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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
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第八話 村雨

 人狼が喉を鳴らし威嚇する。

 朝霧とアランの二人を見据えて対峙する。

 そんな人狼に睨まれた朝霧らの体はまるで、

 天敵に狙われた被食者のように強張っていた。

 頬に冷や汗が伝うのを感じながら朝霧は問う。


「……人狼ッ!

 この世界ってそんなのも居るんですか?」


「あぁ。所謂『亜人』と呼ばれる生命たち。

 魔法世界への移住に一緒に着いてきた連中だ。

 そしてそのうちの一つが、人狼族……!」


 人狼トゥワリスに刀を向けつつアランが答える。

 だがその刃先はカタカタと僅かに痙攣していた。

 そんな彼の態度を読み取り朝霧もまた、

 未知の存在に対して恐怖に近い感情を覚える。


「亜人……ならこの男は祝福に加え、

 人狼の力まで持っているってことですか?」


「いや、それは違う。亜人たちは祝福を持たない。

 人間は祝福の覚醒によって魔力を生み出すが、

 奴らは生まれながらにして魔力を有しているんだ。

 幸い、今や()()()()の生き物だがな……」


「ふっ、詳しいじゃねーか。」


 トゥワリスが解説者に賞賛を送る。

 視線をアラン一人に向けて笑みを浮かべている。

 すると狼はまるで獲物を決めたかのように

 一歩、アランに対してズシリと重く踏み込んだ。


「構えろ、来るぞ……!」


 アランの言葉にコクリと頷き、

 朝霧が再び正面を向いた、その時――


「「ッ――!?」」


 空を切る音が鳴り響く。

 人狼がアラン目がけて爪を振るった。

 攻撃はアランの刀と触れ合い、

 火花と甲高い衝突音を撒き散らす。


「防ぐか小僧。」


 アランがまだ生きている事を確認すると、

 トゥワリスは一歩下がって両手を振り回し、

 鋭利な爪を何度も何度も浴びせ続けた。


 やがてその猛攻に耐え切れず、

 耳障りな金属音が聴覚器官を刺激する。

 アランの刀がポッキリと二つに折られたのだ。

 人狼はニヤリと笑い、再び爪を突き出した。


「終わりだ死ねぇい!!」


「ッ――くたばるかよ!」


 折れた刀を投げ捨てて、

 アランは鋭く突き出された腕を抱え込む。

 そして攻撃の勢いを利用し敵の体勢を見事に崩す。

 だが完全にバランスを崩した両名は柵を突き破り、

 そのまま下方へと落下していった。


「アランさん!?」


 朝霧が顔を出し仲間の名を叫ぶ。

 が、その時には既に二人は分離し、

 互いに距離を取って再び睨み合っていた。


「朝霧! お前はベーゼを捕らえろ!

 こいつはっ……俺一人でやってやる……!」


「ッ……了解!」


 アランの覚悟に押されるように、

 朝霧は再びベーゼに視線を向けた。

 依然平静のベーゼとは対極的に、

 コージは怯えて震えている。

 そんなコージに呆れてベーゼは嘆いた。


「おいおい、しゃきっとしてくれ……

 分かったコージ。お前は援護だけしてろ。」


「――させるか!」


 会話ごと獲物を叩き斬るように

 朝霧が大剣を振り上げコージに飛び掛かる。

 しかしその突撃を再びベーゼのバリアが阻んだ。


(な!? さっきは割れたのに!)


「出力最大。どうやら嬢ちゃん相手に

 出し惜しみはしちゃいけねぇみたいだからな!」


「くっ……だめか……!」


 遂にバリアを割る事は叶わず、

 朝霧は反動を利用して後方へと大きく飛び退く。

 だが怯えながらもその隙を突いてコージは

 数個の石ころを朝霧へと飛ばす。

 片手に収まる程度だった数個の石ころは

 空中で即座に拳サイズの礫にまで巨大化した。


「このっ! 程度ッ!」


 朝霧は飛び退く体勢のまま

 大剣を振るって礫を打ち返す。

 だが弾丸の如く飛来するそれを

 またもベーゼがバリアで的確に防いだ。


 攻防はどちらも譲らず一進一退。

 しかしガンガンとバリアを叩く音から分かる

 その衝撃の大きさにコージの悲鳴は声量を増す。


「ひ、ひぃいい―!!」


(ったく。こいつは祝福だけなら優秀なのにな……)


 ガクガクと震える男の肩に手を置き、

 ベーゼは作戦を耳打ちした。


(巨岩で仕留めるぞ。俺が隙を作る。)


(っ……しょ、承知……!)


 部下の同意を確認するのとほぼ同時に、

 ベーゼは朝霧に向かい盛大な攻撃魔法を連発する。

 地面を抉るほどのその閃光の束を

 対する朝霧もまた運動能力だけで避け続けた。

 隙間を掻い潜り、大剣とバリアの接触が空気を揺らす。

 歳も陣営も違う二人の強者。

 しかしその胸にある思いは共通していた。


((絶対此処で仕留めてやる!))



 ――――


 上で巻き起こる戦いの喧騒が聞こえてくる。

 そして下でも剣士アランと人狼トゥワリスとが

 息を飲むほどの激しい剣戟を繰り広げていた。


 広い戦場を駆け回り二人が斬り結ぶ。

 度々アランは刀を折られてしまうのだが

 その都度彼は祝福で新たな武具を補充していた。


「あー面倒臭ぇ! それがお前の祝福か?

 ええおいどーなんだぁ!? 答えてくれや!!」


(っ……! こっちは話す余裕なんかねぇよ!)


 人狼。鋭い牙、爪、そして鋭い嗅覚を持ち、

 毛皮に覆われたその肉体は高い防御力を誇る。

 特にトゥワリスの針の如く鋭いその毛皮は

 アランの刃を通さないほどの強靭さを有していた。


「ハハハ! なまくらばっかだな、てめぇの刀は!」


「うる、せぇッ……!」


 只でさえ斬れない肉体を持つトゥワリスだったが、

 その動体視力もまたアランの攻撃を

 避けるのに十分な性能を誇っていた。

 カウンターのようにアランの顔面に蹴りが入る。

 強い衝撃と共に背後の木まで彼は吹き飛ばされた。


「くそ、が……これじゃまた本堂道場の名声が……!」


「ホンドー? あぁ、あの時代遅れの棒振教室か!

 お前そこの出身? ハッ! どーりで弱い訳だ!」


「ッ……黙れ!」


 刀を地面に刺して身を起こす。

 額からはダラダラと血が流れていた。

 そんな満身創痍の彼を見ると、

 人狼はすっかり舐め腐り挑発を続ける。


「黙れだぁ? お前が今から黙るんだよ!

 永遠になぁ!!」


 両手の爪を突き出し飛び掛かる。

 負傷と十分な挑発で既にアランに冷静さは無い。

 人狼トゥワリスはそう確信していた。

 が、迫る脅威を前にアランの頭は、

 曇りないガラスのように冴え渡っていた。


 飛翔剣。刃に乗せた()()()()()()技。

 魔力により巨大で鋭い斬撃を可能とする

 本堂一刀流の奥義。道場の門下生は皆、

 これを覚えて初めて()()()となる。


(――だが! 開祖が目指したのは何も、

 ()()()()()()ことじゃない。)


 刀を腰に、居合いのように構える。


(この剣が本来目指したのは――()()()()()()()()()!)


 アランの刀に、刃に、光輝く魔力が纏う。

 だがトゥワリスは構わず突進する。


「虚仮威しが! そのなまくらで()()()()()!?」


(硬い物、デカい物、遠い物。

 ()()はその切断を目的とした……飛翔剣の真骨頂!)


 剣士はただ、刃を振るう。


「奥義『村雨(むらさめ)』――!」


「ッ――!?」


 斬撃が飛んだ。

 しかしそれは今までの只の飛翔剣とは違い、

 より鋭く、より大きく空を裂く。

 そして斬撃の描く弧は回避不能なほどに速く、

 迫る人狼の強靭な肉と真正面から衝突し、

 そして――鮮やかに斬り裂いた。


「ガハッ!?」


「『何が斬れる』と聞いたな、犬っころ?」


 粒子となって消える刀を手放して、

 魔法世界の剣士は宣言する。


「何物だって、斬ってやるよッ!」



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