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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第四章 あらゆる秘密は暴かれる

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第六十三話 異能推論

 ――数時間前・霧の森――


「狂乱クラクラ倶楽部ぅ?」


 右腕の貫通痕に包帯を巻きながら、

 切り株に座る森泉は素っ頓狂な声を上げた。


 禁忌の森の地下施設から脱出して数刻。

 宝樹主義者(アルセイデス)との全面戦争が確定したことで、

 朝霧は自身が有する情報を共有することにしたのだ。


 至って真剣な面持ちの朝霧。

 そんな彼女に森泉は哀れみの目を向ける。


「そうか朝霧。お前ついに……」


「どういう意味ですかソレ!?

 ……じゃなくて! 本当にいるんですよ!」


「あーはいはい。そういう事にしよう。」


 もう、と膨れながらも、

 それがいつもの茶化しだと悟り説明を続けた。


 スタンダールと接敵した禁忌の森で

 あの時自分がどんな風に敗北したのか。

 その一切を隠すこと無く全て共有する。


「……以上が私の見た全てです。

 何か気付いたり、気になることはありますか?」


「あぁ。最初に聞いた時から、一個だけ。」


「――っ! そ、それは!?」


「……『狂乱☆クラクラ倶楽部!』って、

 日本語以外だとどう翻訳されてるのかな、って。」


「真面目にッ! 考えてッ! くださいッ!!」


 朝霧は森泉の胸元を掴み揺らした。

 そんな彼女たちを見つめる影が二つ。

 剣呑な面持ちのアリスとそれに気圧されたリサだ。


「あの……何してるの?」


「昆虫観察です。」


「いや……虫なんて何処にも?」


「いますよ。朝霧さんに集る薄汚いハエが……!」


(アリスちゃんってこんな口悪かったっけ?)


 困惑するリサを他所に、

 アリスは腕の力を強め更に目を血走らせた。

 朝霧らは傍目からでは戯れているようにしか見えない。

 こめかみに汗を流しながらリサも二人を見つめた。


「何? 仲いいの、あの二人?」


「野郎のプレゼントで狂喜乱舞してました。」


「脈ありじゃん。嬉しくないの?」


「朝霧さんを穢されるのはッ……!

 あ、でも……甘える朝霧さんはちょっとイイかも?」


(無敵ね……)


 呆れるリサが見つめる中、

 アリスは浮かんだ妄想の世界で惚ける。

 数秒後、ようやく脳裏を支配する邪念を振り払った。


「いやいや! それでもあの男はナイです!」


「そう? 隊長さんは随分信頼してそうだけど?」


「ん〜〜〜〜!」


 腕を組みひたすら悩む。

 もちろん朝霧の幸せは願っているのだが、

 それはそれとしてアリスはまだ森泉を認めていない。

 何せ彼の活躍は伝聞でしか知らないからだ。


「せめて、私の前で義俠(ぎきょう)の心を見せて欲しいです!」


 数時間前のアリスは、

 そんなことを考えながら戦闘に臨んでいた。



 ――現在・異界庭園――


 偽りの陽光が眩く差し込める。

 淡黄色の光は植物の葉に溶け込み黄緑色へと変わる。

 庭園内はやけに気持ちが落ち着く。

 呆けていれば小鳥の囀りでも聞こえてきそうなほどだ。


 天井から伸びるツタに指を絡ませながら、

 スタンダールは美しい日の光に身を委ねる。

 気持ち良さそうに微笑むと目線を床へと落とした。


「ふふ、呆気なかったね?」


 庭園の床には三人の侵入者。

 意識が混濁する中でアリスは必死に顔を上げる。

 狭まる視界の先には既に動かなくなった森泉がいた。


(何やられてるの!? バカ野郎ぉぉぉお!)


 罵倒を声に乗せたいが今はそれすら叶わない。

 全く喋れない訳では無いのだが、

 襲い掛かる目眩と吐き気によって阻まれる。


(くそっ……! 対呪防御はもちろん、

 諸々の対応策は施したはず……なのに……!)


 苦しい、戦闘継続が困難なほどに。

 今すぐ安静にしたいと脳が悲鳴を上げている。


 そんな彼女らを見て勝利を確信したのだろう。

 スタンダールは剣も抜かずに三人の元に降りた。

 余裕たっぷりの笑みと共にリサの前に立ちはだかる。


「そろそろ負け癖ついちゃったんじゃない?」


「っ……! 誰……が!」


「まぁ安心してよ。僕は人殺しを愉しむ趣味は無い。」


 代わりに人をいたぶるのが趣味だ。

 そう言わんばかりの歪んだ瞳がリサに向く。

 悪心(おしん)で青いエルフの首を掴み上げ、

 スタンダールは心底楽しそうに口角をつり上げた。


「やめ……ろ!」


「あ?」


 親友の危機にアリスは黙っていられなかった。

 言うことの聞かない体を引きずりながら、

 悪意の靄に包まれた双剣士の足を弱々しく掴む。


「リサちゃんを……離せ!」


「いいよ。代わりに君で遊んであげるから!」


 エルフを地面に投げ捨て男は叫ぶ。

 抜かれた刃。耳障りな抜刀音が庭園に響く。

 アリスは自らの死を鮮明に予見した。


 その時――刃を持つ腕が何者かに止められる。


 あ?と眉をひそめるスタンダール。

 そんな彼の視線の先には口元を抑える森泉がいた。


 敵を見据え咄嗟に動き出す二人。

 スタンダールはもう一振りの剣を引き抜き襲う。

 が、それよりも速く森泉は祝福を命中させた。


「ソフィアクルース!!」


 ――確信はあった。

 元より彼の祝福は確信が無ければ発動出来ないが、

 ともかくある程度の確信を探偵は得ていた。


 ――私、何もしてないのに気絶したんですよね。


 魔法の発動条件は無数に存在している。

 戦闘中にその発動条件を看破するのは困難だ。

 だが状況によって幾つかの可能性は潰せる。


 例えば『(トラップ)型』。

 何らかの条件をこちらが満たしてしまうケースだ。

 朝霧の情報から、この可能性は低いと判断した。


 ならば次に考えるべきは『引き金(トリガー)型』。

 見る、触れる、発する等のアクションによる術の行使。

 最もメジャーなこの条件なら一目見れば判別出来る。


 しかしそんな素振りは全く無かった。


 探偵としての森泉の目にも、

 アリスが有する厄視の眼にもその兆候は映らない。

 結果、まんまと術中に掛かってしまった。

 ……そこで探偵は一つの可能性に辿り付く。


(目眩、吐き気、視野の狭窄(きょうさく)……そして昏睡。

 こう並べると、まるで何かの症状みたいだ。)


 ウイルスや毒の可能性は薄い。

 朝霧が対峙したのは禁忌の森という屋外。

 風も日光もある空間での効果など知れている。


 では他に何があるのか?

 その疑問を払拭してくれたのは()()()()だ。

 空間をねじ曲げてまで作られた異界庭園。

 禁忌の森同様、大量の植物に囲まれた空間だ。


「外せよ、その()()()。」


「――ッ!?」


 森泉の祝福により、

 透明化されていた機械のマスクが剥がれ落ちた。

 と、同時にスタンダールは慌てふためき手を上げる。


「うわあぁああ! 解除! 解除!!」


 そう叫んだかと思えば、

 アリスたちの体調に変化が起き始めた。

 即時回復、とまではいかないが、

 ほんの僅かに苦しみから解放されていた。


「やはりな。術者自身、耐性は無かったか。」


「こ……これ、は? 敵の、能力は……一体?」


「あくまで推理だが、身近な物だ。」


 植物が大量に放出する最も有名な毒がある。

 無味無臭であり毒ガスの検知もすり抜ける。

 しかも人間は日常的にそれを服用している。

 要するに、適量ならば益しかないが、

 度を超えれば死に至る毒ガス。その名を――


「――()()。『狂乱☆クラクラ倶楽部!』の正体は、

 酸素濃度を異常化させ中毒を引き起こさせる能力だ。」


 探偵はスタンダールを指差した。

 無力で有用な探偵の戦いを見届けるように、

 世界樹の外では一羽のカラスが飛んでいた。


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