表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第四章 あらゆる秘密は暴かれる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

244/666

第三十八話 無言の暇乞い

 ――とある森――


 頭が痛む。どんよりと重い靄の掛かったように、

 思考は淀み、呼吸は乱れ、それに伴い歩幅は狂う。


「ハァハァ……! 何で、何でこんなっ!」


 そんな状態で封魔局の隊服を着た男は走る。

 足元には何本もの大きな根が露出し、

 泥濘(ぬかる)んだ地面と共に速度と体力を奪う。


 それでも足は止められない。

 止めたが最期、自分は死ぬと男は確信していた。


「応答してください! 朝霧隊長……!」


 口元に近づけた無線機。怒鳴り付けるが返事は無い。

 ――直後、背中に鋭い痛みが走る。

 斬り付けられた男は倒れ顔を泥で汚した。


 振り向くと、そこにいたのは同じ服の人間。

 双剣を携えた一人の封魔局員が立っていた。


「っ……!! クッソ。どういうつもりだ!?」


 返事は無い。血に濡れた顔はピクリとも動かない。


「答えろよ! ()()()()ッ……!!」


 無情にも、剣は振り下ろされた。

 吹き飛ぶ肉片。溢れる流血。

 人間だった物は森の養分の一部に消えた。


 剣の血を拭いジャックは身を翻す。

 その時、男の持っていた無線が繋がる。


『ジジ……朝、霧で……応答を……』


「……」


『ジャックさ……返事を……』


 血よりも赤い瞳で静かに無線を眺める。

 そして彼は……何も言わずにその場を後にした。



 ――集落前――


「繋がったはずなんだけど……変だね。」


 無線を眺め朝霧は寂しそうに呟いた。

 胸の内を駆け巡る漠然とした不安。

 その感情が漏れ出てしまったのだろう。

 エレノアたち新人にも不安が伝染し始める。


(なぁおい、隊長とジャックさんって何かあったのか?)


(……っ、確かに尋常じゃ無いムードね。)


(人類のあれこれは知らないが、険悪なのは分かるぞ?)


 エレノアたちは身を寄せ合い小声で相談する。

 たった数日の付き合いではあったが、

 それでも気付く事が出来るほどの不仲さ。

 触れてはいけない何かがあると直感していた。


(ハハーン。多分これはアレですね?)


(――! 何か知ってるの? リーヌス?)


(男女間の不仲、といえば答えは一つでしょう。)


 ま、まさか!と女性陣は口を揃える。

 そして脳裏に浮かんだ言葉を声に出した。


「「――痴情のもつれ!?」」


(……言うほどそれ一択か?)


 冷静に可能性を探すグレンを他所に、

 他三名の新人隊員たちは白熱した。

 熱を上げるようにリーヌスは更に燃料を投下する。


「そして僕は見ました。朝霧隊長と森泉って探偵が、

 息ピッタリの夫婦(めおと)漫才を繰り広げているところを!」


「ま、まさか……!」


「はい。恐らく『三角関係』です。」


「「はわわわわ……!」」


 エレノアとシアナは顔を赤らめ頬を両手で隠す。

 そしてリーヌスは名推理を披露したとばかりに

 ポーズを決めてカッコ付けている。

 そんな彼らを元不良少年は静かに見つめていた。


(違うと思うけどなぁ……)



 ――――


「普通に違うぞ?」


 半分呆れたようにアランは告げた。

 やっぱり、と内心で呟くグレン。

 そんな彼の背後でリーヌスは袋叩きにされていた。


「いやっ! 僕はちゃんと『多分』って……!」


「自信満々だったでしょうが! ったく踊らされた!」


「……まぁお前らが知らないのは当然だな。」


 溜め息と共にアランは四ヶ月前の事を話す。

 前隊長ミストリナとジャックの関係。

 結婚式での出来事。その後の結末の全て。


 朝霧がミストリナに致命傷を与えた事も含め、

 対厄災戦で起きたほぼ全ての出来事を伝えた。


「ならもしかして、ジャックさんは朝霧さんの事を?」


「恨んでいる……のかもな。」


 逆恨み、とも言い難い。

 ミストリナ本人は「気にするな」と遺して逝ったが、

 彼女に生存を諦めさせたのは間違いなく朝霧の一撃だ。

 そしてそれは、朝霧本人が何よりも理解している。


「ガキじゃねぇからそれで喧嘩なんてしねぇが……

 どっちにとっても割り切れるような話じゃねぇよ。」


 先輩から告げられた想像以上に根深い問題。

 新人隊員たちは掛ける言葉を見失う。

 すると、そんな彼らに朝霧から指示が飛ぶ。


「現状、第三班の手掛かりはありません。

 なので彼らの無事を信じ、私たちは任務を優先します。」



 ――――


 村の中を見慣れぬ集団が進む。

 窓から顔を覗かせる村民たちは、

 それが封魔局員であるとすぐに理解した。


 此処は聖域内の集落。その一つ『ロコナシ村』。


 黒の森付近に存在している小さな集落であり、

 封魔局員アリスが生まれ育った村であった。


 集団の先頭を征くは朝霧桃香。

 彼女の後方に並ぶリーヌスは周囲を見回した。

 外からも見えた風車。黄色に染まる花畑。

 そしてレンガ造りの家屋。まるで中世世界だ。


(オランダの田舎かな? 一番近いのは。)


 彼がそんな事を考えていると、

 集団の先頭に向けて一人の少女が突進した。

 先行していたアリスである。

 彼女の遥か後方ではハウンドと杖をつく老人がいた。


「遠路はるばるご苦労様です、朝霧殿。

 私はこのロコナシ村の村長、エイゼンですじゃ。」



 ――風車――


 カタカタと回転する木造の巨大な羽根。

 その風圧を間近に受けながら、

 少女は手すりから両足を出し揺らしていた。


 彼女の眼下には村長の家。

 その前には屈強そうな集団が見て取れる。

 そんな彼らに少女は目を輝かせていた。


「わー! 強そうな人たち!

 あの人たちと一緒ならいいかな? いいよね!」


 興奮気味に立ち上がると、

 手すりで鉄棒のように前回りを行う。

 グルンと体を回し、再び顔を上げる。


「行きたいなー! 行ってみたいなー! あの森に!」


 遥か遠くに指を差す。

 風に揺らぐ木々。深い緑に染まる世界。

 妖しい雰囲気を漂わせる一際異様な森があった。


「妖精がいるって噂の……『禁忌の森』!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ