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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
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第九話 魔導装甲戦車

 ――とある格納庫――


 男が目の前のソレを見つめる。

 布が覆い被さった大きな膨らみ。

 縄を千切って彼はその布を取っ払う。


 現れたのは大きな『乗り物』。

 ゴツゴツとした装甲。まっすぐ伸びた砲塔。

 一目で兵器と分かる『乗り物』だ。


 男はすぐに乗り込み機材をいじる。

 そしてエンジンが掛かったのを確認すると、

 彼は遙か遠くの上司に向けて独り言を呟いた。


「いつでも行けますよ。ベーゼ様――」



 ――星見展望台・麓――


 戦地では依然、激しい爆風が何度も吹き抜ける。

 やがてその巻き起こる土煙の中からは

 大剣を担いで地面を滑走する朝霧が飛び出した。

 そして再び敵への接近を試みる彼女を

 ベーゼは執拗にビーム攻撃で拒む。


「良く避けるじゃねぇか。嬢ちゃんの祝福か?」


 朝霧からの応答は無い。余裕が無い訳では無い。

 ただベーゼの撃破に集中しているのだ。

 その殺気はベーゼにも知覚出来るほどだった。


(……こいつぁちと不味いな。

 最初に会った時も感じたが、こいつの祝福は強力だ!

 単純な身体強化をここまで脅威に感じたのは初めてだ!)


 武装と溶解液で朝霧の接近を躱しているが、

 ベーゼの目は既に朝霧を追えなくなっていた。

 超重量の大剣を抱えての俊敏な動き。

 凡そ人とは思えぬその動きを見てベーゼは――


「フ、フフ……」


 興奮していた。


「フハハハ! 俄然嬢ちゃんに興味が湧いた!!

 やはり魔法ってのは面白ぇ!!」


 研究者の(さが)と言うべきか、

 目の前の脅威をおもちゃを前にした子供のように

 輝く眼差しで拝んでいる。


「死体でも構わねぇ! 解剖させてくれや!!」


(何なのっ、この人!?)


 子供のようにはしゃぐ老人の異質さに、

 朝霧は嫌悪に似た感情を抱いた。

 だがその時、ベーゼは背後の部下を呼ぶ。


「今だコージ!」


「ッ――しまっ!?」


 遙か上空へ、貯めに貯められた魔力を纏う

 小石が投げ飛ばされた。


 そして朝霧が投石に気づいた時には既に、

 それは直前の礫とは比にならない速度で

 人を飲み込むほどの大岩へと巨大化する。


(すぐに回避を――って、ええ!?)


 朝霧が上空から再び視線を戻すと、

 彼女の周辺をバリアが取り囲んでいた。

 べーゼの仕業だ。老人は不敵にほくそ笑む。


「こんな応用も出来るんだぜ? だが安心しな!

 肉体を強化する祝福なら、その影響が

 ()()()()()にも残るだろうよ!

 技術の発展に支障はねぇ!」


 朝霧を囲うバリアは既に、

 大剣を満足に振るえるだけの空間的余裕を奪っていた。

 やがて朝霧の体を影が覆う。大岩が頭上に迫る。


(駄目! 間に合わない――!)


「――飛ぶ斬撃……『村雨』!」


 刹那、大きな弧を描いて白い閃光が空を走る。

 飛ぶ斬撃が刃渡り以上の大岩を通り抜けた。

 ――瞬間、爆発にも似た轟音と衝撃を生み出し、

 大岩は周囲に破片を飛ばしながら両断される。


 その場にいた者全てが呆気に取られていた。

 慌てて朝霧が攻撃のあった方向に目をやると

 其処には血塗れのアランが立っていた。


「アランさん! やっぱり貴方って凄いです!」


「なっ……と、当然だ! ……あと、アランでいい。」


 再び赤面するアランだったが、

 すぐに気を引き締め直し敵を警戒する。

 対してベーゼの方は部下に任せたアランの登場で

 すっかり動揺してしまっていた。


「おい! おいおいおい……!

 トゥワリスはどうした!? まさか……!」


「斬った。」


「ッ――! コージ!! すぐにここから――」


 ベーゼは即座に離脱を選び、

 残る部下指示を飛ばそうとした。

 が、その瞬間――風を裂き、

 彼らの遙か上空からそれは飛来してきた。


 浮遊の祝福持ち。先輩隊員のジャックだ。

 彼は着地と同時にコージを吹き飛ばす。


「がぁあ!?」


 衝撃でコージは意識を失った。

 そして間髪容れずにジャックがベーゼに斬り掛かる。

 彼の両手にはキラリと光る特徴的な双剣。

 すれ違い様に斬る事に特化して、

 刀身が大きく湾曲した形状を選んだ双剣だ。


 ベーゼはその素早い連撃を回避する。

 が、避けきれないと判断してバリアを展開した。

 すると次の瞬間、エネルギーを取られたためか

 朝霧を拘束していた方のバリアが消滅した。


「――! 今だ!!」


 朝霧、アラン、ジャックの三人が斬り掛かる。

 それでもベーゼは致命傷こそ避けていたが、

 敵わずジリジリと追い詰められていった。

 遂には壁まで後退し、封魔局員三名に囲まれる。


「観念しろ、大戦犯ベーゼ。

 展望台頂上の雨雲発生用の魔方陣も既に破壊した。」


「ああ! ジャックさん、ずっとその作業を!?」


「ああ。そしてそれだけじゃ無い。あれを見な?」


 ジャックが指す方向に全員が視線を向ける。

 するとそこには展望台を目指して爆走している、

 数台の封魔局の車両が見えた。


「我らがミストリナ隊長直々のお出ましだ。

 投降しろ、ドクター・ベーゼ!」


 語気を強めるジャックとは対称的に、

 ベーゼの表情が諦めを映した。

 がその時、遠くで連続する爆発音が聞こえる。

 轟音の響く方角からして其処にあるのは――


(封鎖線か!?)


「フ……フハハハ! 遅ぇよ!!」


 突然老人の顔には生気が戻った。

 そして彼は腕に付けていた通信機に向けて叫ぶ。


「アベルトォ!!」


『――! 了解!!』



 ――――


 ミストリナたちの車両の後方で

 何かが壊れる音がする。

 彼女が車内から覗いて見ると、

 建物を突き破りながら()()が迫っていた。


 ゴツゴツとした装甲、まっすぐ伸びた砲塔。

 一目で兵器と分かる『乗り物』だ。

 慌ててミストリナが声を漏らす。


「戦車か!?」


 戦車の砲塔がミストリナたちを狙った。


「ッ――ドライバー! 回避しろッ!」


 直後、数発の砲弾が車両群を襲う。

 中には不幸にも直撃し大破する車両もあった。

 偶然ミストリナと同じ車両にいたアリスは、

 その振動から堪らず応戦を提案する。


「ミストリナ隊長!」


「あぁ! 総員戦闘準備! 目標は――むっ!?」


 ミストリナが気付いた時には既に

 戦車は彼女の乗る車両の真横を爆走していた。

 ガンガンとぶつかる二台の戦闘車両。

 だが片方は馬力の違う戦車。敵うはずがも無い。


(速い! こんな物まで用意を……用意……を?)


 ふとミストリナにある『仮説』が浮かんだ。

 だが確証の無い疑念を推敲する時間は無い。


「いや後だ……! 総員、車両から脱出しろ!!」


 扉を空け隊員たちは一斉に車外へと飛び出す。

 直後、横転する車両を轢き潰し戦車は駆け抜けた。

 轍の跡が残る道路では、倒れたアリスが顔を上げる。


「皆さん無事ですか!? ミストリナ隊長も!」


 彼女は辺りを見回した。

 脱出の衝撃で倒れ込んでいる局員たちの姿が見える。

 が、ただ一人、()()だけが見当たらない。


「ミストリナ隊長……?」



 ――――


 戦車が麓まで接近する。

 ベーゼは今までで一番の大笑いをしていた。


「フハハハ! 数ある俺の傑作の一つ!

 その名も『魔導装甲戦車』だ!」


「チッ……ベーゼだ! ベーゼを捕らえろ!!」


 ジャックたちは親玉の確保を優先し斬り掛かる。

 が、負けじとベーゼも顔色が悪くなるほど魔力を溜め、

 今までよりも遙かに高濃度な溶解液をばら撒いた。

 その脅威を前に三人は即座に勢いを殺して飛び退く。

 だが朝霧が着地したその瞬間――ベーゼが彼女を狙う。

 完全に無防備となったその瞬間を襲撃された。


 ベーゼが左手首の装置を捻ると、

 彼の手は目に見えるほどの電気を纏う。


「っ!? スタンガ――」


 青い稲妻がバチンと迸り、

 一瞬で朝霧の意識が奪われた。

 そして倒れる彼女をベーゼが抱え込む。


「確保。」


「待てこのっ……!」


 アランがベーゼに向かい斬撃を飛ばす。

 だが斬撃が老人の肉を引き裂くより速く、

 刃とベーゼの間には装甲の厚い戦車が割り込んだ。


『ベーゼ様! お早く!!』


(コージ……悪いが置いてくぜ。)


 意識の無い部下に別れを済ますと

 朝霧を抱えて老人は戦車へと乗り込んだ。

 当然決して渡すまいとアランとジャックが

 同時に手を伸ばすが――


「あばよ! 嬢ちゃんは貰ってくぜ!!」


 戦車は高速で走り抜ける。

 そして砲塔をジャックらに向け数発放った。


「ぐっ……! 止まれアラン! もう無理だ!」


「なッ! でも朝霧が……朝霧がッ!!」


 既に敵は飛翔剣の射程範囲外まで逃れていた。

 先程まで戦場だった場所に残るのは

 砂煙と戦車の轍と、逮捕に失敗した隊員二人。


「朝霧――――!」


 アランの叫びが街の中へと響き渡る。


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