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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第四章 あらゆる秘密は暴かれる

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第十九話 鬼が来る

 ――道場・廊下――


 一歩進めば床が軋む。

 今にも抜け落ちそうな悲鳴を上げて。

 戸に手を当てればガタンと揺れる。

 建付けの悪い扉はちょっとやそっとじゃ開かない。


「かなりきてるな。この道場も……」


「まぁねー。実質看板は下ろしたようなものだし?」


 数人の隊員たちを引き連れ門下生たちは先頭を征く。

 広い道場は物静か。彼ら以外の気配は無い。

 集団は無言のまま、ただ廊下をまっすぐ進んでいた。


 ふと足を止めてみれば、

 あの日鍛錬に励んだ庭が見えた。


「懐かしいよねアラン兄。毎日鍛錬でヘトヘトだったけど、

 日々強くなっている気がして、本っ当に楽しかった!」


「あぁ、そうだな。」


「コルウス兄は毎晩遅くまで一人で鍛錬してたし、

 モネ姉は自分も疲れてるのにいつでも優しかったし、

 マック兄はどんな時もずっとマイペースだったよね!」


「あぁ……そうだったな。」


「あの頃はみんなが目を輝かせてた。

 強い自分たちが弱い市民を守るんだって信じてた。」


「そう……だな。」


「でもみんな……あの戦争で……亡くなったんだよね。」


「…………」


 返す言葉もない。二人の門下生は黙り込んだ。

 突如湿度の上がった空間に困惑するのは

 彼らについて来た他の封魔局員たちだ。

 どうすればいいのか分からず互いに顔を合わせる。

 その時――


「――待てコラ、蛇女ぁぁああ!!」


「フハハハハ! どうした粗暴娘? 首席の名が泣くぞ?」


「っ〜〜〜〜! 本当にアンタは癇に障る事ばかり!!」


 塀の外から落雷のような爆発音が轟いた。

 湿っぽい空気ごと衝撃が砂塵を巻き上げる。

 感傷に浸る間も無いとアランは呆れて吐息を零す。


「……ったく。アイツらはコンビ組ませない方がいいな。」


 そう言い切る彼の横顔は困りながらもどこか楽しげ。

 ストレスよりも充実感の方が勝っているようだ。

 僅かに漏れ出るその感情をハリスは感じ取る。


「楽しそうだね、アラン兄()。」


 物寂しげにハリスは呟いた。

 意味深なその発言。当然アランは引っかかる。

 しかし弟弟子の儚げな横顔を見ていると、

 直接的な質問で事情を聞くのは憚られた。


「さて! じゃあそろそろ仕事の話に移ろっか!」


 アランが言葉を選んでいる間に

 ハリスは話題を切り替えてしまった。

 タイミングを逃したとアランは追求を諦める。


「そうだな。ただ、先に師範に挨拶をしておくよ。」


「うーん。いいけど……多分意味無いよ?」


「?」


 ハリスは苦笑いをしながら

 家屋の中で最も広い部屋へとアランたちを招く。

 かつて若者たちが剣の鍛錬に励んだ道場だ。

 アランはその中へ入った途端、彼はその目を疑った。


「……師範?」


 そこには道着を纏う白髪の老人。

 竹刀を傍らに部屋の中央で鎮座している。

 アランの呼び掛けに反応も示さず、

 ただ巨大な神像へ顔を向け黙しているのみだった。


「師範? 俺です、アランです!」


 返事は無い。

 神像を眺めて黙するのみ。


「俺が最後に見たときは寝たきりだったのに、

 もう起き上がれるくらい元気になったんですね?」


 返事は無い。

 ただ黙して神像を眺めるのみ。


 見るに堪えない問答が続く。

 ハリスは溜め息を零しながらアランに近寄った。


「無駄だよアラン兄。師範は今、何も聞こえていない。」


「!? なんだよそれ……ボケちまったのか?」


「うんまぁ……ボケかな? 最近はずっとこんな感じさ。」


 曰く、師範はもう何ヶ月も理性が無い。

 ある日突然起き上がったかと思えば徘徊を開始し、

 一日中神像へ祈りを捧げたかと思えば気絶し眠る。


 風呂は入らない。気絶した時にハリスが体を拭く。

 食事もハリスが機を見計らって栄養剤を口にぶち込む。

 体力と筋力の低下は魔力による補助で凌ぐ。


 ハリスが介護をしていなければ

 とっくの昔に死んでいたであろう状態であった。


「この道場以上に、師範が来る所まで来ちゃったんだよ。」


「っ……!」


 封魔局員たちは悲痛な顔を揃えた。

 人斬りについて彼にも意見を求めるつもりだったが、

 今の状態ではどうする事も出来ない。


 だが人一倍心を傷めたのは当然アランだ。

 道場の現状を知り彼は目眩がするほど気分を害する。

 そして先程のハリスの発言の意図を悟った。


「辛い思いをさせたな、ハリス。」


「全ぜーん! それよりもさ! お仕事しようよ!」


 明るいハリスに元気づけられアランは頷く。

 道場の中に師範を残し彼らは客室へと移動した。

 そこで今回の人斬り事件について話し合う。


「じゃあ改めて……こんにちわ、封魔局の皆さん!

 僕は魔法連合所属、公儀死刑執行人のハリスでーす!」


 要するに首斬り役人。

 恐ろしい肩書きをハリスは臆面もなく語る。

 彼の職業を知らなかった隊員は動揺するが、

 それに構わずハリスは続けた。


「さてさて、今回の人斬り事件の資料は見たけどぉ、

 当然、アラン兄なら()()()に気付いているよね?」


「あぁ、あの切断面。間違い無くウチの飛翔剣だ。」


「正解! つまり犯人は本堂一刀流の門下生!」


 アランは辛そうに目を閉ざす。

 各部隊の配置を決めたのは朝霧だが、

 そもそもこの都市の担当を決めたのはフィオナだ。

 もっと言えば捜査対象にしたのは封魔局の上層部。


 恐らくフィオナより上の人間は、

 犯人像にある程度のアタリがついていたのだろう。

 本堂道場の人間が人斬りを行っていると。


「……って言いたい所だけどぉ?

 そうとも限らないんだよなー、これが!」


「? どういう意味だ、ハリス?」


「以前まともな頃の師範に聞いたんだよね。

 本堂一刀流の起源となった剣術を扱う()()がいるって。」



 ――道場裏・竹林――


 塀を越えた先の先。

 高く伸びる竹たちが深い暗さを演出する竹藪の中、

 二人の封魔局員が衝突していた。


「ハァハァ……! 手強いわね、ラミアってのは……!」


「貴様もな。その祝福はいくらなんでも反則すぎるぞ!」


((まぁ専用武器を使えば私の方が強いけど!!))


 心の中で再び声が揃う。

 互いに自分の方が実力者だと考え譲らない。

 最早少しの事でも衝突する犬猿の中となっていた。


「! ちょっと、道場から離れちゃってるじゃない!」


「今気づいたのか? 冷静さは私の方が上だな。」


 シアナの煽りにエレノアは再び苛ついた。

 また同じように突っかかろうと足を踏み出す。

 その時――


「「――――っ!?」」


 竹林が作る闇の奥から、

 ただ事では無い魔力が化け物の気配となって溢れ出す。

 二人は一瞬で理解した。それが人間の物では無いと。


「んあ? オナゴに見つかっちまったど。メズの兄貴。」


「そのようだなゴズ。ここでの接敵は予想外だ。」


(頭にツノ? こいつらまさか……!)


「あぁでも……やっぱりするな、『暁星』の気配が。」



 ――――


「本堂一刀流の開祖は彼らの剣技を参考にした。

 莫大な魔力と剛腕、そして高い魔力操作のセンス。

 ツノ以外は人と変わらない化け物、即ち――『鬼』だ。」


 鬼が来る。長閑で寂れた道場に、

 荒い吐息と共に殺気を漏らしながら。

 鬼が来る。鬼が来る。――――鬼が来た。

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