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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第四章 あらゆる秘密は暴かれる

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第十六話 悪性の化け物

 ――『光』の本質は善か悪か?


 人という生き物は光に善性を見出す。

 世を照らす太陽に、夜を晴らす綺羅星に。

 神という概念すら与え人は必死に闇を駆逐する。


 だが、時に光は害をなす。

 目を焼き切るほどの陽光、人体を狂わす毒の光線。

 悲劇を生むだけの兵器の爆発もまた光であろう。


 つまり光は善性も悪性も併せ持つ。

 ただの光という概念ですらこの二面性。

 ではこの議題を『人』に変えればどうだろう?


 即ち――『人』の本質は善か悪か?


 恐らく散々議論し尽くされた議題。

 しかし人外たちにとってはまだまだ興味の唆られる話。

 特に人の心を知りたいアンドロイドと、

 人の意地によって堕天した元天使の悪魔にとっては。


「あーあ。結局人前に出ちゃったー。」


 揺らぐロウソクの火のみを小さく灯し、

 薄暗い談話室の椅子で機械の少女は頬を突く。

 いつもの巨大なスクリーンは画面を四分割し、

 世界各地の情報を一度に知らせていた。


 そこに映るのは、伏せる少女と嗤う悪魔。

 或いは焦ったように移動を急ぐ女隊長と探偵。

 或いは燃える大地で斬り結ぶ二人の剣士。

 或いは背景画像かと見紛うほど穏やかな大樹。


 一つ一つを瞳に捉え、

 少女は人間のように溜め息を吐くフリをした。


「これで収穫無かったらご飯抜きだかんね、サマエル?」



 ――星見展望台前――


「んーっ! 悪寒!

 何やら胸を、いや腹を掴まれたような恐ろしさ!」


 悪魔サマエルは大きな独り言と共に荒ぶる。

 何がそんなに愉快なのか、大層ご機嫌な様子。

 過剰な身振り手振りで四肢を踊るように動かした。


 そんな悪魔をアリスは見上げる。

 力の入らない肉体をピタリと地面に伏せ、

 眼前に渦巻く(おぞ)ましい厄の靄を見つめながら。


(何……? こいつ?)


「んーっ!失敬!身内以外との久方ぶりの会話!どうやらテンションを間違ってしまった様子!されどこれはワタクシことサマエルの素であれば!おぉ、素といえば素うどんなる物がございますが、ワタクシつい最近まであの『素』を『酢』と誤解しておりまして美味いのかソレ?などと思い――」


(うるさっ……!)


 ワケの分からない話が耳を突き抜ける。

 耳障りで不快だ、という感情が顔に出たのだろう。

 サマエルは「これまた失敬!」と声を上げた。

 一旦咳払いをしその良く回る口をクールダウンする。


「……さてさて戯れはこの程度で。」


 サマエルの雰囲気が明らかに変わる。

 それまでのフザけた道化のような気配から、

 魔界の王のような刺々しい気迫へと変貌した。


 だがアリスはもう動揺はしない。

 それどころか、溢れる厄を密かに集め反撃を狙う。

 指輪に貯まる魔力の量を確認しながら敵を見上げた。


(もう貯まった……! あとは少しでも情報を抜く……!)


「冷静ですねぇ。そちらの方が会話も有意義になる。」


 では、と勿体ぶるように一呼吸。

 悪魔は周囲を凍てつかせるような覇気と共に、

 ゆっくりとその口を動かし言葉を紡いだ。


()()()()()()という名はご存知ですか?」


「――!?」


 アリスの全身に動揺に似た衝撃が走る。

 悪魔の口から発せられた言葉に狼狽えた。

 頬を伝う汗。ゴクリと音を立てた喉。

 彼女の狼狽に悪魔は微笑み畳み掛ける。


「ご存知のようで。まぁ彼処は『聖域』と名高い土地。

 到達に少々難儀しますが近々ワタクシも赴こうかと――」


「――何をするつもりですか……?」


 アリスはその体を無理矢理起き上がらせる。

 まだ立っていると少し痛みが走るが、戦える。

 闘志を剥き出しに眼の前の悪魔を睨みつけた。

 そして、明確な敵意と共に言葉を放つ。


()()()()で……! 何をするつもりですか!?」


 指を突き出し銃の構えを向ける。

 彼女の得意技『死を想え(メメント・モリ)』の構えだ。

 しかしその銃口を向けられながらも、

 悪魔は依然として不敵な笑みを浮かべ続ける。


「んーっ! 僥倖! その因子を確定させたかった!」


(っ!? もしかして私は何か大きなミスを……?)


 既に目標は達成した。

 そう言わんばかりに広角を鋭く上げる。

 直後、アリスの事など最早どうでもいいかのように、

 サマエルはクルッと振り向きその場を離れ出す。


「っ……! 逃がすか、『死を想(メメント)――」


「――『神秘崩壊(クロノスアダマス)』、おひとつポイっと!」


 悪魔は背を向けたまま小石を投げる。

 直後、アリスの放った魔力の塊と打つかり合った。

 それらは空中で衝撃波を放ちやがて対消滅する。


 アリスに直撃した訳では無いので体に異常は無い。

 だが、彼女はすぐさま自身の敗北を悟る。

 何故なら今の一撃で貯めた魔力を全て消費したからだ。

 最早空っぽの指輪。持ちうる武器は拳銃一丁のみ。


(っ……! こんな化け物を野放しにする訳には……!)


「ふむ。タダでは逃してくれませんか?

 ではワタクシからも一つ置土産を渡すとしましょう。」


 圧倒的な強者であるはずだが、

 サマエルは対等な取り引きのように申し出た。

 逃がすつもりは全く無いが、

 アリスは拳銃を構えたまま悪魔の話に耳を傾ける。


「何です? その置土産というのは?」


「その前に此処で『問い』を一つ。

 ――貴女は人間の本質は何だと考えますかな?」


 アリスの頭の上に疑問符が浮かんだ。

 脈絡も何も無い突発的で哲学的な問い。

 悪魔の真意が分からず彼女は過敏に警戒した。


「勿論、穿った解答も大歓迎でございますが、

 出来れば善か悪かの二択で答えて欲しいところ。」


「知らない。私が答える意味も無い。」


「んーっ! 寂寞(せきばく)

 朝霧殿なら自分なりに答えを出すでしょうに!」


(! 朝霧さんの事も知っている?)


 アリスの不信感と警戒心は極限まで高まる。

 最早彼女と話しても解答は得られないと悟り、

 サマエルは溜め息を吐きながら指を鳴らす。

 直後、悪魔の眼の前に黒いゲートが出現した。


(マズい……! 逃がす訳には……!!)


「……まぁ、置土産は差し上げても良いでしょう。

 ユグドレイヤより前にコレは解決すべきですからね。」


 そう言うと悪魔はスッと指を向けた。

 長く鋭い爪の先、そこにいたのは気絶した女であった。


「その女の名は『イブキ』。

 貴女たちの追う『人斬り事件』の犯人の一人です。」


「――!?」


「そして、その女は今すぐ殺した方が良いでしょう。

 理由は……そうですねぇ、帽子を取ってみなさい。」


「?」


「ではワタクシはこれにて失礼!

 問いの答えは――また次の機会にでも。」


 その言葉を置土産とし悪魔は狭間へと消える。

 瞬間、アリスの体から力が抜け出した。

 ガクリと崩れる脚。途端に死の恐怖が沸き上がる。


(怖かったぁ……もう会いたく無い……)


 毒蛇に噛まれたかのように、

 アリスは全身を襲う不気味さに震える。

 遠くから近づくのは封魔局車両のサイレン。

 何度も深呼吸を繰り返し、ようやく立ち上がる。


「そういえば……さっきのは?」


 アリスは人斬りらしき女を見つめる。

 イブキと呼ばれた人斬り事件の犯人。

 もし本当なら大収穫だが、まずは――


(帽子を取れ、だっけ?)


 気絶する女に恐る恐る近づくと、

 彼女は深々と被られたキャップ帽に手をつけた。

 意識が戻るか常に警戒しながらゆっくり動かす。


 その時、アリスは意外な物を目撃する。

 と同時にサマエルの言葉の意図も漠然と察した。


 彼女の目に飛び込んで来たのは、

 女の頭部に取り付けられた小さな二つの突起物。

 白いツヤのあるそれは完全に額と接合していた。


「……ツノ? まさかこの人……いや人じゃない……!」


 それは古き時代より極東の国で暴れる怪異。

 魔法世界創生時には多くの亜人も同行したが、

 彼らの種族もまたその列に並んでいた。


 その国において最もメジャーな()()であり、

 あらゆる悪のイメージを押し付けられた化け物。

 時には契約で人と共謀する悪魔とも違う、

 人類にとって決して相容れない不倶戴天の敵。


「『鬼』だッ……!」


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