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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
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第五話 サジタリウス

 黒い閃光が高速に回転し、

 空間を削るように進んでいく。


 そして数秒の後、衝撃波が砂嵐を巻き起こした。


 衝撃が空気を揺らし、

 周りの建物のガラスはカタカタと音を立てる。

 そして耐えきれなくなった一部の石壁が崩れて、

 更にしばらくすれば立ち籠めた煙が晴れる。


「はぁはぁ……なんて、火力!」


 其処には呼吸を荒げる朝霧が立っていた。

 それでも彼女の体は五体満足の負傷無し。

 咄嗟に大剣で防御していたのだ。 


「ハッ! やるじゃねぇか嬢ちゃん!」


「まだまだ……こんな物じゃないから――!」


 刹那、朝霧を中心に魔力の渦が発生した。

 目に見えるほどの濃い魔力。

 それを彼女は大剣に込めて振り回す。


 ブンッと低い風切り音を立て刃が走る。

 ベーゼは再びバリアを張る。

 がしかし、今度の結界は容易く引き裂かれた。

 刃が肉に当たる寸前でそれに気付き、

 ベーゼは老体とは思えない速度で慌てて躱す。


(――この女……!?)


「逃がすか!!」


 朝霧は一切容赦の無い追撃を繰り出す。

 片手で大剣を振り回すその様に

 ベーゼは酷く驚愕しながらも距離を離した。


(まずい。手を出す相手を間違えたか?

 こうなったら――)


 ――ベーゼがある筒の栓を引き抜いた。

 瞬間、彼の辺り一面を白い煙が覆い隠す。


「煙幕!?」


「じゃあな。朝霧の嬢ちゃん。」


「っ――!」


 突然の煙に朝霧が怯んでいると

 彼女はベーゼの気配が消えたことに気付く。

 咄嗟に大剣を振り回し煙を払い退けるが

 其処には既に、大柄な老人の姿は無かった。


「……逃げられたか。」



 ――――


 朝霧の端末が再び鳴り響く。

 お相手は勿論、上司ミストリナだ。


『朝霧! 一体何処で何をしている!?』 


「すみません隊長。

 先ほどドクター・ベーゼ本人と接触しました。」


『なっ!? 何だと!?』


「申し訳ありません。封魔局員とバレて交戦。

 その後、完全に逃げられてしまいました……」


 無線の向こうで他の隊員たちが

 慌てているのが分かった。

 過程はどうあれ朝霧の存在から敵に

 封魔局の存在も認識させてしまったのだ。

 逮捕が厳しくなったのを彼女はすぐに理解する。


「申し訳ありません。私の不注意で……」


『過ぎたことはしょうがない。

 朝霧、君はこのまま最初の指示通り

 候補地へ行った仲間と合流してくれ。』


「っ……了解!」


 無線を切り再び潜伏候補地の方へと目を向けた。

 がその時――まさに目指していた方角で爆発が起きる。

 巨大な火柱が空へと登る。黒い狼煙を上げている。


「なっ……まさかっ!」


 朝霧は屋根を跳び越え全速力で駆け出した。



 ――爆心地――


 濃い煙が辺りを埋め尽くす。

 爆発が起きたのは朝霧が合流するはずだった

 潜伏候補地であった。


 朝霧はすぐに生存者を探し深穴に降りる。

 すると瓦礫の下に重傷の封魔局員を発見した。


「大丈夫ですか!?」


「ゴホッゴホッ! ……朝霧隊員か?

 丁度いい……隊長に伝えてくれ……」


 朝霧は近付いた瞬間その隊員の状態を察した。

 彼のの足は潰れ、肝臓の位置には瓦礫が刺さり、

 既に生存が困難なほど血を流していた。

 だが隊員は今にも途切れそうな声で告げる。


「この場所はッ……ベーゼの拠点の一つだった。

 ……中には取引の詳細な情報も確認出来た!

 取引される兵器の、名は……『流星襲落の弓(サジタリウス)』!

 ……(そら)から……()()()()()()()()()()だ。」



 ――――


 遠方の地でベーゼが立ち上る黒煙を眺める。

 情報は上手く消せただろうか、と、

 そんな事を思いながら、ただ眺めていた。

 するとそんな彼の背後で三人の部下が跪く。

 男三人。皆、ベーゼが口を開くのを待っていた。


「アベルト、コージ、トゥワリス。

 ……無事なのはお前らだけか?」


「申し訳ございません!

 なんで、なんでこんなことに……」


 アベルトと呼ばれた男が返答する。

 オドオドと口を震わせ下をうつ向く。

 だがそんな彼を老人は叱責した。


「アベルト。『なんで』は後悔の言葉。

 進歩し続ける者(けんきゅうしゃ)たる俺の前で言うな。

 今後どうするかを考えろ。」


「す、すみません! ……しかし現在、

 マランザードには封鎖線が張られています。」


「左様。我々だけでの脱出は困難かと。

 幸い『流星襲落の弓(サジタリウス)』はまだ無事ですが、

 もう取引どころでは……」


「我々だけでは困難か。

 ……なら≪黒幕≫を利用しよう。」


 ベーゼの発言に三人は驚く。

 だがベーゼは構わずほくそ笑み

 一人妖しく悪巧みを続けていた。


「取引は今夜だった。慎重な黒幕の事だ。

 奴も取引前に部下をこの街に潜ませたはずだ。

 んでもってお仲間思いの奴なら、

 この状況の部下を助けに近くまで来てんじゃねぇのか?

 そして……もしこの街に()()()()()()()

 部下が心配でヒョッコリ現れるんじゃねぇのか?」


 放置されたアベルトらは互いの目を合わせる。

 そしてそれと同時に、ベーゼの口角が上がった。


「一人静観はよくねぇよなぁ黒幕さんよぉ?」


 世紀の大戦犯は空へと手を伸ばし、

 そして彼の有する最悪の祝福を発動した。


「ここは一つ、あんたも盤上に出てきてくれや。」



 ――――


 都市マランザード上空。

 突如その空の色が一変する。

 砂漠の都市に雲が掛かったのだ。


 それは明らかに異質と一目で判別できた。

 雲が()()()()()()をしていたからだ。

 街の人々は次々に何事かと見上げる。


 ぽつ、ぽつ。


 雨が降る。砂漠の街に雨が降る。

 一滴、また一滴とその量が増えていく。

 そしてその一滴が見上げていた男性の頬に触れる。

 ――直後、男性の頬が()()()


 ザァア!


 雨が降る。毒の雨が降る。

 各地で絶叫が響き渡る。

 激しい雨音と悲惨な叫びが(こだま)する。


「なに……これ?」


 支部に撤退していた朝霧も外の異変に気が付いた。

 突然外に出ていた街の人々の肉が溶け出し、

 まるでゾンビのようにもがいて死んでいくのだ。


「また……また人が……!」


 絶望にその身が震える。

 助けなきゃ、と朝霧は思わず外へ出ようとした。

 だがそんな彼女の腕をミストリナが鷲掴みにする。


「朝霧何してる!? この雨には触れるな!」


「隊長! この雨は一体!?」


「……恐らくベーゼの祝福『溶解液』だ。

 だが、それは精々手から毒液を飛ばす程度……

 これほどの規模での展開など流石に……

 まさか、自分の兵器で規模を拡大したのか!?」


 ミストリナも状況の深刻さに焦りが隠せないでいた。

 だがそれでも彼女は隊長として己を律し、

 支部内に響き渡るほどの声量で指示を飛ばす。


「とにかく市民の避難を最優先しろ!

 毒の雨に触れさえしなければ問題は無い。

 防水魔術を掛けられる者は前に来い!」


「隊長! 私はどうすれば!?」


「朝霧……君は防水魔術を掛けて貰ったら

 もう一度ベーゼの捜索を行え!」


「ッ――了解!」



 ――同時刻・とある――


「ヒャハハハ!! アハハ!! ヒィヒィッ!」


「ちょっちサマエルー? いくら何でも嗤いすぎ。」


 薄暗い部屋。貴族趣味の談話室。

 その壁一面に掲げられた大きなモニターを見て

 正真正銘の『悪魔』が嗤う。

 モニターに映し出された朝霧の顔を見て、

 腹を抱え、椅子の上で足をばたつかせていた。


「フロル嬢ぉ! これをっ!

 これを嗤わぬとは不可能と言う物!」


 彼は世界の傍観希望者。

 表舞台には決して現れない無敵の評価人。

 そして他人の苦悩を嘲笑う者。


「朝霧桃香の願いは間違い無く美しい!

 賞賛されるべき崇高な物のはず。

 だのにっ! その願いにっ! 

 世界はこうも残酷な試練を与えた!

 んーっ、不憫! そして滑稽!」


「趣味悪、無いわー……

 つーかあの有害ジジイ、

 こんな奥の手があったんだ。」


 目元の涙を拭き、悪魔は再び言葉を発する。


「世紀の大戦犯。ドクター・ベーゼ。

 恐らく朝霧桃香の願いにとって、

 彼は最も障害となる者の内の一人!」


「英文の言い回し。」


「お静かにフロル嬢。今良い所です。

 しかしぃ、いやはや、はてさてはてさて!」


 ――悪魔は再びモニターに期待を寄せた。


「この度の戦い彼女は一体、

 何を()るのでしょうや!?」



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