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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第四章 あらゆる秘密は暴かれる

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第二十話 亜人という異形

 ――普通とは何だろう?

 誰かにとっての常識は別の誰かにとっての非常識。

 であればきっと、常識とは人の数だけ存在し

 その常識の数だけ普通という物は存在しているのだろう。


 ……()()()()()()()()()()


 為政者であれば常識という名の枠組がいる。

 裁定者であれば常識という名の基準がいる。

 教育者であれば常識という名の教材がいる。


 答えがいる。万人が理解出来る普通という名の答えが。

 人を善性へと導くためにはそんな理想像が必要だ。

 統一化が必要だ。均一化が必要だ。一本化が必要だ。


 何せここは魔法世界。

 ただでさえ祝福と呼ばれる多様性が秩序を壊す。

 あるべき姿を提示し外れた者は罰せねばならない。


 ――亜人などもっての外だ。


「だからこそ……これはチャンスだぞ、シアナ。」



 ――竹林――


 フシュルルと鳴らされるのは昂ぶる吐息。

 理性があるのかすら怪しい獣の呼吸。

 鋭い眼光が長閑だったはずの竹林を

 一触即発の緊張感で塗り替えてしまう。


(亜人種……『鬼』! 初めて見た……!)


 エレノアは目の前に現れた二匹の鬼を観察する。

 一方はメズと呼ばれていた細身の鬼。

 腕を組みながら眺める姿には理知的な印象を受けた。

 もう一方はゴズと呼ばれた巨漢の鬼。

 エレノアの倍はある巨体と並ぶ棍棒を引きずっている。


細身(メズ)の掩護で巨漢(ゴズ)が決めるって所かしら……)


 冷静に、あくまで冷静に鬼たちを分析する。

 経験不足ゆえにそれ以上の考察は出来ないが、

 それでも首席として正しい判断を下そうと努力した。


(蛇女……私が抑えてるから援軍を呼びなさい。)


 それがエレノアの中での最適解。

 すぐ近くにアランたち先輩隊員がいるのだ。

 ならば援軍が来るまで首席の彼女が鬼を抑える。


 鬼との戦力差は計れていないが、

 耐久するだけなら可能だという見込みもあった。

 決して悪手では無い判断だった。しかし――


「――いや? 私はヤだぞ、粗暴人類。」


 シアナは彼女の意見を真っ向から断った。

 鬼に聞かれぬようにとせっかく声を潜めていたのに、

 そんな事もお構い無しと言わんばかりの声だった。

 シアナの返答と態度に思わずエレノアも声を荒げる。


「ちょッ!? アンタこんな時までフザけた事を……!」


「フザけているのはお前だ。だってまだあの二人が、

 ――()()()()()()()()()()()()()だろう?」


「はぁっ!? あの殺気が見えないの!?」


 エレノアの怒号が竹林に響く。

 その間に鬼たちが動く気配は今のところ見えない。

 それを良しとしシアナは仏頂面で答えた。


「ここが()()()()()だから警戒しているだけだろ。」


「っ……!」


「朝霧隊長ならともかく、お前は知っているだろ?

 約三百年に渡る……亜人種への迫害の歴史を。」


 魔法連合管轄の組織に亜人はいない。

 それはかつて行われた迫害が原因だった。


 彼らは魔法研究の一環として、

 元の世界から魔法世界への移住を()()()()

 しかし所詮は異形の化け物。

 決して人権が認められた訳では無かった。


 ハーピィの羽根。竜人の鱗。人魚の肉。

 魔法使いにとって彼らは()()でしか無い。

 彼らへの搾取は推奨され、擁護は孤立を生んだ。


 やがて亜人たちは逃げるように住処を移す。

 そうして出来上がったのが『未開領域』だ。


 それから百年以上の時が流れ、

 迫害という実例自体が歴史となっていった。

 が、人々の奥深くには未だ差別意識が残っている。


(っ……! 私の接し方も……もしかして……)


 エレノアは身を引くしか無かった。

 決定権をシアナに譲り黙って一歩下がる。

 対する彼女はメズたちに向け両手を広げた。


「さて、まずは話を聞こうか! 鬼のお兄さんたち!」


 敵意は無いという意思を見せ接近する。

 だが決して無警戒という訳でも無い。

 隙の無い身のこなしからメズはソレを察する。

 そして……


「おぉこれは有り難い申し出だ、ラミアのお嬢さん!」


 全力で彼女の申し出に乗っかった。

 あまり状況を理解していなさそうなゴズを置き、

 シアナと同様に両手を広げながら接近する。


「我々も丁度困っていた所でして!」


「ふむふむ! 私たちに何か手伝える事はありますか?」


「そうですねぇ……とにかくまずは休憩したい。

 ()()()()()は貴女方の物ですか? 出来ればそこで。」


「む、ではちょっと上司に相談してみよう。」


 円滑に進む交渉。

 シアナは確認のために道場へと向かう。

 その背後に追従するようにメズ、ゴズと並んだ。


「いやー変に争いにならなくて良かったな、ゴズ!」


(確かに争いを回避出来た……これが正解だったんだ。)


 シアナと二人で鬼たちを挟むように、

 エレノアが最後尾に並び三人の背を見つめた。

 揺らぐ自分の価値観に心を痛めながら。

 その時――


「んー? 結局戦わないんだなど? メズの兄貴?」


「あぁそうだ! 戦わない!」


「けど()()の大将が言ってたど!

 目撃者は全員殺せって! それは無視するど?」


「「――ッ!?」」


 瞬間、跳ね上がった警戒心に身を任せ、

 二人の封魔局員は鬼たちから距離を取った。

 対して、メズは沈黙したまま下を向き、

 何が起きたのか分からないゴズは困惑していた。


「ゴ〜〜〜〜ズ〜〜〜〜!!」


「お、お、オデ、また何かやっちまったどか!?」


()()()! もういいわよね!? ここで撃破する!」


「ん? ……うん、悪かった! コイツらは敵だ!」


 幸運にして挟み撃ちの形が出来ている。

 二人はそれぞれの専用武器を取り出そうと構えた。

 その間も二匹の鬼たちは互いに向き合い隙を晒す。


「ご、ごめんよ兄貴! オデ何でもするから!」


「言ったな? ちゃんと挽回しろよ?」


「勿論だど! ()()()()ならイブキにも負けねぇ!」


 それならと呟きメズは何かの準備を始めた。

 直後、先手を打たせまいとシアナが迫る。

 蛇の下半身を巧みに扱い竹林の荒い道に直線を引く。

 その時――


「――あのボロ小屋をブッ壊してこい!!」


 メズは宙をクルリと回転しゴズの巨体を蹴飛ばした。

 体格差は倍に迫るはずなのに、

 蹴られたゴズは巨大な弾丸のように道場へと吹き飛ぶ。

 射線内にいたシアナを巻き添えにして。


「ごはぁっッッ!!!?」


 シアナごとゴズは道場の塀を突き破った。

 やがてその『砲撃』は庭の岩に打つかり止まる。

 騒ぎを気づいた隊員たちが駆けつけると、

 そこには地に伏すシアナと棍棒を担ぐ鬼がいた。


「やってやるどぉぉおぉお!!」



 ――――


「っ……!? シアナ!!」


 道場から巻き上がる粉塵にエレノアは叫ぶ。

 今すぐ救助に行こうと駆け出すが、

 その目の前にメズが割って入り遮った。


「君の相手はオレだ。人間。」


「……あっそ。」


 初期案では一対二で抑えるつもりだったが、

 結果としてシアナは道場まで辿り着き、

 エレノアの前に残った鬼はたったの一匹だけ。

 むしろ状況は好転していると言ってもいいだろう。


「やってやろうじゃないッ……!」


 エレノアは右手を真横に上げた。

 直後、彼女の上着がフワリと浮き始める。

 バチンと破裂する青白い稲妻を纏いながら。


「『トールハンマー』――起動ッ!!」


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