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カルミナント~魔法世界は銃社会~  作者: 不和焙
第四章 あらゆる秘密は暴かれる

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プロローグ ジャガーノート

 報告――PM10:36

 海上都市ゴエティア、中央銀行にて強盗事件が発生。

 警備ゴーレムが破壊され金庫内の宝石類が盗まれた。


 犯行グループは現在車両で逃走中。その数三台。

 構成員の数は不明だが少なくとも九人以上。

 盗品と人員を分割し三方向へと逃亡した。


 ゴーレムを正面から撃破したその実力は要警戒。

 計画性、装備の質から闇社会との繋がりも推測される。

 直ちに『魔導戦闘部隊』からの出動を要請する――



『――了解。六番隊、出動します。』



 闇夜の空に黒い鳥。羽音を立てるプロペラ機。

 内部には魔法道具を調整する数人の男女。

 座席に並ぶ彼らの前をロングコートの女が進む。


『隊長。検問の設置、完了しました。』


「了解。そちらはハウンドさんの指揮に任せます。」


 女はゴムを咥え後ろ髪に手を伸ばす。

 背中にまで伸びる青みがかった黒色の長髪。

 それを後ろでサッと結ぶと次いで無線を手に取った。


「ジャックさん、アリス。目標は?」


『こちらアリス! 各車両の厄に()()()()を確認!』


「本命と陽動ね。二人はそのまま上空から監視を。」


 部下の「了解!」という声を聞くと、

 女は無線のチャンネルを変える。


「アラン。東部に逃げた一台は任せた。」


『了解。だが残り二台はどうする?』


「私がやる。」


 男の質問に淡白な回答を返す。

 彼女の部下たちが重そうに担いできた、

 真っ赤な大剣を片手で掴み上げながら。


「機長、開けてください。」


『了解です、隊長。ご武運を!』


 冷たい風が機内を突き抜ける。広がるは光と闇。

 美しい街の夜景が夜空の星を黒く覆い隠す。

 白い吐息を零しながら見えない星に想いを馳せた。


(行ってきます、ミストリナ隊長……)


 黒い空に女はその身を投げ出した。

 ソッと目を閉じ、世界の流れに身を委ねる。

 そして黒衣のロングコートを脱ぎ捨てた。


「――狂鬼完全侵食・≪(ジ・エンド)≫。」


 夜空に、輝くビルの合間に出現した真っ赤な閃光。

 赤い魔力の塊は敵を目掛けて流星の如く飛来した。

 着地の直前、女は空気の弾を飛ばし速度を相殺する。


「ッ!? なんだ!?」


 立ち上る土煙。やがて晴れて彼女を現す。

 ――鬼がいた。其処には一匹の鬼がいた。

 手足のように禍々しいオーラを動かしながら、

 逃げる敵の前に威風堂々と立ち塞がった。


「飛ぶ迫撃――『草薙』ッ!」


 一閃。女が軽々と大剣を振るう。

 ただそれだけで空気は歪み衝撃が生まれる。

 やがてソレは強盗犯の車両を真正面から破壊する。


 彼女に続き数人の隊員たちが着地する。

 破損し動かなくなった車両をぐるりと囲むように。

 車両の中で犯人たちは自身の命運が尽きた事を悟る。


「一台目。制圧完了。」



 ――東部――


「相変わらず早いな、アイツは。」


 女からの制圧報告を無線で受け、

 フルフェイスのヘルメットをした男は

 跨がるバイクのエンジンを掛けた。


「なら俺も負けてられないな。」


 男はけたたましい音と共に動き出す。

 複数人の仲間を引き連れながら、

 バイクの一団が闇夜の街を爆走する。


 一団は車両の合間を滑らかに潜り抜けた。

 地中に染み込む雨水のように、

 目的地に向け各々が自分の道を選択する。


「――! 目標捕捉!」


 先頭集団が犯行グループの背中を捉えた。

 広く長い車道の上。赤いランプが線を引く。

 直後、車両の屋根が開き犯人の一人が顔を出す。

 その手には重々しいマシンガンが担がれていた。


「っ!? 回避ィッ!!」


 都市に轟く銃声音。

 隊員たちはバイクを倒し速やかに結界を展開した。

 即席のバリケード。被害は出さなかったが距離が開く。


「マズい……逃げられ――」


「飛ぶ斬撃――『村雨』ッ!!」


 青白い半月が舗装された道を飛翔する。

 地上スレスレを低空飛行し目標車両のタイヤを斬った。

 車両は地面とぶつかり火花を散らす。

 そして、後続のバイク集団が取り囲んだ。


「二台目。制圧完了。」



 ――――


「マズい、マズい、マズいっ……!

 仲間たちがどんどん捕まっていく……!」


 目を血走らせ滝の汗を流しながら残る車両を走らせる。

 盗んだ宝石を大事そうに抱えた者もいる。

 魔法武器を握りしめ後方に警戒心を向ける者もいる。

 だが彼らは共通して、迫る怪物に恐怖していた。


「この制圧スピード……隊長格が出張って来たか!」


「誰だ……! 誰が来た!?」


 封魔局の隊長格はもはや兵器。

 誰が現れても彼ら犯行グループには絶望しかないが、

 それでもまだマシだと思えるような相手を期待する。


「――ヅッ!? おい急ブレーキをかけるな!!」 


 後部座席から男は怒鳴る。

 しかし運転手は一切振り返る事は無く、

 ただ全身を恐怖で震わせていた。


「……ブレーキじゃない。片手で()()()()()ッ!」


「!? おいおいおい、よりによって()()()かよ……!」


 そう期待する者の中で彼女は()()だった。

 鋼の左腕が爆走していたはずの車両を止める。

 右手には赤黒い大剣。その身に纏うは怪物の気迫。


 別の生き物過ぎて、勝てるイメージが湧いて来ない。


 それは彗星の如く魔法世界に現れ、

 たった半年足らずで異例の大出世を果たした化け物。

 二つの特異点を叩き壊した彼女を人々はこう呼ぶ――


「――六番隊隊長……≪破砕者(ジャガーノート)≫朝霧桃香ッ!!」


「投降しなさい。命だけは助けてあげる。」


 報告――PM10:43

 強盗団確保完了。全ての宝石類を奪還成功。



 ――――


「お疲れ様です、朝霧さん!」


「……お疲れ様アリス……何か食べに行こっか?」


「――! はい!」


 世界は大きな歴史の転換点にあった。

 いや、既に大きく動き終わったと言っても良い。

 表社会も闇社会も次に向けて『封じ手』を開く。


(朝霧さんは前よりもずっと頼もしくなった。)


 多くの傷を乗り越え人々は先に進んだ。

 変わらぬ者もいるだろう。変われぬ者もいるだろう。

 そしてそれらと同じくらい、変わった者もいるだろう。


(けど前より…………笑顔は減った気がする。)


 闇夜の街は光輝く。意のままに規則正しく。

 不穏な暗がりを追い払うように美しい夜景は光を放つ。

 だが当然――その夜空に星は無い。


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