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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第四章 あらゆる秘密は暴かれる

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第三十四話 666の魔獣たち

 ――――


 白亜に輝く石造りの祭壇。

 四方は壁に囲まれて中心の天井のみ大穴を空ける。

 しかし差し込める光は淡く、

 空間そのものを冷たい灰色に染め上げていた。


「捕らえた小娘が脱走? 二人ともですか?」


「も、申し訳ありません。シェーグレン様……!」


 祭壇に繋がる短く広い階段の下。

 膝と拳を地面に押し当て、

 男は上にいる四人の男女に(こうべ)を垂れた。


 それぞれが他人を寄せ付けない気迫を放つ異様な集団。

 一癖も二癖もあるということが気配だけで感じ取れる。

 そんな彼らのたった一人だけ。

 名を呼ばれた巨漢の神父のみが部下に顔を向けていた。


腐蝕人(フショクビト)たちは?」


「彼らでは歯が立たず……!」


「――エルフと鬼だもん。アイツらじゃ無理だって。」


 神父の後ろで若い男が声を上げた。

 祭壇の柱にもたれ掛かる、曲がった双剣を携えた剣士。

 黒のロングコート。高い襟が口元も覆い隠していた。


「またお前が行くか? スタンダール。」


「そうだね。ついでに調教してあげよう。」


 隠した口元を大きく歪曲させながら、

 剣士は両手をポケットに入れたまま階段を降りる。

 彼の背を階段の最上部に座る女が軽蔑していた。

 そして、残る四人目の女は我関せずの態度を貫き、

 他者に背を向け静かに祭壇へと祈りを捧げていた。


「そ、それと……! 黒の森に侵入者です!」


「ボネ。行きますか?」


「興味なーい! メビウス、アンタは?」


「…………」


「興味ナシ、ですね。

 ……仕方がありません。私が行きましょう。」


 神父はそう呟くと階段を降り始める。

 部下の男よりもずっと大きい身体を揺らし、

 聖書を大事そうに抱えて、森へ向かう。



 ――黒の森――


 振動が木々の合間を駆け抜ける。

 揺れる森林。小動物たちが我先にと逃げ出した。

 振動と共に伝わる爆音。共鳴し合う複数の咆哮。

 朝霧たちは、それが魔獣の声だと理解する。


「――総員! 臨戦態勢ッ!!」


 武装を手に取る六番隊員。

 周囲に魔力の斥候を放つ索敵班。

 部隊の中央へと退避する補給班。

 そして、いつでも戦える主力たち。


 密集陣形で互いの背中を守り合う。

 彼らの警戒心は外へ外へと向けられた。

 暗い陰を落す、森の奥へと向けられた。


「魔獣……よね? アリス?」


「はい。間違い無いです……! 誰かが獣道を通った?」


「全隊員に伝えたはずだけどね……まぁ仕方無いッ!」


 レーダーの如く張り巡らされた魔力。

 気付けば咆哮はピタリと止んでいた。

 再び静寂に包まれた黒の森。

 長閑な空気が、逆に今は恐怖心を煽り立てる。


 一秒。また一秒と浪費されていく時間。

 誰かがゴクリと飲んだ息の音すら響いてしまう。

 その時――シアナは地面の揺れを感じ取った。


「ッ!? ()だぁぁあッ!!」


 彼女の声に反応し、

 朝霧、エレノア、ハウンド、アランの四人が動く。

 それぞれが手の届く範囲で隊員たちを退避させた。


 直後、崩壊し始めた大地。

 砕けた瓦礫が宙を舞い穿たれた穴から魔獣が現れた。

 その数四匹。規模は中型。ムカデのような甲虫魔獣だ。


 咄嗟に反撃に出たのはアランだ。

 飛翔剣による斬撃が魔獣の肌を撫でる。

 が、甲高い音が鳴るばかりで傷は無い。

 それを確認すると朝霧は叫んだ。


「ハウンドさん!」


「おう!!」


 合図と共にハウンドは弾丸を撃ち込む。

 それは着弾と共に炸裂し真っ白な煙幕を張った。

 と、同時に隊員たちは森の中へと駆け込んだ。


 此処は既に魔獣蔓延る黒の森。

 戦闘が長引けば他の魔獣が嗅ぎ付ける。

 既に陣形も乱れてしまった。

 ならば後は――全速力で逃げるのみ。


「事前に決めた通り! 三班に分かれます!!」


 本来、部隊の分割は悪手になりやすい。

 戦力を分ければ分けるだけ対応力が低下する。

 敵の攻撃によって分断されたのなら尚更だ。


 しかし此処は森の中。

 大人数での移動はその足を遅くし、

 迎撃に移ろうにも機能する陣形などほとんど無い。


 ならば、今欲しいのは機動力。

 極力交戦を避け目的地に辿り着くための速度だ。


「ごめんね、皆。貧乏くじを引かせて!」


 第一班、指揮権朝霧。

 主要メンバー、シアナ、エレノア。

 戦闘特化の隊員たちで殿(しんがり)の役割を持つ。


「後ろは振り返るな! 行くぞ!!」


 第二班、指揮権ハウンド。

 主要メンバー、アリス、アラン、リーヌス。

 アリスの先導を頼りに目的地到達を目指す。


「ジャックさん! 指示をください!」


 第三班、指揮権ジャック。

 主要メンバー、グレン、他索敵班。

 空中から見渡し他の班の援護に回る。


(最悪の場合は第三班が空から目的地に向かう!

 これなら、誰も辿り着けないなんて事態は防げる!)


 三つの班はそれぞれの役割を果たすために奔走した。

 背後から差し迫るムカデの魔獣。

 周囲からも只ならぬ気配が立ち込めて来ていた。


 朝霧たち第一班は各々の武器を構える。

 戦闘は最低限。だが避けては通れない。

 仲間を逃がすため、彼女たちは魔力を放った。


「おい粗暴人類! どっちが多く倒すか勝負しないか?」


「はぁ!? 話聞いてたの!? この蛇お……シアナ!!」


「む……」


「二人共喧嘩しない! こんな所で死なないでね!」


 森は――荒れた。

 目的はあくまで他班を逃がすこと。

 しかし森は大いに荒れた。

 獰猛な魔獣の群れに手加減する余裕など無いのだ。


「草薙ッ!」


「トールハンマーァッ!!」


「ヨルムンガンドぉッ!!!」


 距離さえ置ければそれでいい。

 視界から外れさえすればそれでいい。

 だが、それすらも困難。


 恐らく気付かぬ間に他の獣道も踏んだのだろう。

 縄張りを荒らされたと別種の魔獣が騒ぎ出す。

 最早その種類はムカデのみでは無い。

 大型、中型。甲虫、四足獣。666種の魔獣たち。


「っ……! 他の班は無事なんでしょうね……!」


 手当たり次第に磁力を付与し、

 エレノアは凶悪な攻撃を必死に避け続けた。

 しかし、魔獣の巨体を見るために上に向いた意識は、

 足元に張り巡らされた太い木の根を見落とした。


「きゃ!」


「マズい……! エレノア!!」


 尻もちを突く彼女の前に、

 三体の中、大型魔獣が顔を揃える。

 唾液を垂らす巨大な口を大きく開きながら。


「エレノアァーッ!!」



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