う?」


「え?」


 ジャックらはその質問に答えられなかった。

 そんな彼らを気にせず劉雷は続ける。


()()()()()()()

 より大きな魚を釣るために……」


「より大きな魚?」


「あぁ、敵は街中に戦車を忍ばせてたんだろ?

 そのまま持ち込むのは流石に目立つ。

 多分街の中で密かに組み立てたんだろうが、

 いくら何でも取引直前の()()()

 それはちと無理があるぜ。」


 ジャックらは互いの顔を見合った。


「では……取引よりずっと前から忍ばせていたと?

 何のために?」


「念のため、ってやつだろ?

 んでもってこんな砂漠の街に兵器を仕込む事が

 保険になる状況は、たった一つだ。」


 アランが喉を鳴らす。外を見つめ劉雷は続ける。


「案外ご近所さんだったんだろうよ。

 この街と、敵の――」



 ――本拠地――


 朝霧が目を覚ますと其処は

 薄暗くもシステマチックな鉄の洞窟であった。

 壁や床には多くの配線が伝わり、

 また壁面では電子機器が絶えず点滅し続けていた。


 自身の体に意識を向けると口には布が巻かれ、

 両手足には手錠のような拘束があった。

 朝霧は祝福の力で拘束を壊そうと試みるが、

 そもそも力が抜けていて入らない。


「おいおい、もう起きたってのか嬢ちゃん?」


 顔を上げると白髪の老人がいた。ベーゼだ。

 朝霧は朧気な脳を働かせ状況を思い出す。


(そうだ……! 戦車が来て……それで……)


「電気の出力は最大だった。

 普通ならそのまま死んでも

 おかしくねぇってのに……」


 ベーゼの言葉はあまりはっきり聞こえ無い。

 しかし自分が捕まり、敵の本拠地に

 連れて来られた事だけは理解できた。


(思考が……纏まらない……何をされた?)


「念の為にと麻酔を打っておいて正解でしたね。

 まぁ効きは悪いみたいですが……」


 ベーゼの後ろでアベルトが声を掛ける。

 その後方にはさらに数人の部下もいた。


(っ――! まだこんなに……!)


 朝霧はギリッとベーゼらを睨み付ける。

 アベルトを始め部下たちはその気迫に怯む。

 どうやら人狼トゥワリスのような猛者は

 もう存在していないようだ。


 だが朝霧の威圧から、彼女の意識が

 徐々に鮮明になっている事を読み取り

 ベーゼだけは喜んでいた。


「いいねぇ! もう元気一杯ってか?

 なら先に()()をやるか……!」


 ベーゼが部下たちに

 朝霧を運ぶように指示を飛ばす。

 両手足を拘束されている朝霧を男たちは引きずり

 やがて通路の先の明るい部屋へと連れ込んだ。


 光の先に広がるのは、だだっ広い白銀の空間。


 朝霧が部屋の真ん中で放置されると、

 手足の拘束がガチャンと音を立て崩れた。

 朝霧は少しだけ力の戻った手を

 ぷるぷると震わせながら口元の布を解く。


「ど、どこなの……ベーゼ!?」


『俺はここで見てるぜ。この()()の結果をな!!』


 部屋の中にアナウンスが響く。

 部屋をよく見回すと監視カメラが発見できた。


「実験……! 何をさせるつもり!?」


『なーに、簡単な能力テストだ。

 バラバラに解剖するのはその後。

 まずは()()()と戦って貰うぜ。』


 正面の扉が重たい音を引きずりながら開く。

 その中から現れた『物体』に朝霧は驚愕した。

 人型の巨人。目算にして十五メートル。

 しかし生物では無い。

 黒の装甲、鳴り響く駆動音。

 歩くたびに煙を吐くような噴出音が聞こえる。


 その()()は、魔法世界に馴染みの薄い朝霧にも

 何であるのかすぐに理解できる代物だった。


「……ロボット!」


『嬢ちゃんの居た世界ではそういう呼び方か?

 紹介しよう。俺の発明の中でも最強!

 対魔獣用決戦兵器「パスティーシュ」だ!!』


 ふらつきながら起き上がる朝霧は

 とにかくパスティーシュから距離を離す。

 だがその動きを捕捉し、機械の眼が赤く光る。


『解剖前の身体テストだ!

 どのみち()()から制御は掛けてねぇ!

 死ぬ気で戦わなきゃサクッと終わっちまうぜ、

 嬢ちゃんよぉ!!』


 黒い巨人から眩い熱波が放たれた――



 ――同拠点・ガレージ――


 そこにはベーゼの部下たちが、

 荒い運転を乗り越えたばかりの

 魔導装甲戦車の整備を行っていた。


「なぁおい聞いたか? ベーゼ様。

 またあの兵器と捕虜を戦わせてるってよ?」


「あぁ、またか……

 性能テストやら捕虜のデータ収集やらと

 理由を並べているが……結局()()なんだよなぁ。」


「――ほう? 捕虜とは誰だ?」


「知らねぇのか? 朝霧とかいう封魔局員だ。

 何でも魔王軍の幹部を殺ったとかで……え?」


 男が気づいた時には既に、

 彼は巨大な瓶の中に詰められていた。

 否、サイズがおかしいのは彼自身。

 男はいつの間にか小さく縮められていた。

 そして瓶の中で騒ぐ小人に目もくれず、

 侵入者は一人「やれやれ」と呟いた。


「まさか朝霧が捕まっているとは……

 ここは()()として格好つけようか――!」


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