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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第一章 負け知らずの敗北者
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第三話 飛翔剣

「黒幕……!」


 朝霧は気付けばその名を復唱していた。

 それは彼女にとって間違い無く命の恩人。

 しかし同時に元の世界から人を攫い、

 闇社会の勢力を助長させている悪人でもある。

 それは悲しむ人を無くしたい朝霧にとって

 決して許容する事の出来ない要素だった。


 拳を握り決意を固める。

 そんな朝霧に向けミストリナは答えた。


「まぁといっても、今回情報の確度は低いがね。」


「確度が低い? 正確じゃないと?」


「あぁ。そこで我々の任務はまず真偽の確認だ。」


 情報によれば今回の取引というのは

 ここマランザードで本日の夜間に行われるらしい。

 故に六番隊員たちは日中に三人一組で

 街全体の聞き込みと怪しい箇所のチェック。

 夜間にそのポイントの張り込みを行う事にした。


「という感じで、みんな早速取りかかってくれ!」


「「了解!」」



 ――――


 支部を離れ、六番隊員たちは各々

 私服姿に変装し街の中へと散っていく。

 朝霧も大剣に隠蔽魔術を掛けてもらい、

 同じ六番隊メンバーと共に街へと繰り出した。

 彼女以外の同行者は男性二人。

 その内の一人は――


「えっと……朝霧です!

 よろしくお願いしますねアランさん!」


「……。」


(無視!? こんな流れ前もあったな……)


 朝霧の事が気にくわない男、

 本堂アランがチームの一人となった。

 そして二人のギクシャクとした空気に耐えられず、

 残りのメンバーであるハウンドは根を上げる。


「あーっ、めんどくせぇ! お前ら人見知りか!?

 シャイボーイとシャイガールか!?」


「すみませんハウンドさん。

 どうか先導をお願いします。」


「ふざけんな!

 俺はお前らのお守りじゃねぇんだぞ?」


 熟練隊員は怒鳴りながら大股で先を征く。

 そんな彼に付き従いつつ、

 朝霧は再びチラリとアランを見た。


(うーん……まさか早速チームになるなんて……

 いや! この機にわだかまりを解消するんだ!)


 まずは互いをよく知ろう、と朝霧は意気込む。

 しかしある程度の情報は既にアリスから聞いた以上、

 彼女は何を聞けば良いのか分からないでいた。

 そしてそんな事に頭を悩ませていると――


「――おい。」


「ひゃい!?」


 アランの方から声を掛けてきた。

 突然の事で素っ頓狂な声を発した彼女に

 ハウンドはやや引いていたが、

 そんな彼らを余所にアランは続ける。


「お前、何のために封魔局員なったんだよ?」


「え……何のため?」


「何かしらはあんだろ?

 まさか成り行きで、なんて言うんじゃ無いよな?」


「――!」


 当然朝霧の中に答えはある。

 既に森泉にも似たような事を聞かれていた。


 その時は失踪した父への復讐だとか、

 元の世界に帰りたいだとか、

 いまいち仲間には話せない理由しか無かった。

 しかし今は違う。


「笑顔で日常を送る人と理不尽で悲しむ人を見た。

 無くしたい……私は悲しむ人を無くしたい。」


「そりゃ随分、でかい野望だな……」


 やや信じていないような口ぶりでアランは呟く。

 だがそんなアランを見てハウンドは鼻を鳴らすと

 朝霧を援護するような言葉を並べ始めた。


「いやいやこいつはマジだぜ?

 なんたってその思いだけで

 ボガートの野郎に勝っちまうんだから。」


「ありがとうございます。

 でも思いの強さならハウンドさんだって

 負けてないじゃないですか!」


「あん? なんかあったか?」


「ほら、『家庭の悪者』って話しですよ!

 家族のためならどこまでも頑張れる。

 当たり前のようだけど、十分凄いですって!」


「あぁ……他人から言われると照れるな。」


 中年男性はバツの悪そうに後頭部を掻きむしる。

 その反応が妙に可愛げがあり、朝霧は笑っていた。

 だがそんな二人を眺めるアランの目は、

 どこか寂しそうであったことに彼女は気付く。


「そういえばアランさんはなんで封魔局員に?」


「俺は……ただ……」


 アランはハッキリとしない態度を見せていた。

 アリスからの情報で大方の予想は付いていた朝霧は、

 そんな彼の反応が不思議で仕方無かった。

 だが彼女がそれを指摘しようとしたその時、

 突然ハウンドが足を止める。


「二人とも話は後だ。不審者がいる。」


 彼の視線の先には二人の人間がいた。

 二人とも目だ立たない格好をして

 路地裏の方でこそこそとしている。

 だが彼らは朝霧たちに気付いた途端、

 慌てて路地裏の方へと駆け込んで行った。


「黒だ! 追うぞ!」


 ハウンドの号令で新人二人が駆け出す。

 路地裏に入ると不審者二人が

 狭い道を素早く移動しているのが見えた。

 朝霧は足に魔力を込め、跳躍一つで距離を詰める。


「っ!? くそ……!」


 対して、不審者の一人が朝霧に向かう。

 その両手には機械的な籠手が装備されていた。

 そして彼が呪文を唱えた次の瞬間、

 籠手を魔法陣が纏い鋭いブレードが出現する。


「死ねぇ! アマァ!」


 不審者がブレードを振るう。戦場は狭い路地裏。

 朝霧は大剣を抜かず素手での応戦を試みる。

 しかし激しい刃の連撃を前に

 彼女は次第にじりじりと押され始めた。


(こいつ……速い!)


「伏せろ! 朝霧!」


 背後から聞こえたアランの声に

 朝霧はすぐさま反応し慌てて伏せる。

 アランが銃を発砲すると思ったからだ。

 しかし朝霧の頭上を通過していったのは、

 銃撃では無く青白い()()であった。


「本堂一刀流――『飛翔剣』!」


 飛ぶ斬撃を不審者はブレードで受け止める。

 機械の籠手にバチバチと火花が散る。

 そして数秒後、鍔迫り合いに負けた籠手が破損し

 不審者は後頭部から砂の地面に倒れ込んだ。


 仲間がやられたのを見て

 もう一人の不審者が足の機械に魔力を流す。

 起動したその装置は足の裏から火を噴き、

 使用者を上空へと飛ばした。


「っ……ジェット噴射!?」


「朝霧! 俺が追う! 投げ飛ばせ!」


 再びアランの指示に従い朝霧は、

 彼の体を逃げる不審者目掛けて投げ飛ばす。

 そして弾丸のように空を飛びながら

 アランも己の刀に手を掛けた。


 ――が次の瞬間、

 突然不審者は逃亡を止め、

 一転してアランへの突進を繰り出した。


「飛べる奴相手に空中戦を挑むか、バカめ!」


「ぐっ!?」


 機械の籠手が重い一撃を繰り出す。

 空中で逃げ場の無いアランは刀で受け止める。

 が――不快な音を立てその刃は折れてしまった。


「なにッ!?」


「ハッ! これで終いだガキがぁ!」


 空中で姿勢を崩したアランに

 敵はもう一度攻撃を仕掛けようと接近する。

 だが絶体絶命のピンチであるはずなのに、

 そんな場合では無いはずなのに、

 アランはさっきの会話を思い出していた。


(……俺の戦う理由。)


 走馬灯のような記憶が過ぎる。



 ――――


 戦争があった。魔法世界で戦争があった。

 アランの兄弟子たちもその戦争に参加した。


「道場の威信だとか実力を試すだとか

 そんな小さな物のためじゃ無い。

 ……()()()()()()が弱い市民を守るのだ。」


 これが兄弟子たちの合い言葉だった。

 アランもその言葉に誇りがあった。

 古い歴史を持つ我らが本堂道場。

 その奥義『飛翔剣』は多くの人々を救う。

 ――そう信じていた。


 しかし違った。


 戦争が終わってみると飛翔剣は、

 本堂道場の門下生は、

 ()()()()()()()()()()()


 高度に発達した遠距離魔法に『質』で負けた。

 誰でも扱える銃に『量』で負けた。


 棒切れを振るうだけの兄弟子たちは

 結局一人も生きて帰っては来なかった。

 強い自分たちなど、何処にも居なかった。


 過去の名声は地に落ちた。時代遅れだと露見した。

 道場は廃れ、師範は心をやられて寝込んでいる。

 全ては戦争で()()()からだ。

 魔法連合としては勝っても道場としては負けた。


 ――勝たねば。


 自分が封魔局で実績を残し、

 本堂道場の名声を再び取り戻さねば。

 アランはそう決意し、主席となった。


 ……つまるところ、彼は『名声』が欲しかった。



 ――――


(そうだ、『名声』……

 あいつらとは違って俺は『名声』がほしい。)


 アランは左手を開く。


(俺は、俺だけは……自分のために戦っている。

 あいつらのような高尚な願いじゃない!)


 左手が輝く。

 手の平から溢れる光の筋を、

 彼は右手で力強く握りしめる。


「――ならこんなとこでくたばって、

 迷惑掛けてる場合じゃねぇよなぁ!!」


 左手から光を引き抜く。

 光はやがて形を成し、一振りの刀となった。


「何!?」


 敵が気づき距離を離す。

 だが其処はまだ彼の『射程圏内』だ。


「よく聞け三下ァ! 俺は本堂アラン!

 身に宿すは『鉄器創造の祝福』!!

 そしてこれが奥義『飛翔剣』だーーッ!!!!」


 斬撃が飛ぶ。

 それは狂い無く敵を捕らえ、

 鮮やかに討ち落とした。



 ――――


 地面に着地すると朝霧とハウンドが彼に駆け寄る。

 呼吸を整え、アランは朝霧に声を掛けた。


「まずは俺の手柄だな。

 どうだったよ、俺の飛翔剣は……?」


 なぜこんな事を聞いたのか

 本人にも分からなかった。

 なにせここ最近で返ってきた言葉は

 落胆や失望ばかりだったからだ。

 どうせ今回も、と彼は思った。

 がしかし――


「凄かったです!!

 アランさんってホントに凄い人だったんですね!

 あの飛ぶ斬撃どうやるんですか!?」


「なっ……!?」


 帰ってきたのは屈託のない尊敬であった。

 素直な感想なのだと理解してしまい、

 アランは朝霧を直視出来なくなっていた。

 そしてその耳は既に真っ赤に染まっていた。


 またそんなアランを眺めて、

 ハウンドは一人静かにこう思う。


(チョロいなこいつ。)



 ――とある場所――


「あーもしもし?

 こちらドクター・ベーゼ。

 都市マランザードに着いたぜ、

 ミスター黒幕?」


 どす黒い悪意が歩く。都市を見渡し唇をなめる。


「良い街だな黒幕よ。

 実験材料どもが転がってらぁ……」


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